38 / 48
デートの準備
14
しおりを挟む
無様にも踏み外した地面。そのまま前に倒れてビターン。
「痛い......」
「ニオ様。ククシュルト様の屋敷へ到着いたしました。こちらへ、あちらへ、どうぞ」
悶えていようがお構いなしに急かされる。
目の前の男、というかゴーレム以外に影はない。それなのに肌を刺すような屋敷を通り抜ける風はなんだろう。
「......ずっと張り詰めてるみたいな」
案内されるがままに歩きながら辺りをキョロキョロと見回す。屋敷の中は柔らかい色で満ちていた。けれど陽光の中で浮かぶ埃や、窓の向こうで好き勝手に蔓を伸ばす植物達を見てはここに貴族が住んでいるとは想像できない。
清潔という言葉を好み、不潔を嫌うというのが貴族だと教わった。想像力の足りない俺は、不甲斐なく初見はどうしても今までの知識に頼ってしまう。
「この先です。お入りください」
男に合わせる様に足を止める。思わず固唾を飲んで、自分より少し高い扉を見つめた。周りと比べ唯一、この目の前の扉だけ掘りに埃ひとつなくただ堂々とその戸を閉じている。
「失礼します」
扉は案外軽かった。けれど開く音は重い。何か別のものまでくっついているような、重なって崩れてくるような。雪崩の如く押し寄せてきている......よう、な。
「って本当に崩れてきてる⁉︎」
扉の向こうに積まれていたであろう木箱が自分の真横スレスレに倒れる。中からは様々な模様で彩られている布の切れ端。コロコロと転がっていく刺繍糸とそれを追いかける様に散らばる小さな針。
視線を前に戻せば、何も着せられていないトルソーや座るという本来の機能を忘れ物置とかした椅子。かき混ぜられた裁縫箱のような景色が目的地だと言わんばかりに広がっている。
「ククシュルト様。ニオ様をお連れいたしました。ククシュルト様」
ゴーレムの声に反応してどこからともなく呻き声が返ってくる。ガチャガチャと物が倒れる音。布や箱を押し除けて、ひょっこり姿を見せた青年は丸眼鏡を掛け直すとこちらに大きく手を振った。
「いらっしゃいませニオ様~‼︎ボクがククシュルトです~‼︎ククシュルト・ワーグナーです~‼︎」
「ニオ・ムーンヴィストです」
「ごめんなさい‼︎さっきまで準備万端だったんですけど......色々やってたらまた元通りになっちゃって......‼︎すぐ元に戻しますので、少々お待ちくださいね‼︎」
「痛い......」
「ニオ様。ククシュルト様の屋敷へ到着いたしました。こちらへ、あちらへ、どうぞ」
悶えていようがお構いなしに急かされる。
目の前の男、というかゴーレム以外に影はない。それなのに肌を刺すような屋敷を通り抜ける風はなんだろう。
「......ずっと張り詰めてるみたいな」
案内されるがままに歩きながら辺りをキョロキョロと見回す。屋敷の中は柔らかい色で満ちていた。けれど陽光の中で浮かぶ埃や、窓の向こうで好き勝手に蔓を伸ばす植物達を見てはここに貴族が住んでいるとは想像できない。
清潔という言葉を好み、不潔を嫌うというのが貴族だと教わった。想像力の足りない俺は、不甲斐なく初見はどうしても今までの知識に頼ってしまう。
「この先です。お入りください」
男に合わせる様に足を止める。思わず固唾を飲んで、自分より少し高い扉を見つめた。周りと比べ唯一、この目の前の扉だけ掘りに埃ひとつなくただ堂々とその戸を閉じている。
「失礼します」
扉は案外軽かった。けれど開く音は重い。何か別のものまでくっついているような、重なって崩れてくるような。雪崩の如く押し寄せてきている......よう、な。
「って本当に崩れてきてる⁉︎」
扉の向こうに積まれていたであろう木箱が自分の真横スレスレに倒れる。中からは様々な模様で彩られている布の切れ端。コロコロと転がっていく刺繍糸とそれを追いかける様に散らばる小さな針。
視線を前に戻せば、何も着せられていないトルソーや座るという本来の機能を忘れ物置とかした椅子。かき混ぜられた裁縫箱のような景色が目的地だと言わんばかりに広がっている。
「ククシュルト様。ニオ様をお連れいたしました。ククシュルト様」
ゴーレムの声に反応してどこからともなく呻き声が返ってくる。ガチャガチャと物が倒れる音。布や箱を押し除けて、ひょっこり姿を見せた青年は丸眼鏡を掛け直すとこちらに大きく手を振った。
「いらっしゃいませニオ様~‼︎ボクがククシュルトです~‼︎ククシュルト・ワーグナーです~‼︎」
「ニオ・ムーンヴィストです」
「ごめんなさい‼︎さっきまで準備万端だったんですけど......色々やってたらまた元通りになっちゃって......‼︎すぐ元に戻しますので、少々お待ちくださいね‼︎」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる