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見習い天使

022・悪魔はバカバカしく生きる

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時は、ハンたちが超魔獣との戦闘に入る前に遡る。


~魔界商店街~

魔界商店街とは、様々な商人が集まる街で、人間世界でいうビジネス街と市場を合わせたような場所である。
この街は自由特区とされ、魔王間でも独占しないということが条約で結ばれている特殊な場所で、似たような商売を行う地域は 各所に点在しているのだが、エン横、魔ジョスコ、温泉街などにも管理している魔王が必ずいることを考えれば、利益を生み出す地域にも関わらず管理する魔王不在という、かなり珍しい場所である。


そんな魔界商店街屈指の豪商である 魔界商人ウィンターに、マリーたちは招待され、魔界商店街まで、マリー、ジャス、ノーサの3人で訪れていた。


「レヴィア商会といえば、魔界屈指の商会じゃないの。
 マリーは どういった経緯で親しくなれたの?」

「ウィンターさんは、暗黒のリッチさんが紹介してくれたんですよね。」


ノーサの質問に なぜか自信満々のジャスが答える。
マリーは その様子を微笑みながら見て頷き、先を急いでいる。その進む道の先に 立派な館が見え始める。


「もしかして、アレが ウィンターさんの館なんでしょうか。」

「そうみたいね。
 同封された地図によれば、あそこがウィンターの館だね。」

「素敵な庭もあるみたい。立派な お屋敷よね
 建物も人間界の建造物のようなシンプルさがいいわ。
 ノーサも住んでみたいの。」


3人が向かう先は、レンガ造りの赤い屋根の建物と、その建物に合った 左右対称に整った景観の庭がある、立派な屋敷であった。
庭の雰囲気は、温泉街で見た庭園とは違った雰囲気だが、これはこれで整った美しさがある。
3人は門をくぐり、広めの庭を一直線に抜け、館の前にたどり着いた。
すると、待っていたと言わんばかりのタイミングで 玄関が開き、中から魔界商人ウィンターと赤髪ショートヘアの竜人種の女性が現れた。
マリーに、満面の笑みのウィンターが声をかける。


「マリー様、お待ちしておりました。」

「今回は、招いてくれてありがとう。」

「温泉街での活躍を聞きましたよ。
 さすが 魔界姫マリー様、なかなかの英断ですな。」

「そんなことないよ。
 ところで、隣の女性は?」

「ご紹介が遅れて申し訳ありません。
 我が妻のアレンと申します。今日は、妻のこともあり、マリー様を招待させていただきました。」


「・・・?」


「立ち話もなんですから、奥の応接室へ ご案内いたします。」


マリーは、厄介ごとでも押し付けられるのかと、少し警戒したのだが 妻アレンの表情から そういった話ではなさそうだと感じ取った。
3人は そのまま流れに身を任せ、案内されるままに 奥の部屋へと移動するウィンター夫妻についていく。




~立派な応接室~

3人が通されたのは、豪華絢爛な応接室だった。
床は天然大理石が敷き詰められ、壁は黄金に輝いている。
豪華な椅子に座った一行に、ウィンター夫妻は 楽しそうに話しかけてくる。
特に、ウィンターは何かを思い出したかのように笑い、とても幸せそうであった。

「マリー様、実は妻がまだ魔界に転生した頃、マリー様にお世話になったと聞いて、そのお礼がしたく考えておりました。」

「アレンは、使い魔から悪魔に転生したの?」

マリーは覚えていないのだろう、腕を組み考える仕草を見せる。


「マリーさん、悪魔に転生する使い魔って少ないんですよね。
 だったら覚えてたりはしないんですか?」

「・・・いや、実際のところ、そんなに少なくはないんだよね。
 実際に、転生する使い魔の1割は 悪魔に転生してるから。」

「でも、たしかウィンターさんは特別って・・・。」



不思議そうな顔をするジャスに、当人であるウィンターが笑いながら答える。

「それは、私が天界の使い魔だったからでしょう。
 私は、エンジェル横丁への横流し品の荷に紛れ、天界から魔界にやってきました。
 そして、そこから徳を溜め、悪魔に転生したのです。」

「・・・すごい覚悟ですね。
 なぜ、わざわざ天界から魔界に来たんですか?
 どうして、そこまでのことをしたんですか。」

「それは・・・。」


ウィンターは、恥ずかしそうに妻アレンの方をみて笑顔を見せる。
妻アレンも、嬉しそうに笑顔になる。
そんな2人の様子を見て、ジャスも納得がいった顔をして頷く。

「なるほど、愛する女性の為だったんですね。
 ウィンターさん、アレンさん、これからも幸せに過ごしてくださいね。」


「「「ありがとうございます。」」」


ウィンターは、下げていた頭をあげると、真剣な表情で話し始めた。

「さて、今回 お招きしたのは、妻が魔王城の使い魔として消滅せずに生き残れたお礼に食事会を開かせていただきたいのと、私共 レヴィア商会 魔界支店の調べた情報を報告させてもらおうと思って連絡をしたのです。」

「気にしなくていいのに。
 ところで、調べた情報って何?」

「はい。
 実は、天使たちが 遠い昔にアスガルドを離れていった地球人と呼ばれる人間たちを手なずけ、魔界侵略を企んでいるという話をきいたのです。」

「いまさら魔界侵略?
 そもそも魔界は天界に負けたんでしょ。
 天魔大戦も終結してるみたいだよ。」

「いえ、何も変わっておりません。
 そもそも、天魔大戦など最初から存在しなかったのです。
 私が天界にいた頃、天界では魔界から攻撃されただの、悪魔どもを封印しただの、悪魔が人間界に攻め込んで人間たちを虐殺し 魔界に魂を連れ去っている。といった内容や、悪魔は邪悪で 魔界の使い魔たちは日々消滅をしている。と言った噂が絶えず流れていました。」

「どういうこと?
 悪魔が天界を攻撃する・・・?
 そもそも天使って悪魔を封印できるものなの?」

「確かに変な話ね。ノーサの知ってる 天魔大戦とは違う内容みたいなの。
 あっ、でも最後の使い魔の話は 間違いないかな。
 マリーの使い魔たちの転生率が異常なだけなの。」

「ですよね。ノーサさんの言う通り、マリーさんは素敵ですよね。
 ・
 ・
 ・
 ところで、ノーサさんの知っている 天魔大戦ってどういった話なんですか?」
(えっ、ノーサ 素敵だなんて一言も言ってないんだけどな・・・。)


ジャスの質問の答えが気になったのか、いっせいにノーサに視線が集まる。
しかし、ノーサは考え事をしているのか、ジャスを見つめ返しているだけだった。

「・・・あ、ごめんなさい。考え事をしてたの。
 えっと、魔界に広まっている天魔大戦は、悪魔たちを進化させるための秘宝、邪神の瞳と呼ばれる宝石を奪い合う話なの。」

「えっ、私の知ってる天魔大戦とは違うな。」


マリーは、ノーサの言葉に驚いた表情を見せ、自分の知っている天魔大戦の話を始めた。

「私が聞いていたのは、天使は姿の違う悪魔を毛嫌いしていて、それで魔界に侵攻してきてるって話だったけどな。
 ・
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 ・
 最後は必ず、力の差がありすぎて、怯えた天使兵が逃げ出して終わりって話。」

マリーの意見にアレンが深く頷く。
アレンは、魔王城出身の使い魔なので、マリーと同じ話を聞いていたようだ。
ウィンターは、アレンの様子をみて、何かに気づいたように話を続ける。


「なるほど・・・。
 ちなみに、ノーサさんは、大魔王ショッキングの庇護のもと幼少期を過ごされなかったですか?」

「!!?
 ・
 ・
 ・
 どうして知ってるの?
 マリー!内緒って言ったのにバラしたの!」

「どうやって私がバラすのよ!
 今日は3人で ずっと一緒にいたじゃない!」


いきなり激怒するノーサに、ウィンターが頭を下げる。

「ノーサさん、申し訳ありません。
 別に誰かに聞いたとかそういった話ではないんです。
 ちなみに、なぜそういった話をしたかと申しますと、魔界での天魔大戦の伝わり方は全部で4通りあります。
 その4通りは、4大魔王と呼ばれる大魔王を基準とした組織ごとに違う内容だったのです。
 ・
 ・
 ・
 まず、腐人種の大魔王ショッキングの庇護の元に育った悪魔が知る天魔大戦は、まさにノーサさんが知っている【邪神の瞳を巡る争い】です。

 次に、竜人種の大魔王エイルシッドの庇護の元に育った悪魔が知る天魔大戦は、マリー様やアレンの知る 【差別の問題】です。

 3つ目に、竜王種の大魔王バンドラの庇護の元に育った悪魔が知る天魔大戦は、浮遊大陸である天界が 無断で領空に侵入してくるので、それを追い払うという、【領地、領空の問題】になります。

 最後に、合獣種の大魔王ロロノアの庇護の元に育った悪魔が知る天魔大戦ですが、これは他の3大魔王と違い、他の大魔王に受けた義を返すため、世界樹を守り 魔界の防衛を手伝うといった 【義を貫き 世界樹を守る戦い】といった内容です。
 他の大魔王とは、おそらく 世界樹の丘を所有していた大魔王エイルシッドのことかと考えております。」

マリーは、思うところがあったようで、深く頷いていた。
しかし、ウィンターの話に難しい顔をするノーサが マリーに質問する。


「マリー 分かったかな?
 もう一回、念のために聞いておく?」

「・・・念のために聞く?
 もしかして、ノーサが理解できなかったんじゃない?」

「バ、バカなことを言わないでほしいの!
 ノーサは、理解してる!ノーサは マリーを心配しただけなの!」

(・・・たぶん、ノーサさんは分からなかったんだろうな。)


ノーサの雰囲気から、何かを察したジャスは、ウィンターに質問するために手をあげた。
ウィンターが、「どうぞ、」とジャスに話を振ると、ジャスがノーサにも分かるように質問を始めた。


「つまり、大魔王ごとに天魔大戦の認識が違ったってことは、そもそも悪魔は共闘してなかったってことですよね。」

「そうなります。」

「それでか・・・。」


「ん、ジャスちゃん、何か分かったの?」

ジャスは、何か納得した表情をみせた。その様子に、マリーが不思議そうに質問した。
マリーの疑問に答えるように、ジャスは笑顔でマリーに説明する。

「はい、私の思い過ごしかもしれないですけど、マリーさんや、ドン・キホーテさん、マダム・オカミさんの戦いを見ていて思ったんですけど、普通に戦ったのなら天使兵に勝ち目ってないと思うんですよね。
 もちろん、強い天使兵もいますけど、そもそも人数が違いすぎるし、マダム・オカミさんの強さは異次元でしたからね。」

「それ、ノーサも感じたの。
 マリーには勝てるけど、マダム・オカミには絶対に勝てない気がす・・・。
 いや、気がするっていうか、絶対に勝てないの。」

ノーサの一言に、マリーが嫌な顔をして言い返す。

「私は、本気を出せば マダム・オカミより強いんだから!」

「そうだったわ。
 ごめんね、マリーの強さは異次元だったかも・・・。
 すっかり忘れてたけど、マリーは、SSURの暗黒を纏いし封印されたシールド ダークネス紅蓮の瞳のレッドアイズ魔界姫プリンセスだったの。」


「・・・やめて。」


耳を赤くしたマリーは、頬を膨らませながら、ノーサを にらみつけている。
そんな2人に、ウィンターの妻 アレンが声をかける。


「まあまあ、お二人とも喧嘩しないでください。
 今日は、おいしい料理にデザートも たくさん準備してありますから、楽しく食事でもしながら話を続けませんか?」


「「「デザートたくさん!」」」


マリーたちは、アレンの案内に吸い寄せられるように、部屋を移動していく。
一人残されたウィンターは、部屋の片づけをしながら、つぶやく。

「・・・マリー様は不思議な方だ。
 久しぶりにレヴィア会長を思い出したよ。」



その後、食べたこともない食事にデザートまで堪能した3人は、幸せそうな表情で魔王城へと戻っていった。

「そういえば、食事に夢中で、ウィンターの話を聞いてなかったね。
 ジャスちゃんや、ノーサは聞いてた?」


「「「・・・。」」」


「えっと、何とかなるよね。」

「そ、そうですね。大丈夫ですよ。
 なるようになりますよ。」

「仕方ないの、悪魔はバカバカしいから・・・。」


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