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4章 波乱
求める誓い
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天蓋付きのベッドに横たわる先王ハンベルグ。その傍らで、サイスルは静かに腰を下ろしていた。
外からは、微かに戦の喧騒が聞こえる。剣戟の音、怒号、響き渡る戦鼓の音。だが、この部屋の中だけは、まるで別世界のように静寂が支配していた。
その静寂の中、かすれた呻き声が虚ろに響く。
サイスルは、苦悶する王の銀糸の髪をゆっくりと撫でながら、囁くように言った。
「病に苦しむ貴方を、誰も救おうとしない……貴方のご子息達でさえも」
ハンベルグは微かに身をよじる。衰弱した身体が、まるで抗うように震えた。
それを見て、サイスルの唇がわずかに歪む。
「ホイスタリンの残兵がオーデントに迫るというのに、貴方はここに取り残された。誰も貴方の安否を気にかけることなく……避難させることすらしなかった」
サイスルの言葉には憐れみが滲んでいた。
だが、その裏にあるのは、冷酷な嘲笑だった。
本当は違う——サイスルは知っている。
王を避難させようと動いた者たちは確かにいた。しかし、その者たちは、彼自身の手によって排除されたのだ。もはや余計な気を使う必要もなかった。
サイスルは、ハンベルグの頬を優しく撫でながら思う。
——なんと愚かなことか。
もしも、誰かがアスケラやオルフィーナ、あるいは他の神に信仰を捧げていたなら、この病はきっと癒やされたはずだ。
もしも、誰かが"神の呪い"などという迷信に囚われず、この呪いを"魔法"と見抜いていたなら、きっと正しい対処ができたはずだ。
だが、オーデントの人々は違った。彼らは恐れていた——"神"を。
その恐怖が、今のこの惨状を生み出した。
サイスルは、かつての王を見つめながら静かに語る。
「ケンニグは、オルフィーナのためにこの国を作り、"魔法"を——いや、"呪い"を生み出した。真なる王以外が玉座に座るならば、オルフィーナの庇護から外れるようにと」
彼の声は穏やかだった。しかし、その瞳の奥には冷たい光が宿っている。
「だが……オーデントは確かに"人の国"となった。信仰を捨て、神の庇護を捨てた国。今や何者も"セイクリッドランド"を築いていない」
サイスルは小さく笑う。
——オーデントは、すでに詰んでいたのだ。
神々の庇護を拒絶し、人間だけで築き上げた国。
もはやこの国は、野晒しの肉のようなもの。いずれ異形の牙に喰い荒らされる運命なのだ。
——いや、それはもう始まっている。
それを察したのは、ハンベルグ……いや、王妃だったのかもしれない。
だからこそ、何とかしようとした。
オルフィーナを顕現させることで、この国に再び庇護をもたらそうと。
だが、結果として生み出されたのは"歪み"だった。
アルベストの歪み——それはオーデントの終焉の象徴。
そして、すべての始まり。
サイスルは目を閉じ、ゆっくりと息を吐く。
次に目を開いたとき、彼の瞳は冷たい決意に満ちていた。
「もう……貴方は楽になるべきです。王よ」
そう囁くと、ハンベルグの微かな息遣いが一瞬、止まったように思えた。
「何故、自分だけが苦しまねばならないのか?」
サイスルは低く続ける。
「愛した妻も、すでに亡くなった。残された子らも、貴方を見捨てた。民も貴方をないがしろにし、誰一人として貴方を救おうとしなかった」
「……ならば、祈るといい。そして願うといい。自らの解放を」
彼は静かに微笑み、ハンベルグの頬に手を添えた。
「楽になっていいのですよ、王よ」
その瞬間、サイスルの手が淡く輝いた。
——黒き光を宿した、一羽の鳥がベッドの傍に降り立つ。
異形の鳥——二つの首を持つ黒き使者。
その身体は闇を吸い込むように黒く、どこか神秘的な雰囲気を纏っていた。
《誓いを》
低く、古代語の響きを持つ声が室内にこだました。
サイスルはゆっくりとハンベルグを見下ろす。理解したのか分からない。虚ろな瞳をした王は、それでもなお、震える唇を動かし——
かすれた声で、確かに呟いた。
「……誓いを」
サイスルの微笑が深まる。
静かに、確実に、終焉は近づいていた。
外からは、微かに戦の喧騒が聞こえる。剣戟の音、怒号、響き渡る戦鼓の音。だが、この部屋の中だけは、まるで別世界のように静寂が支配していた。
その静寂の中、かすれた呻き声が虚ろに響く。
サイスルは、苦悶する王の銀糸の髪をゆっくりと撫でながら、囁くように言った。
「病に苦しむ貴方を、誰も救おうとしない……貴方のご子息達でさえも」
ハンベルグは微かに身をよじる。衰弱した身体が、まるで抗うように震えた。
それを見て、サイスルの唇がわずかに歪む。
「ホイスタリンの残兵がオーデントに迫るというのに、貴方はここに取り残された。誰も貴方の安否を気にかけることなく……避難させることすらしなかった」
サイスルの言葉には憐れみが滲んでいた。
だが、その裏にあるのは、冷酷な嘲笑だった。
本当は違う——サイスルは知っている。
王を避難させようと動いた者たちは確かにいた。しかし、その者たちは、彼自身の手によって排除されたのだ。もはや余計な気を使う必要もなかった。
サイスルは、ハンベルグの頬を優しく撫でながら思う。
——なんと愚かなことか。
もしも、誰かがアスケラやオルフィーナ、あるいは他の神に信仰を捧げていたなら、この病はきっと癒やされたはずだ。
もしも、誰かが"神の呪い"などという迷信に囚われず、この呪いを"魔法"と見抜いていたなら、きっと正しい対処ができたはずだ。
だが、オーデントの人々は違った。彼らは恐れていた——"神"を。
その恐怖が、今のこの惨状を生み出した。
サイスルは、かつての王を見つめながら静かに語る。
「ケンニグは、オルフィーナのためにこの国を作り、"魔法"を——いや、"呪い"を生み出した。真なる王以外が玉座に座るならば、オルフィーナの庇護から外れるようにと」
彼の声は穏やかだった。しかし、その瞳の奥には冷たい光が宿っている。
「だが……オーデントは確かに"人の国"となった。信仰を捨て、神の庇護を捨てた国。今や何者も"セイクリッドランド"を築いていない」
サイスルは小さく笑う。
——オーデントは、すでに詰んでいたのだ。
神々の庇護を拒絶し、人間だけで築き上げた国。
もはやこの国は、野晒しの肉のようなもの。いずれ異形の牙に喰い荒らされる運命なのだ。
——いや、それはもう始まっている。
それを察したのは、ハンベルグ……いや、王妃だったのかもしれない。
だからこそ、何とかしようとした。
オルフィーナを顕現させることで、この国に再び庇護をもたらそうと。
だが、結果として生み出されたのは"歪み"だった。
アルベストの歪み——それはオーデントの終焉の象徴。
そして、すべての始まり。
サイスルは目を閉じ、ゆっくりと息を吐く。
次に目を開いたとき、彼の瞳は冷たい決意に満ちていた。
「もう……貴方は楽になるべきです。王よ」
そう囁くと、ハンベルグの微かな息遣いが一瞬、止まったように思えた。
「何故、自分だけが苦しまねばならないのか?」
サイスルは低く続ける。
「愛した妻も、すでに亡くなった。残された子らも、貴方を見捨てた。民も貴方をないがしろにし、誰一人として貴方を救おうとしなかった」
「……ならば、祈るといい。そして願うといい。自らの解放を」
彼は静かに微笑み、ハンベルグの頬に手を添えた。
「楽になっていいのですよ、王よ」
その瞬間、サイスルの手が淡く輝いた。
——黒き光を宿した、一羽の鳥がベッドの傍に降り立つ。
異形の鳥——二つの首を持つ黒き使者。
その身体は闇を吸い込むように黒く、どこか神秘的な雰囲気を纏っていた。
《誓いを》
低く、古代語の響きを持つ声が室内にこだました。
サイスルはゆっくりとハンベルグを見下ろす。理解したのか分からない。虚ろな瞳をした王は、それでもなお、震える唇を動かし——
かすれた声で、確かに呟いた。
「……誓いを」
サイスルの微笑が深まる。
静かに、確実に、終焉は近づいていた。
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