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12 魔法書のための紙づくり
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「さ、さてと」
魅惑のお菓子のおかげで落ち着きを取り戻した僕は話題を変えることにした。
「それじゃ、ゼノビアの魔法書について話し合わないとだね」
「話し合う?」
「どんな魔法を魔法書に入れたいのか、どういうふうに使いたいのか、魔法書の大きさはどうするのか、厚みは? 表紙はどんなデザインにするのか? 決めるべきことは色々とあるよ。もちろん、応えられない要望もあるから、そうした点もしっかり話し合って、いい魔法書にしよう!」
僕の説明にゼノビアは微笑んだ。
「エノクは魔法が好きなのね」
「僕が魔法を?」
「どうしてそんなに不思議そうな顔をするの?」
「僕は無属性だから魔法を使えないんだ」
貴族なのに生活魔法以外の魔法が使えないことはムー王国では恥ずべきことだった。
「だから、一度も魔法を好きだなんて思ったことはなかった。でも、精霊たちが一生懸命僕に魔法を教えてくれたから魔法書を作ることができる。魔法書を作るのは、精霊たちの期待に応えたいからだと思っていたけど……確かに、僕は魔法が好きなのかもしれない」
家族だと思っていた人たちが僕を見捨てたのは僕が魔法を使えないからだ。
でも、今、僕を生かしてくれるのは、僕が捨てられる原因になった魔法。
僕は精霊たちに魔法の話を聞くのが好きだし、精霊たちと一緒に魔法書を作ることが好きだ。
「エノク……」
ゼノビアが僕の頭を撫でてくれた。
その手の温もりをなんだか懐かしいと感じたのは、記憶の奥底に亡くなった母親の温もりが残っていたのかもしれない。
僕はオスカーとゼノビアに同情してほしいわけではないからにこりと笑って見せた。
「どんな火属性の魔法を魔法書に入れたいのかは先に教えてもらいたいけど、魔法書ができるまではしばらくかかるよ。魔法書の紙から作らないといけないから」
「……紙から作る? 紙なら、買ってくればいいんじゃないの?」
「無属性の僕の魔力で紙を作ると、作り手の属性と使い手の属性がぶつかり合うことのない魔力の通りやすい魔法書になるんだ」
僕の言葉にオスカーもゼノビアもキョトンッとその目を見開いた。
美男美女はキョトン顔も美しいです。
ゼノビアはともかく、オスカーを美形と認めるのはなんだか癪だけどね。
「これ、そんなに貴重な紙で作ってたの!?」
「ちょっと、そんなのどれだけの対価を支払えばいいのよ!?」
「私が兄上を打った暁には領地を……」
「辺鄙な領地じゃ割に合わないわよ! 王都は? 王都を渡したらいいのかしら!?」
二人とも気が動転しているのかおかしなことを言い出した。
領地も王都も絶対にいらない。
それに、第一王子を打ち倒すことができたとして、それでどうしてオスカーが領地や王都を好きにできるのだ?
飛躍しすぎだろう。
「二人とも落ち着いて。そういう面倒臭そうなのは絶対にいらないから」
「いや、しかし、それくらいしないと割に合わないのではないか?」
「そんな面倒なことを言うなら魔法書は作らない」
「それなら、私たちが一生懸命稼いで貢ぐだけにするわ! 屋敷も工房も好きなものを遠慮なく言ってちょうだい!」
「だから、いらないって! 僕は平穏に生活できれば満足なんだから!」
オスカーだけでも面倒だったのに、ゼノビアも熱い人柄のようで、ものすごくお似合いの二人だ。
ゼノビアが精霊の森から帰った後、僕は精霊の森の奥深くにわけ入って、材料となる植物を採取した。
精霊の森には白の泉という湧き水がある。その水も分けてもらって、紙を作る。
材料となる植物を蒸したり、皮をはいだり、はいだ黒皮が柔らかくなるまで水に浸したり、黒皮の表面を削って白皮にしたり、また煮込んだり、不純物を取り除いたり、皮を叩いて繊維をほぐしたり……そんな工程を何日もかけて行い、紙を作っていく。
魔法書の紙作りは完全なる手作りだし、無属性の魔力の僕にしか作れないため、ネルとミラに手伝ってもらうわけにもいかない作業だ。
二人とも手伝いたがるのだが、材料の採取と白の泉からの水汲み以外は申し訳ないが断っている。
僕としてはこの二つの作業を手伝ってくれるだけでも大助かりなのだが、二人にはつまらないだろう。
それでも二人とも文句も言わずに材料を採取して水汲みをしてくれる。
オスカーも材料の採取をしてくれたが、こちらは植物の見分けが全くできていないので、水汲みだけをお願いした。
「エノク、見ててもいい?」
「見てるだけだから!」
そう言って側から離れようとしないネルとミラに僕はゼノビアからもらったお菓子をあげた。
「それ食べながら見てて」
二人とも「すごく美味しい」と嬉しそうにお菓子を頬張っていた。
ゼノビアはあの後も何度かやってきて、お菓子をくれた。
魔法書作成の進行状況を見に来ているというよりは、お菓子を届けてくれているようだった。
とてもありがたい。
いよいよ本当にゼノビアが女神のように見えてきた。
紙の乾燥作業は無属性でも使える生活魔法で乾燥させるので、紙漉きの後の作業は割と早い。
しかし、魔法書とするためにはそれなりの枚数がいるために紙を作る作業だけで結構な日数がかかる。
こんなに立て続けに魔法書の注文が入るなんて思ってもいなかったから、紙の在庫なんてない。
今回は特別に集中して作るとしても、やっぱり僕は精霊の森に引きこもって魔法書をちょっとずつ作っていく方が合っている。
精霊の森にいる限りは生活にお金も必要ないし。
あ、でも、今回オスカーからもらったお金で、ネルとミラに何か買ってあげたいな~!
あれだけ金貨があったら二人に何を買ってあげられるかを考えていたら楽しくなって、二人へのプレゼントを考えながら紙づくりの作業をしていたらいつの間にか日が暮れていた。
魅惑のお菓子のおかげで落ち着きを取り戻した僕は話題を変えることにした。
「それじゃ、ゼノビアの魔法書について話し合わないとだね」
「話し合う?」
「どんな魔法を魔法書に入れたいのか、どういうふうに使いたいのか、魔法書の大きさはどうするのか、厚みは? 表紙はどんなデザインにするのか? 決めるべきことは色々とあるよ。もちろん、応えられない要望もあるから、そうした点もしっかり話し合って、いい魔法書にしよう!」
僕の説明にゼノビアは微笑んだ。
「エノクは魔法が好きなのね」
「僕が魔法を?」
「どうしてそんなに不思議そうな顔をするの?」
「僕は無属性だから魔法を使えないんだ」
貴族なのに生活魔法以外の魔法が使えないことはムー王国では恥ずべきことだった。
「だから、一度も魔法を好きだなんて思ったことはなかった。でも、精霊たちが一生懸命僕に魔法を教えてくれたから魔法書を作ることができる。魔法書を作るのは、精霊たちの期待に応えたいからだと思っていたけど……確かに、僕は魔法が好きなのかもしれない」
家族だと思っていた人たちが僕を見捨てたのは僕が魔法を使えないからだ。
でも、今、僕を生かしてくれるのは、僕が捨てられる原因になった魔法。
僕は精霊たちに魔法の話を聞くのが好きだし、精霊たちと一緒に魔法書を作ることが好きだ。
「エノク……」
ゼノビアが僕の頭を撫でてくれた。
その手の温もりをなんだか懐かしいと感じたのは、記憶の奥底に亡くなった母親の温もりが残っていたのかもしれない。
僕はオスカーとゼノビアに同情してほしいわけではないからにこりと笑って見せた。
「どんな火属性の魔法を魔法書に入れたいのかは先に教えてもらいたいけど、魔法書ができるまではしばらくかかるよ。魔法書の紙から作らないといけないから」
「……紙から作る? 紙なら、買ってくればいいんじゃないの?」
「無属性の僕の魔力で紙を作ると、作り手の属性と使い手の属性がぶつかり合うことのない魔力の通りやすい魔法書になるんだ」
僕の言葉にオスカーもゼノビアもキョトンッとその目を見開いた。
美男美女はキョトン顔も美しいです。
ゼノビアはともかく、オスカーを美形と認めるのはなんだか癪だけどね。
「これ、そんなに貴重な紙で作ってたの!?」
「ちょっと、そんなのどれだけの対価を支払えばいいのよ!?」
「私が兄上を打った暁には領地を……」
「辺鄙な領地じゃ割に合わないわよ! 王都は? 王都を渡したらいいのかしら!?」
二人とも気が動転しているのかおかしなことを言い出した。
領地も王都も絶対にいらない。
それに、第一王子を打ち倒すことができたとして、それでどうしてオスカーが領地や王都を好きにできるのだ?
飛躍しすぎだろう。
「二人とも落ち着いて。そういう面倒臭そうなのは絶対にいらないから」
「いや、しかし、それくらいしないと割に合わないのではないか?」
「そんな面倒なことを言うなら魔法書は作らない」
「それなら、私たちが一生懸命稼いで貢ぐだけにするわ! 屋敷も工房も好きなものを遠慮なく言ってちょうだい!」
「だから、いらないって! 僕は平穏に生活できれば満足なんだから!」
オスカーだけでも面倒だったのに、ゼノビアも熱い人柄のようで、ものすごくお似合いの二人だ。
ゼノビアが精霊の森から帰った後、僕は精霊の森の奥深くにわけ入って、材料となる植物を採取した。
精霊の森には白の泉という湧き水がある。その水も分けてもらって、紙を作る。
材料となる植物を蒸したり、皮をはいだり、はいだ黒皮が柔らかくなるまで水に浸したり、黒皮の表面を削って白皮にしたり、また煮込んだり、不純物を取り除いたり、皮を叩いて繊維をほぐしたり……そんな工程を何日もかけて行い、紙を作っていく。
魔法書の紙作りは完全なる手作りだし、無属性の魔力の僕にしか作れないため、ネルとミラに手伝ってもらうわけにもいかない作業だ。
二人とも手伝いたがるのだが、材料の採取と白の泉からの水汲み以外は申し訳ないが断っている。
僕としてはこの二つの作業を手伝ってくれるだけでも大助かりなのだが、二人にはつまらないだろう。
それでも二人とも文句も言わずに材料を採取して水汲みをしてくれる。
オスカーも材料の採取をしてくれたが、こちらは植物の見分けが全くできていないので、水汲みだけをお願いした。
「エノク、見ててもいい?」
「見てるだけだから!」
そう言って側から離れようとしないネルとミラに僕はゼノビアからもらったお菓子をあげた。
「それ食べながら見てて」
二人とも「すごく美味しい」と嬉しそうにお菓子を頬張っていた。
ゼノビアはあの後も何度かやってきて、お菓子をくれた。
魔法書作成の進行状況を見に来ているというよりは、お菓子を届けてくれているようだった。
とてもありがたい。
いよいよ本当にゼノビアが女神のように見えてきた。
紙の乾燥作業は無属性でも使える生活魔法で乾燥させるので、紙漉きの後の作業は割と早い。
しかし、魔法書とするためにはそれなりの枚数がいるために紙を作る作業だけで結構な日数がかかる。
こんなに立て続けに魔法書の注文が入るなんて思ってもいなかったから、紙の在庫なんてない。
今回は特別に集中して作るとしても、やっぱり僕は精霊の森に引きこもって魔法書をちょっとずつ作っていく方が合っている。
精霊の森にいる限りは生活にお金も必要ないし。
あ、でも、今回オスカーからもらったお金で、ネルとミラに何か買ってあげたいな~!
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