浮気をした王太子が、真実を見つけた後の十日間

田尾風香

文字の大きさ
9 / 20

8.行動

しおりを挟む
「風邪?」

 翌日、伝えられた情報に私は聞き返した。
 殿下が、風邪? ちょっとイメージにない。私の知っている殿下は、健康そのものだったから。

 昨日は、殿下が部屋に戻ってこないと、侍女から報告を受けた。
 パウラさんとのお茶会を終えた時間から、殿下に回した書類の確認をしたとしても、時間が遅すぎる。

 メンノに確認を頼んだら、執務室で寝ていた、という話を聞いたけれど、もしかしてそれが原因?

「はい。だいぶ熱が高く、安静を言い渡されているようです。朝方はまだ意識もはっきりされておりましたが、今は眠られており、時折魘されているとか……」
「……そう。パウラさんはどうしてるの?」

 私は真っ先にそれを聞いた。
 何に魘されているのか分からない。でも、今の殿下が側にいて欲しいのは、パウラさんだと思う。

 私の問いに、侍女は躊躇うように口を開いた。

「……妃殿下さえよろしければ、彼女を殿下の元に連れて行くと」
「もちろん構わないわ。側にいさせてちょうだい。――ああ、もちろんパウラさんの無理ない程度にね?」
「……かしこまりました」

 すごく何かを言いたそうにしながらも、それ以上は何も言わずに侍女は部屋を出て行く。

 正直、何も言われないことは助かっている。言われても、私はどうしていいか分からない。今の状況が、パウラさんが望んだことではないから、彼女に当たることもできない。そんな嫌な女になりたくない。

「妃殿下は、お見舞いに行かれないのですか?」

 そう聞いてきたのは、私の実家であるクレーセン侯爵家から一緒に来てくれた侍女、エレーセだ。私の姉にも似た存在。私と一緒に来てくれて、心強い存在だ。

「行かないわ。私が行っても、ご迷惑になるだけでしょうから」

 私の返事に、エレーセは口ごもった。けれど、何かを決心したように、口を開いた。

「マルティ様」
「……なに?」

 久しぶりに名前で呼ばれた。実家とは違うからと、頑として名前で呼ぼうとはしていなかったのに。

「私は最初、王太子殿下に抗議するべきと思いました。パウラが悪くないのは分かります。どうしようもないのも。でも、結婚するなり浮気するなんて、何を考えているんだと思いました」
「……ええ、そうね」

 返す言葉もない。全くもってその通りだと思う。

「しかし、侍女長に言われました。いかに相手が王太子夫妻であっても、一組の男女。むやみやたらと他人が間に入り込んで喚くなと。それをすれば、ますますこじれてしまうこともあるからと」
「……あら」

 誰も何も言わないのは、そういうことだったのかと初めて知った。
 侍女長は既婚者で、すでに成人した子供もいる。まだ独身の若い侍女たちよりよっぽど経験を積んでいるということなのだろうか。

「マルティ様が動きたいと思ったのなら動けばいい、と言っていました。その時には躊躇わず行動に移せるように、見守って後押ししなさいと」
「…………!」

 目を見開いた。

「今、マルティ様は、殿下の側に行きたいと、そう思われたのではないですか?」

 何も言えなかった。その通りだから。
 迷惑だ、なんて言っても、私は行きたかった。心配だから。何も出来ることはないかもしれないけど、それでも行きたかった。

「どうか、マルティ様が後悔されないようにして下さい。……殿下のことがお好きなのでしょう?」
「……そうね」

 一度目を瞑って、覚悟を決めた。確かに、後になってから「あの時行動してれば良かった」なんて思いたくない。

「伝えてちょうだい、今からお見舞いに伺いますと」
「かしこまりました」

 エレーセは少し嬉しそうに笑って、そして付け加えてきた。

「侍女長からもう一つ。例え好きであっても、浮気した男を簡単に許したらつけ上がりますからね、だそうです」
「……覚えておくわ」

 もしかして、侍女長にも何か経験があるのかしら。噂を聞いたことはないけれど。
 そんなことを思いながらも、お見舞いに行く準備を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
突然、婚約解消を告げられたリューディア・コンラット。 彼女はこのリンゼイ国三大魔法公爵家のご令嬢。 彼女の婚約者はリンゼイ国第一王子のモーゼフ・デル・リンゼイ。 彼は眼鏡をかけているリューディアは不細工、という理由で彼女との婚約解消を口にした。 リューディアはそれを受け入れることしかできない。 それに眼鏡をかけているのだって、幼い頃に言われた言葉が原因だ。 余計に素顔を晒すことに恐怖を覚えたリューディアは、絶対に人前で眼鏡を外さないようにと心に決める。 モーゼフとの婚約解消をしたリューディアは、兄たちに背中を押され、今、新しい世界へと飛び出す。 だけど、眼鏡はけして外さない――。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

君は私のことをよくわかっているね

鈴宮(すずみや)
恋愛
 後宮の管理人である桜華は、皇帝・龍晴に叶わぬ恋をしていた。龍晴にあてがう妃を選びながら「自分ではダメなのだろうか?」と思い悩む日々。けれど龍晴は「桜華を愛している」と言いながら、決して彼女を妃にすることはなかった。 「桜華は私のことをよくわかっているね」  龍晴にそう言われるたび、桜華の心はひどく傷ついていく。 (わたくしには龍晴様のことがわからない。龍晴様も、わたくしのことをわかっていない)  妃たちへの嫉妬心にズタズタの自尊心。  思い詰めた彼女はある日、深夜、宮殿を抜け出した先で天龍という美しい男性と出会う。 「ようやく君を迎えに来れた」  天龍は桜華を抱きしめ愛をささやく。なんでも、彼と桜華は前世で夫婦だったというのだ。  戸惑いつつも、龍晴からは決して得られなかった類の愛情に、桜華の心は満たされていく。  そんななか、龍晴の態度がこれまでと変わりはじめ――?

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

上手に騙してくださらなかった伯爵様へ

しきど
恋愛
 アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。  文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。  彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。  貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。  メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。

処理中です...