ゴミ惑星のクズ

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クロノス

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クロノスの門を抜けた瞬間、目の前に広がったのは、俺がかつて何度もみた光景だった。

廃れたゴミ惑星とはまるで異なる世界が、そこには広がっていた。

ネオンライトが煌めき、巨大なホログラムスクリーンが空中に浮かぶ。

観客たちの歓声が渦巻き、地響きのような熱気が漂っている。ここは、まさにアーマーリングの中心地だった。

「戻ることは無かったはずなのにな」

俺は思わず呟いた。


クロノスはゴミ山の街とは違い、洗練された都市のような構造を持っていた。

中央には巨大な闘技場がそびえ立ち、その周囲には競技者たちの拠点や観客の施設が点在している。

「クズ、ここが本当に……?」

イヴが目を輝かせながら、周囲を見回している。その表情には興奮と少しの不安が混じっていた。

「そうだ、ここがクロノスだ。」

俺はそう答えたが、内心は複雑だった。

かつて俺が夢見て、そしてすべてを失った場所。その光景が目の前にあることに、胸の奥がざわつく。

クロノスに入ると同時に、俺たちは競技者登録エリアに向かった。

ネオアーマーを輸送ロボットから降ろし、俺は深く息を吸った。イヴが不安げに俺を見上げる。

「クズ、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。」

そう言いながらも、内心では手が震えていた。この場所に再び戻ってきたことで、過去の記憶がよみがえってくる。

受付では、センサーにネオアーマーをかざすだけで登録が完了した。

『登録完了。競技者番号:453、コードネーム:スターダスト。』

再び俺のかつての名が呼ばれる。

「スターダスト……」

イヴがその名を繰り返す。

「……今だけの名前だ。」

登録を終えると、俺たちは街へと戻った。
試合は常に行われており、眠れる街と呼ばれるクロノスでもエントリーしてからは、すぐには戦えない。

相手がいなければ、始まらないからだ下位クラスになれば尚更だ。

上位ランカーになれば自ら戦う相手を指名できるが下位クラスの人間にその権利はない。

ただクロノスのシステムから選ばれた相手を待つか、上位の人間からの憂さ晴らしに指名されるかしかない


クロノスの街に戻ると、俺たちは当面の滞在場所を確保するために安宿へ向かった。

この街には競技者向けの施設が多数あり、下位クラスの連中でも利用できる安価な宿泊施設がいくつかある。

宿は思った以上に賑わっていた。部屋数が少ないのか、ロビーには待機している競技者たちが溢れている。皆、一様に鋭い眼差しを持っていて、空気がピリついていた。

「ここが…滞在場所?」

イヴがキョロキョロと辺りを見回しながら呟いた。

「ああ、下位ランカー用のな。豪華なところは上位ランカー専用だ。」

俺はフロントで手続きを済ませると、狭い二人部屋のキーを受け取った。

「…まあ、贅沢言える立場じゃねぇしな。」

部屋に入ると、そこは予想通りの質素な空間だった。簡易ベッドが二つと小さな机があるだけ。

それでも俺たちにとっては十分だった。

「クズ、ここに泊まるの?」

「ああ。エントリーしたばかりの連中は、まずここから始めるもんだ。勝ち上がれば、もう少しマシな場所に行けるかもな。」

イヴはベッドに腰掛け、少し緊張した面持ちで部屋を見渡している。

「…私、ちゃんと役に立てるかな。」

その言葉に俺は少し驚いた。イヴがこんなに自分を気にしているとは思わなかった。

「お前はもう十分役に立ってるよ。」

「…そう?」

「間違いねぇさ。」

俺の言葉に、イヴは小さく笑みを浮かべた。

その後、俺たちは街を散策し、クロノスの雰囲気を感じ取ることにした。

この街はまさに闘技場のために存在しているような場所だった。

競技者たちが闘うための装備を揃えるショップや、スポンサーと契約を結ぶためのエージェントが集まるオフィスビル、そして、観客たちが競技を楽しむための酒場やカジノが至る所に点在している。

「クズ、すごいね…ここ、全部アーマーリングのためにあるの?」

「ああ、そうだ。この街は闘いと金のために回ってる。」

イヴはしばらくの間、目を輝かせながら周囲を見ていたが、ふと立ち止まり、俺に尋ねた。

「クズは、この街でどんなことを思い出すの?」

その質問に、俺は少し黙った後、正直に答えた。

「……苦い思い出ばっかりだよ。だが、あの頃と同じ道を歩いてるわけじゃね」

イヴはその言葉に頷き、静かに微笑んだ。

宿に戻ると、部屋の端末に通知が届いていた。

『競技者番号:453
試合スケジュール決定。
対戦相手:競技者番号 277「リッパー」
試合開始時刻:明日20:00』

「…来たか。」

俺はその通知を読み上げ、イヴは不安そうに聞いてきた。

「リッパーって聞いたことある?」

俺は正直に首を振る。

「いや、知らねぇ、下位ランカーで俺等に当てられるくらいだ。向こうも初心者だろ」

俺は深く息をつき、ネオアーマーの調整を始める準備をした。

「イヴ、確認するが、明日闘うことになるのはお前だ。アーマーリングは殺しも許される。上位ランカー同士の闘いだと殺しなしのルールもあるが下位ランカーは観客を楽しませる為に許されない」


イヴの表情が一瞬強張った。だが、彼女はすぐに小さく頷いた。


「分かってる、クズ。⋯でも、私は戦う。」

その言葉に、俺は彼女を見つめた。イヴの瞳には恐怖もあったが、それ以上に覚悟が宿っている。

「お前が戦う覚悟を決めてるのはわかった。でも、覚えとけ殺される覚悟より、殺してでも生きる覚悟の方が大切になる。」

俺は深く息を吸い、続けた。

「明日、お前がアーマーを纏って戦う。それがどれだけ過酷なことか、まだ分かってねぇかもしれねぇが……俺が全力でサポートする。」

イヴは小さく微笑み、俺に向かって頷いた。

「ありがとう、クズ。私、頑張る。」

俺は心の中で苦い思いを噛み締めながらも、イヴの覚悟を信じることにした。


その夜、俺はネオアーマーの調整に集中した。この機体――イヴと深く繋がっているこのアーマーが、彼女を守り、そして勝利へ導く鍵になる。

「…このアーマー、普通じゃねぇな。」

過去に使っていたアーマーリング用の機体とはまるで違う。内部構造は複雑で、どこか生物的な雰囲気すら感じさせる。それがイヴの存在とどう結びついているのかはまだ分からない。

「こいつが明日、どれだけやれるか……」

俺は調整を終え、深夜になってからようやく眠りについた。
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