【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

文字の大きさ
503 / 681
第十四章 魔国

VS魔王ホルクス⑪

しおりを挟む
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

ーーーーーーーーーーーーーーーー


「……ーリ、ユーリ!」

 ユーリは瞼を震わせて、目を開ける。
 目の前にいたのは、安心したような顔をした泰基だ。その顔を見て、自分の状況を思い出した。

「……魔王に、真正面からぶん殴られたんでしたね」

 動こうしてズキッと胸部に痛みが走り、手で押さえる。魔王に殴られた場所だ。

「ユーリ、もう少し回復するから。本当に危なかったんだ」
「……いえ、少しでも動けて魔法が使えれば十分です。そんな状況じゃありませんから」

 泰基の伸ばす手を、ユーリは押さえる。
 危なかったというのは本当だろう。自分の身に纏う魔力を感じれば、分かる。

 光と水の魔力。それはつまり、泰基が混成魔法の回復魔法である《復活リジェネレーション》を使っていたことに他ならない。
 それを使わなければならないほど、自分は危険な状態だったということだ。

 だが、今はまだ戦いの途中だ。
 状況は分からない。けれど、リィカが《天変地異カタクリズム》を使い、魔王の魔力を受け止めている。

 その後ろには倒れ込む暁斗と、それを支えるバル。
 少し離れた所にいるアレクは、傷口から出血しているのが見える。

「タイキさん、アキトをお願いします。アレクは僕が見ます」
「……分かった」

 そういう分担にしたのは、単にアレクの方がまだ距離が近いというだけだ。まだ痛みの残るユーリには、ほんの少しの差でも距離は近い方がありがたかった。

 躊躇いを振り切るように、泰基が暁斗に向かって走る。
 それを見送りつつ、ユーリはまずアイテムボックスに手を触れる。分かる。リィカの魔力は、もう切れる。

 と思った瞬間、まさにリィカの《天変地異カタクリズム》が消滅した。

「リィカっ! 受け取ってっ!」
「ありがとっ、ユーリっ!」

 アイテムボックスから取り出したマジックポーションを、リィカに投げる。受け取ったリィカの顔が、泣きそうな笑顔を見せる。

「まだ、もう一発っ! 《天変地異カタクリズム》!!」

 最強の魔法を連発したリィカを横目に、ユーリはアレクの元へと移動した。


※ ※ ※


「アレク、回復しますね」
「……大丈夫か、ユーリ」
「さあね。勝ったらゆっくり休みますので、今はとっとと回復して下さい」

 ユーリのその言いようにアレクは不満を覚えるが、ユーリは全く気にする様子を見せない。
 せっかく気遣ってやったというのに……と思うが、ユーリの額に汗が流れているのを見てしまうと、文句も言えない。

「……すいません、アレク。本当はもっとしっかり回復したいんですけど、僕もちょっとキツいです」
「ああ。出来る範囲でいい」

 アレクが頷くと、ユーリは視線をリィカへと向けた。

「アレクは攻撃の準備を。リィカが魔王の攻撃を相殺したら、まず僕が魔法を仕掛けます。その後は、任せます」
「ああ」

 リィカが相殺できなかった場合のことは口にしない。キツいと言った口で攻撃を仕掛ける気か、とも思うが、それも言わない。
 今は、何よりも魔王を倒すことだ。

 アレクは魔剣アクートゥスを持つ手に力を入れる。
 リィカが自分の回復を途中で投げて、暁斗の助けに入ったことに複雑な気持ちはある。リィカの手が離れていったあの瞬間、アレクは引き留めようと、思わず手を伸ばしかけた。

 リィカが割って入らなければ、暁斗もバルもただでは済まなかっただろう。そう言い聞かせて、自分を納得させる。

「いけぇっ!」

 リィカが叫ぶ。
 そして、大きな爆発を起こしながら、リィカが魔王の魔力を相殺した。――瞬間。

「《太陽爆発ソーラー・フレア》!」

 その瞬間、宣言通りにユーリが魔法を使った。
 何の魔法を使うか聞かなかったのも悪かったが、まさか混成魔法を使ってのけるとは思わなかった。

 放った直後、ユーリは苦しそうにうずくまる。
 だが、アレクはすぐに視線を魔王に向ける。「後は任せる」と言われたのだ。今することは、ユーリを気遣うことじゃない。

「《風の付与ウインド・エンチャント》!」

 エンチャントを唱える。同時に、魔剣に魔力を流す。
 魔力を流すと、その鋭さと切れ味が増す能力を持つ魔剣アクートゥス。その能力によって、唱えた風のエンチャントもさらに鋭さを増していく。

 爆発が収まる。見えた魔王の姿は、全身に傷が見られるものの、深い傷は見当たらない。五体満足だ。
 だが、今までであれば傷一つつけられなかった攻撃で、傷がついた。それは大きな変化だ。

 アレクは一気に魔王の懐に入り込む。

「【天馬翼轟閃てんまよくごうせん】!」

 風の直接攻撃の剣技を発動させた。
 今までであれば、躱されていた。だが、魔王の動きが遅い。

 躱そうとする動きを読み切り、さらに一歩踏み込む。
 ――そして、剣技は魔王の腹部に命中した。

「ぐあぁっ!」

 舞う鮮血に、魔王が明らかに苦痛の声を上げた。
 アレクは再度魔力を流す。再び剣技を発動させようとして……目の端に動くものを捉えたときには、すでに魔王の拳が眼前にあった。

「…………がっ……!」

 顔面を殴られ、吹き飛ばされる。飛ばされながら、剣を真っ直ぐ魔王に向ける。脳裏に浮かぶのは、リィカがエンチャントを使ったときの事だ。

 そして《風の付与ウインド・エンチャント》は、アレクがイメージしたとおりにムチのように伸びて、魔王を叩く。

 どの程度効いたかは分からない。だが、アレクの攻撃を追うように、バルが魔王に攻撃を仕掛けた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

処理中です...