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13 覚悟
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「お父さん!」
弟が父上に駆け寄っていく。
「ボルク、お土産を買ってきたよ」
「わぁ! 欲しかったやつだ!」
弟が喜んでいる。
父上の視線が僕に向けられた。
父上が柔和に笑んだ。
「お父さ……」
「エノク、お前はボルクからお古をもらいなさい。それから、お前は兄なんだから、言葉遣いには気をつけなさい」
「……はい。父上」
子供の頃は弟と扱いが違うのは自分が兄だからだと思っていた。
だけど、僕が無属性だとわかった時に父は言った。
「なんだ。お父様の遺言通りに大事に育ててやったというのに、無属性か」
「お父様は随分と兄上の伴侶を気にしていたようだが、息子は無属性じゃないか」
「エノク、お前の本当の父親は死んだ私の兄だ。母親は兄上の死後、早々に命を絶ったと聞いている」
「お父様の遺言でこれまで育ててやったが、お前は期待以下の存在だった。貴族の義務としてお前を魔法学園に入れてはやるが、その後は家を出ろ」
愛されない理由がわかってほっとした。
本当の父親ではなかった。
叔父として甥である私を可愛がるという気持ちもなく、最初から毛嫌いされていたのだ。
父親だと思っていた人から真実を知らされた時、僕は泣いたけど、泣くのはその日だけだと決めていた。
捨てられたあの日から、あの家と僕とはなんの関係もないのだから。
ゼノビアの依頼を受けてひと月後、魔法書一冊分の紙ができた。
無属性の紙を作るためには誰にも触らせることはできないから、オスカーもネルもミラも白の泉の水汲みを頑張ってくれた。
ネルとミラが僕の作業を見ていたり、僕の周りで遊んでいるのはいつものことだったが、オスカーは僕の作業を見ながら何やら真剣に考えているようだった。
「魔法書の作成は精霊の言葉がわかるエノクにしかできないことだとは思うが、紙作りは他の無属性の者でもできるのではないだろうか? 他の無属性の者が紙を作った方が、エノクは魔法書の作成に集中できるだろう?」
「まぁ、そうだけど……」
やはり、王子様という立場としては国民の仕事事情が気になるのだろうか?
魔法書のための紙作りが新しい仕事になればと考えているのかもしれないが、そもそも無属性の者は滅多にいないというか、僕も僕の他は知らない。
オスカーは当てがあって言っているのだろうか?
「無属性の人が他にいるの?」
「少数の貴族の中から無属性の者を見つけるのは難しいと思うが、市井の中にはきっといるだろう。我が国では魔法は貴族だけが独占しているものではないから、平民たちの無属性の者たちの職が広がると思ったんだ」
「お前、エノクの努力を盗むつもりか!!?」
「そうよ! エノクの技術を盗むなんてひどい!」
ネルとミラが怒ってくれる。
紙を作る人間を僕しか知らない二人は紙作りの技術を僕の技術だと思っているようだが、紙を作る技術自体はそうではないし、僕もムー王国にいた頃に街の人に教えてもらったものだ。
「二人とも僕のために怒ってくれてありがとう。でも、紙を作る技術は僕の技術ではないよ。それに、他の無属性の人が紙を作ってくれるなら、僕は魔法書だけに集中できるから悪いことではないんだ」
「そうなの?」
「本当に?」
心配そうにこちらを見上げてくるネルとミラに僕は微笑んで「本当だ」と伝えた。
「ただ、そう簡単に無属性の者を見つけることはできないと思うけど。それに、いたとしても、精霊の森の中に入ってくるのは無理かもしれない」
「エノク、君がこの森から出るんだ」
オスカーの言葉に僕は思わず「え?」と聞き返した。
「エノクには才能がある。その才能を活かすためには、この森の中に閉じこもっていてはいけないと思う。君はこの森から出て、外の世界で生きていくんだ」
「僕は、目立ちたくないんだけど……」
オスカーが市井の中に魔法を使う者が出てきたという噂を聞いたように、魔法書が広がれば、貴族じゃなくても魔法を使える書物の話は簡単に広がる。
そうすれば、次に注目されるのは魔法書を作っている者だ。
精霊の森以上に完璧に魔法書を作る僕を隠してくれる場所はないだろう。
「もう注目される種は蒔いてしまっただろう?」
注目される種?
それは旅商人を通して生活魔法の魔法書を売ったことだろうか?
「僕は誰かに注目して欲しいとは思っていない。穏やかに生活できればそれでいいんだ」
「それなら、魔法書を作る必要はなかっただろう? 精霊の森にいれば、森の民のように外界と関わることなく生きていけるんだ。だけど、エノクは私を助け、魔法書まで作ってくれた。そもそも、私と出会わなくても魔法書を作るつもりで研究を続けていたのだろう? 魔法書の研究を進めて、少しずつ魔法書を作って、それで旅商人や精霊の森に迷い込んだ人に売る……遅かれ早かれ魔法書は注目され、魔法書の創造者を探す人々は増えただろう」
「僕はただ、魔法が貴族以外の人々の役に立てばいいと思って……」
「エノクが貴族以外の者のために魔法書を作っていることはわかっているよ。エノクの作った生活魔法の魔法書には魔法の名前だけでなく、どのような効果があるのかが丁寧に書かれていたから……」
「エノク」と、オスカーは僕の目をまっすぐに見て、諭すように穏やかな声で言った。
「これから、世界が君に注目するようになる。その覚悟を、決めるんだ」
弟が父上に駆け寄っていく。
「ボルク、お土産を買ってきたよ」
「わぁ! 欲しかったやつだ!」
弟が喜んでいる。
父上の視線が僕に向けられた。
父上が柔和に笑んだ。
「お父さ……」
「エノク、お前はボルクからお古をもらいなさい。それから、お前は兄なんだから、言葉遣いには気をつけなさい」
「……はい。父上」
子供の頃は弟と扱いが違うのは自分が兄だからだと思っていた。
だけど、僕が無属性だとわかった時に父は言った。
「なんだ。お父様の遺言通りに大事に育ててやったというのに、無属性か」
「お父様は随分と兄上の伴侶を気にしていたようだが、息子は無属性じゃないか」
「エノク、お前の本当の父親は死んだ私の兄だ。母親は兄上の死後、早々に命を絶ったと聞いている」
「お父様の遺言でこれまで育ててやったが、お前は期待以下の存在だった。貴族の義務としてお前を魔法学園に入れてはやるが、その後は家を出ろ」
愛されない理由がわかってほっとした。
本当の父親ではなかった。
叔父として甥である私を可愛がるという気持ちもなく、最初から毛嫌いされていたのだ。
父親だと思っていた人から真実を知らされた時、僕は泣いたけど、泣くのはその日だけだと決めていた。
捨てられたあの日から、あの家と僕とはなんの関係もないのだから。
ゼノビアの依頼を受けてひと月後、魔法書一冊分の紙ができた。
無属性の紙を作るためには誰にも触らせることはできないから、オスカーもネルもミラも白の泉の水汲みを頑張ってくれた。
ネルとミラが僕の作業を見ていたり、僕の周りで遊んでいるのはいつものことだったが、オスカーは僕の作業を見ながら何やら真剣に考えているようだった。
「魔法書の作成は精霊の言葉がわかるエノクにしかできないことだとは思うが、紙作りは他の無属性の者でもできるのではないだろうか? 他の無属性の者が紙を作った方が、エノクは魔法書の作成に集中できるだろう?」
「まぁ、そうだけど……」
やはり、王子様という立場としては国民の仕事事情が気になるのだろうか?
魔法書のための紙作りが新しい仕事になればと考えているのかもしれないが、そもそも無属性の者は滅多にいないというか、僕も僕の他は知らない。
オスカーは当てがあって言っているのだろうか?
「無属性の人が他にいるの?」
「少数の貴族の中から無属性の者を見つけるのは難しいと思うが、市井の中にはきっといるだろう。我が国では魔法は貴族だけが独占しているものではないから、平民たちの無属性の者たちの職が広がると思ったんだ」
「お前、エノクの努力を盗むつもりか!!?」
「そうよ! エノクの技術を盗むなんてひどい!」
ネルとミラが怒ってくれる。
紙を作る人間を僕しか知らない二人は紙作りの技術を僕の技術だと思っているようだが、紙を作る技術自体はそうではないし、僕もムー王国にいた頃に街の人に教えてもらったものだ。
「二人とも僕のために怒ってくれてありがとう。でも、紙を作る技術は僕の技術ではないよ。それに、他の無属性の人が紙を作ってくれるなら、僕は魔法書だけに集中できるから悪いことではないんだ」
「そうなの?」
「本当に?」
心配そうにこちらを見上げてくるネルとミラに僕は微笑んで「本当だ」と伝えた。
「ただ、そう簡単に無属性の者を見つけることはできないと思うけど。それに、いたとしても、精霊の森の中に入ってくるのは無理かもしれない」
「エノク、君がこの森から出るんだ」
オスカーの言葉に僕は思わず「え?」と聞き返した。
「エノクには才能がある。その才能を活かすためには、この森の中に閉じこもっていてはいけないと思う。君はこの森から出て、外の世界で生きていくんだ」
「僕は、目立ちたくないんだけど……」
オスカーが市井の中に魔法を使う者が出てきたという噂を聞いたように、魔法書が広がれば、貴族じゃなくても魔法を使える書物の話は簡単に広がる。
そうすれば、次に注目されるのは魔法書を作っている者だ。
精霊の森以上に完璧に魔法書を作る僕を隠してくれる場所はないだろう。
「もう注目される種は蒔いてしまっただろう?」
注目される種?
それは旅商人を通して生活魔法の魔法書を売ったことだろうか?
「僕は誰かに注目して欲しいとは思っていない。穏やかに生活できればそれでいいんだ」
「それなら、魔法書を作る必要はなかっただろう? 精霊の森にいれば、森の民のように外界と関わることなく生きていけるんだ。だけど、エノクは私を助け、魔法書まで作ってくれた。そもそも、私と出会わなくても魔法書を作るつもりで研究を続けていたのだろう? 魔法書の研究を進めて、少しずつ魔法書を作って、それで旅商人や精霊の森に迷い込んだ人に売る……遅かれ早かれ魔法書は注目され、魔法書の創造者を探す人々は増えただろう」
「僕はただ、魔法が貴族以外の人々の役に立てばいいと思って……」
「エノクが貴族以外の者のために魔法書を作っていることはわかっているよ。エノクの作った生活魔法の魔法書には魔法の名前だけでなく、どのような効果があるのかが丁寧に書かれていたから……」
「エノク」と、オスカーは僕の目をまっすぐに見て、諭すように穏やかな声で言った。
「これから、世界が君に注目するようになる。その覚悟を、決めるんだ」
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