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7.マルティエナの想い
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マルティエナ視点になります。
ーーーーーーーー
「妃殿下、本日はこれで以上となります」
「そう……」
たくさんの仕事を無事終わらせられたみたいで、私はフウッと息を吐いた。疲れて目を瞑る。
「殿下は今日も彼女とお茶会?」
「……は、はい、その……」
言いにくそうにする文官の言葉に、私は苦笑した。
「悪かったわね、変なことを聞いたわ。殿下の確認が必要なものは、今日中に確認してもらってちょうだい」
「は、はい! かしこまりました!」
まだ若い……といっても、私よりは年上だけど、文官がいたたまれなさそうにして走ってさって行くのを見送った。
気にするな、と言っても、それが無理なことは分かっているけれど。
この国の王太子殿下であるレインデルト殿下と、私マルティエナの婚姻式とパーティーが開かれたのは、二週間ほど前。
それまで殿下の側の女性なんて私しかいなかったのに、結婚と同時に殿下は私じゃない女性を側に置くようになった。
何があったのかは、その当人……パウラに話を聞いた。最初は相手が王太子殿下などとは思っていなかったみたいで、知った時には驚いたみたいだ。
侍女長がカンカンになってパウラに怒って、そして私に何度も謝罪してきた。でも、少なくともパウラは悪くない。
侍女長にしても、まだ王宮侍女の職に就いたばかりで、パーティー会場を任せられない新人でも、雑務くらいならと思ってしまうのも仕方がない。そのくらい、忙しかっただろうから。
「単に、巡り合わせが悪かっただけよ」
私は、そうつぶやいた。
あの時、私も疲れていたけど、殿下の疲労はそれ以上だった。だから、少しでも休めるときに休んで欲しかった。
正面からは、パーティーの主役である王太子は出られない。だから、侍女たちも出入りする裏から出てもらった。それが完全に裏目に出てしまった。それだけだ。
結局、私は殿下の浮気を黙認する形になった。けれど、婚姻式で戴いた王太子妃のティアラは、どうしても身につける気になれなかった。そうしたら、いつの間にかそれは殿下の執務室に置かれているらしいけれど。
あれから二週間。殿下はまだパウラに夢中のよう。最低限の仕事はやっているようだけれど、今度は私自身に疲れが出てきている。
「……ルト」
小さく、名前をつぶやいた。
私が王太子妃に、将来の王妃になるための教育で疲れた様子を見せると、私の手を引っ張って、二人して勉強から抜け出した。
抜け出した先での出来事は、二人だけの大切な思い出だ。
そうやって気分転換をして、そしてまた勉強を頑張った。そうやって手を取り合って、私たちは婚姻を迎えた。
あれが続くと、何の疑いもなしに、信じていたけれど……。
「……ルト、あなたはもう、私の手は取ってくれないの?」
その言葉は、広い部屋の中でかき消えた。
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「妃殿下、本日はこれで以上となります」
「そう……」
たくさんの仕事を無事終わらせられたみたいで、私はフウッと息を吐いた。疲れて目を瞑る。
「殿下は今日も彼女とお茶会?」
「……は、はい、その……」
言いにくそうにする文官の言葉に、私は苦笑した。
「悪かったわね、変なことを聞いたわ。殿下の確認が必要なものは、今日中に確認してもらってちょうだい」
「は、はい! かしこまりました!」
まだ若い……といっても、私よりは年上だけど、文官がいたたまれなさそうにして走ってさって行くのを見送った。
気にするな、と言っても、それが無理なことは分かっているけれど。
この国の王太子殿下であるレインデルト殿下と、私マルティエナの婚姻式とパーティーが開かれたのは、二週間ほど前。
それまで殿下の側の女性なんて私しかいなかったのに、結婚と同時に殿下は私じゃない女性を側に置くようになった。
何があったのかは、その当人……パウラに話を聞いた。最初は相手が王太子殿下などとは思っていなかったみたいで、知った時には驚いたみたいだ。
侍女長がカンカンになってパウラに怒って、そして私に何度も謝罪してきた。でも、少なくともパウラは悪くない。
侍女長にしても、まだ王宮侍女の職に就いたばかりで、パーティー会場を任せられない新人でも、雑務くらいならと思ってしまうのも仕方がない。そのくらい、忙しかっただろうから。
「単に、巡り合わせが悪かっただけよ」
私は、そうつぶやいた。
あの時、私も疲れていたけど、殿下の疲労はそれ以上だった。だから、少しでも休めるときに休んで欲しかった。
正面からは、パーティーの主役である王太子は出られない。だから、侍女たちも出入りする裏から出てもらった。それが完全に裏目に出てしまった。それだけだ。
結局、私は殿下の浮気を黙認する形になった。けれど、婚姻式で戴いた王太子妃のティアラは、どうしても身につける気になれなかった。そうしたら、いつの間にかそれは殿下の執務室に置かれているらしいけれど。
あれから二週間。殿下はまだパウラに夢中のよう。最低限の仕事はやっているようだけれど、今度は私自身に疲れが出てきている。
「……ルト」
小さく、名前をつぶやいた。
私が王太子妃に、将来の王妃になるための教育で疲れた様子を見せると、私の手を引っ張って、二人して勉強から抜け出した。
抜け出した先での出来事は、二人だけの大切な思い出だ。
そうやって気分転換をして、そしてまた勉強を頑張った。そうやって手を取り合って、私たちは婚姻を迎えた。
あれが続くと、何の疑いもなしに、信じていたけれど……。
「……ルト、あなたはもう、私の手は取ってくれないの?」
その言葉は、広い部屋の中でかき消えた。
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