【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十四章 魔国

VS魔王ホルクス⑫

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 バルは暁斗を抱えつつ、後ろに下がる。見えるのは、魔王の魔力を真正面から受け止めるリィカの後ろ姿だ。

「がっ、がはっ……」

 暁斗が魔王に殴られた腹を押さえ、苦しそうに呼吸をしている。リィカに庇われているといってもいいこの状況を、暁斗がきちんと認識できそうにないのは、まだ良かったのかもしれない。

 明らかにリィカが押されている。強引にでも割って入るべきか。だがそれも、よほどに上手くやらなければ、二人揃って魔王の攻撃を受けてしまうだけになる。

 暁斗もこのまま放っておくわけにはいかない。とりあえず自分が《回復ヒール》するべきか、対応に悩むバルの目に、向かってくる泰基の姿が見えた。

「ユーリ……!」

 その奥に体を起こしているユーリの姿が見えて、小さく名前を呼ぶ。ユーリにはそれは聞こえなかったようだが、答えたのは泰基だった。

「ああ、何とか回復した。万全には程遠いが、これ以上の回復は本人に拒否された。暁斗の回復をする」

 淡々と泰基は言って、リィカに視線を向ける。
 一度途切れた《天変地異カタクリズム》を、マジックポーションを飲んで二発目を繰り出していた。

「バル、今のうちに攻撃の準備を。リィカが魔王の攻撃を相殺したときが、チャンスだ」
「分かった」

 四の五の言ってもしょうがない。黙って頷く。
 フォルテュードを握りしめる。リィカが相殺できることを、ただ信じて待つだけだ。

 リィカが魔王の魔力を相殺する。その瞬間、ユーリが魔法を放ったことも、特に驚きもなく見つめる。
 そして、その後アレクが真っ先に飛び出すであろう事も、完全に予想通りだった。

 暁斗の回復を始めた泰基を、横目で見る。最後のトドメは、暁斗でなければできないだろう。暁斗が回復するまでに、自分たちがどの程度押さえ込み、ダメージを与えられるか。

「…………がっ……!」

 アレクが顔面を殴られ、飛ばされる。その剣から、リィカが使うように風のムチが伸びたのを見て、笑みを浮かべる。

「《土の付与アース・エンチャント》!」

 エンチャントを唱えつつ、アレクの風のムチを追ってバルも駆け出した。
 次は、自分の番だ。


※ ※ ※


 唱えたエンチャントに、さらに魔剣に魔力を流していく。頑丈な土のエンチャントが、さらに強くなっていく。

 先ほどは、ここから水の付与をした。それで魔王に傷をつけた。
 けれど、バルは水ではなく、土の魔力を付与していく。土の剣がさらに太く長くなっていく。

 これでいい。
 魔王には、アレクが付けたばかりの傷がある。先ほどまでのとんでもない回復能力がなくなっている。そこにつけ込むだけだ。

「【獅子斬釘撃ししざんていげき】!」

 土の直接攻撃の剣技を発動させる。
 だが、その前に魔王の姿が消えた……ように見えた。

 ほとんど直感で百八十度回転しつつ、剣を横に振るう。

「【走鹿駿撃そうろくしゅんげき】!」

 その直感は正しかった。魔王は、バルの後ろにいた。
 振るわれる拳に、バルはほとんどゼロ距離で、遠距離攻撃である横に薙ぐ剣技を発動させる。

「ふっ!」

 魔王が軽く息を吐いたのが分かる。剣技は一瞬で魔王の拳に粉砕された。
 さらに、その拳がバルに届く……寸前に、バルは剣を盾にして防いだ。

「ぐっ……!」

 その衝撃がとんでもなかった。腕が痺れそうになりながら、バルは勢いのままに後ろに飛ばされる。
 だが、足を踏ん張る。剣を上段に振り上げた。

「【犬狼遠震撃けんろうえんしんげき】!」

 縦に振り下ろす剣技。複数の衝撃波が放てる剣技を、あえて一つに絞る。放ったそれは、バルが見ても、これまでで一番の威力を誇っているのが分かる。

 がしかし、魔王は右手を前に出す。

「……マジか」

 バルは呻いた。
 魔王が右腕一本で受け止めている。これまでと違い、余裕綽々というわけではなさそうだが、未だにそれができてしまうのか。

 だが、バルは気を取り直し、剣を構える。魔王は足を止めている。追加で攻撃するチャンスだ。

「うおおおおおおおっ!」

 叫んで走る。叫ぶつもりはなかったが、自然と声が出た。
 魔力を流す。次こそ当てる。終わらせる。

 だが、魔王の口の端が上がった。

「食らうが良い!」
「………………!」

 攻撃が、跳ね返ってきた。
 バルが放った剣技。それが消えずにバルに返ってきた。

 バルはとっさに剣を振るう。
 そんなことが可能なのかと思いつつ、跳ね返された剣技を、剣で受け止める。後ろに下がりそうになる足を、踏ん張って耐える。

 不可能なんてないはずだ。できるはずだ。
 リィカが、ユーリが、次から次へと新しい魔法を生み出すように。

「うおおおおおおおおっ!」

 バルの気合いに答えるように、魔剣フォルテュードが光る。
 そして……バルは剣を振り抜いた。

 同時に、跳ね返された剣技を、さらに跳ね返す。
 それは、今度こそ魔王に命中した。アレクの付けた横に伸びる腹部の傷に対し、縦に伸びる傷を負わせる。十字の傷が出来た。

「がぁっ!」

 傷を付けられて、魔王が悲鳴を上げた。足が一歩後ろに下がる。それでも魔王は倒れない。立っている。

「もう、一発……っ……!?」

 足を前に踏み出したバルだったが、そこで止まった。
 魔王が手刀のように指まで真っ直ぐ伸ばし、腕を上から下に振り下ろす。バルの放った、縦に振り下ろす剣技に良く似たものが生み出され、放たれる。

 とっさに剣を前に出す。
 だが、魔王の生み出したそれは、バルの土の剣を真っ二つに断ち切った。そして、そのまま両の腕に当たる。

「う、がっ……!」
(やべぇ、千切れる……!?)

 おそらく鋭い刃のような魔力なのだろう。
 強化に強化を重ねた土の剣すら、真っ二つにしたのだ。自分の腕を切断するなど、難しくもないだろう。

 そして、千切れた腕は、回復魔法でも元には戻せない。

 魔物との戦いで、四肢を失った人を知っている。そんなとき、父はひどく落ち込んでいた。そんな場面が、バルの頭によぎる。
 このまま自分が両腕を失ったら、どうなるのだろうか……。

「デフェンシオ!!」

 響いた泰基の声に、バルはハッとした。腕を切断しようとする魔力の刃が、それ以上動かなくなる。

「《光の付与ライト・エンチャント》! 【光輝突撃剣こうきとつげきけん】!」

 泰基の剣が光に満ちる。細く鋭く、満ちた光が剣の先から伸びていく。
 その光は、魔王の放った魔力の刃の、その中央を正確に貫いた。同時に、魔力の刃は消え去ったのだった。

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