【完結】猫公爵と氷雪令嬢 〜政略結婚だけどヘタレ公子は無表情令嬢と熱愛希望〜

はぴねこ

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「シャルロットは眠ってしまったから、夜食を準備してくれ」
 
 食堂で父上の給仕をしていた執事にそう伝えると「かしこまりました」と、彼はメイド長に目配せをした。
 
 この屋敷の者たちはみんなシャルロットが好きだった。
 母上がシャルロットを可愛がっているからというのもあるが、シャルロットは使用人たちにも礼儀正しく親切だった。
 
 エミリアの侍女になるためにと積極的にメイド長にお茶の淹れ方や客人のもてなしかたなんかを聞いたりもしていた。
 誰に対しても分け隔てなく接し、努力を惜しまないシャルロットを使用人たちは慕っていたのだ。
 
 当主や令息が闇の女神の呪いで猫になる公爵家の使用にとって、シャルロットの無表情など大した問題ではなかった。
 
「それで、父上と母上は久しぶりにお会いしたと思うのですが、ずっとそんな感じですか?」
 
 会話のないまま黙々と食事をしている二人にそう聞いた。
 
「私は我が家のお嫁さんに会いに来ただけだからな」
「わたくしもシャルロットちゃんと食事ができなくて残念だわ」
「そんな様子の二人を見たらシャルロットは心配すると思うけど?」
「……シャルロットちゃんの前ではそれっぽく演じるわよ」
「そうだな。あの子の前ではなんとかするさ」
「母上はともかく、父上は演技できないでしょう?」
「……精進する」
「いや、精進するところはそこじゃないと思いますよ?」
 
 俺はシャルロットと結婚するにあたり、エミリアから学んだことがあった。
 それは、多少の強引さが必要な時もあるということだ。
 今がまさにその時ではないだろうか?
 
「父上はいつまで母上に闇の女神の呪いのことを隠しているつもりですか?」
「ヴィンセント!」
「母上も、いつまで、父上に闇の女神の呪いのことならとうの昔に知っていることを黙っているつもりですか?」
 
 母上は無言のままそっぽを向いた。
「……え?」と、父上は信じられないものを見るように母上を凝視している。
 
「マリアンナはガッティツォーネ家の呪いを知っていたのか?」
「ヴィンセントが一歳の頃に、お祖母様が猫の姿のヴィンセントを連れてきて、教えてくださいましたの」
「そんな前から……」
「旦那様が隠したがっていたから、黙っていたのです」
「そ、それは、呪いのことなど知られて、其方に離婚されたくなかったから……」
「子供がいるのに、そんな無鉄砲に離婚なんてしませんわ」
「いや、君は学生の頃からかなり無鉄砲だったじゃないか……そんなところが魅力で、モテていたけれど」
「おモテになっていたのはあなたでしょう?」
「二人とも、子供の前で惚気るのはやめてもらってもいいですか?」
 
「それと」と、俺は父上に注意事項を伝えた。
 
「この屋敷にいる間は猫の姿のまま部屋から出てくるのはやめてくださいね?」
「そうね。シャルロットちゃんに見つかったら撫でられて、吸われて、抱っこされることになるから……その時点で、変態の烙印を押して、この屋敷には永遠に入れないようにしましょう」
 
 俺は自分が嫉妬する未来を避けるために言ったのだが、俺よりも手厳しい母上のことを思わず凝視してしまった。
 
「どうしたの? ヴィンセント?」
「いえ、母上も嫉妬をするのだなと思いまして」

「嫉妬……」と、父上が少し嬉しそうに母上を見た。
 しかし、母上の目は冷たかった。
 
「嫉妬ではありませんわ。よく想像してちょうだい? 中身おじさんの猫がシャルロットちゃんに撫でられてデレデレしている図を」
「……変態ですね」
「でしょう? 猫になってしまうとは言っても、誰でも許されるものではないと思うのよ」
「母上は相変わらず手厳しいですね……」
 
 それはつまり、俺もおっさんになったら変態ということだろうか?
 しかし、母上が「まぁ……」と珍しく言葉を濁してそっぽを向いた。
 
「夫婦ならば、仕方ないんじゃないかしら?」
 
 今日は母上と父上のいろいろな表情を見ることができた。
 これもシャルロットのおかげだろう。
 
 その日から父上もこの屋敷で生活するようになり、俺のお祖父様、お祖母様も頻繁に遊びに来るようになった。
 シャルロットは温和な二人にすぐに懐いたようだった。
 
 お祖父様、お祖母様はシャルロットが描く猫の姿の俺の絵をいたく気に入り、母上のように部屋に飾りたいとシャルロットに絵の制作依頼をしていた。
 しかし、シャルロットは今取り組んでいる絵があるため、少し待ってほしいとお祖父様とお祖母様に伝えていた。
 
 俺としては、シャルロットが今取り組んでいる絵よりも、お祖父様、お祖母様の依頼のヴィンスの絵を優先して描いて欲しかったけれど、そんなわがままはもちろん飲み込んだ。
 
 そして、とうとう、神殿の聖下の生誕祭の日が訪れてしまった。
 
 
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