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森の妖精

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日常

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「さぁーき!おはー!!」
「おはよー!光莉」
 
 朝の7時30分、待ち合わせの自動販売機の前に自転車で息を切らして来たのは、同じ中学から同じ高校に進学した井上光莉。
 紺色ブレザーにグレーのスカート、男女統一の白ワイシャツに赤茶色のネクタイが高校の制服だ。
「光莉とクラス別になったゃったね」
「そうだね。でも、同じ普通科だし毎朝一緒に学校行けるからいいんじゃない?」
「そだね!あ、そう言えば、昨日の入学式で隣に並んだ人が受験でも隣だった人だったの」
「あー、咲の消しゴム拾ってくれた人?めっちゃイケメン居た!って言ってたもんね」
「うん、どこの中学の人なんだろう?」
「聞いてみたら?お近づきになれるんじゃない?」
「えー!無理だよ。変な人って思われるじゃん!光莉ならきっとガンガン行くんだろね。でも、第一印象って大事だし、いきなり声かけたら迷惑だし」
 語尾がモジモジになる私に、光莉は笑いながら
「一目惚れですかぁ?きっと今日、ホームルームで自己紹介あるんじゃい?よく聞いておくんだね!」
なんて笑いながらまだ少し寒さが残る朝を一緒に登校した。
  

 ――クラスにもようやく馴染んだ7月、彼を見かけたのは、友達と話し込んでしまい、帰りが少し遅くなってしまった下校中、繁華街を通った時に偶然見かけた。

 しゃがんで、居酒屋の看板にスイッチを入れようとしている彼
「もしかして、相田君?」
 私は相田律の人懐こい子犬の様な顔立ちと、ふわふわと緩やかなカーブの髪、目と耳が少し隠れるぐらいの焦茶色の髪が無造作なのに、都会的な雰囲気で、女子からの人気があるのは理解できるなと思いながら、自転車を降りて思わず声をかけた。
彼に話しかけるのはこれが初めてだった。
「…マジかぁーーー」
律は顔を上げずに私の声を聞いてさらに深く項垂れた。
「俺、バイトしてるの内緒にしててくんないかな?」
しゃがんだまま、両手を合わせ私の顔を悲願する目つきで、見上げた。
学校では、バイト禁止なのだ。3年生の自由登校からバイト許可になるから、律は今校則違反中になる。
 「ふふ。別に言わないよ~」
 と笑った。律はスッと立ち上がり、嬉しそうな顔で
 「マジでお願い!」
 とさらに両手を合わせ何度も小さく頭を縦に上下した。とても可愛い仕草だ。
「学校、いつも早く帰るのはバイトがあったからなんだね。」
 クラスのほとんどは放課後は部活か、部活に入っていない人はそれぞれ遊びに行くのに、律はいつも1番最初に帰るのだった。
律を誘おうとしている女子もいるのに。
「まぁね。色々あんだわ」
 言い終わると律はふぅーと大きめのため息を頭上に吐いた。その時
 「おーい!律ー!次、補充頼むー」
 店の奥から店員が呼んだ
 「はーーい」と店の奥に向かって返事してから私に振り向き
 「じゃ、ありがとな」
 と、私の両手を取りぶんぶん上下に振って感謝の意を表した。思わず私はその手を振り払い、顔を強張らせた。あ、しまった。と心で言った、律は「?」な表情で止まっていたが
「あ、ごめんな。じゃ、戻るわ!またな!」
 と、何もなかったように店内へ戻っていった。

 律の手はとても大きくて、暖かくて、そして……とても軽かった。
それなのに、やっぱり私は人に触れられるのがとても嫌なのだ。
それが父でも母でも友達でも、なんなら自分でも自分を触るのが不快でならない。
 
 気を取り直して自転車に乗り、何も考えないように無心で走った。
  
 
翌日は光莉の怒りから始まる朝だった。
 「さぁきー!おはー!」
 「おはよん!光莉」
 朝のいつもの光景
 「ねー聞いてよー。昨日地下鉄で痴漢にあってさ!マジ最悪!思いっきりツネってやった!」
 「……それは災難だったね。大丈夫?」
 「あは!大丈夫だよー、爪で思いっきり
ぎゅーーってつねってやったから。あんなヤツは死ねばいいのに!」
「ほんとほんと」
 笑いながら吐き気がした。
「私、思うんだけどさ、あーゆー奴らだって、誰かに育てられて大人になった訳じゃん。その育てたのは殆どが母親な訳じゃん。まあ、例外もあるけどさ。」
「そうだね」
 光莉は一体何を言い出すのだろう?と思ったが、大人しく話を聞いた
「痴漢撲滅!とか言う前に、世の中の痴漢を集めて、どうゆう風に育てられたのかデータ取った方がいいと思わない?で、統計で出たその育て方をしないように、世の中の母親達に伝えるの。」
 自由な発想だった。
「光莉ー、それは痴漢を集めるって所から、無理難題じゃない?」
「そうかな? 私、バレー部の林コーチ好きじゃん?林コーチは爽やかで、大人で、優しくて、痴漢するような奴らとは真逆にいる訳。林コーチがガォーって襲ってきたら、私キャーって喜んじゃうけどな~」
 光莉が憧れている部活のコーチ。何を想像してるのだろう、この恋する光莉乙女はニヤニヤと幸せそうに笑っている。
 私は呆れてそんな乙女を見ていた。

 
――父の実家へは中学2年までは年3回ほど行っていた。その度に隙を見て悪戯された。
自分からはっきり意思を持って抗議し、彼を突き飛ばしたのは6年生の時だった。彼は既に高校生。悪戯から無理矢理の行為に変わったのを感じた。耳元で何かボソボソ言うのは昔からだ。
彼はとてもチビで太っていて、顔も気持ち悪い。暗くて、無口でアイドルの写真ばっかり集めて、きっと日常では友達は居ないのかもしれない。したがって女っ気もないだろう。もしかしたらいじめられていたのかもしれない。
 私は、彼の溢れる性の吐口にされていたのだ。11歳の私は何をされそうになるのかを理解した。そして思いっきり彼を突き飛ばした。結果、行為をされる事は無かった。そして、それからピタリと何もして来なくなった。なぜ、初めからそうしなかったのかと思うほど彼は見事に吹っ飛んだ。中学2年ぐらいからは勉強が忙しと理由をつけて行かなくなった。母も夫の実家は息苦しいのか私が行かなくなったのをきっかけに一緒に行かなくなった。

 
 痴漢は面識の無い相手を辱める。
光莉のように強気で突っぱねられれば良かった。しかし、公民館でのあの日、4歳の私は逃げただけ頑張った。そのまま我慢していたらどうなったか、生きて帰れただろうか?いつも考えてはゾッとする。
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