ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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魔王城の生活

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タバサ先生に怪我を治してもらい、完全に健康体になった翌日。朝食後ポワポワと共に三階への階段を登っていると後ろから声をかけられた。振り向けばアルが大きく手を振りながら俺の名前を連呼している。

「なんだー?」
「鏡の間は本当に危険だから近付かないでねー‼︎」
「分かった」
「本当に本当に危険だからねー‼︎」
「分かったから仕事に戻れー」

寂しそうにずっと俺を見つめて手を振り続けているアルが動く気配はない。このままサボるつもりか、と思ったけどすぐにランハートが来てアルは連行されていった。
気を取り直して手摺を掴むと、治ったはずなのに重い足を上げる。
どうして城の階段はどこも長く曲がりが多いんだろう。

「頑張るかぁ」

と意気込んだはいいものの、登り切るまでには体力の大半を持ってかれた。登るより降りる方が負荷が大きいというけど、体感的には登る方が負荷が大きいような気がする。

「ポワポワはいいな、浮かんでるから楽に上がれる」

俺にもそういう魔法が使えればいいのに、と思った。
城にいた頃飛行魔法に夢見て挑戦したはいいが、ちょっと高いジャンプと変わらず飛行出来たことはない。
軽い飛行は子供でも練習すれば出来るのだけど、俺は魔力が足りないのか才能がないのか......どっちにしたって同じことだ。

「今日はどっちから回る?ポワポワ」

返事は返してくれないものの、一度頬に軽く触れてから右方向に進んで行く。ポワポワの中の俺の好感度着実に上がっていってると考えていいだろう。普通に嬉しい。

「えーっと最初は談話室、かな」

ポワポワの進む方向と地図を自分の中で一応擦り合わせて確認する。談話室の近くにはなぜか拷問室があるが、目の前を通る時に少し距離をあけて通れば恐らく問題ないだろう。
今日は怪我なく終わればいいなと歩いていると、少し先に何かが落ちていることに気がついた。
大きなトング...ではない。鉄製の鋏、だろうか。
魔王城には似合うが、城の廊下には似合わない大きさの器具。近くには赤黒いシミが広がっている。
俺の予想が正しければ、あれは拷問道具の一つじゃないのか。

「あー‼︎オレのブレストリッパー‼︎‼︎」

触らないように、近寄らないように、そして見た記憶すら消してこの場を離れようとした時、知らない声が談話室、いやその先にある拷問室の方から聞こえた。
顔を向けると、夕焼け色の小柄な青年がこちらを指差したまま走ってきている。
頬に鱗、両足の後ろには大きく太い尻尾がゆらゆら揺れていて、目はパッチリ落ちた拷問道具を見つめていた。
だいぶ特徴的な服を着ている。東にあるニシキノ国かどこかの民族衣装かな。

「やっぱりさっき落としちゃってたんだ‼︎よかったー‼︎いやよくない‼︎どうしよう絨毯に血ついちゃってる⁉︎」

青年はこちらには目もくれず、身体に似合わないサイズの鋏を持ち上げて汚れた絨毯を前に小刻みに震えた。

「あわわわわ怒られるよねこれ......ど、どうしよう~」

そう言っている間も背負った鋏からはポタポタと血らしき赤い液体が絨毯を汚している。ツンと鼻にクる匂いの正体。自動的に答え合わせを始める脳に、少し足がぐらついた。
声をかけようと決心した瞬間に、パチリと目が合った。
青年の震えは増し、少々涙目のまま綺麗な土下座を繰り出す。

「あ、えっと。あの......できれば見なかったことにしてもらえると物凄く助かります‼︎」
「いや、俺別に怒る理由が」
「ランハートさんとか‼︎メイドさん達とかに言わないでくれるともっと助かります‼︎お願いします‼︎」
「言わない、言わないよ」
「ほ、本当ですか⁉︎」

安心したようにバッと頭を上げた青年の顔はすぐに明るくなった。俺をまじまじと見つめてから、大きく飛び跳ねる。尾も感情と連動して風を切りながら揺れては偶に地面に衝突した。耳や尾のある種族は感情の機敏が分かりやすくてありがたい。

「奥方様だ⁉︎あれ⁉︎奥方様で合ってる⁉︎オレ会いたかったんだ~‼︎」

急いでピンと背筋を立てて立った青年は、手櫛でボサボサの髪を梳かし、ヨレヨレの身なりをできる限り整える。が、どちらもあまり変わっていない。なんならもっと酷いことになってるのは言わない方が優しさだろうか。

「初めまして‼︎オレはルベルって言います‼︎あっちの拷問室で今ちょうど拷問してるんだ。もしかして見学しに来てくれたの⁉︎」

目の前で明るい笑顔を見せる青年は、見当違いなことを言いながらなにか喜んでいた。





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