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クロネコ

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美学

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 世界タイトルマッチのゴングが鳴らされた。
 オレは、ガードを高く構えて、ステップを踏み様子を見る。
 相手は世界ランキング一位。アメリカのホーヤ選手。ホーヤは、コンパクトな固いガードのまま、ステップをゆっくり踏む。オレは左ジャブを打つと見せて、フェイントを交え、ステップを前後左右に刻み動く。アマチュア経験豊富なホーヤも、それに呼応するように、フェイントを交え、動き。リングを広く使う。オレは左ジャブを打つ。当てる気のない、距離を確認するジャブだ。ホーヤは大げさにステップバックして、距離を空けて仕切り直す。オレは、なかなか長い試合になりそうだな。と感じながら、無理には追わない。ホーヤは少し微笑みながら、ステップを踏み。左手を下げ、しなりの効いたジャブを放ってきた。オレは、その変則的で速いジャブをかわす。そして一旦、バックステップして距離を開け、左へステップした。一ラウンド一分経過。
 両者の身体は温まってきた。オレは、ホーヤの低い左ガードの隙を狙い、いきなり右ストレートを放った。ホーヤは、右手でカバーし、オレの右を無効化した。オレは止まらず左フックを繋いだ。
 ホーヤはスウェーバックし、左フックを空振りさせた。そこに、オレはもう一度、右ストレートを打つそぶりをした。ホーヤは、本物と誤認し、左へ逃げた。オレは、ホーヤの動きを見て、ステップし、ホーヤの前に移動した。
 ホーヤは、冷静に左のガードを上げ、そのまま左ジャブを出して、オレを離れさせようとした。オレは頭を下げ、それをかわし右足を蹴って、ホーヤの懐に入ろうとした。
 ホーヤは、オレのステップインと同等のスピードでステップバックした。両者の距離は縮まらない。
 1ラウンド二分経過。
 オレは左、右と肩でフェイントを入れ、ステップを刻みホーヤに迫る。
 ホーヤは完全に迎撃体制になり、左手を下げ、長い振り払うジャブを多用し、距離をとりながら、オレの勢いを止めようとしていた。
 そこから、駆け引きのスピードが上がる。目線。僅かな肩や肘、拳の先の動き。体幹のひねり。足の位置。ステップのリズムの変化。僅かな時間。数えきれない騙し合いが行われた。ホーヤが左ジャブを下から振り払うと見せて、左フックへ軌道を変えた。オレは、無理に行かず、その軌道の変化を学習する。ホーヤが右ストレートから、左ジャブに繋ぐコンビネーションを打ってきた。ガードして踏みこんだ。ホーヤもステップバックせずに、オレを迎撃しようと腰を落として足の幅を広げた。接近戦。まず、オレが右フックを打った。ホーヤはそれを、身体をそらしてかわし、ステップバックして左ジャブを打ってきた。左ジャブの軌道が見えていたオレはガード上げ、更に踏みこんでいこうとした。そこにホーヤは左の軌道を変え、左フックにしてきた。それは、さっき。オレは左フックを合わせた。ホーヤの左フックがオレの鼻先をかすめ、オレの左フックはホーヤのアゴを打ち抜いた。カウンターが成立した。ホーヤは豪快に倒れた。 
 
 オレは1ラウンド2分58秒でKO勝ちした。
 
 試合後のインタビュー「1ラウンド圧勝でしたね」と美人アナウンサーに笑顔で言われた。オレは「いや、ホーヤ選手は本当に強くて、最後のパンチは、たまたまです。ラッキーでした」と言った。
 アナウンサーは期待した答えがもらえず「そうですか」と笑顔のまま固まっている。
 オレは思う。試合の真実は、戦ったニ人だけのものだ。
 勝った要因の説明なんて、野暮だろ。
 だから、オレはいつも、たまたま、ラッキーでした。と答える。
 チャンピオンには、勝利の美学が欲しいもんだよな。
 
 そうオレは思ってるんだ。
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