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ショタな魔王様
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魔王城の中の空気は案外悪くなかった。
空は紫色の雲に覆われているし、なんなら雷も遠くで落ちているのに。ここは人の手の入らない山奥のような澄み方をしている。
城内も意外とシンプルで。アスラトリスの城と同じくらい、いや、それ以上に白が使われている。
煩くない装飾はとても美しく、素晴らしい職人技。是非国に来てほしい。と、つい思ってしまう。
「ん?あ、ごめん」
ぼーっと眺めていたせいで立ち止まっていた。ケセランパサランが心配してくれたのか頭に乗ってくる。
顔もないのに行動がいちいち可愛いせいで勝手に想像してしまう。
「行こう。北の庭園だよな」
またスローペースで進むケセランパサラン、いややっぱ長いな。命名しよう。
「お前、ポワポワな。可愛い方がいいし」
魔王カウント出来るなら聴覚は持っているはずだし、聞こえていないことはないはずだけど。ポワポワはこちらに戻ることなく真っ直ぐ道を進んでいく。
一人で何やってるんだろうと恥ずかしくなった。
大人しく、それでもそこらかしこを見渡しながら歩いていると、ポワポワが急に止まった。
柱の向こう側には一面全てが花に埋め尽くされていた。北の庭園。そうランハートが呼んでいた場所。
そよ風に吹かれて揺れる白い花畑の中心に、魔王の、アルの姿が見えた。
「アルヴェリック・ソレーユ、だっけか」
アスラトリスは魔物討伐の仕事依頼が尽きない。そう雇われ憲兵から聞いたことがある。すでに死者が出て、近辺の村でも被害が大きいところがあるらしいと。
あまりいい気分はしなかったのが本音だ。
顔も知らない奴らではあるが、国の民ではある。
アルは、アスラトリスの敵なのだ。
「なのになぁ」
あの花に囲まれている少年に、俺は殺意も憎悪も、何も抱けない。
魔王だという畏怖の念すらも。
「出来損ないは頭もそうか」
出来るだけ花を踏まないようにアルに近寄った。
「綺麗な花だな」
「ニオ」
庭園を埋め尽くす程たくさん咲いている白い花。確か名前はオルレア。城にも咲いていたのを見たことがある。
「ニオはこの花が好きだと言っていた」
「そうだな。俺が知ってる花の中では一番好きな花だ」
「嬉しいか?」
「嬉しい......かはよく分からないけど、綺麗だとは思う」
「よかった」
俺の好きな花をアルはどこで知ったんだろう。
知らぬ間に好意を寄せられて、調べ上げられて、少し怖い。
鳥肌が小さく立つ俺とは違い、穏やかそうに花を見つめるアルが花弁に触れた。
「ここの花は枯れることがない。ずっとずっと咲き続ける」
アルは摘んだ一輪を優しく千切った。
次の瞬間、花は砂のように風に吹かれて消えてしまう。
「あ」
「大丈夫。この庭園のどこかにまた生えてるから」
消えた花に思わず出た言葉すらアルは拾う。
交わすこの時間がなにより愛おしい、顔がそう物語っていた。
なにをどうすればここまで俺に惚れるのか俺が気になる。
誰かを救ったことなんてない。誇れるものだってない。そういうのは全部弟達のものだ。
「アル。聞きたいことがある」
こうしてみると、本当にただの人間の子供みたいだ。
俺を見た瞬間、満面の笑みを浮かべたアルは小さく手をこまねいた。
「何でも聞いて。ニオの悩み出来るだけないほうがいいの分かる」
「ありがとう。直球で聞くけど、アル。俺に一目惚れしたのか」
フリーズ。風は止むことなく吹いているが、アルは身体を固めたまま動かない。もしかして一目惚れって単語を知らないのか。一から説明はいるか、いや小っ恥ずかしいな。
色々考えていると、アルの顔が急に赤くなってボンッと破裂したような音がした。
「ニ、ニニニニオ。そのっ、その話は誰から」
「ランハート」
「もーっ......もー‼︎ランハートは‼︎」
顔を真っ赤にして自分の膝をポコポコ叩くアルに呆気に取られる。
なんだこの可愛い生き物は。
「ってごめん。一目惚れ、一目惚れだよね」
「あ、あぁ」
「違うんだ。一目惚れじゃない。僕はちゃんとニオに会ってるよ。話は......してないけどね」
それはどういう状況なんだ。会ってはいるのに話してはいない。でも俺はアルを見た記憶はない。
「ニオが覚えてないことは知ってる。僕はニオの立場だったら覚えてないもの」
「そうなのか」
「うん。それでもね僕がニオといた時間は、今でも何より大切なものなんだ。魔王アルヴェリック・ソレーユが人間を、ニオを好きになるにたる時間だったんだよ」
空は紫色の雲に覆われているし、なんなら雷も遠くで落ちているのに。ここは人の手の入らない山奥のような澄み方をしている。
城内も意外とシンプルで。アスラトリスの城と同じくらい、いや、それ以上に白が使われている。
煩くない装飾はとても美しく、素晴らしい職人技。是非国に来てほしい。と、つい思ってしまう。
「ん?あ、ごめん」
ぼーっと眺めていたせいで立ち止まっていた。ケセランパサランが心配してくれたのか頭に乗ってくる。
顔もないのに行動がいちいち可愛いせいで勝手に想像してしまう。
「行こう。北の庭園だよな」
またスローペースで進むケセランパサラン、いややっぱ長いな。命名しよう。
「お前、ポワポワな。可愛い方がいいし」
魔王カウント出来るなら聴覚は持っているはずだし、聞こえていないことはないはずだけど。ポワポワはこちらに戻ることなく真っ直ぐ道を進んでいく。
一人で何やってるんだろうと恥ずかしくなった。
大人しく、それでもそこらかしこを見渡しながら歩いていると、ポワポワが急に止まった。
柱の向こう側には一面全てが花に埋め尽くされていた。北の庭園。そうランハートが呼んでいた場所。
そよ風に吹かれて揺れる白い花畑の中心に、魔王の、アルの姿が見えた。
「アルヴェリック・ソレーユ、だっけか」
アスラトリスは魔物討伐の仕事依頼が尽きない。そう雇われ憲兵から聞いたことがある。すでに死者が出て、近辺の村でも被害が大きいところがあるらしいと。
あまりいい気分はしなかったのが本音だ。
顔も知らない奴らではあるが、国の民ではある。
アルは、アスラトリスの敵なのだ。
「なのになぁ」
あの花に囲まれている少年に、俺は殺意も憎悪も、何も抱けない。
魔王だという畏怖の念すらも。
「出来損ないは頭もそうか」
出来るだけ花を踏まないようにアルに近寄った。
「綺麗な花だな」
「ニオ」
庭園を埋め尽くす程たくさん咲いている白い花。確か名前はオルレア。城にも咲いていたのを見たことがある。
「ニオはこの花が好きだと言っていた」
「そうだな。俺が知ってる花の中では一番好きな花だ」
「嬉しいか?」
「嬉しい......かはよく分からないけど、綺麗だとは思う」
「よかった」
俺の好きな花をアルはどこで知ったんだろう。
知らぬ間に好意を寄せられて、調べ上げられて、少し怖い。
鳥肌が小さく立つ俺とは違い、穏やかそうに花を見つめるアルが花弁に触れた。
「ここの花は枯れることがない。ずっとずっと咲き続ける」
アルは摘んだ一輪を優しく千切った。
次の瞬間、花は砂のように風に吹かれて消えてしまう。
「あ」
「大丈夫。この庭園のどこかにまた生えてるから」
消えた花に思わず出た言葉すらアルは拾う。
交わすこの時間がなにより愛おしい、顔がそう物語っていた。
なにをどうすればここまで俺に惚れるのか俺が気になる。
誰かを救ったことなんてない。誇れるものだってない。そういうのは全部弟達のものだ。
「アル。聞きたいことがある」
こうしてみると、本当にただの人間の子供みたいだ。
俺を見た瞬間、満面の笑みを浮かべたアルは小さく手をこまねいた。
「何でも聞いて。ニオの悩み出来るだけないほうがいいの分かる」
「ありがとう。直球で聞くけど、アル。俺に一目惚れしたのか」
フリーズ。風は止むことなく吹いているが、アルは身体を固めたまま動かない。もしかして一目惚れって単語を知らないのか。一から説明はいるか、いや小っ恥ずかしいな。
色々考えていると、アルの顔が急に赤くなってボンッと破裂したような音がした。
「ニ、ニニニニオ。そのっ、その話は誰から」
「ランハート」
「もーっ......もー‼︎ランハートは‼︎」
顔を真っ赤にして自分の膝をポコポコ叩くアルに呆気に取られる。
なんだこの可愛い生き物は。
「ってごめん。一目惚れ、一目惚れだよね」
「あ、あぁ」
「違うんだ。一目惚れじゃない。僕はちゃんとニオに会ってるよ。話は......してないけどね」
それはどういう状況なんだ。会ってはいるのに話してはいない。でも俺はアルを見た記憶はない。
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