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ニートのち魔界王
036・永遠の祈り(後編)
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~魔王城~
「エイルシッド様ー!!!
マダム・オカミ、全速力で走ってきましたー!」
翌日、魔王城にマダム・オカミが招集された。
マダム・オカミは王座の間へと駆け込み、エイルシッドの姿を探すが見当たらない。
「もう!
お昼だっていうのに、お休み中なのかしら。
もしかして、昼食をとってるとかかしらね。」
マダム・オカミは食堂へと移動するが、エイルシッドを見つけるとこができない。
食堂でキョロキョロしているマダム・オカミに使い魔のポチが声をかけてきた。
「マダム・オカミ、何をキョロキョロしてるニャン?」
「エイルシッド様が居ないのよね。
ポチ、どこに行ったか知らない?」
「ああ、たぶんマリー様のところニャン。
マリー様が永遠の祈りの毒で眠りについてしまったニャン。」
「はぁ?
どういう意味よ!」
「お、おお、落ち着くニャン!」
詰め寄るマダム・オカミに使い魔のポチは事情を説明した。
「なるほど・・・。
眠りの秘薬だったかしら・・・。」
「眠りの秘薬?
なんなんだニャン?」
「温泉に入りに来る天使たちが話しているのを聞いたことがあるわ。
その薬を飲めば、100年から1万年ほど眠りについてしまうらしいの。
天使はデメリットの大きい万能薬って言ってたかしら。
眠りを妨げられると、眠りの効果が伸びてしまうとも言っていたわね。」
「・・・それなら、変に話しかけたりせずに、常闇の部屋に連れていけばいいニャン。」
「それもそうね。
常闇の部屋に移す準備を始めてちょうだい。
私は エイルシッド様に報告に・・・。」
突然、マダム・オカミの表情が暗くなり、マダム・オカミは慌てて服の袖を引きちぎる。
「どうかしたのかニャン?」
「そ、そんな・・・。
うそよ!
うそよーー!
なんで紋章が消えてんだ!
誰、誰が殺ったんだ、コンチクショー!」
「落ち着くニャン!
マダム・オカミ、何があったのか説明してほしいニャン!」
「エイ、エイルゥ、」
「水でも飲んで、落ち着くニャン!」
ポチの差し出す水を一気に流し込み、マダム・オカミは呼吸を整え、ポチに命令の変更を伝える。
「エイルシッド様が・・・殺された。
ザイルちゃんを連れてきてちょうだい。
もちろん、他の悪魔たちに知られないように・・・。」
「エイルシッド王が・・・。
まさか、信じられないニャン。
だって、エイルシッド王は魔界一・・・。
宇宙一 強い悪魔だったニャン。
宇宙中の生物を敵に回しても笑いながら倒せるほどの悪魔ニャン。
殺されるわけないニャン。」
「ポチ、受け入れなさい。
私の契約が解除されたわ。
・
・
・
ポチ、魔王たちに・・・全悪魔に伝えなさい。
魔界王エイルシッド様は、魔大陸制圧の準備のため不在。
魔界王エイルシッド様が留守の間、魔王ザイルが正式に後を継ぐ。」
マダム・オカミがポチに命令を出したところに、ボロボロに傷ついたオコンが入って来た。
その手には、一輪の花が握られていた。
オコンは、マダム・オカミの命令に首を横に振り答える。
「早朝にザイルも死んだよ。
敵は天使の軍団だった。
エイルシッド王は、ザイルを守る為に天使の統領と契約をし、その契約を破り消滅を受け入れた。
天使の統領も、エイルシッド王の炎を受けて焼死したと思われる。」
「うそよ!
私は信じないわ!
消滅だなんて・・・。」
「ポチ、この魔王城はマリー様を正式な後継者とし、我ら6鬼神で守り抜く。
他の悪魔たちには、領土内で自由に生活してもらいましょう。
マダム・オカミ、魔王城を守り抜くにはネロの力も必要なんだ。
分かって。」
マダム・オカミは無言で頷く。
その目は、復讐に燃える悪魔の目だった。
「マダム・オカミ、エイルシッド王の最期の言葉を聞きたいかい?」
「エイルシッド様は何と?」
「マダム・オカミに伝えてくれ。
お前の気持ちは知っていた。
もし、これからも 俺の事を愛してくれるのならば、復讐など考えず、俺の理想とする魔界を築いてくれ。
俺への愛を過去のものとするのならば・・・。」
「オコン、それ以上は言わなくていい。
私の愛は、魔界王エイルシッド様だけのもの。
いままでも、これからも変わらないわ。
私は 今まで通り、天魔界の楽園を築いていく。
そして、エイルシッド様が理想としていた魔界を築く土台にするの。
もちろん、魔王城にちょっかいを出すバカな悪魔が居れば皆殺しだけどね!」
マダム・オカミは、豪快に笑いながら食堂を後にした。
廊下に出た直後、大声で泣くマダム・オカミの声が響き渡っていた。
~5時間前、魔界王の古墳群~
魔界王の古墳群とは、魔界に名を遺した魔王たちを敬い祭る場所であり、大小様々な墳墓が並んでいる。
特別な祭りごとの時以外は、誰も寄り付かない場所に、エイルシッドの姿があった。
エイルシッドは、大声をあげる。
「ベルゼブイ!
貴様の呼びかけ通り、一人で来てやったぞ!
ザイルを解放しろ!」
「「「・・・。」」」
「ベルゼブイ!」
「ぐふ、ぐふ、ぐふ。
本当に一人でノコノコとやってくるとは、昔から変わらないアホだな。」
エイルシッドの前に、天使長官ベルゼブイが天使兵を引き連れて姿を現す。
ベルゼブイの後ろには縛られ、さるぐつわを噛まされたザイルの姿があった。
「・・・約束だ。ザイルを解放しろ。」
「ぐふふ、そう慌てるな。
しかし息子が持って帰って来た贈り物にも用心するとは、思ったよりも用心深い性格だったようだな。
それとも、お前に永遠の祈りは効かないのか?
その体内の炎で毒を焼き消毒しているとか・・・?」
「さあな。
約束を守る気がないなら、この場で皆殺しにしてザイルを連れて帰る。」
「ぐふふふ、
おい、魔王ザイルを解放しろ。」
ベルゼブイの命令で天使兵が乱暴にザイルをエイルシッドの方に突き飛ばす。
ザイルは、よろよろとよろけながら、エイルシッドに抱きかかえられる。
「ザイル、大丈夫か?」
エイルシッドは、ザイルの縄を焼き切り、さるぐつわを外す。
ザイルは暴行を受けたのか、目や鼻から血を流している。
「エイルシッド王、罠です。
僕にかまわずに逃げて下さい。」
「ぐふふ、もう遅いわ!」
エイルシッドを取り囲む天使兵たちが、一気に魔法を詠唱し始める。
すると、エイルシッドたちの足元に 魔法の光で魔法陣が描かれ始めた。
「ぐふふふふ、
拘束の魔法陣だ。
この人数で唱えればいかに・・・!
な、なぜだ!
なぜ立ち上がれる!?」
エイルシッドは、拘束の魔法陣が完成する前に、自身の足元に炎で魔法円を召喚した。
「俺が書いた魔法円は、魔法を魔力に再び変換する魔法円だからさ。
まあ、知らなくて当然だよな。
魔力の強い天魔界の住人には関係がない魔法円だから。」
「く、くそが!
・
・
・
しかし、最後に笑うのは、わしだ!」
ベルゼブイは、懐から何かの瓶を取り出した。
「エイルシッド!
お前の息子に飲ませた 悪魔の血を暴走させる薬が効き始める頃だろう。
普通の悪魔が飲めば、しばらくの間、肉体強化を行う失敗作だが、天使と悪魔の血が混ざりあう お前の息子の体で悪魔の血が暴走すればどうなるかな?
大半を占める天使の血が体外に押し出されるんじゃないかな?」
エイルシッドが、ザイルに目をやると、目や鼻から流れる血は、この数秒で明らかに量が増えている。
「ザイル、大丈夫か!?」
「僕は大丈夫です。
エイルシッド王、お逃げください。」
「ぐふふ、エイルシッド、助けるには解除薬を飲まねばならない。
もし解除薬が欲しいのであれば、今後、天使に手出しをしないと わしに誓い契約してもらおう。
それが出来ないので・・・。」
「分かった。契約しよう。
その代わり、解除薬をくれ。」
「・・・交渉成立だな。」
「俺はベルゼブイに誓おう。今後 天使に手出しはしないと契約することを。」
エイルシッドの腕に 大魔王ベルゼブイの紋章が刻まれていく。
「ぐふふふ、バカめ。
そんな薬など最初からないわ。」
「貴様!」
「ぐふふふふ、
何とでも言え。
・
・
・
さあ、天使兵よ!
いまこの瞬間、忌まわしき魔界王エイルシッドは天界の軍門に降った。
手始めに魔界王エイルシッドを血祭りにあげ、悪しき思想の悪魔たちを根絶やしにするのだ!」
「「「おおおお!
我らが神、ベルゼブイ様!」」」
「ぐふ、ぐふふっ。
さあ、殺せ!」
天使兵たちは、ザイルを抱きかかえるエイルシッドに一斉に飛びかかる。
ボッ、ボッ、ボッ、
グゴゴォォォ!
エイルシッドたちの周囲に真っ赤な炎が吹き上がり、近づく天使兵を焼き殺していく。
契約を破った反動だろうか、苦しそうに膝をつくエイルシッド。
その体からは徐々に光の粒が、絡まる糸を解くように 空へと舞い上がっている。
エイルシッドの姿を見て、血の涙を流すザイルがエイルシッドの手を握る。
「僕が捕まってしまったばかりに・・・。
僕が弱く愚かだったばかりに・・・。
エイルシッド王まで 巻き添えにしてしまった。」
「ザイル、気にするな。
お前一人では逝かせない。
俺たちは親子なんだ。俺も一緒だ。」
「お父さん。
あり・・・がとう。」
ザイルの肉体に光が集まり、エイルシッドの手の中で 一輪の花に変わった。
「みんな、すまない。
俺は 先に逝く。
・
・
・
ザイル、すまない。
お前を守ることが出来なかった。
・
・
・
マリー、すまない。
お前が目を覚ますときに寂しい思いをさせてしまう。
・
・
・
ディーテ、すまない。
約束を一つも守れないままで。」
エイルシッドは、審判の門を開き、天界に逃げ帰ろうとしているベルゼブイを見つける。
「ベルゼブイ、お前だけは逃がさない!」
エイルシッドの周囲の炎が意思を持ったように空の亀裂に向かって飛び上がっていく。
その炎は、ベルゼブイを直撃し、空の亀裂から天界に侵入したようだ。
ベルゼブイは、直撃の刹那、使い魔へと姿を変え一命をとりとめた。
エイルシッドの炎は、1週間ほど天界を焼き、その全土の3分の2を灰にした。
しかし、その炎での犠牲者は一人もいなかったという。
エイルシッドは、徐々に薄れ行く意識の中で、過去の事を少しずつ思い出していた。
妻ディーテの肉体が世界樹へと生まれ変わったこと。
ザイルを息子として育てると決めたこと。
魔界王になり、多くの仲間ができたこと。
娘マリーが産まれたこと。
妻ディーテとの出会いなど、様々な事柄が頭の中を駆け巡る。
エイルシッドから解き放たれる光が増えるほどに、エイルシッドは若くなっていく。
おそらく、全ての記憶を思い出し、生まれたときの姿に戻るとき、この世界から消滅してしまうのだろう。
(もう十分だ。
寂しい思いはしたくない。
早く消滅してしまいたいよ・・・。)
そんな事を思っていたエイルシッドの耳に聞き覚えのある声が響き渡る。
(お願い、私に力を貸して・・・。
やり直す力を・・・。
お母さんと一緒に居たい。
また家族で、一緒に・・・。)
ディーテの声が響いてくる。
「ディーテ!
ディーテなのか!
頼む。俺のからだよ、もう少しだけ、もう少しだけ・・・。」
エイルシッドは、必死に消滅から抗うように、その声の方に手を伸ばす。
伸ばした指先が何かを かすめたとき、エイルシッドとディーテの生まれ変わりの少女の心を繋げた。
(やはり、この子はディーテの・・・。)
「家族の愛の結晶は、決して砕けない。
その思い、俺が叶えよう。
我が名は・・・。」
ニートのち魔界王(完)
「エイルシッド様ー!!!
マダム・オカミ、全速力で走ってきましたー!」
翌日、魔王城にマダム・オカミが招集された。
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「もう!
お昼だっていうのに、お休み中なのかしら。
もしかして、昼食をとってるとかかしらね。」
マダム・オカミは食堂へと移動するが、エイルシッドを見つけるとこができない。
食堂でキョロキョロしているマダム・オカミに使い魔のポチが声をかけてきた。
「マダム・オカミ、何をキョロキョロしてるニャン?」
「エイルシッド様が居ないのよね。
ポチ、どこに行ったか知らない?」
「ああ、たぶんマリー様のところニャン。
マリー様が永遠の祈りの毒で眠りについてしまったニャン。」
「はぁ?
どういう意味よ!」
「お、おお、落ち着くニャン!」
詰め寄るマダム・オカミに使い魔のポチは事情を説明した。
「なるほど・・・。
眠りの秘薬だったかしら・・・。」
「眠りの秘薬?
なんなんだニャン?」
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その薬を飲めば、100年から1万年ほど眠りについてしまうらしいの。
天使はデメリットの大きい万能薬って言ってたかしら。
眠りを妨げられると、眠りの効果が伸びてしまうとも言っていたわね。」
「・・・それなら、変に話しかけたりせずに、常闇の部屋に連れていけばいいニャン。」
「それもそうね。
常闇の部屋に移す準備を始めてちょうだい。
私は エイルシッド様に報告に・・・。」
突然、マダム・オカミの表情が暗くなり、マダム・オカミは慌てて服の袖を引きちぎる。
「どうかしたのかニャン?」
「そ、そんな・・・。
うそよ!
うそよーー!
なんで紋章が消えてんだ!
誰、誰が殺ったんだ、コンチクショー!」
「落ち着くニャン!
マダム・オカミ、何があったのか説明してほしいニャン!」
「エイ、エイルゥ、」
「水でも飲んで、落ち着くニャン!」
ポチの差し出す水を一気に流し込み、マダム・オカミは呼吸を整え、ポチに命令の変更を伝える。
「エイルシッド様が・・・殺された。
ザイルちゃんを連れてきてちょうだい。
もちろん、他の悪魔たちに知られないように・・・。」
「エイルシッド王が・・・。
まさか、信じられないニャン。
だって、エイルシッド王は魔界一・・・。
宇宙一 強い悪魔だったニャン。
宇宙中の生物を敵に回しても笑いながら倒せるほどの悪魔ニャン。
殺されるわけないニャン。」
「ポチ、受け入れなさい。
私の契約が解除されたわ。
・
・
・
ポチ、魔王たちに・・・全悪魔に伝えなさい。
魔界王エイルシッド様は、魔大陸制圧の準備のため不在。
魔界王エイルシッド様が留守の間、魔王ザイルが正式に後を継ぐ。」
マダム・オカミがポチに命令を出したところに、ボロボロに傷ついたオコンが入って来た。
その手には、一輪の花が握られていた。
オコンは、マダム・オカミの命令に首を横に振り答える。
「早朝にザイルも死んだよ。
敵は天使の軍団だった。
エイルシッド王は、ザイルを守る為に天使の統領と契約をし、その契約を破り消滅を受け入れた。
天使の統領も、エイルシッド王の炎を受けて焼死したと思われる。」
「うそよ!
私は信じないわ!
消滅だなんて・・・。」
「ポチ、この魔王城はマリー様を正式な後継者とし、我ら6鬼神で守り抜く。
他の悪魔たちには、領土内で自由に生活してもらいましょう。
マダム・オカミ、魔王城を守り抜くにはネロの力も必要なんだ。
分かって。」
マダム・オカミは無言で頷く。
その目は、復讐に燃える悪魔の目だった。
「マダム・オカミ、エイルシッド王の最期の言葉を聞きたいかい?」
「エイルシッド様は何と?」
「マダム・オカミに伝えてくれ。
お前の気持ちは知っていた。
もし、これからも 俺の事を愛してくれるのならば、復讐など考えず、俺の理想とする魔界を築いてくれ。
俺への愛を過去のものとするのならば・・・。」
「オコン、それ以上は言わなくていい。
私の愛は、魔界王エイルシッド様だけのもの。
いままでも、これからも変わらないわ。
私は 今まで通り、天魔界の楽園を築いていく。
そして、エイルシッド様が理想としていた魔界を築く土台にするの。
もちろん、魔王城にちょっかいを出すバカな悪魔が居れば皆殺しだけどね!」
マダム・オカミは、豪快に笑いながら食堂を後にした。
廊下に出た直後、大声で泣くマダム・オカミの声が響き渡っていた。
~5時間前、魔界王の古墳群~
魔界王の古墳群とは、魔界に名を遺した魔王たちを敬い祭る場所であり、大小様々な墳墓が並んでいる。
特別な祭りごとの時以外は、誰も寄り付かない場所に、エイルシッドの姿があった。
エイルシッドは、大声をあげる。
「ベルゼブイ!
貴様の呼びかけ通り、一人で来てやったぞ!
ザイルを解放しろ!」
「「「・・・。」」」
「ベルゼブイ!」
「ぐふ、ぐふ、ぐふ。
本当に一人でノコノコとやってくるとは、昔から変わらないアホだな。」
エイルシッドの前に、天使長官ベルゼブイが天使兵を引き連れて姿を現す。
ベルゼブイの後ろには縛られ、さるぐつわを噛まされたザイルの姿があった。
「・・・約束だ。ザイルを解放しろ。」
「ぐふふ、そう慌てるな。
しかし息子が持って帰って来た贈り物にも用心するとは、思ったよりも用心深い性格だったようだな。
それとも、お前に永遠の祈りは効かないのか?
その体内の炎で毒を焼き消毒しているとか・・・?」
「さあな。
約束を守る気がないなら、この場で皆殺しにしてザイルを連れて帰る。」
「ぐふふふ、
おい、魔王ザイルを解放しろ。」
ベルゼブイの命令で天使兵が乱暴にザイルをエイルシッドの方に突き飛ばす。
ザイルは、よろよろとよろけながら、エイルシッドに抱きかかえられる。
「ザイル、大丈夫か?」
エイルシッドは、ザイルの縄を焼き切り、さるぐつわを外す。
ザイルは暴行を受けたのか、目や鼻から血を流している。
「エイルシッド王、罠です。
僕にかまわずに逃げて下さい。」
「ぐふふ、もう遅いわ!」
エイルシッドを取り囲む天使兵たちが、一気に魔法を詠唱し始める。
すると、エイルシッドたちの足元に 魔法の光で魔法陣が描かれ始めた。
「ぐふふふふ、
拘束の魔法陣だ。
この人数で唱えればいかに・・・!
な、なぜだ!
なぜ立ち上がれる!?」
エイルシッドは、拘束の魔法陣が完成する前に、自身の足元に炎で魔法円を召喚した。
「俺が書いた魔法円は、魔法を魔力に再び変換する魔法円だからさ。
まあ、知らなくて当然だよな。
魔力の強い天魔界の住人には関係がない魔法円だから。」
「く、くそが!
・
・
・
しかし、最後に笑うのは、わしだ!」
ベルゼブイは、懐から何かの瓶を取り出した。
「エイルシッド!
お前の息子に飲ませた 悪魔の血を暴走させる薬が効き始める頃だろう。
普通の悪魔が飲めば、しばらくの間、肉体強化を行う失敗作だが、天使と悪魔の血が混ざりあう お前の息子の体で悪魔の血が暴走すればどうなるかな?
大半を占める天使の血が体外に押し出されるんじゃないかな?」
エイルシッドが、ザイルに目をやると、目や鼻から流れる血は、この数秒で明らかに量が増えている。
「ザイル、大丈夫か!?」
「僕は大丈夫です。
エイルシッド王、お逃げください。」
「ぐふふ、エイルシッド、助けるには解除薬を飲まねばならない。
もし解除薬が欲しいのであれば、今後、天使に手出しをしないと わしに誓い契約してもらおう。
それが出来ないので・・・。」
「分かった。契約しよう。
その代わり、解除薬をくれ。」
「・・・交渉成立だな。」
「俺はベルゼブイに誓おう。今後 天使に手出しはしないと契約することを。」
エイルシッドの腕に 大魔王ベルゼブイの紋章が刻まれていく。
「ぐふふふ、バカめ。
そんな薬など最初からないわ。」
「貴様!」
「ぐふふふふ、
何とでも言え。
・
・
・
さあ、天使兵よ!
いまこの瞬間、忌まわしき魔界王エイルシッドは天界の軍門に降った。
手始めに魔界王エイルシッドを血祭りにあげ、悪しき思想の悪魔たちを根絶やしにするのだ!」
「「「おおおお!
我らが神、ベルゼブイ様!」」」
「ぐふ、ぐふふっ。
さあ、殺せ!」
天使兵たちは、ザイルを抱きかかえるエイルシッドに一斉に飛びかかる。
ボッ、ボッ、ボッ、
グゴゴォォォ!
エイルシッドたちの周囲に真っ赤な炎が吹き上がり、近づく天使兵を焼き殺していく。
契約を破った反動だろうか、苦しそうに膝をつくエイルシッド。
その体からは徐々に光の粒が、絡まる糸を解くように 空へと舞い上がっている。
エイルシッドの姿を見て、血の涙を流すザイルがエイルシッドの手を握る。
「僕が捕まってしまったばかりに・・・。
僕が弱く愚かだったばかりに・・・。
エイルシッド王まで 巻き添えにしてしまった。」
「ザイル、気にするな。
お前一人では逝かせない。
俺たちは親子なんだ。俺も一緒だ。」
「お父さん。
あり・・・がとう。」
ザイルの肉体に光が集まり、エイルシッドの手の中で 一輪の花に変わった。
「みんな、すまない。
俺は 先に逝く。
・
・
・
ザイル、すまない。
お前を守ることが出来なかった。
・
・
・
マリー、すまない。
お前が目を覚ますときに寂しい思いをさせてしまう。
・
・
・
ディーテ、すまない。
約束を一つも守れないままで。」
エイルシッドは、審判の門を開き、天界に逃げ帰ろうとしているベルゼブイを見つける。
「ベルゼブイ、お前だけは逃がさない!」
エイルシッドの周囲の炎が意思を持ったように空の亀裂に向かって飛び上がっていく。
その炎は、ベルゼブイを直撃し、空の亀裂から天界に侵入したようだ。
ベルゼブイは、直撃の刹那、使い魔へと姿を変え一命をとりとめた。
エイルシッドの炎は、1週間ほど天界を焼き、その全土の3分の2を灰にした。
しかし、その炎での犠牲者は一人もいなかったという。
エイルシッドは、徐々に薄れ行く意識の中で、過去の事を少しずつ思い出していた。
妻ディーテの肉体が世界樹へと生まれ変わったこと。
ザイルを息子として育てると決めたこと。
魔界王になり、多くの仲間ができたこと。
娘マリーが産まれたこと。
妻ディーテとの出会いなど、様々な事柄が頭の中を駆け巡る。
エイルシッドから解き放たれる光が増えるほどに、エイルシッドは若くなっていく。
おそらく、全ての記憶を思い出し、生まれたときの姿に戻るとき、この世界から消滅してしまうのだろう。
(もう十分だ。
寂しい思いはしたくない。
早く消滅してしまいたいよ・・・。)
そんな事を思っていたエイルシッドの耳に聞き覚えのある声が響き渡る。
(お願い、私に力を貸して・・・。
やり直す力を・・・。
お母さんと一緒に居たい。
また家族で、一緒に・・・。)
ディーテの声が響いてくる。
「ディーテ!
ディーテなのか!
頼む。俺のからだよ、もう少しだけ、もう少しだけ・・・。」
エイルシッドは、必死に消滅から抗うように、その声の方に手を伸ばす。
伸ばした指先が何かを かすめたとき、エイルシッドとディーテの生まれ変わりの少女の心を繋げた。
(やはり、この子はディーテの・・・。)
「家族の愛の結晶は、決して砕けない。
その思い、俺が叶えよう。
我が名は・・・。」
ニートのち魔界王(完)
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浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
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