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しおりを挟む「あ、あの、下ろしてください……」
顔の良さだけでなく、背も高く、肩幅もあり、何より、細いのに筋肉がしっかりしていて、成人男性の俺のこともすんなりと抱き上げてしまっている。
そんな男としての格の違いを見せつけられて、俺は思わず怯んでしまった。
しかし、王子は俺の言葉に否と答えるように、俺の体をさらに自分に引き寄せるようにして、俺を抱えている腕に力を込めた。
「……こんかつというものは知りませんが、あなたは敗戦国の王子かなにかですか?」
王子!? そんなわけないだろう!
俺は慌てて首を横に振った。
「いいえ! 俺はただのサラリーマンです!」
ただ、運良く大企業に入れただけの社畜だ。
「さらりーまん?」と王子は首を傾げた。
異世界でいうところのなんだろう……俺は営業とかではなく事務だったから……
「えっと……文官みたいなものです」
まぁ、文官は城とかで働く人だと思うから、厳密には違うわけだけど、事務仕事をする人っていう意味では合っているのではないだろうか?
「それにしても、俺が聖女というのは、どういうことですか? 俺が男であることはわかっていますよね?」
「『聖女様』というのは、慣例的な呼び名にすぎません。性別が女性であれ、男性であれ、心清らかで神に愛される存在を『聖女様』とお呼びしています」
王子は俺を抱えたまま、豪華な部屋に入った。
その部屋は真っ白な壁に真っ白な天井、家具も白くて、凝った細工が見られた。
その部屋に入って、やっと王子は俺を床に下ろした。
王子の逞しい腕はゆっくりと、優しく、俺の両足を床に下ろしてくれた。まるで俺が生まれたての子鹿だとでも思っているようだった。
「聖女様にはこちらで……」
祈りを捧げて、神聖力を蓄えた後に魔物退治に行ってくれということだろうか?
もしくは、魔王と戦ってほしいということだろうか?
しかし、王子から言われた言葉は、想定外のものだった。
「神々と対話するお仕事をしていただきます」
神々と対話???
「あ、その後に、魔物退治の旅に行ってほしいということですか?」
この世界は神様が実在する世界で、神様から力を授けてもらえるのかもしれない。
しかし、俺の言葉に王子は驚いたようだった。
「魔物退治など! そんなこと、聖女様にさせられません!!」
王子がキッパリとそう言った。
「では、魔王と戦うのでしょうか?」
「魔王など、神々が守ってくださるこの世界にはおりません。それに、実在していたとしても、聖女様にそのような危険なものと対峙させるわけにはまいりません!」
魔王は物語には出てくるものの、実際にこの世界に出没したことなどないそうだ。
そして、聖女に危険な存在と戦わせるつもりなど全くないという。
どうやら、この世界は聖女に対して随分と過保護なようだ。
「それでは、聖女の役目とはなんなのですか?」
「先ほどもご説明したとおり、神々と対話していただきます」
「……それだけですか? 人々の病や怪我を治したりとかの奉仕活動のために国中を回るとか、そういうお役目はないのでしょうか?」
「国民の病や怪我を治してもらうのに聖女様が国中を回るなど、無理ですね。それだけの護衛の騎士を出せば王都が手薄になりますし、聖女様と騎士たちに必要な物資を揃え、旅費を捻出するのに国庫の三分の一を使うことになるでしょうか……」
王子は難しい顔をしながら聖女巡礼の資金を計算していた。
それだけで、俺が言っていることは全く現実的ではないとわかったが、さらに、言葉は続いた。
「それに、お一人で全ての患者を見ることは不可能でしょうから、大勢の医師を連れていくことになるでしょうか? そうすると、王都やその近隣の医師たちを集めることになり、医師不足に陥り、聖女様が国中を回っている間に患者が増えることになりそうです」
王子は困ったような表情で俺に微笑みかけた。
「やはり、聖女様が国を回るというのは、難しそうです」
「そうですね……素人が余計なことを言って、申し訳ないです」
「いいえ」と王子は俺の両手を自分の手で包み込むように握った。
「聖女様の御心が清らかであることが知れて嬉しいです」
別に、俺は清らかな心で良かれと思って提案したわけではない。
ただ、これまでのアニメ知識で思い込んでいた聖女活動の確認をしただけだ。
単純に、それだけなのだ。
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