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大魔王

037・秘密

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~魔王城~

ハン、ジャス、ノーサの3人が魔王城に入ると ハンたちの帰還を待っていた暗黒のリッチが、ハンに駆け寄り話し始めた。

「ハン様、不味いことになりました。
 マリー様の意識が戻りません。
 おそらく・・・。」

「分かってるッス。
 世界樹が切られてるッス。
 犯人はベルゼブイの奴ッス。
 クソが!
 あの時、殺しておくべきだったッス!」

「ハンさん、マリーさんの意識が戻らないって、どうしたんですか!?」

「ジャスさん、マリー様は純潔の悪魔ではないッス。
 マリー様は 真実の女神ディーテ様の血を引いた神に近い存在ッス。
 つまり・・・。」


「つまり?
 どういうことですか!?」

ジャスはハンに掴み掛りそうな勢いで詰め寄る。
ハンは 必死なジャスに気まずそうに説明を始めた。

「ジャスさん。
 マリー様は 世界樹からの魔力供給が無くなれば、天魔界では生きていけないッス。
 生き残るためには、魔力が十分にある神界に行くしか方法がないらしいッス。
 いまは体力が低下してしまっているため、過去に侵されてしまった 永遠とわの祈りの毒で眠っているだけだろうと考えられるッス。
 でも、このままでは目覚めることはおろか、そのまま消滅もあり得る状況ッス。」

「神界に連れていけば助かるんですよね!?
 神界って、神様たちが住むと言われている あの神界ですか?」


ジャスの質問にハンは無言で頷く。


「だったら、はやく・・・」


ジャスの言葉を遮るようにノーサが会話に参加してきた。

「ジャス、その神界にいく手段がないんじゃないの?
 神界は星の海を渡った先、灼熱の星にあるって言われているわ。
 星の海を渡る方法が見つかったとしても、私たち悪魔や天使程度の力では灼熱の星に近づけないの。
 近づいただけで、その熱にやられてしまうらしいの。」

「そ、そんな・・・。」


落胆するジャスを見かねたのか、ノーサがハンに質問をする。

「ねえ、ハン。
 神界に行くのは無理でも世界樹を元に戻す方法とかないの?
 世界樹が元に戻ればマリーは目覚めるんでしょ。
 一時的にでも世界樹を戻して マリーに自力で神界を目指してもらうしか方法がないんじゃない?
 それか、たとえば 転送装置を使って世界樹が切られる前の時間に移動するとか。」


「・・・確かに 転送装置は指標玉があれば時間を超えれるッス。
 だけど、その指標玉の魔力は4、5日ほどで切れてしまうッス。
 いま起動している指標玉があるのは、魔王城にある分だけッス。
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 ・
 ・
 世界樹を復活させようにも、世界樹は真実の女神ディーテ様の生まれ変わりッス。
 魔力の絶対量が違いすぎるッス。
 仮に天魔界の生物が魔力を出し合っても、世界樹を復活させることは不可能ッス。
 こんなとき、エイルシッド王がいれば・・・。」


ハンの言葉に全員の表情が曇る。
暗く落ち込んだ自分を励ますように、ジャスが力強く拳を握り、精一杯声を出す。

「わたし、マリーさんの所に行ってきます!」


ジャスはマリーの寝室へと駆けだしていった。
後を追うように、ハンたちもジャスに続く。



~マリーの寝室~

マリーの寝室に着くと ジャスは、ベッドに横たわり いつもと変わらぬ様子で眠るマリーの横に近づきマリーの手を握る。

「マリーさん、朝ですよ。
 早く起きて下さーい。
 早く起きないと、私がマリーさんの分のデザートを食べちゃいますよ。」


ジャスが微笑みながら声をかけるが、マリーは反応しない。


「ほら、もう起きて下さいよ。
 みんな 待っているんですから。
 早く起きて私と一緒に人間の町を作るプランを考えましょうよ。」



「・・・ジャス。」

ノーサはジャスに声をかけようとしたが、やめたようだ。
いまにも泣き出してしまいそうなジャスにかける言葉が見つからなかったのだろうか。
ジャスは、ノーサの声も届いていないのか、マリーの手を強く握り、マリーに声をかけ続ける。

「マリーさん、ねえ、早く起きてくださいよ。
 ねえ、ねえってば、マリーさ・・・。」


ジャスの呼びかけにもマリーは目を覚ますことがない。
周囲の悪魔たちは、ジャスに気を使い、マリーの寝室を後にした。







~魔王城・王座の間~

ハンを中心に魔王城の悪魔たちが集まり、今後の方針を皆で話し合っているようだ。


ハン
「俺は反対ッス!
 この魔王城はマリー様の魔王城ッス。マリー様が目覚めるまで また俺らで守り抜くッス。」

ポチ
「だけど、ハン。
 いまの魔王城は世界樹の加護もなく、魔大陸の悪魔たちから狙われたら即座に陥落するニャン。
 魔王城が陥落すれば、魔界の悪魔たち全体に危険が及ぶニャン。」

ネロ
「やっぱりロロノアに魔王城を明け渡して魔界を守護してもらう方がいいニャン。
 マリー様は、人間の町に運んでそこで看病するニャン。」

エンマ
「ロロノアに頼むくらいなら、マダム・オカミがいいニャン。
 あいつを頼るしか方法がないニャン。
 あいつなら魔王城を悪く扱うことは絶対にないニャン。」

ベッチ
「俺らは、ハンの兄貴の意見に賛成だぜ。
 獣王ロロノアも、マダム・オカミも信用できないぜ。
 やっぱり魔界を安心して任せられるのは、マリー様だけだぜ。
 いっそのこと、ジャス姉さんに魔王城を管理してもらうのは?」

暗黒のリッチ
「さすがにジャス様だと荷が重いでしょう。
 しかし、エイルシッド王の親友ロロノア様も、古参の配下マダム・オカミ様も完全に信用するのは・・・。」

ケーン
「八方ふさがりニャン。
 やっぱりマダム・オカミを頼るのがいいのかもしれないニャン。」

ノーサ
「・・・マダム・オカミ。
 ノーサもハンの意見に賛成しようと思うの。」




そんな話し合いをしている中、少し離れた位置で見守っていた 使い魔のエイトが ゆっくりと近寄って来た。


「ん?
 エイト、どうしたんスか?」

「なにかマリー様に異変が起きたのでしょうか?」


暗黒のリッチの言葉に首を横に振って答えたあと、話すことが出来ないはずのエイトが声を出した。


「ハン、今後の魔王城の管理よりも、マリーを救う方が重要だ。
 いますぐ 魔界王の名のもとに魔界評議会に連絡をとり、全軍を招集し持ち去られた世界樹をを取り戻す。」


「!!?」


「あなたは、いったい誰なんスか?
 まさか・・・?」

使い魔エイトは、ゆっくりと答える。

「僕だよ。
 ザイルだよ。」

「ザイル様ニャン!」
「ザイルって、マリーのお兄様のザイルなの?」

「ザイル様、なんで正体を隠していたッスか!?
 どうして今更・・・。」

「仕方がなかったんだ。
 僕の体は花として転生してしまったからね。いま使い魔として活動できているのは、魂の部分だけ。
 半人前の悪魔だった僕では、再び転生することも出来ないんだ。
 つまり僕は いずれ消滅してしまう。分かってくれ。マリーの為だ。」

「分からないッス!
 分からないッスけど・・・。
 いまは それどころじゃないッスね。
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 ・
 ザイル様、魔界評議会を招集しても、世界樹を取り戻すために 動くとは考えにくいッス。
 それに、世界樹を取り戻しても、そこから世界樹が復活する保証がないッス。」

「そうだね。
 魔界評議会を動かすには、先手を打ってロロノアとマダム・オカミを説得しなければならない。
 マダム・オカミは、ベルゼブイの話をすれば、二つ返事でOKを出すだろう。
 あとは、ロロノアを説得できるかがカギとなる。
 それと世界樹の復活の件なんだけど、いま確認してきて分かったことなんだが、世界樹の根は無事だった。」


「どういう意味ッスか?」


「世界樹の根が無事なら、そこに世界樹の木を接木してあげればいい。
 もちろん、弱り切った世界樹を少しでも存続させるために、いまから帰魂の儀をして、僕が世界樹を取り戻すまでの間、世界樹の根を守り抜く。」

「そんな・・・。
 ザイル様が帰魂の儀をするのは反対ッス。
 ・
 ・
 ・
 マリー様が悲しむッス。
 俺が帰魂の儀を行うッス。」


「・・・。」


「・・・。」


誰も言葉を発することなく、静寂の時間が続く。
そんな静寂の時間を終わらせるように、軽く頷いたザイルが声を発した。


「・・・ハンは鈍感だから気づかないんだろう。
 君もマリーにとって 大切な人なんだよ。
 それに僕は存在をマリーに気づかれていない。
 いま僕が消えても使い魔が転生した程度にしか思われないだろう。
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 ・
 つまり、僕が適任だ。
 それに 母様の残した世界樹と同化できるのであれば、ただ無意味に時を過ごして消滅を待つより意義のある行為だから、僕に任せてくれないだろうか。
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 ・
 消滅を迎える俺ではなく、マリーの事を最優先に考えてくれ。」




「・・・分かったッス。
 世界樹の根はザイル様に任せるッス。
 俺らは必ずロロノアを説得して世界樹を取り戻すッス。」

ハンは腑に落ちないところもあるのだろうが、マリーの為にとの一言でザイルの意見に従ったようだ。
魔王城の悪魔たちは、魔界評議会の開催に向けて準備に取り掛かる。

ハンとネロは マダム・オカミの説得に向かった。





~マダム・オカミの温泉街~

ハンとネロは、マダム・オカミの温泉街に来ていた。
従業員の使い魔に案内されるまま、立派な会議室でマダム・オカミの到着を待つ。


「ハン、本当にマダム・オカミは賛成すると思うかニャン?」

「分からないッス。
 でも、マダム・オカミの忠誠心は確かッスからね。
 いまでもエイルシッド王に絶対の忠誠を誓ってるッス。
 だから、マリー様の為なら力を貸してくれると信じてるッス。」

「だけど、マダム・オカミは天使との戦争に反対するはずだニャン。
 だって、それがエイルシッド王の意思だから・・・。」

「・・・そこを説得するしかないッス。」


そんな会話をしていると、会議室の入り口が開き、魔王マダム・オカミが会議室に入ってきた。

「あら、ネロにハンじゃない!
 久しぶりね。マリーちゃんやジャスちゃんは元気にしているかしら?」

「マダム・オカミ、今日はその件で相談に来たッス。」


ハンは、マダム・オカミに世界樹が奪われたことや、それが原因でマリーの意識が戻らないことを説明した。
マダム・オカミは黙って話を聞き終え、少し考えて返事を出した。

「ハン、マリーちゃんを救ってあげたい気持ちはあるわ。
 でも、天使と争って世界樹を取り戻す作戦は反対よ。
 話し合いで解決する方法を探すべきよ。
 だって 魔王城には天使のジャスちゃんだっているじゃない。
 それを戦争とかはね・・・。
 それに、天使と争わないことは、エイルシッド様の意思だから。」


マダム・オカミの意見に、ネロがハンに耳打ちする。

「ヒソヒソ・・・。」
(ハン、やっぱりマダム・オカミは頑固だニャン。
 さっさとザイル様が言ってたベルゼブイの話をするニャン。)

ネロの耳打ちに軽く頷き、ハンは話を続ける。


「マダム・オカミが反対するのは承知の上ッス。
 でも、俺らは天使長官ベルゼブイから世界樹を取り戻す覚悟があるッス。
 もし争いに反対であれば、俺らの邪魔はしないでほしいッス。」


ハンの言葉に、マダム・オカミの表情が曇る。

「ハン、天使長官の名前は何だって・・・。」

「天使長官ベルゼブ・・・。」


ドンッ!



マダム・オカミは、会議室の大理石の机をたたき割り怒りの表情を見せている。

「あのクソヤローが天使長官!?
 ってことは、エイルシッド様を罠にはめて殺した天使の統領ってのは、あのクソヤローだったのかよ!
 クソッ!クソッ!クソッ!
 あのときエイルシッド様に真実を伝えていれば!
 ・
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 全部、私の・・・せいだ・・・。
 うっ、うううっ・・・。」


「マダム・オカミ・・・?
 どうしたんスか?
 少し、落ち着くッス。」

むせび泣くマダム・オカミにハンとネロが駆け寄り声をかける。
マダム・オカミは涙を拭い、ゆっくりと顔をあげる。

「ハン、魔王マダム・オカミは・・・。
 天使長官・・・。
 いいえ、大魔王ベルゼブイとの決着を条件に、世界樹の奪還に全面協力するわ。」



「「「大魔王ベルゼブイ?」」」



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