ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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デートの準備

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「奥方様、この前ぶりなのね。アリアはずっと待っていたのよ」
「......また来てくれて、エンゼはとても喜んでいます」
「う、うん」

鏡の間に着いた途端カタカタと足を鳴らしながら駆け寄ってきた二人は少し気まずそうながらも歓迎してくれる。鏡の間は相変わらず至る所に大小様々の鏡が飾られて奥には全く関連性のない景色。脳が不具合でも起こしそうな空間に酔いそうだ。

「ククシュルト様の屋敷まで」

慣れたように場所を指定した男。身長も体格もだいぶ差があるのに怯む様子もなく顔を歪めたアリアは、露骨な態度のまま自分の後ろを指で差す。

「大きいだけの木偶の坊。エンゼと奥方様のお目目が汚れちゃうわ。早く行ってよ」
「私とあなた方は同種です」
「知ってるわ‼︎一緒にされたくないって意味よ‼︎」

わいきゃいと一方的に吠えるアリアを気にする様子もなく、男は淡々と言葉を返していた。
肩に張り付いていたポワポワを手で優しく揉みながら喧嘩とも言えない喧嘩を眺めていると、いつの間にか俺の横には今日も黒いドレスをフラフラと暇そうに揺らしながらエンゼが立っていた。


「なぁ、エンゼ。キュロもそうだったんだけど......なんかあの男の人と仲悪くない?」
「キュロ様は知りません。ですが先程申し上げた通りエンゼ達はあのデカブツと同種です。野蛮なものがエンゼ達を同じ野蛮なものと言います。使いの分際で、無礼で失礼で失敬であることを知るべきだとエンゼは思いますね」
「そっかぁ。ちなみに種族って」
「語句のイメージとしてエンゼもアリアも好みませんのでお告げするのは憚られますが......」

ゴーレム。ぼそっと耳打ちするエンゼは本当に嫌そうな声だった。
ぱっと見形も性別も違う様に見えるけれど、当人達にしか分からない問題もあるんだなと思う。アリアもエンゼも女の子だ、フクザツなオトメゴコロというものを本で読んだことがある。

「ところで奥方様。ククシュルト様の屋敷に行かれるのですね」
「どんなところか知ってる?」
「......辺境です。南の国、ローレギンドの山中にあります。比較的住み心地が良く、悪い場所ではありません。けれど」

言葉を濁したエンゼは少し考える素振りを見せ、小さな宝石のついた指輪を俺の掌に乗せて握らせる。

「奥方様が会いたくない、魔王様が会ってほしくない方がいらっしゃるやも、とエンゼは推測いたします......というか頻繁にいらっしゃるので」
「これって魔道具?」
「多少の魔力で姿を消すことの出来るものです。ククシュルト様には効きませんが、あらかじめ」
「......ありがとう」

言い方的にククシュルトという人自体に何かがあるわけではないんだろう。屋敷、ということはある程度地位のある人であることに変わりない。こちらが認識していなくとも一方的に知られている可能性のあるアルにも俺にとっても要注意人物。

「誰、かな」

無能で、無価値でも、第一皇子であったときは確かにあったから。
自分の記憶を出来る限り遡って一人一人の顔を思い出す。紹介された人。覚えておけと渡された似顔絵。南の国に関しての書物、記録。魔王に敵対している、もしくはアスラトリスと敵対関係で少なくとも友好関係にない貴族。
うん。無意味だな。数えるだけで気が遠くなりそうだ。

「ニオ様。あちらの鏡へ」
「あ、はい......‼︎」

鏡の奥に見える白い花模様とパスカルの壁。本物だろう太陽の光が差し込む部屋に妙な懐かしさを覚えた。

「アリア、エンゼ。いってきます」

踏み込む前に振り返れば、照れた様に顔を背けるアリアとか細い声でいってらっしゃいませと手を振るエンゼ。
たった一歩で切り替わる場所。さっきまでいた鏡の間が伸びる様に姿を歪め、瞬き一つ挟めばずっと遠い向こうに感じる。
そういえば鏡で移動するのは初めてだ。前は酔った様に倒れてしまったけれど、今は薄い膜を通り過ぎるような。

「なッ⁉︎」

階段を踏み外す時と似た感覚。そこに足場がある、そう信じて疑わなかった自分を恥じた。姿見の向こうが、必ず姿見ではない。鏡は壁にかけられている場合もある。
魔王城やアスラトリスとは違う場所。そこでの初体験は小綺麗なカーペットの固さを実感することだった。
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