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棟梁

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 7歳のオレが学校から帰ると、母が居なくなっていた。置き手紙があった。
 コウへ しばらくかえらない ごめんなさい
 とあった。
 オレはすぐ家を出て、あちこち探した。夜になってもずっと探した。夜中オレはへとへとになり、コンビニの横にしばらく座りこんだ。するとゴツい筋肉質の男が、オレの前にしゃがみ「坊主どうしたんだ?こんな時間に一人で」「迷子か?」と言った。オレは首をふり「母さんがいなくなった」と言った。男には何人か連れがいて、一人が「棟梁なにしてるの」と言った。棟梁と呼ばれた男は「何でもない。先に帰ってくれ。ちょっとこの坊主を送ってくる」「坊主、まず家に帰ろう。母ちゃん、もう帰ってきてるぞ」と笑顔で言った。オレは黙って頷き、棟梁と家に帰った。母はいなかった。棟梁は「腹へってるだろ?」とラーメン屋に連れて行ってくれた。オレは、ラーメンを食べながら、涙があふれ止まらかった。棟梁はオレをなぐさめ、家に泊めてくれた。そして、警察の友達に相談する。大丈夫だと言った。次の日、棟梁は警官とオレの家でいろいろと調べた。オレには母しかいなかった。警官は児童相談所に対応してもらうと言った。すると、棟梁が「坊主さえ良ければ、オレの家に来て、母ちゃんが帰ってくるまで待つか」と聞いた。オレは一人で知らない所に行くより、この人の所で母を待つと決め「おじさんの所に行く」と答えた。棟梁は笑顔で頷き「坊主、名前は?オレは橋中 善助だ。大工の棟梁やってるから、みんな棟梁って呼ぶ。お前もそう呼んでくれ」と言った。オレは「コウスケ」と言った。棟梁はオレの頭を撫でて「よろしくな。コウ」と言った。オレは黙って頷いた。警官が「棟梁、まずいよ」と言うと棟梁は「母親が帰ってくるまでだ。警察でも探してくれ」「児童相談所に話してもいい」と言った。それから、定期的に、児童相談所の職員が様子を見にきた。母は帰って来ない。警察も自発的にいなくなった人を積極的に探すことはなかった。一年が経ち。オレは、母は帰って来ないと諦めた。棟梁はそれでも「母ちゃんは絶対に帰ってくるから、その時に恥ずかしくないような男になれ。頑張れ。コウ」と言った。オレは今度は、棟梁に捨てられないように頑張ろうと思った。棟梁には、奥さんと息子がいた。仏壇に、二人が並んだ写真があった。棟梁は昔の話はしなかった。大工の仕事は一流で、みんなから慕われていた。オレは勉強と家事も頑張り、大工の手伝いもした。棟梁は勉強をする事と礼儀に厳しかった。大工の仕事は優しく教えてくれた。そして何年経っても「母ちゃんは帰ってくる。頑張れ」と言った。母がいなくなってから十年。養子縁組の話もあった。オレはそれでもいいと思った。棟梁はいつも、母親が帰ってきたら悲しむと断った。進路の話になり、オレは大工になると棟梁に告げた。棟梁は「お前は勉強が出来るから大学へ行け」と言った。オレが断わると「金の事は気にすんな。そのために貯めてたんだ。無駄にしないでくれ」と頭を下げた。オレはここまでしてくれた棟梁に感謝し、建築系の大学に行くことにした。更に数年が経ち、オレは一級建築士になった。町で、棟梁とオレは家や施設の建築に多く関わり、新聞の取材も受けた。そして、棟梁と住む家も建てた。そんなある日、オレの前に母が現れた。小さく老けていた。母は「コウちゃん。ごめんね。立派になったね」と頭を下げた。怒りはわいてこなかった。オレは混乱しながら、棟梁なら何て言うだろうと考えていた。そして「お帰り。母さん」と言った。母は驚いて顔を上げ、泣き出した。オレは母が落ちつくのを待って喫茶店に誘った。そこでオレは「母さん。生活に困ってオレのところに来たんだろ」と尋ねた。母はオレを捨ててからの生活をぽつりぽつりと話し始めた。男と出会い。貢ぎ。捨てられる。の繰り返しだった。今は一人貧しく暮らしていた。オレは母の連絡先と口座番号を聞いた。そして、月々の送金を約束し、母と別れた。棟梁なら母を許し、家族として迎えいれただろう。そう思ったが出来なかった。母と会ってオレは、はっきりとわかった。家に帰ると棟梁は、鍋を前にビールを飲んでいた。「お帰り。コウ。遅かったな。鍋にしたから待ってたぞ」と笑顔で言った。オレは「ただいま。父さん。待たせてごめん」と言った。棟梁は目を丸くして「コウ?父さんってどうした。いきなり」と言った。オレは少し照れながら「今日からは、父さんって呼ぶよ。オレの家族は、父さんだけだから」と言った。棟梁は涙ぐみ「コウ。そうか。そうか。好きに。呼べ」と声をつまらせながら言った。
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