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クロネコ

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ボクサー 家族の絆

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 入場曲が流れ、オレは拳を振りながら、リングに向かう。やるべきことは全てやった。前回は、相手ではなく、自分に負けた。減量が上手くいかなかった。初防衛戦のプレッシャーもあった。前半、固くなってしまいポイントを失った。「心剣一如」剣道の達人だった。父が道場に飾っていた言葉だ。ボクシングも心が大事だぞ。オレが剣道をやめて、ボクシングをやると言い出した時、父は反対せず、そう言って応援してくれた。朝のロードワークに自転車で付き合ってくれた。チャンピオンになった時は泣いて喜んでくれた。負けて、チャンピオンでなくなった時は泣いて悔しがってくれた。そんな、父が急死した。僅差の判定が物議を呼んで、ダイレクトリマッチが決まった。そのことを喜んでくれていた矢先のことだった。オレは、これでまた心を弱くしていけない。父に顔向け出来ない。必死に練習し、減量した。そして、万全の体調で今日を迎えた。今回の再起戦に合わせて、ガウンを新調した。父の着物をガウンにリメイクした。背中には「心拳一如」と入れた。父の思いも共に、リングへと入った。試合は一進一退の攻防となり、前回の試合よりも白熱した打ち合いになった。セコンドがインターバル中「気持ちで負けるな!親父さんがみているぞ!」と発破をかける。お互いにダメージがたまってきた後半。先にダウンしたのは、オレだった。ダメージはあったが何とか立ち上がった。気持ちは乱れていない。ファイティングポーズをとった。再開の合図を受け、相手は真っ直ぐ突進して来る。大振りの左フック。軌道がはっきりと見えたオレは、渾身の力で右ストレートを真っ直ぐ突き出した。カウンターを直撃した相手は大の字に倒れた。そのまま動かない。その様子を確認したレフリーは即座に試合を止めた。会場は、劇的な幕切れに。チャンピオン返り咲きに。大いに盛り上がり、大歓声に包まれた。オレは、喜んで飛びついて来るセコンドを受け止め、観客席に目を向けた。母が飛び跳ね、大きく手を振っている。その右手には、ガウンと一緒に父の着物で作った、お守りが握られていた。
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