【CHANGEL】魔界姫マリーと純粋な見習い天使ジャスの不思議な魔界記

黒山羊

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銀河系地球人

025・星々の守護者

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~死霊の湖~

呆然と湖の水面を見つめる、魔王軍の悪魔たち。
その表情は徐々に暗くなっていき悪魔たちは、うつむき始める。

魔王ドランサーの配下の悪魔たちは、水面から空に浮かぶ宇宙戦艦へと視線を移し総攻撃を再開する。
宇宙戦艦も戦闘機も、悪魔との戦闘が再び始まった。
魔王ドランサーは、戦闘の行く末を見に集まった他国の魔王や悪魔たちに宣言する。


「傍観しに来た諸国の悪魔ども!
 よく聞け!
 この魔王ドランサーが、魔王マリーを打ち取った!
 これから、魔王マリーの領土は・・・。」


「「「ウオォォォー!」」」


魔王ドランサーの宣言をかき消すように、魔王城の配下たちが大歓声を上げ始める。

「な、何事だ?」


魔王ドランサーは、大歓声の意味を確認するように周囲を見渡す。
すると、目の前に飛竜に乗り、魔剣キル・グラムを装備した ジャスを見つけ、怒りの矛先を向けた。


「魔界天使ジャス!
 貴様、またしても吾輩の邪魔をしおったな!」


ジャスは、魔王ドランサーの憤怒の激情に怯えることなく、魔王ドランサーに向け言い放った!


「魔王ドランサー、まだ勝ち誇るのは早いです!
 マリーさんは・・・守るべき者を背負った魔界姫マリーは、決して負けたりしません。
 私は信じています!」

「いいかげんなことを言うな!
 お前も魔王マリーと一緒に消滅させてやる!」


魔王ドランサーは、ジャスの元に一直線に飛び込んできた。
ジャスは、魔王ドランサーの突撃から逃げることもせず、魔剣を構えて待ち構えていた。
魔王ドランサーがジャスとの距離を縮め、まさに攻撃に入ろうとした瞬間、突如ジャスが叫んだ。


「マリーさん、いまです!」


ザパッ!



ジャスの合図とともに、水面から何かが勢いよく飛び出してきた!
水面から飛び出してきた何かは、一筋の光となって、魔王ドランサーの心臓を貫く。

「う、うぐぐ・・・。」


心臓を貫かれた魔王ドランサーは、ジャスに向けた牙が届く前に、息絶え、水面へと墜ちていく。


ヒューーーン
 ドッパーーン!


魔王ドランサーが墜ちた水面の遥か上空には、神々の翼を広げた魔王マリーの姿があった。
マリーの手にする素朴な槍は、神々の翼の力に影響されたのだろうか、神言文字の刻まれた槍へと姿を変えていた。
マリーの姿は、神言文字の刻まれた神器を持ち、神々の翼を広げ空を舞う。
まさに、女神のような神々しい姿をしていた。

マリーの勝利に 魔王城の悪魔たちは盛大に盛り上がる。
それとは対照的に主人の敗北に、魔王ドランサーの配下たちは、散り散りに逃げ出していった。
マリーは、魔王マリーとして高らかに勝利宣言をする。


「魔王ドランサーを打ち取った!
 この度の戦争は、魔王マリーの完全勝利よ!」

マリーは勝利宣言をし勝鬨をあげる。


撤退する魔王ドランサーの配下を横目に、マリーとジャスは、一回り大きな母艦に近づく。
戦艦を撃ち落とす恐ろしい魔王ドランサーを撃退した マリーやジャスの神々しい姿に安心を覚えたのだろうか、母艦の搬送用ハッチが開き、マリーとジャスたちの乗る小型の飛竜を招き入れる。

母艦の中に入り、翼を収納するマリーに ジャスが駆け寄り声をかけた。

「マリーさん・・・。
 とても素敵な翼ですね。」

「ごめん、内緒にするつもりはなかったんだけど・・・。」


申し訳なさそうに話すマリーの表情は少し寂しげに感じた。
そんなマリーに抱き着き、ジャスが優しく話す。

「そんなこと気にしてないですよ。
 翼があってもなくても、マリーさんはマリーさんじゃないですか。
 私、もう気にしたりしません。」

「ジャスちゃん、ありがとう。」


マリーもジャスを抱きしめる。



そんな2人の元に、母艦の艦長らしき人物が歩み寄ってきた。

「神様、天使様、この度は地球連合軍の艦隊を救っていただき感謝しております。
 思えば魔界制圧も別の神様からの おぼし召し。
 永劫の時をさまよい続ける 我ら地球人を代表しまして・・・。」

マリーは感謝の意を表す艦長の言葉を遮り、質問をした。

「貴方たちを導いた神の名を知っている?」

「はい、もちろんです。
 ベルゼブイ様です。
 女神さまの御名前を教えていただけないでしょうか。」


ジャスが不安そうにマリーを見つめている。
それは、ベルゼブイの名前が出てきたからだろうか、それとも・・・。

ジャスの不安は的中した。
それは、マリーが次に放った言葉だったのだが・・・。


「私の名前は、魔王マリー。
 この魔界を納める魔王の一人よ。此度は、ミネルヴァ艦長の依頼で貴方たちを助けただけよ。
 今後、ベルゼブイの味方をするというのであれば、敵対もあり得るわ。
 ・
 ・
 ・
 だけど、あなたたちの事情も分かっているつもり。
 もし、私の配下として帰依するなら、あそこに見える土地を領土として与えるわ。」


マリーの指さす方には、マリーの領土である死人の荒野がある。
大地は乾燥し 荒れているのだが、土地は広く、死霊の湖から水路を引けば、問題なく生活できるだろう。
マリーの意見に艦長は、首を横に振り即答する。

「私 個人の意見ですが、魔王マリー様に反対する意思はございません。
 しかし、司令官の意向を確認しなければならないため、しばらく時間を貰えませんか。
 数日中には、必ずお返事をいたします。」

マリーは、母艦艦長の言葉に納得したのか、返事を保留にして飛竜に乗り込む。
後を追うように、ジャスも慌てて飛竜に乗りマリーに声をかける。

「マリーさん、とりあえず死人の荒野に戦艦を移動してもらいますか?
 他の魔王さんの領土の問題とかもあるでしょうし。」

「そうね。
 ・
 ・
 ・
 艦長!
 艦隊を あそこの荒野に係留することを許可するわ。
 必要であれば支援物資も届けさせるから、この子に頼みなさい。」


そういうと、マリーは飛竜を操縦していた使い魔を母艦に残して飛び立っていった。



「・・・マリー様は人使いが荒いニャン。」


残された使い魔は、艦長に挨拶をすると、母艦の指令室の方に向かって歩き出した。
サクサクと歩いていく使い魔の後を追ってきた艦長が不思議そうに声をかける。

「あなた様は、この艦の構造をご存じなのですかな?」

「この艦は、亜光速航星母艦マザーグースだと思うニャン。
 マザーグースは 俺が設計したニャン。
 知ってて当然ニャン。」

「は、・・・はい?」



こうして宇宙戦艦の艦隊は、死人の荒野に着陸し、戦艦の修復などを急いだ。
数時間後、魔王城の戦士たちに保護されていた捕虜の人間たちも死人の荒野に連れてこられて無事に再開を果たす。







~魔王城・王の間~

マリーは、魔王ドランサー討伐戦で活躍した、ドン・キホーテとナオアキに褒美の品を渡した。
ドン・キホーテには、魔王城の倉庫に眠っていた聖槍ロンギヌスを与え、ナオアキには個人で自由に使える部屋と飛竜を1頭与えた。
2人の喜ぶ姿を見て、悪魔たちは大いに祝福し、それぞれに今後 活躍することを胸に誓っていた。
とくにベッチは、涙を流して喜んでいた。
そんなベッチにハンが質問する。


「そんなに深い仲だったッスか?」

「アニキ、見苦しいものをみせて申し訳ないぜ!
 俺は、誰でも平等に評価をするマリー様に感動してるんだぜ!
 最初は 天界からきたアネゴ、次に 人間界からきた ドン、それと 使い魔として罪を償う ナオアキ。
 他の魔王からすれば、みんな厄介者扱いされてもおかしくない存在なのに、マリー様は平等に愛してくださってる。
 そんなマリー様に感動したんだぜ!」

「そうッスね。
 ベッチたちだって、マリー様の愛を受けてるッス。
 マリー様は ベッチの連れてきた 獣人種の素性を調べたり試験をすることもなく、ベッチの紹介だからといって 配下にしてるッス。
 あれは、普通の魔王ではありえないことッス。
 戦いたくなければ戦わなくていい戦士がいる城なんて聞いたこともないッス。」

「アニキの言う通りだぜ!
 俺らはマリー様に一生ついていくぜ!
 たとえ、獣王を裏切ることになっても・・・。」


その後、順調に式は閉幕し、それぞれが持ち場へと戻っていく。
魔王マリーは、今回 新たに増えた領土である死霊の湖など、魔王ドランサーの領土の巡回警備をベッチたち獣人種に任せた。

それに伴い、隊長ベッチには、魔王城戦士長ベッチ・・・略して、魔戦長ベッチの称号と いくつかの権限が与えられたようだ。
魔王マリーとしての仕事を終えたマリーに、ノーサが声をかけてきた。


「マリー、魔王の仕事をノーサにも教えてほしいの。」


「・・・?
 いきなり、どうしたの?」

「ノーサも魔王になるときの為に勉強がしたいの。」


「・・・私が私の手で敵を増やすってこと?」

「ケチケチしないで教えればいいと思うの。
 ノーサは、たぶんマリーには戦いを挑まないから。」

「たぶんって・・・。」


そんなやり取りをしている2人に、ジャスが話しかける。

「マリーさん。ノーサさんは、マリーさんの役に立ちたいんですよ。」


「ノーサ、そうなの?」
「い、いや、そうじゃないと思うの。」


「恥ずかしがらなくっていいですよ。
 だって、考えてみてください。
 今朝だって、私とマリーさんが一緒に寝てたら怒ってたじゃないですか。
 それに 私が魔王城に早く戻れたのも、ノーサさんがマリーさんを心配して、私を先に行かせてくれたからですよ。
 だから・・・。」


「「「だから・・・?」」」


「だから、ノーサさんは、マリーさんを愛しているんです!」


「「「はぁ!?」」」



ジャスは、マリーとジャスを抱きしめる。

「愛するって素晴らしいですよね!
 でも、私を仲間外れにしないでくださいね。」


「ちょ、ちょっと!
 ジャスちゃん、それ本気で言ってるの?」

「そうなの、完全に誤解・・・勘違いなの。
 なんで、ノーサがマリーなんかを愛さなくっちゃいけないの?」

「マリーなんかって何よ!
 私だって、ノーサなんかに愛されたくないわよ!」

「ノーサなんかって言ったよね!
 マリー、またノーサをバカにしてるの!?
 マリーの方がバカなくせに!」


「まあまあ、二人とも照れないで下さい。
 この喧嘩だって照れ隠しなんですよね。
 ちゃんと私には分かってますよ。」


「「「絶対に違う!」」」


3人の やりとりはジャスの混乱を招く言葉で、収拾がつかなくなっていく。
そこに、ハンがやってきて言葉をかける。


「マリー様、ジャスさん、ノーサさん、食事の準備ができたッス。」

「はーい。
 マリーさん、ノーサさん、早くご飯を食べにいきましょ!
 ハンさん、今日の献立は何ですか?」

「今日は、宇宙戦艦から略奪してきた宇宙食ってのを食べてみるッス。」

「わーい。
 楽しみですね。」


「「「ちょ、ちょっと待ってよ!」」」



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