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しおりを挟む「ルーちゃん! クーちゃん!」
邸に帰ると母の声が聞こえ、振り向くと駆け寄って来る姿が見えた。
「フィちゃんは!?」
いきおいよく腕の中で眠り続けるフィーリィーの顔を覗き込む。規則正しい寝息を確認すると母が安堵の息をついた。
「母上。フィが目を覚まさないのです」
「クーちゃん」
耳と尻尾を垂らし、不安そうなアレクの頭を母が優しく撫でた。
「使いの者の手紙で事情をきいたわ。顔色も悪くないし、初めての外出にフィちゃんは疲れて眠っているだけよ。ルーちゃんもクーちゃんもお疲れ様。お帰りなさい」
優しい笑顔で言われたアレクはホッとした表情に変わった。
「アレク、フィーリィーを頼む」
ソッと寝ている弟を抱き渡す。スヤスヤ寝ている愛らしい姿は和む。
「母上、出迎えありがとうございます。父上はいますか」
「執務室にいるわ。ルーちゃんを待ってるみたい。フィちゃんは任せて!」
寝てる時しか触れる事が出来ないフィーリィーを、父と母はそれでも溺愛している。
服を毎日選び、隠れて着ている姿を見て微笑んでいる。家族全員がフィーリィーを愛している。
大切な弟。絶対に傷付かないように守る。
「父上、ただいま帰りました」
執務室の扉をノックし、中を開けると書類仕事をしていた父が顔を上げた。
「お帰り、リカルド」
感情をあまり出さない父だが家族を人一倍大切に思っているのを知っている。
報告をするために、テーブルを挟んでソファに座る。父の執事が紅茶を置くと一息ついて話を切り出す。
「視察は問題ありませんでした。町の補助金の申請を受理して頂きたく思います」
「あぁ、分かった」
一冊のスケッチブックを父に渡す。他にもアレクに聞いた話をまとめた書面も差し出す。
前日、使いに簡略したフィーリィーの考案を書いた手紙を届けさせていた。
「これがフィーリィーが提案した物です。町長にはこちらで製作して祭り前に届ける旨を言い渡しておきました」
ページをめくり一つ一つ確認している父が思案顔であごを撫でる。
「リカルド、我が領地は他領に売るほどの名産品はなかった。だがこのオモチャは他領や王都でも人気が出るだろう。質と価格を分けて量産すれば、我が領地はオモチャの生産地になる」
売り出せば必ず人気が出る。
「大々的に我が¨アース¨領で売るのですね。フィを守るため」
「祭りは他領から来る者もいます。考案したのは誰かと噂になる前にアース領地での新しい産業とするのですね」
「あぁ、フィーリィーが望む避難所も領民のためになるだろう」
子供も大人も逃げ込める場所。
「法を犯し捕縛した者の中には、養父母から逃げた孤児院出身の者や、家族や伴侶から逃げ、やむを得ず身を落とした者もいます」
「避難所は各村にも作ろう。後は孤児院」
フィーリィーが作ったプリンは美味しかった。五歳のフィでも作れて材料費も安い。
「私が食べたのは一つでしたが、アレクの話では他にも種類があるみたいです。領主で雇い賃金を払うより、売上の一部を納めてもらう方が孤児院の利益になると思います」
「頼れる家族がいない者により多くの支援と利益に異論はない。だが」
腕を組み、真剣な表情をする父。
「フィーリィーの手作りお菓子を食べたお前たちはズルい」
心底、羨ましそうにする父に母も同じかそれ以上に責めてくるだろうと思う。
「調理室の使用許可を下さるならフィに頼みます」
即答で許すと言われた。
「まずは試作品を製作してフィーリィーに確認して貰います。祭りまで3ヶ月、それまでに軌道にのせます」
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