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第十九章 婚約者として過ごす日々
リィカVSセシリー②
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リィカが放ったのは、横薙ぎの剣技や初級魔法の《斬》に似た、三日月型のものだ。小さい手の平サイズくらいのそれが多数、鋭い刃を持ってセシリーへと襲いかかる。
セシリーが、顔をしかめたのが見えた。
「【鳳凰鼓翼斬】!」
使った剣技は、縦に振り下ろす炎の剣技だ。複数の攻撃を可能とする剣技。それでリィカの攻撃を相殺しようということか。
リィカは僅かに目を細める。魔力付与を施して攻撃しているから、凝縮魔法のようにコントロールできるかもしれないと思ったのだ。やってみようか悩み……結局止めた。こんなところで、セシリー相手にすることでもない。
セシリーの放った剣技で、リィカの風の刃は相殺されていく。だが、その全てを相殺することはできなかった。横に飛んで躱す。そこに、リィカが斬りかかった。
「――!」
目を見開くセシリーに、リィカは剣を振り下ろす。セシリーの体勢は崩れている。これなら剣は届くはず。そう思いながら、一切の躊躇なく振り下ろす。が、やはり接近戦はセシリーの方が有利だった。
「甘いよ、リィカ!」
崩れた体勢でも構わず、セシリーはリィカの剣を受ける。いとも簡単に受け止められて、今度はリィカが目を見開いた。そのまま押し返されそうになり、リィカはエンチャントに魔力を流す。しかし。
「マズ……っ!」
風の渦が大きくなる、かと思われた瞬間、リィカは小さくつぶやいて、後ろへと飛ぶ。それと同時に、風が消えた。エンチャントの効果切れだ。
色々と変わった使い道は便利ではあるが、そういう使い方をすると、エンチャントの効果が切れるのが通常より早いようだ、というのはここ数日のユーリとのエンチャントでのやり取りで気付いたことだ。
「《水の付……》、っ!」
新たにエンチャントを唱えようとして、それより早くセシリーが斬り込んできた。剣技も何も使わないまま振るわれた剣に、リィカは途中で中断せざるを得なかった。
セシリーの剣を受け止める。だが、重い。手にしびれが走る。二撃目が振るわれた。
(マズい……っ!)
痺れた手で受け止めるのは、不可能だった。
そして、ギィンと音をたてて、リィカの剣が弾き飛ばされた。
「あ……」
セシリーが少しの驚きと笑顔を見せた。勝ったと思ったのだろうか。一秒にも満たないだろうが、動きが止まる。――その隙を、リィカは見逃さなかった。
「《水の付与》!」
先ほど発動し損ねたエンチャントは、今度こそ成功する。発動先は、自らの拳だ。セシリーの脇を走りつつ振るった拳から出た丸い水の固まりが、その腹部へと命中する。
「ぐっ!?」
セシリーが呻く。その時には、リィカは飛ばされた剣のところへ行き、手に取っていた。そして拳に発動させたエンチャントを解除する。
「喜んでなんかいないで、あのまま剣を突きつけちゃえば勝てたのに」
「……リィカ」
腹部を押さえているセシリーに、リィカは淡々と告げた。
「今の、やろうと思えばもっと威力を込められたし、剣の形を作って切ることもできた。もしもそうしてたら、痛いってだけじゃ済まなかっただろうね」
あの一撃で、勝負を決めようと思えば決められた。そのくらいに、致命的な隙だった。
「練習だったら、剣を飛ばされた時点でわたしの負け。でもセシリーの望んだ試合は、そうじゃないでしょ? 相手を完全に抑え込まないと、勝ちはないよ」
こんな話をするのも、特別サービスだ。これが本当の戦いなら、相手が回復しきっていないうちに攻撃する。命のやり取りに、綺麗事など言っていられないのだから。
「……そうだね」
セシリーはうつむいて、小さくつぶやいた。
「やっぱりあたしは甘いね。……ブレッドの試合で見てたはずなのに。本気で戦ってみたいなんて言いながら、結局あたしは練習の延長戦くらいにしか思ってなかったんだ」
でも、と続けて顔を上げる。リィカを見て、剣を構える。
「おかげで気合いが入った。ホントの本気、見せてもらうよ」
「それを見たいなら、普通に魔法を使いたい……」
「それじゃ試合にならないでしょ」
セシリーの言うことはもっともである。だからこそ、魔法使いのリィカと剣の試合をするという形になっているのだから。
分かるけど、やっぱり普通に魔法がいいなと思いながら、リィカもまた剣を構えたのだった。
※ ※ ※
「ふー……。リィカ、危なかったー」
「本当ね。というか、セシリーの勝ちだと思っちゃったわ」
レンデルとミラベルが、大きく息を吐いた。ここ数日一緒に練習をしているせいか、だんだんと仲良くなってきている二人である。
その二人の発言を聞いて、ユーリが肩をすくめた。
「相手を戦闘不能にもしないで、勝った気になる方がおかしいんですよ」
「そうは言ってもさ……」
レンデルがぼやくが、ユーリの視線が離れた場所にいるブレッドに向いていることに気付く。すると、ブレッドもユーリの方を見て……視線を逸らせたのはブレッドだった。
その反応と先ほどのセシリーの発言とで、ユーリとブレッドの試合も同じようなことがあったんだろうということは察することができた。だがそれでも、と思う。
「剣の試合をしていて、相手の剣を飛ばしたなら、普通は勝ったと思うんじゃない?」
「お互いに剣を使う戦いだからといって、剣しか使ってこないと、なぜ言えますか?」
ユーリの声に厳しさが増した。
「逆も同じですよ。魔法使い同士の戦いだからといって、相手が剣を使ってこないとも限らない。勝手にそう思うのは自由ですが、それに相手は付き合ってなどくれません」
レンデルは声も出せない。その内容もだが、ユーリの雰囲気に呑まれている。指先一本すら動かせない。動かせば殺される。そう思わせるくらいの、圧倒的な力だ。
だが、その雰囲気がフッと和らいだ。
「本気の戦い、命のやり取りってそういうことですよ。あなたたちも軍人になるつもりなら、覚えておいた方が良いですよ」
レンデルは息を吐いた。どうやら呼吸を忘れるくらいに、緊張していたらしい。ユーリの“あなたたち”という表現に横を見れば、ミラベルの顔もどこか強張っていた。
そんなユーリは、試合場のリィカを見ていて、ポツリとつぶやいた。
「でも、剣を弾き飛ばされた代償は少なくありません。……リィカ、長引いたらあなたの負けですよ」
「どういうこと?」
聞き返したレンデルだが、ユーリが答えることはなかった。
セシリーが、顔をしかめたのが見えた。
「【鳳凰鼓翼斬】!」
使った剣技は、縦に振り下ろす炎の剣技だ。複数の攻撃を可能とする剣技。それでリィカの攻撃を相殺しようということか。
リィカは僅かに目を細める。魔力付与を施して攻撃しているから、凝縮魔法のようにコントロールできるかもしれないと思ったのだ。やってみようか悩み……結局止めた。こんなところで、セシリー相手にすることでもない。
セシリーの放った剣技で、リィカの風の刃は相殺されていく。だが、その全てを相殺することはできなかった。横に飛んで躱す。そこに、リィカが斬りかかった。
「――!」
目を見開くセシリーに、リィカは剣を振り下ろす。セシリーの体勢は崩れている。これなら剣は届くはず。そう思いながら、一切の躊躇なく振り下ろす。が、やはり接近戦はセシリーの方が有利だった。
「甘いよ、リィカ!」
崩れた体勢でも構わず、セシリーはリィカの剣を受ける。いとも簡単に受け止められて、今度はリィカが目を見開いた。そのまま押し返されそうになり、リィカはエンチャントに魔力を流す。しかし。
「マズ……っ!」
風の渦が大きくなる、かと思われた瞬間、リィカは小さくつぶやいて、後ろへと飛ぶ。それと同時に、風が消えた。エンチャントの効果切れだ。
色々と変わった使い道は便利ではあるが、そういう使い方をすると、エンチャントの効果が切れるのが通常より早いようだ、というのはここ数日のユーリとのエンチャントでのやり取りで気付いたことだ。
「《水の付……》、っ!」
新たにエンチャントを唱えようとして、それより早くセシリーが斬り込んできた。剣技も何も使わないまま振るわれた剣に、リィカは途中で中断せざるを得なかった。
セシリーの剣を受け止める。だが、重い。手にしびれが走る。二撃目が振るわれた。
(マズい……っ!)
痺れた手で受け止めるのは、不可能だった。
そして、ギィンと音をたてて、リィカの剣が弾き飛ばされた。
「あ……」
セシリーが少しの驚きと笑顔を見せた。勝ったと思ったのだろうか。一秒にも満たないだろうが、動きが止まる。――その隙を、リィカは見逃さなかった。
「《水の付与》!」
先ほど発動し損ねたエンチャントは、今度こそ成功する。発動先は、自らの拳だ。セシリーの脇を走りつつ振るった拳から出た丸い水の固まりが、その腹部へと命中する。
「ぐっ!?」
セシリーが呻く。その時には、リィカは飛ばされた剣のところへ行き、手に取っていた。そして拳に発動させたエンチャントを解除する。
「喜んでなんかいないで、あのまま剣を突きつけちゃえば勝てたのに」
「……リィカ」
腹部を押さえているセシリーに、リィカは淡々と告げた。
「今の、やろうと思えばもっと威力を込められたし、剣の形を作って切ることもできた。もしもそうしてたら、痛いってだけじゃ済まなかっただろうね」
あの一撃で、勝負を決めようと思えば決められた。そのくらいに、致命的な隙だった。
「練習だったら、剣を飛ばされた時点でわたしの負け。でもセシリーの望んだ試合は、そうじゃないでしょ? 相手を完全に抑え込まないと、勝ちはないよ」
こんな話をするのも、特別サービスだ。これが本当の戦いなら、相手が回復しきっていないうちに攻撃する。命のやり取りに、綺麗事など言っていられないのだから。
「……そうだね」
セシリーはうつむいて、小さくつぶやいた。
「やっぱりあたしは甘いね。……ブレッドの試合で見てたはずなのに。本気で戦ってみたいなんて言いながら、結局あたしは練習の延長戦くらいにしか思ってなかったんだ」
でも、と続けて顔を上げる。リィカを見て、剣を構える。
「おかげで気合いが入った。ホントの本気、見せてもらうよ」
「それを見たいなら、普通に魔法を使いたい……」
「それじゃ試合にならないでしょ」
セシリーの言うことはもっともである。だからこそ、魔法使いのリィカと剣の試合をするという形になっているのだから。
分かるけど、やっぱり普通に魔法がいいなと思いながら、リィカもまた剣を構えたのだった。
※ ※ ※
「ふー……。リィカ、危なかったー」
「本当ね。というか、セシリーの勝ちだと思っちゃったわ」
レンデルとミラベルが、大きく息を吐いた。ここ数日一緒に練習をしているせいか、だんだんと仲良くなってきている二人である。
その二人の発言を聞いて、ユーリが肩をすくめた。
「相手を戦闘不能にもしないで、勝った気になる方がおかしいんですよ」
「そうは言ってもさ……」
レンデルがぼやくが、ユーリの視線が離れた場所にいるブレッドに向いていることに気付く。すると、ブレッドもユーリの方を見て……視線を逸らせたのはブレッドだった。
その反応と先ほどのセシリーの発言とで、ユーリとブレッドの試合も同じようなことがあったんだろうということは察することができた。だがそれでも、と思う。
「剣の試合をしていて、相手の剣を飛ばしたなら、普通は勝ったと思うんじゃない?」
「お互いに剣を使う戦いだからといって、剣しか使ってこないと、なぜ言えますか?」
ユーリの声に厳しさが増した。
「逆も同じですよ。魔法使い同士の戦いだからといって、相手が剣を使ってこないとも限らない。勝手にそう思うのは自由ですが、それに相手は付き合ってなどくれません」
レンデルは声も出せない。その内容もだが、ユーリの雰囲気に呑まれている。指先一本すら動かせない。動かせば殺される。そう思わせるくらいの、圧倒的な力だ。
だが、その雰囲気がフッと和らいだ。
「本気の戦い、命のやり取りってそういうことですよ。あなたたちも軍人になるつもりなら、覚えておいた方が良いですよ」
レンデルは息を吐いた。どうやら呼吸を忘れるくらいに、緊張していたらしい。ユーリの“あなたたち”という表現に横を見れば、ミラベルの顔もどこか強張っていた。
そんなユーリは、試合場のリィカを見ていて、ポツリとつぶやいた。
「でも、剣を弾き飛ばされた代償は少なくありません。……リィカ、長引いたらあなたの負けですよ」
「どういうこと?」
聞き返したレンデルだが、ユーリが答えることはなかった。
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