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華麗なチャンピオン

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 ゴングが鳴った。
 
 1ラウンド。
 
 私はチャンピオンらしく優雅にステップを刻む。
 
 リングの中央で左手を出し、チャレンジャーの彼に、グローブを合わせる挨拶をしようとした。
 
 彼は無視して、ステップインして近づき、左フックを打ってきた。
 
 無礼な男だ。
 
 私はかわし、彼の左へまわった。
 
 彼は、私に近づこうと追ってくる。
 
 やれやれ、野蛮なファイトスタイルだ。指導者の顔が見たい。
 
 私は、左ジャブを数発放って、彼の前進を止めようとした。
 
 彼は、顔にもらいながらも頭を振り、前進をやめない。
 
 私に近づくと、ボディブローや、左右のワイルドなフックを振ってくる。
 
 私は、ボディはガードし、フックは華麗にかわして、左ジャブや右ストレートを打ち込んだ。
 
 彼は、もらいながら右ボディ、左ボディと打ち込んでくる。
 
 打っている最中に、ボディはガード出来ず、何発かもらってしまった。
 
 彼は、パンチ力があった。
 
 ボディブローも、もらわないよう気をつけよう。
 
 2ラウンド。
 
 私がチャンピオンらしく、悠然と構えようとしたところ、彼がダッシュで迫ってきた。
 
 闘牛みたいな男だ。
 
 彼のリズムは学習した。
 
 彼の左フックに合わせて、右カウンターを打ち込んだ。
 
 華麗に決まると思った矢先、彼は頭を下げて避けた。
 
 私が驚いていると、彼は右アッパーを突き上げてきた。
 
 私は身体をそらして避けた。
 
 なかなかやるじゃないか。
 
 彼は止まらず、ボディブローを打ってきた。もらってしまった。
 
 私は、痛みに耐えながら、ステップバックして彼から離れ、左ジャブで距離を置こうとした。
 
 彼は頭を振り、私の左ジャブを数発もらいながら、直撃は避け、近づいてくる。 

 しつこい奴だ。
 
 そもそも、ボクシングは、インテリジェンスなスポーツだ。ただ、近づいて殴るだけ。
 
 そんな、粗暴なスポーツではないのだ。
 
 腹が立った。
 
 そうだ。試合が終わったら、彼と彼の指導者に、しっかりとボクシングのあるべき姿を教えにいこう。
 
 それもチャンピオンの務めだ。
 
 彼の前進をいなしながら、私はそう考えていた。
 
 ラウンドを重ねても彼は、闘牛さながらの前進を繰り返した。
 
 私は、数発ボディブローをもらいながらも、彼の顔面に、的確なパンチを打ち込んでいった。
 
 試合は終盤に差し掛かった。
 
 10ラウンド。
 
 私は、ボディブローのダメージで、足が止まってしまった。
 
 彼と接近戦で、勝負しなければならない。
 
 彼の顔は腫れ、目も見えずらそうだったが、闘志はあふれていた。
 
 私はチャンピオンとして、彼の土俵で打ち勝とうと、覚悟を決めた。
 
 私は、彼のワイルドなパンチの内側から、的確にパンチを決め、接近戦も優位に進めた。
 
 私のコンパクトな左アッパーが華麗に決まり、私は前へ出ようとした。
 
 その時、彼が左ボディブローを振ってくるのが見えた。
 
 私はガードを下げた。
 
 彼が左ボディの軌道をアッパーへと変えた。
 
 私はきれいにアゴをはね上げられた。
 
 強烈な右ストレートも追撃された。
 
 私の視界は、真っ暗になった。
 
 私は、目を覚ました。
 
 私の右腕をレフリーが上げ、腰にはベルトが巻かれていた。
 
 彼は大の字に倒れていた。
 
 私は、KO勝ちをしていた。
 
 現れたのだと、私は肩を落とした。
 
 優雅に戦い、華麗に勝利したかった。

 チャンピオンには、様々な呼び名が付く。
 
 単純に強すぎるから「モンスター」パンチが速すぎるから「フラッシュ」などがある。

 私は、華麗にステップを刻み、基本を重視し、左ジャブを中心に試合を組み立てるスタイル。
 
 それが、相手から痛烈なパンチをくらい、意識が飛ぶと姿を現すのだ。粗野で野蛮だ。認めない。
 
 それは、自由奔放に動き、両手をダラりと下げ、笑みを浮かべ、相手を挑発しながら、強烈なパンチを、次々と打ち込むスタイル。
 
 世界挑戦から防衛戦の数試合で、スタイルが豹変して戦うシーンがSNSで話題となり、ついた呼び名が
 
 「ゴースト」
 
 意識が無くなった私の身体に、野蛮な霊が入り込み、勝利した。そんな訳では断じてない。断じてないのだ。
 
 私の意思とは関係なく、私はゴーストと呼ばれた。
 
 そして、意識がなく粗野で野蛮なスタイルに変わっている時間は、ゴーストタイムと呼ばれ、話題となっている。
 
 無礼な話だ。
 
 次戦は、打たれず華麗に打ち倒す。
 
 チャンピオンの優雅な試合をお見せする。
 
 私は、強く胸に誓った。
 
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