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5章 運命
ビルムの巣箱
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ミエラたちは、ついにオーデントの辺境伯、ミュリエル・エタハルが治める街――カスタンドへと辿り着いた。
高台にそびえ立つ居城、エタハル城。その姿は重厚で荘厳、古の石を幾重にも積み重ねて築かれた城壁は、幾多の戦火と歳月にさらされながらもなお威風堂々としていた。アーベンが語ったとおり、この城と領地は代々エタハル家の手によって守られ、他の誰の手にも渡ったことがないという。
本来であれば街を素通りするつもりだった。余計な波風を立てることなく、目的地であるオステリィアを目指すために。だが、城を前にしたアーベンは、ある可能性に賭けようとしていた。
「ミュリエル卿は古くよりオーデントに忠誠を尽くしてきた。私個人としても親交がある。危険は承知しているが……得られるものも少なくないだろう」
その提案に、ロスティンは肩をすくめながら言い放った。
「だったらあんただけ行けばいい。最悪、捕まっても俺たちは関係ないしな」
だが、アーベンはその挑発に動じることなく、静かに笑みを浮かべて返す。
「それでも構わないよ。ただ……君が安全な生活を求めるなら、むしろこの街に住むのも一つの選択肢じゃないか?」
「冗談。オーデントはもうたくさんだよ」
ロスティンは即答し、あからさまに拒絶の意思を示した。傍でそのやり取りを聞いていたアイリーンも同意する。
「まぁ、ロスティンの言う通りかもね。私たちは別にこの街の偉い人と関わる必要はないし、むしろ王子様抜きで街に入れば、安全に買い物ぐらいはできるでしょ」
しかしアーベンは、冷静な口調で釘を刺す。
「君は、自分の外見を軽視しているようだが……竜族の女性は目立つ。とくに君たちが王都でケイオスと謁見したという噂は、どんな形であれ伝わっているだろう。噂は距離を隔てれば隔てるほど、真実からかけ離れていくものだからね」
その言葉にミエラも納得せざるを得なかった。どちらにしても無事に通り過ぎるのは難しい。アーベンは視線をミエラに向け、静かに告げた。
「街を通り過ぎるか、私だけが入るか……判断は君に委ねるよ、ミエラ。私はあくまで“同行者”だ」
ミエラは迷った。確かにリスクはあるし、得られるものも不確かだ。だがアーベンを見捨てるという選択もまた、できなかった。これまでずっと、判断は誰かに委ねてきた。だが今は、自分が舵を取らねばならない。
「……危険を冒す必要はないと、私も思います。でも、アーベン様はあくまで同行者です。行きたいという意志を尊重します。その上で、何かあっても私たちは手を出せません。それで、よろしいですね?」
アーベンは深く頷いた。
「もちろん。礼を言うよ。何かしら金銭や物資を得られる可能性もあれば、温かい湯に浸かるチャンスもあるかもしれないしね」
皮肉まじりに微笑むアーベンに、ミエラは深いため息を吐いた。
「……とりあえず向かいましょうか」
アーベンはロスティンの服を身につけ、アイリーンからは「いっそ髪を全部切れ」と言われた提案を拒否し、代わりにロスティンがつくったウサギの皮と溶かしたダガーの柄を樹脂で固めて使った粗末な帽子を被っていた。獣臭の抜けきらないその帽子に、ミエラは眉をひそめる。
「……匂いが少し」
「漂う気品は、消えたかね?」
アーベンは皮肉気に微笑み、冗談のようにつぶやいた。
門前に到着すると、小さな開閉口から一人の兵士が顔を出した。
「……止まれ。旅の者か? それともオーデントからか? 身分を証明できるものは?」
困ったミエラがアーベンを見たその瞬間、予想外の言葉が返ってきた。
「私たちはパルテナスよりオステリィアを目指していたが、国境が封鎖されていてね。引き返す途中、野党に襲われて道を誤った。そこで国境の兵に、この街の存在を聞いたんだ」
まさかの嘘だった。民にバレないよう変装をするが兵に真実を言うと思っていたミエラは驚き、アーベンを見つめたが、彼は表情ひとつ変えない。
兵士は怪訝そうに二人を見て、やがて扉を閉めると、別の兵士を連れて再び門を開いた。
「今、国境は厳重な管理下にある。通行には書面、あるいは伝書鳥での報告が必要だ。お前たちにそのどちらもない。説明してもらおうか」
ミエラは内心、魔法で門を破壊してでも帰りたい気分だった。だがアーベンは、まるで芝居をするかのように、穏やかな口調で言葉を紡いだ。
「書面はいただけませんでした。ただ、その兵士は彼女を見て一晩宿を与え、金銭を失ったなら『ビルムの巣箱』で稼げばよいとだけ……」
その瞬間、兵士の視線がミエラに刺さった。上から下へ、まるで品定めするように。そして、顔がいやらしい笑みに変わる。
「……なるほどな。お前の娘か?」
アーベンは低く答えた。
「いえ。元々は、パルテナスの市場で魔術の素質があると聞き譲り受けた者です」
屈辱に肩を震わせるミエラの横で、兵士たちは下卑た笑いを交わす。
「まっすぐビルムの巣箱に行く保証はない。同行させてもらう」
それだけでなく、武器がないか調べると、ミエラの身体を隅々まで探るように触り始めた兵士に、彼女の心は怒りと屈辱で張り裂けそうだった。
ようやく別の兵士の怒声が響き、手が離れた。
「おい、門を開けたままにするな。さっさと済ませろ!」
「順番なんだ。やっかむなよ」
そのやり取りに、ミエラは無言のまま、足を前に進めるしかなかった。
兵はもう一人に
「ありゃいい。人気が出る前に知れてよかった。今日の楽しみができたぞ」
といい肩を叩き先導した。
隣を歩くアーベンが、小さく、誰にも届かぬほどの声で呟いた。
「……すまない」
その言葉に、ミエラはアーベンを睨みつけた。
だが彼は、その視線を正面からは受け止めず、ただ前だけを見つめて歩いていた。
カスタンドの街は、オーデントほどの規模こそないが、活気に満ちていた。そして何より、そこに息づく空気は、オーデントとはまったく異なるものだった。
雑踏の中には、浅黒い肌と異国めいた雰囲気を纏った者たちが混ざり、街の通りにはさまざまな眷属の姿も見られた。馬のような四肢をもつ者が蹄を打ちながら通りを行き、人の身体に猫のような顔を持つ者が小走りにすれ違う。耳や尻尾だけが獣のものといった、ほとんど人間と見紛うような眷属もいれば、上空の屋根を猿のような姿で跳ね渡る者もいた。
異種の生命が共に在る――それは、どこか現実離れした幻想のようでもあり、ミエラの目には驚きと興味の入り混じった色が浮かんだ。
そんな彼女の横顔に、アーベンがそっと囁く。
「国境に近い都市には、眷属が混ざるのも当然といえば当然だよ。オーデントでは、こうした風景は稀だったがね……」
その声にミエラは静かに頷き、歩みを進めた。
二人は大通りを避け、やがて裏路地へと入っていく。夕暮れの光が差す中、灯された光石と明るすぎるランプが、否応なしに目的の建物を際立たせていた。木製の扉の奥からは、艶めかしい音楽と香の匂いが漂い、窓には胸元を大胆にさらけ出した女たちが、客を誘うように身を乗り出していた。
――案の定か。
ミエラはうっすらと予感していた通りの建物に辿り着いたことを察し、再びアーベンを街外に置き去りにする選択肢を考えた。
扉を開けた兵が、中から現れた小柄な生き物に向けて言い放つ。
「おい、パルテナスから来た商売女だ」
その声に反応したのは、ミエラの膝丈ほどしかない、長い耳とぎらつく眼を持つ眷属だった。人間の顔立ちに近いが、どこか野生を残すその瞳が、ミエラを凝視したまま、まばたきひとつせず興奮した様子で奥へと消えていく。
兵士は顎で合図しながら言った。
「さあ、入れ。あとで寄るからな」
ミエラはその言葉を無視して踏み出した。不快感が胸の奥を焼いたが、今はそれを表に出す余裕はない。建物の中へ入ると、思いのほか広く、外観からは想像もできないほど装飾が施されていた。
色とりどりの布地が天井から垂れ、足元には手織りの厚手の絨毯。奥まった空間には明かりが灯され、艶やかな衣装をまとった女性たちが、しなやかに立ち振る舞っていた。中には明らかに眷属の血を引く者たちの姿もあった。しなやかな尻尾を揺らす猫の女、爪先まで光る皮膚に包まれた眷属、二本の角を持った鹿のような者……その誰もが、しなやかで美しかった。
そんな中、ミエラの目に映ったのは、奥から現れた一人の男。髪はなく、腕には入れ墨が走り、浅黒い肌は手入れされて艶めいていた。着ている衣装は洗練されており、この館の主の風格を湛えていた。
その男がミエラを一瞥し、すぐにアーベンに視線を向けた刹那――アーベンは両手を合わせ、三角をつくるようにして静かに頭を垂れた。
男もすぐさまその仕草に応じ、同じように手を合わせ、敬意を示す。
「……久しぶりの館は、あいも変わらず素晴らしいものだね」
アーベンの言葉に、男は目を見開き、しばし黙してから口元に笑みを浮かべた。
「これは……なるほど。では、お客様を別室へご案内せねばなりませんね、旅のお方」
アーベンは微笑み、静かに告げた。
「感謝するよ、ドーユン殿」
その一言と共に、かつての関係性が静かに浮かび上がった。ミエラは内心で溜息を吐きながら、それでも一歩、アーベンの隣に寄り添った。
彼がこの館に何を求めてきたのか。――今はまだ、知ることはできなかった。
高台にそびえ立つ居城、エタハル城。その姿は重厚で荘厳、古の石を幾重にも積み重ねて築かれた城壁は、幾多の戦火と歳月にさらされながらもなお威風堂々としていた。アーベンが語ったとおり、この城と領地は代々エタハル家の手によって守られ、他の誰の手にも渡ったことがないという。
本来であれば街を素通りするつもりだった。余計な波風を立てることなく、目的地であるオステリィアを目指すために。だが、城を前にしたアーベンは、ある可能性に賭けようとしていた。
「ミュリエル卿は古くよりオーデントに忠誠を尽くしてきた。私個人としても親交がある。危険は承知しているが……得られるものも少なくないだろう」
その提案に、ロスティンは肩をすくめながら言い放った。
「だったらあんただけ行けばいい。最悪、捕まっても俺たちは関係ないしな」
だが、アーベンはその挑発に動じることなく、静かに笑みを浮かべて返す。
「それでも構わないよ。ただ……君が安全な生活を求めるなら、むしろこの街に住むのも一つの選択肢じゃないか?」
「冗談。オーデントはもうたくさんだよ」
ロスティンは即答し、あからさまに拒絶の意思を示した。傍でそのやり取りを聞いていたアイリーンも同意する。
「まぁ、ロスティンの言う通りかもね。私たちは別にこの街の偉い人と関わる必要はないし、むしろ王子様抜きで街に入れば、安全に買い物ぐらいはできるでしょ」
しかしアーベンは、冷静な口調で釘を刺す。
「君は、自分の外見を軽視しているようだが……竜族の女性は目立つ。とくに君たちが王都でケイオスと謁見したという噂は、どんな形であれ伝わっているだろう。噂は距離を隔てれば隔てるほど、真実からかけ離れていくものだからね」
その言葉にミエラも納得せざるを得なかった。どちらにしても無事に通り過ぎるのは難しい。アーベンは視線をミエラに向け、静かに告げた。
「街を通り過ぎるか、私だけが入るか……判断は君に委ねるよ、ミエラ。私はあくまで“同行者”だ」
ミエラは迷った。確かにリスクはあるし、得られるものも不確かだ。だがアーベンを見捨てるという選択もまた、できなかった。これまでずっと、判断は誰かに委ねてきた。だが今は、自分が舵を取らねばならない。
「……危険を冒す必要はないと、私も思います。でも、アーベン様はあくまで同行者です。行きたいという意志を尊重します。その上で、何かあっても私たちは手を出せません。それで、よろしいですね?」
アーベンは深く頷いた。
「もちろん。礼を言うよ。何かしら金銭や物資を得られる可能性もあれば、温かい湯に浸かるチャンスもあるかもしれないしね」
皮肉まじりに微笑むアーベンに、ミエラは深いため息を吐いた。
「……とりあえず向かいましょうか」
アーベンはロスティンの服を身につけ、アイリーンからは「いっそ髪を全部切れ」と言われた提案を拒否し、代わりにロスティンがつくったウサギの皮と溶かしたダガーの柄を樹脂で固めて使った粗末な帽子を被っていた。獣臭の抜けきらないその帽子に、ミエラは眉をひそめる。
「……匂いが少し」
「漂う気品は、消えたかね?」
アーベンは皮肉気に微笑み、冗談のようにつぶやいた。
門前に到着すると、小さな開閉口から一人の兵士が顔を出した。
「……止まれ。旅の者か? それともオーデントからか? 身分を証明できるものは?」
困ったミエラがアーベンを見たその瞬間、予想外の言葉が返ってきた。
「私たちはパルテナスよりオステリィアを目指していたが、国境が封鎖されていてね。引き返す途中、野党に襲われて道を誤った。そこで国境の兵に、この街の存在を聞いたんだ」
まさかの嘘だった。民にバレないよう変装をするが兵に真実を言うと思っていたミエラは驚き、アーベンを見つめたが、彼は表情ひとつ変えない。
兵士は怪訝そうに二人を見て、やがて扉を閉めると、別の兵士を連れて再び門を開いた。
「今、国境は厳重な管理下にある。通行には書面、あるいは伝書鳥での報告が必要だ。お前たちにそのどちらもない。説明してもらおうか」
ミエラは内心、魔法で門を破壊してでも帰りたい気分だった。だがアーベンは、まるで芝居をするかのように、穏やかな口調で言葉を紡いだ。
「書面はいただけませんでした。ただ、その兵士は彼女を見て一晩宿を与え、金銭を失ったなら『ビルムの巣箱』で稼げばよいとだけ……」
その瞬間、兵士の視線がミエラに刺さった。上から下へ、まるで品定めするように。そして、顔がいやらしい笑みに変わる。
「……なるほどな。お前の娘か?」
アーベンは低く答えた。
「いえ。元々は、パルテナスの市場で魔術の素質があると聞き譲り受けた者です」
屈辱に肩を震わせるミエラの横で、兵士たちは下卑た笑いを交わす。
「まっすぐビルムの巣箱に行く保証はない。同行させてもらう」
それだけでなく、武器がないか調べると、ミエラの身体を隅々まで探るように触り始めた兵士に、彼女の心は怒りと屈辱で張り裂けそうだった。
ようやく別の兵士の怒声が響き、手が離れた。
「おい、門を開けたままにするな。さっさと済ませろ!」
「順番なんだ。やっかむなよ」
そのやり取りに、ミエラは無言のまま、足を前に進めるしかなかった。
兵はもう一人に
「ありゃいい。人気が出る前に知れてよかった。今日の楽しみができたぞ」
といい肩を叩き先導した。
隣を歩くアーベンが、小さく、誰にも届かぬほどの声で呟いた。
「……すまない」
その言葉に、ミエラはアーベンを睨みつけた。
だが彼は、その視線を正面からは受け止めず、ただ前だけを見つめて歩いていた。
カスタンドの街は、オーデントほどの規模こそないが、活気に満ちていた。そして何より、そこに息づく空気は、オーデントとはまったく異なるものだった。
雑踏の中には、浅黒い肌と異国めいた雰囲気を纏った者たちが混ざり、街の通りにはさまざまな眷属の姿も見られた。馬のような四肢をもつ者が蹄を打ちながら通りを行き、人の身体に猫のような顔を持つ者が小走りにすれ違う。耳や尻尾だけが獣のものといった、ほとんど人間と見紛うような眷属もいれば、上空の屋根を猿のような姿で跳ね渡る者もいた。
異種の生命が共に在る――それは、どこか現実離れした幻想のようでもあり、ミエラの目には驚きと興味の入り混じった色が浮かんだ。
そんな彼女の横顔に、アーベンがそっと囁く。
「国境に近い都市には、眷属が混ざるのも当然といえば当然だよ。オーデントでは、こうした風景は稀だったがね……」
その声にミエラは静かに頷き、歩みを進めた。
二人は大通りを避け、やがて裏路地へと入っていく。夕暮れの光が差す中、灯された光石と明るすぎるランプが、否応なしに目的の建物を際立たせていた。木製の扉の奥からは、艶めかしい音楽と香の匂いが漂い、窓には胸元を大胆にさらけ出した女たちが、客を誘うように身を乗り出していた。
――案の定か。
ミエラはうっすらと予感していた通りの建物に辿り着いたことを察し、再びアーベンを街外に置き去りにする選択肢を考えた。
扉を開けた兵が、中から現れた小柄な生き物に向けて言い放つ。
「おい、パルテナスから来た商売女だ」
その声に反応したのは、ミエラの膝丈ほどしかない、長い耳とぎらつく眼を持つ眷属だった。人間の顔立ちに近いが、どこか野生を残すその瞳が、ミエラを凝視したまま、まばたきひとつせず興奮した様子で奥へと消えていく。
兵士は顎で合図しながら言った。
「さあ、入れ。あとで寄るからな」
ミエラはその言葉を無視して踏み出した。不快感が胸の奥を焼いたが、今はそれを表に出す余裕はない。建物の中へ入ると、思いのほか広く、外観からは想像もできないほど装飾が施されていた。
色とりどりの布地が天井から垂れ、足元には手織りの厚手の絨毯。奥まった空間には明かりが灯され、艶やかな衣装をまとった女性たちが、しなやかに立ち振る舞っていた。中には明らかに眷属の血を引く者たちの姿もあった。しなやかな尻尾を揺らす猫の女、爪先まで光る皮膚に包まれた眷属、二本の角を持った鹿のような者……その誰もが、しなやかで美しかった。
そんな中、ミエラの目に映ったのは、奥から現れた一人の男。髪はなく、腕には入れ墨が走り、浅黒い肌は手入れされて艶めいていた。着ている衣装は洗練されており、この館の主の風格を湛えていた。
その男がミエラを一瞥し、すぐにアーベンに視線を向けた刹那――アーベンは両手を合わせ、三角をつくるようにして静かに頭を垂れた。
男もすぐさまその仕草に応じ、同じように手を合わせ、敬意を示す。
「……久しぶりの館は、あいも変わらず素晴らしいものだね」
アーベンの言葉に、男は目を見開き、しばし黙してから口元に笑みを浮かべた。
「これは……なるほど。では、お客様を別室へご案内せねばなりませんね、旅のお方」
アーベンは微笑み、静かに告げた。
「感謝するよ、ドーユン殿」
その一言と共に、かつての関係性が静かに浮かび上がった。ミエラは内心で溜息を吐きながら、それでも一歩、アーベンの隣に寄り添った。
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