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第十六章 三年目の始まり
アレクの想い
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「アレクが気付いたのか?」
「殿下だけではなく、リィカ嬢も気付いていたようです。しっかり私のほうを見ておりましたから」
アレクがリィカを抱えたまま、学園から帰ってきた。その報告を国王が受けたとき、思わず「は?」と疑問が漏れた。
学園にBランクの魔物が現れた報告は受けている。それをアレクたちが討伐したことも知っている。だが、何がどうして、アレクがリィカを抱えて帰ってくるのか。
そして、なぜアレクが明らかに苛立っている様子を見せているのか。
どちらにしても、放置はできないと判断して自らの諜報機関『影』の長であるフィリップを向かわせたのだが、アレクに気付かれて結局は追い出されてしまった。
アレクが魔王討伐の旅に行く前は、『影』たちが本気で気配を消していれば気付くことはなかったはずなのだが……。
「旅の間に強くなられたのでしょうね。これまでも気付いた素振りはなくとも、何となく違和感があるという話がありましたから」
フィリップの言葉に、国王は眉をひそめた。
そう。旅から戻った後、国王が命じたこともあるし、そうでないこともあるが、何度か『影』の誰かがアレクの側に行って様子を窺っていたことがある。その時に、そういう報告をもらっていた。
「つまりは、これまでは素知らぬふりをしていただけか」
国王は苦笑するしかない。実際に、アレクがどれだけ強くなったのだろうかと、知る機会があるはずもないのだから。
「陛下、いかがなさいますか」
「……ふむ」
その質問が、リィカを抱えたまま私室に籠もってしまったアレクの事を指していることは国王も分かる。
分かるが、何とも判断に困る事柄だ。何せ前後の事情が何も分からない。
「……放っておくか」
「よろしいのですか? アレクシス殿下ではなく、リィカ嬢の立場からすると……」
「今はリィカ嬢も貴族だ。仮にそれで間違いがあったとしても、間違いでなくしてしまえば問題ない。そしてそれは、儂としても望む結果だ」
仮にアレクの手がついたとしても、結婚させてしまえば何も問題はないということだ。そして、国王はそれを「王命」で為せてしまうことができる。
その手段をリィカ相手に取っていいのかと考えると、躊躇いはある。だが、そうなればリィカをアレクの妃としてこの国に留めることができるのだから、問題ない。
それに、と思う。
「大丈夫だろう。儂はあの子を信じておるよ」
最終的に大事にはならない。そう言って、鷹揚に笑ったのだった。
※ ※ ※
そんな国王の考えなど知らず、アレクはリィカの上に馬乗りになり、その両腕をベッドに押さえつける。
そして、気付いた。
「へえ。俺の贈った指輪はしてくれているのか」
左手の薬指にされたその指輪を、自らの指で触れる。つけてくれている事実自体は嬉しいのに、アレクの顔は妙に歪む。
視界にリィカの怯えの顔を捉えても、むしろそういう表情を自分がさせているのかと思ったら、変な優越感を感じた。
「どういうつもりなんだろうな、リィカは。俺のプロポーズをはぐらかしておいて、でも指輪はつけてくれている。俺を貴族どもの防御代わりに使って、いらなくなれば捨てるつもりか?」
「ち、ちがうっ、そうじゃなくてっ……いたぃっ」
リィカの上げた否定する声に、アレクはほとんど無意識にリィカの腕を掴んでいる手に力を込めていた。
痛みに歪むリィカの表情に、しかし何も感じないまま、アレクは自らが思うままに言葉を吐き出していた。
「プロポーズは急だったかもしれないと思う。だから、あの場で返事を求めるつもりはなかった。だが、『いいえ』の返事を受け入れるつもりもなかった。時間がかかっても、お前は『はい』と言ってくれるだろうと、そう思ってた」
さらに手に力を込めると、リィカの目尻に涙が浮かぶ。それでも、アレクは力を緩めようとは思わなかった。
リィカも、今度は悲鳴はあげず、口を開く。
「アレク、その、はなしを……」
「聞きたくない!」
リィカの言葉を遮って、アレクは叫ぶ。叫んでリィカを抱きしめる。……いや、しがみつく。絶対に離さないというように。
「頼むよ、リィカ。話を受けてくれ。俺にはお前しかいないんだ」
自分を拒否する言葉など、聞きたくない。話を聞くと言ってここまで連れてきたけれど、本当に聞く勇気などない。
リィカに拒否されたとき、自分がどういう行動に出るのか。……それがリィカを傷つけると分かっていても、きっと自分はその行動を止められない。
「俺に母親はいなくて、兄上には義姉上がいて……。バルやユーリだって、婚約者がいるし、二人ともなりたい道があるから、俺といつまでも一緒にはいてくれない」
決して一人だったわけではない。それでも、アレクは孤独を感じることがあった。
父親は国王で忙しくしている。母と思っていた人は兄の母であって、自分の母親ではない。
ずっと一緒にいると思っていた兄には、婚約者ができた。
城を飛び出した先で会って、一緒に冒険者をしてくれたバルやユーリは、可能な限りアレクに寄り添おうとしてくれていた。アレクもそれは分かっている。
しかし、それも期限がある。これから先の人生ずっと、アレクと一緒にはいられない。いてはくれない。
分かっている。分かっているからこそ、アレクは自らが"独り"なのだと、感じてしまって怖かった。
「……そんなとき、リィカに会ったんだ」
最初からそんなことを思っていたわけではない。
でも、好きになって恋人同士になって……将来を考えたとき、初めて気付いたのだ。リィカとは一緒にいられる可能性に。
「俺には、リィカだけなんだ。リィカだけは、他の誰のものにもならない。リィカだけは、俺とずっと一緒にいてくれる。俺にはリィカしか、いないんだ」
そしてアレクは、リィカの腹部に手を触れた。
「なぁリィカ。ここに俺の子供ができたら……俺と一緒にいてくれるか?」
「…………っ……!」
リィカが大きく目を見開いた。何か言おうとしたのか口を開けるが、それより先にアレクの顔が近づいた。
「頼むよ、リィカ。どうか俺を、受け入れてくれ」
そして距離がゼロになり、唇が重なった。
※ ※ ※
リィカからの抵抗は、ない。
本当にどういうつもりなのか。自分がやめるとでも思っているのか。
そう考えたとき、リィカが泣いていることに気付いた。泣いたところでやめるつもりはない。
そう思いつつ、唇から離れたときだった。。
「ごめんなさい、アレク」
リィカの声に、動きが止まる。
「ごめんなさい。ただ、会いたくないだけなの」
その言葉に、息が止まるかと思った。そのくせ、心臓はバクバクとすごい速さで動いている。
(会いたくない……? 誰に……? 俺、に……?)
最後に浮かんだその考えに、アレクは全身がカッと熱くなる。頭が真っ白になって、何かを叫ぼうとした瞬間、リィカが再び口を開いた。
「あの人に、会いたくないだけなの。ごめんなさい」
「…………………あのひと?」
気勢をそがれるとは、こういうことなのだろうか。違うかもしれないが。
どちらにしても、水を掛けられたような気持ちでつぶやいた自分の声は、我ながら呆然としている、とアレクは思った。
「殿下だけではなく、リィカ嬢も気付いていたようです。しっかり私のほうを見ておりましたから」
アレクがリィカを抱えたまま、学園から帰ってきた。その報告を国王が受けたとき、思わず「は?」と疑問が漏れた。
学園にBランクの魔物が現れた報告は受けている。それをアレクたちが討伐したことも知っている。だが、何がどうして、アレクがリィカを抱えて帰ってくるのか。
そして、なぜアレクが明らかに苛立っている様子を見せているのか。
どちらにしても、放置はできないと判断して自らの諜報機関『影』の長であるフィリップを向かわせたのだが、アレクに気付かれて結局は追い出されてしまった。
アレクが魔王討伐の旅に行く前は、『影』たちが本気で気配を消していれば気付くことはなかったはずなのだが……。
「旅の間に強くなられたのでしょうね。これまでも気付いた素振りはなくとも、何となく違和感があるという話がありましたから」
フィリップの言葉に、国王は眉をひそめた。
そう。旅から戻った後、国王が命じたこともあるし、そうでないこともあるが、何度か『影』の誰かがアレクの側に行って様子を窺っていたことがある。その時に、そういう報告をもらっていた。
「つまりは、これまでは素知らぬふりをしていただけか」
国王は苦笑するしかない。実際に、アレクがどれだけ強くなったのだろうかと、知る機会があるはずもないのだから。
「陛下、いかがなさいますか」
「……ふむ」
その質問が、リィカを抱えたまま私室に籠もってしまったアレクの事を指していることは国王も分かる。
分かるが、何とも判断に困る事柄だ。何せ前後の事情が何も分からない。
「……放っておくか」
「よろしいのですか? アレクシス殿下ではなく、リィカ嬢の立場からすると……」
「今はリィカ嬢も貴族だ。仮にそれで間違いがあったとしても、間違いでなくしてしまえば問題ない。そしてそれは、儂としても望む結果だ」
仮にアレクの手がついたとしても、結婚させてしまえば何も問題はないということだ。そして、国王はそれを「王命」で為せてしまうことができる。
その手段をリィカ相手に取っていいのかと考えると、躊躇いはある。だが、そうなればリィカをアレクの妃としてこの国に留めることができるのだから、問題ない。
それに、と思う。
「大丈夫だろう。儂はあの子を信じておるよ」
最終的に大事にはならない。そう言って、鷹揚に笑ったのだった。
※ ※ ※
そんな国王の考えなど知らず、アレクはリィカの上に馬乗りになり、その両腕をベッドに押さえつける。
そして、気付いた。
「へえ。俺の贈った指輪はしてくれているのか」
左手の薬指にされたその指輪を、自らの指で触れる。つけてくれている事実自体は嬉しいのに、アレクの顔は妙に歪む。
視界にリィカの怯えの顔を捉えても、むしろそういう表情を自分がさせているのかと思ったら、変な優越感を感じた。
「どういうつもりなんだろうな、リィカは。俺のプロポーズをはぐらかしておいて、でも指輪はつけてくれている。俺を貴族どもの防御代わりに使って、いらなくなれば捨てるつもりか?」
「ち、ちがうっ、そうじゃなくてっ……いたぃっ」
リィカの上げた否定する声に、アレクはほとんど無意識にリィカの腕を掴んでいる手に力を込めていた。
痛みに歪むリィカの表情に、しかし何も感じないまま、アレクは自らが思うままに言葉を吐き出していた。
「プロポーズは急だったかもしれないと思う。だから、あの場で返事を求めるつもりはなかった。だが、『いいえ』の返事を受け入れるつもりもなかった。時間がかかっても、お前は『はい』と言ってくれるだろうと、そう思ってた」
さらに手に力を込めると、リィカの目尻に涙が浮かぶ。それでも、アレクは力を緩めようとは思わなかった。
リィカも、今度は悲鳴はあげず、口を開く。
「アレク、その、はなしを……」
「聞きたくない!」
リィカの言葉を遮って、アレクは叫ぶ。叫んでリィカを抱きしめる。……いや、しがみつく。絶対に離さないというように。
「頼むよ、リィカ。話を受けてくれ。俺にはお前しかいないんだ」
自分を拒否する言葉など、聞きたくない。話を聞くと言ってここまで連れてきたけれど、本当に聞く勇気などない。
リィカに拒否されたとき、自分がどういう行動に出るのか。……それがリィカを傷つけると分かっていても、きっと自分はその行動を止められない。
「俺に母親はいなくて、兄上には義姉上がいて……。バルやユーリだって、婚約者がいるし、二人ともなりたい道があるから、俺といつまでも一緒にはいてくれない」
決して一人だったわけではない。それでも、アレクは孤独を感じることがあった。
父親は国王で忙しくしている。母と思っていた人は兄の母であって、自分の母親ではない。
ずっと一緒にいると思っていた兄には、婚約者ができた。
城を飛び出した先で会って、一緒に冒険者をしてくれたバルやユーリは、可能な限りアレクに寄り添おうとしてくれていた。アレクもそれは分かっている。
しかし、それも期限がある。これから先の人生ずっと、アレクと一緒にはいられない。いてはくれない。
分かっている。分かっているからこそ、アレクは自らが"独り"なのだと、感じてしまって怖かった。
「……そんなとき、リィカに会ったんだ」
最初からそんなことを思っていたわけではない。
でも、好きになって恋人同士になって……将来を考えたとき、初めて気付いたのだ。リィカとは一緒にいられる可能性に。
「俺には、リィカだけなんだ。リィカだけは、他の誰のものにもならない。リィカだけは、俺とずっと一緒にいてくれる。俺にはリィカしか、いないんだ」
そしてアレクは、リィカの腹部に手を触れた。
「なぁリィカ。ここに俺の子供ができたら……俺と一緒にいてくれるか?」
「…………っ……!」
リィカが大きく目を見開いた。何か言おうとしたのか口を開けるが、それより先にアレクの顔が近づいた。
「頼むよ、リィカ。どうか俺を、受け入れてくれ」
そして距離がゼロになり、唇が重なった。
※ ※ ※
リィカからの抵抗は、ない。
本当にどういうつもりなのか。自分がやめるとでも思っているのか。
そう考えたとき、リィカが泣いていることに気付いた。泣いたところでやめるつもりはない。
そう思いつつ、唇から離れたときだった。。
「ごめんなさい、アレク」
リィカの声に、動きが止まる。
「ごめんなさい。ただ、会いたくないだけなの」
その言葉に、息が止まるかと思った。そのくせ、心臓はバクバクとすごい速さで動いている。
(会いたくない……? 誰に……? 俺、に……?)
最後に浮かんだその考えに、アレクは全身がカッと熱くなる。頭が真っ白になって、何かを叫ぼうとした瞬間、リィカが再び口を開いた。
「あの人に、会いたくないだけなの。ごめんなさい」
「…………………あのひと?」
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本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
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