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23 役目
「ユース。エールシャルル嬢の保護、助かったわ」
唐突に虚空から現れたスカーレットの姿にエールシャルルは天の助けだと思った。
しかし、エールシャルルが喜びにスカーレットを呼んだ声を掻き消し、ユースがスカーレットに抱きついた。
「スカーレットさまぁ!!」
スカーレットの体にユースの腕は蔓のように長く伸びてくるくると巻き付いていく。
「スカーレット様、僕、お仕事しましたよ! えらい? えらい? 褒めてください!」
「ええ。偉いわね。よくやったわ。ユース」
「えへへ」
トレントのユースを褒めたスカーレットの空虚な二つの目がエールシャルルに向けられる。
エールシャルルは感情の見えないはずのその目が酷く冷たいもののように感じた。
「エールシャルル嬢、こちらで一体何をしているのですか?」
実際、その声は酷く冷たいものだった。
「あ」とエールシャルルは返答に困り、その目をスカーレットから逸らした。
「ゴブリンたちは街道を通る者は襲いません。無闇に森に入り、怪しい動きをする者を監視し、排除を試みます。もしも、入ってきた者に見覚えがあれば彼らよりも上位の亜人に連絡を入れます。つまり、エールシャルル嬢は街道を行かずに森に入ったということです。この森で一体何をしていたのですか?」
ちなみに、薪拾いや木の実やキノコなどの食材採取に入った村人も襲ったりはしない。
よそ者と村人の区別がちゃんとできているのだ。
「この森にはゴブリン以外にももっと強い魔物たちも住んでいます。ゴブリンを傷つけないように気をつけていたようですが、万が一ゴブリンに重傷を負わせるようなことがあれば他の魔物も出てきたでしょう。エールシャルル嬢はこの森で死んでスカル領に迷惑をかけるつもりだったのですか?」
「いえ、決してそのような考えはございませんでした!」
エールシャルルは反射的にそう答えたが、自分の考えが浅はかなせいでスカーレットが案じたような結果となった可能性があることも確かだった。
「わたくしの行動が浅はかでした。でも、どうしてもスカーレット様の元で働きたくて……」
そう言いながらもスカーレットの元で働かせてもらうなんて希望は自分がこの手で潰してしまったのではないかとエールシャルルは思った。
相談もなく、自分の利だけを考えてこのような浅はかな行動を取ってしまったのだ。
もう面会さえもしてくれないかもしれない。
しかし、スカーレットの次の言葉はエールシャルルが予想していた最悪のものではなかった。
「それでしたら、エールシャルル嬢に役目を与えます」
スカーレットの言葉にエールシャルルはその目を輝かせた。
「しかし、この役目はエールシャルル嬢の意に沿うものではありません。それでも、やってくれますか?」
「それが、スカーレット様のお役に立つのであれば、喜んでやらせていただきますわ!」
エールシャルルにとってスカーレットは救世主だった。
王太子と平民の茶番劇に婚約者として付き合わされ、辟易したところに現れたヒーロー。
それがスカーレットだった。
自分の名誉を守ってくれただけではなく、婚約破棄をする勇気をくれたのだ。
護衛騎士として剣が振るえないのは残念だが、スカーレットの方が自分よりも強いことは納得できた。
それならば、せめて、他の方法で役に立ちたい。
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