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もうすぐ結婚が迫った婚約者と一緒に結婚式場を見て回った日の帰り道、急に足元の地面が光って、魔法陣のようなものが浮き上がり、眩しい光に目を閉じた。
次の瞬間には見慣れた街の風景はなくて、全く見知らぬ場所にいた。
そこは、まるでヨーロッパの大聖堂の中のようだった。
周囲の神官のようないでたちの者たちは「召喚が成功したぞ!」と声を上げて喜んでいる。
これはもしや、アニメなどでよく見る異世界召喚というものが行われたのではないだろうか?
「聖女様だ!」
「聖女様の召喚に成功したぞ!」
はい。モブ決定。
勇者ではなく聖女をお求めってことは、つまり、召喚されたのは俺の婚約者であり、俺は巻き込まれただけのモブだ。
ああ、またかと俺はなんとも言えないガッカリした気持ちになる。
俺はこれまで恋人ができる度に他の誰かに奪われてきた。
大抵は女性の方から告白されて、そして、そんな彼女たちを奪っていくのは友人や先輩など身近な人たちだ。
そうして、俺はカノジョと友人や先輩などの親しい人を同時に失うということを何度も経験してきた。
すっかり、友達のいなくなった俺は、今度は自分から積極的に動いてみようと婚活パーティーで今回の婚約者を見つけたのだ。
それなのに、また奪われるのだ。
しかし、今回は身近な人に奪われなかっただけマシかもしれない。
正直、婚約者のこともまだそれほど深くは知らない関係だ。
お互いに結婚相手を探していて、条件が合っていたから結婚という目標に向けて一緒に歩んでいたパートナーのような相手ではあったが、恋愛感情のようなものを持つ前だったのが救いだ。
「何これ!? すごい!! 異世界召喚ってやつ!?」
彼女を婚約者に選んだ理由の一つがこれだ。
彼女はオタクとまでは言わないけれど、アニメや漫画が好きだった。
アニメが嫌いな奥さんだと家でアニメを見ることができなくなるかもしれないと思って、そういうものに偏見がない人を選んだのだ。
アニメ好きじゃなかったら、急にこんな風に見知らぬ世界に連れてこられたらパニックを起こすところだろう。
しかし、異世界モノのアニメも漫画もライトノベルも好きな俺たちは落ち着いたものだ。
婚約者の彼女は自分が召喚されたことに感動しているようだし、俺は自分がモブであることを冷静に判断できている。
「ねぇ、佐伯さん! 私が聖女ってことよね?」
彼女はどういうわけか俺にそう聞いてきた。
「おそらくそうだと思うけど、それを聞くのは俺じゃなくて、この神官っぽい人たちじゃないですか?」
「いやね。勇者召喚じゃなかったからって拗ねないでよ。ちゃんとあなたのことも養ってくれるように、偉い人には私からお願いしておくわ」
「俺はできれば帰りたいんですが……」
「佐伯さんだって異世界モノ好きなんだから知ってるでしょ? こういうので元の世界に帰る方法を用意してることってないじゃない?」
「……」
だよな。と内心でため息をつく。
視聴者や読者の時にはそれほど気にならなかったけれど、実際に巻き込まれてみると、帰る方法がないのに召喚するとかだいぶ頭湧いてんなって思うくらいに迷惑だ。
さて、この見知らぬ世界でどう生きていくべきかと考えていると、神官達の間から一人の美男子が進み出てきた。
長い金の髪に、美しく澄んだ青い瞳、そして日の光など知らないかのような真っ白な肌。
地球なら間違いなく、ファッション雑誌の表紙を飾っていそうな顔立ちと体型だ。
婚約者をチラリと見れば、一目で恋に落ちたことがわかる。
「私はこの国、神聖国の第一王子 フラウィアン・ガーニウスロキです。聖女様、どうか、この国をお救いください」
美男子と婚約者が手と手を取り合うところなど見たくなくて視線を床に落としていると、目の前に白い手袋をはめた手が差し伸べられた。
この手はなんだろうかと顔を上げると、先ほどの美男子が俺に向けて手を差し出していた。
「……え?」
「聖女様、我々はあなたに尽くします。不自由のない生活をお約束しますし、できるだけ、あなたが望む報酬を用意いたします」
えっと、これはどういうことだろう?
俺が混乱していると、婚約者の声が響いた。
「聖女は私でしょ!? 何をしているの!?」
当然の彼女の叫びだったが、美男子はひどく冷たい眼差しを彼女に向けた。
周囲の人々も冷めた目で彼女を見ていた。
「聖女はこの方、お一人です。あなたに用はありません。とは言っても、召喚に巻き込んでしまったのはこちらの落ち度ですから、元の世界には戻してあげましょう」
王子はそう言うと、周囲の神官たちを見渡した。
「この不躾な女を元の世界に送還せよ!」
神官たちにそのように命じた王子はあろうことか俺のことを横抱きに抱き上げて、魔法陣の上から退いた。
「あなた様にはこの世界に残ってもらわなければいけませんから、こちらに……」
そう言って、王子は俺をいわゆるお姫様抱っこで抱いたまま、聖堂のようなその部屋を出た。
「ちょっと! その男は婚活で得た私の戦利品よ! 返しなさいよ!」
背後から婚約者のそんな声が聞こえて、俺はどっと疲れた。
俺は物じゃない。それなのに、戦利品って言い方は酷くないだろうか?
なんとも微妙な気持ちになっていると、俺を抱えた状態の王子が俺の顔をじっと見つめていた。
次の瞬間には見慣れた街の風景はなくて、全く見知らぬ場所にいた。
そこは、まるでヨーロッパの大聖堂の中のようだった。
周囲の神官のようないでたちの者たちは「召喚が成功したぞ!」と声を上げて喜んでいる。
これはもしや、アニメなどでよく見る異世界召喚というものが行われたのではないだろうか?
「聖女様だ!」
「聖女様の召喚に成功したぞ!」
はい。モブ決定。
勇者ではなく聖女をお求めってことは、つまり、召喚されたのは俺の婚約者であり、俺は巻き込まれただけのモブだ。
ああ、またかと俺はなんとも言えないガッカリした気持ちになる。
俺はこれまで恋人ができる度に他の誰かに奪われてきた。
大抵は女性の方から告白されて、そして、そんな彼女たちを奪っていくのは友人や先輩など身近な人たちだ。
そうして、俺はカノジョと友人や先輩などの親しい人を同時に失うということを何度も経験してきた。
すっかり、友達のいなくなった俺は、今度は自分から積極的に動いてみようと婚活パーティーで今回の婚約者を見つけたのだ。
それなのに、また奪われるのだ。
しかし、今回は身近な人に奪われなかっただけマシかもしれない。
正直、婚約者のこともまだそれほど深くは知らない関係だ。
お互いに結婚相手を探していて、条件が合っていたから結婚という目標に向けて一緒に歩んでいたパートナーのような相手ではあったが、恋愛感情のようなものを持つ前だったのが救いだ。
「何これ!? すごい!! 異世界召喚ってやつ!?」
彼女を婚約者に選んだ理由の一つがこれだ。
彼女はオタクとまでは言わないけれど、アニメや漫画が好きだった。
アニメが嫌いな奥さんだと家でアニメを見ることができなくなるかもしれないと思って、そういうものに偏見がない人を選んだのだ。
アニメ好きじゃなかったら、急にこんな風に見知らぬ世界に連れてこられたらパニックを起こすところだろう。
しかし、異世界モノのアニメも漫画もライトノベルも好きな俺たちは落ち着いたものだ。
婚約者の彼女は自分が召喚されたことに感動しているようだし、俺は自分がモブであることを冷静に判断できている。
「ねぇ、佐伯さん! 私が聖女ってことよね?」
彼女はどういうわけか俺にそう聞いてきた。
「おそらくそうだと思うけど、それを聞くのは俺じゃなくて、この神官っぽい人たちじゃないですか?」
「いやね。勇者召喚じゃなかったからって拗ねないでよ。ちゃんとあなたのことも養ってくれるように、偉い人には私からお願いしておくわ」
「俺はできれば帰りたいんですが……」
「佐伯さんだって異世界モノ好きなんだから知ってるでしょ? こういうので元の世界に帰る方法を用意してることってないじゃない?」
「……」
だよな。と内心でため息をつく。
視聴者や読者の時にはそれほど気にならなかったけれど、実際に巻き込まれてみると、帰る方法がないのに召喚するとかだいぶ頭湧いてんなって思うくらいに迷惑だ。
さて、この見知らぬ世界でどう生きていくべきかと考えていると、神官達の間から一人の美男子が進み出てきた。
長い金の髪に、美しく澄んだ青い瞳、そして日の光など知らないかのような真っ白な肌。
地球なら間違いなく、ファッション雑誌の表紙を飾っていそうな顔立ちと体型だ。
婚約者をチラリと見れば、一目で恋に落ちたことがわかる。
「私はこの国、神聖国の第一王子 フラウィアン・ガーニウスロキです。聖女様、どうか、この国をお救いください」
美男子と婚約者が手と手を取り合うところなど見たくなくて視線を床に落としていると、目の前に白い手袋をはめた手が差し伸べられた。
この手はなんだろうかと顔を上げると、先ほどの美男子が俺に向けて手を差し出していた。
「……え?」
「聖女様、我々はあなたに尽くします。不自由のない生活をお約束しますし、できるだけ、あなたが望む報酬を用意いたします」
えっと、これはどういうことだろう?
俺が混乱していると、婚約者の声が響いた。
「聖女は私でしょ!? 何をしているの!?」
当然の彼女の叫びだったが、美男子はひどく冷たい眼差しを彼女に向けた。
周囲の人々も冷めた目で彼女を見ていた。
「聖女はこの方、お一人です。あなたに用はありません。とは言っても、召喚に巻き込んでしまったのはこちらの落ち度ですから、元の世界には戻してあげましょう」
王子はそう言うと、周囲の神官たちを見渡した。
「この不躾な女を元の世界に送還せよ!」
神官たちにそのように命じた王子はあろうことか俺のことを横抱きに抱き上げて、魔法陣の上から退いた。
「あなた様にはこの世界に残ってもらわなければいけませんから、こちらに……」
そう言って、王子は俺をいわゆるお姫様抱っこで抱いたまま、聖堂のようなその部屋を出た。
「ちょっと! その男は婚活で得た私の戦利品よ! 返しなさいよ!」
背後から婚約者のそんな声が聞こえて、俺はどっと疲れた。
俺は物じゃない。それなのに、戦利品って言い方は酷くないだろうか?
なんとも微妙な気持ちになっていると、俺を抱えた状態の王子が俺の顔をじっと見つめていた。
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