578 / 681
第十七章 キャンプ
緊急事態
しおりを挟む
「あれ?」
「おや?」
リィカとユーリがつぶやいたのは、ほとんど同時だった。
他のチームが料理に失敗して阿鼻叫喚となっている中で、何も問題なく料理して食事を済ませた四人だ。
ちなみに、アークバルトたちのチームは、セシリーが料理の担当をしていた。アークバルトはレーナニアに作って欲しがっていたが、断固として拒否されて、微妙に落ち込んでいるのを見て、アレクが苦笑していた。
そして、片付けを済ませて、テントまで張り終えた。旅の途中でサルマたちからもらったテントは使えないが、普通のテントの張り方も覚えている。ルバドール帝国内にいる間は、常に他の誰かがいたから、その時には普通のテントを使っていたからだ。
そこまで終えて、まだ他のチームが料理後の後片付けに手間取っているのを眺めているときに、リィカとユーリがつぶやいたのだ。そしてやはりほぼ同時に、森の方に視線を向ける。
「どうかしたか?」
アレクの疑問にリィカは首を傾げて、ユーリは眉にしわを寄せる。
「今、なんか、魔力が……」
「ええ、感じましたよね、確かに。ずっと先ですけど」
膨れ上がった魔力を確かに感じた。だが、それも一瞬で消えてしまったので、詳しい事は分からない。
そんな二人の様子に、アレクとバルが顔を見合わせる。そして森の、そのさらに先に意識を向ける。
「特にこれと言って……待てっ!!」
「なんだこれ! マズいぞっ!?」
急に緊迫した声を出す二人に、リィカとユーリも改めて魔力を探る。そして、つい先ほどまで感じなかった多数の魔力を感じた。すべて魔物の魔力だ。
「……Cランク? でも、何で急に……」
「リィカ、今はそれを探るのは後だ。ヒューズと先生方に知らせるぞ!」
「あ、う、うん」
「アレク、どうした」
頷くリィカの声と被るように、アレクに聞いてきたのはアークバルトだった。その雰囲気から何かを悟ったのだろう。表情が険しい。
アレクは一瞬悩んだが、隠せることでもないし、隠していいこともない。自分たちが感じたそれを、素直に伝える。
「森の向こう側から、大量の魔物がこちらに向かっています! おそらくは、Cランクの魔物がほとんどかと! 急いで迎撃と守備の体制を整えなければ、足の早い奴はそろそろ姿を見せます!」
「――分かった」
アークバルトが驚愕の表情を見せたのは一瞬だった。「本当か」とも「どうして分かるんだ」とも聞くことなく頷き、さらに言った。
「アレクたちは迎撃に回ってくれ。私から知らせる」
「はいっ! お願いします!」
それだけ叫び、走り出す。その後をリィカたちが追った。もうすぐそこまで来ている。
※ ※ ※
最初に気付いたのは、森に一番近いチームだった。
魔物を狩りに行くのに近くていい、とは思われず、森に近いから危険度も一番高いと、生徒たちに嫌われる場所だ。
実際には兵士たちが監視しているし、森に近くても安全ではあるのだが、それでもやはり心理的な抵抗というのが働く。よって、その貧乏くじを引かされるのは、残念なことにCクラスの生徒、その中でも下位にある生徒たちだ。
そして、そのチームの中にはミラベルもいた。
「何かしら……?」
ガサガサという音に、ミラベルは顔を森の方に向ける。その顔に危機感はない。
魔物の数が多くて対処しきれない事態になっていたのは、二日目のみ。それ以降は何ともなかったのだ。「何もなくて良かった」と思って、すでに安心している。
森に近いからと言って、何も問題ないことも承知している。だから、森から姿を現したそれを見ても、一瞬何なのか分からなかった。
「……え?」
呆然とつぶやいて、そのつぶやきを拾って同じチームの人もそれを見るが、やはり反応は似たり寄ったり。ただ眺めるだけしかできないミラベルの耳に、この四日目は聞くことはないだろうと思っていた声が、響いた。
「ベル様!」
その声とともに小さい何かが飛んでいって、姿を現したそれに命中する。それがドォンと横倒しになっても、ミラベルは事態を把握できなかった。
が、その一瞬の後、森から姿を現した複数のそれに、頭が理解するより早く息を呑み、同時に血の気が引くのを感じた。
明らかに魔物だ。しかも、大きい。少なくとも、森にいるEランクの魔物ではあり得ない。
「《風の千本矢》! ベル様、逃げてっ!」
魔法を放ちつつ、ミラベルの前に飛び出たのは、声の主、リィカだった。
風の矢が現れ、魔物を貫く。中級魔法だが広範囲に効果のある魔法だ。その場の大半の魔物が倒れた。
「今、兄上が先生方に事情を話している。そこまで早く下がってくれ。悪いが、ここにいられると邪魔だ」
そう言ってきたのはアレクだ。そして、バルとユーリもいる。ミラベルは青ざめた顔ながら、緊急事態が起こったことを察した。そして、頷く。
「分かりました」
周囲に声を掛けつつ、ミラベルは教師たちのいる場所へ走り出した。他の生徒たちも悲鳴こそ上げていないが、顔色はミラベルと似たり寄ったりだ。大混乱に陥っていないだけマシだと思う。
後ろはふり返らない。自分たちにできることは、何もない。
※ ※ ※
「Cランクの魔物? それは本当か?」
「本当です。アレクたちがそれを察知したんですから。急ぎ、生徒たちを集めて安全の確保をして下さい」
「いやだが……」
ミラベルがその場に着いたとき、アークバルトと総責任者であるゼブの会話が聞こえた。アークバルトの切羽詰まった表情とは裏腹に、ゼブの表情は懐疑的というか、本気にしていない様子が伺える。
その様子を見て、アークバルトが顔をしかめた。
「分かりました。先生に報告したことが間違っていた。ヒューズに直接話を通します」
苛立っているのか、吐き捨てる言い方だ。気持ちは分かると思いつつ、ミラベルはアークバルトに声をかけた。
「早くしたほうがいいです。すでに魔物が現れています。アレクシス殿下たちが来てくれたので、私たちも無事にここまでこれましたが、四人だけでは……」
「ミラベル嬢か。そうか、急がなければ……」
「兵士から報告を受けました。すでに大多数の兵士を向かわせています」
アークバルトの言葉の途中で、ヒューズが姿を現した。話は聞こえていたのか、アークバルトにそれだけ伝えると、ゼブに視線を向けた。
「多数のCランクの魔物が、森から姿を現しました。原因は不明です。正直申しまして、兵士たちだけでは対応は不可能でしょう。アレクシス殿下方の力を借りて、何とかなるかどうか」
「は……」
言われたゼブは、息を吐き出すように"音"を出しただけだ。まだ事態がつかめていないのか、どこかボンヤリした顔をしている。
「荷はすべて放棄し、ここにある馬車や馬に生徒を乗せて急ぎ避難させて下さい。これ以上のキャンプは無理です」
「だ、だが……」
「だが、ではありません。これから夜になってしまえば、ますます避難が難しくなります。今、この場で、判断して下さい」
「い、いや……」
強い口調にも未だにモゴモゴしているゼブを見て、ヒューズが舌打ちする。さらに言い募ろうとしたのを止めたのは、アークバルトだった。
「いいよ、ヒューズ。時間がもったいない。――ゼブ、キャンプは中止だ。今から生徒と教師は避難だ。いいな?」
"先生"の敬称をつけずに言ったその口調は、最後こそ疑問形になってはいたものの、誰が聞いても命令だった。ゼブもそれを察したのだろう、顔が青白くなった。
「……は、はい」
項垂れて、小さく返事をするゼブをアークバルトは見る事なく、ヒューズをふり返った。
「ヒューズ、今から君に全責任を預ける。指示を」
「かしこまりまし……」
最後の言葉は言えなかった。代わりに、一方向を見て大きく目を見開く。訝しげにその方向をアークバルトも見て……似たような反応を示す。
「ヒィッ!?」
「い、いや……」
周囲の生徒たちも、気付く。そして、その口から小さく悲鳴が上がる。……そこにいたのは、多数のCランクの魔物だった。
「副団長! 魔物の群れに周囲を囲まれています!」
「な……」
兵士の悲鳴が混じった報告に、ヒューズも言葉が出ない。何かしなければという思考はあるが、どうするべきか、それが浮かばない。
複数の兵士で当たれば、Cランクの魔物は倒せる。数に頼らなければ倒せないのに、魔物の数の方が多い。
ヒューズの思考がまとまらず、魔物に囲まれているという状況に、生徒たちが限界を超えて、悲鳴を上げようとした、瞬間だった。
「《流星群》!」
響いた少女の声とともに、空から降ってきた岩の塊が魔物達を押しつぶしていく。土の上級魔法だ。目の前でそれを見たアークバルトは、ハッとして声のした方を見ると、そこにいたのはアレクに抱えられたリィカだった。
さらに、目の前だけではなく、四方にその岩が降り注ぎ、魔物たちに命中しているのが見えた。それでようやくアークバルトは察する。先ほどの魔法は、リィカが使った魔法なのだと。
「リィカはここを頼むな。俺は向こうに行く」
「うん」
アレクがリィカに声をかけていて、リィカがそれに頷く。そしてアレクはヒューズに視線を向けた。
「ヒューズ、気付いただろうが、四方を魔物に囲まれた。俺たちも四人、それぞれ四方に散るから、兵士たちも分けてくれ。それと先生と生徒は中央に。脱出の準備が整い次第、教えてくれ。道を作る」
それだけ言うと、アレクは凄まじい速さでその場を走って去っていった。声もかけられず、アークバルトはその場に立ちすくむ。代わりに聞こえたのは、リィカの声だった。
「皆さんはもっと下がって下さい。危ないです」
その視線はアークバルトたちの方を向いていなかった。《流星群》で積まれた岩の向こう側、そこにまたさらに多数の魔物が見えて、アークバルトは息を呑んだ。
「…………っ……」
出かけた悲鳴は、何とか飲み込んだ。リィカが冷静な様子であったことが、アークバルトを落ち着かせた。言われたとおりに、周囲を促しつつその場を離れたのだった。
「おや?」
リィカとユーリがつぶやいたのは、ほとんど同時だった。
他のチームが料理に失敗して阿鼻叫喚となっている中で、何も問題なく料理して食事を済ませた四人だ。
ちなみに、アークバルトたちのチームは、セシリーが料理の担当をしていた。アークバルトはレーナニアに作って欲しがっていたが、断固として拒否されて、微妙に落ち込んでいるのを見て、アレクが苦笑していた。
そして、片付けを済ませて、テントまで張り終えた。旅の途中でサルマたちからもらったテントは使えないが、普通のテントの張り方も覚えている。ルバドール帝国内にいる間は、常に他の誰かがいたから、その時には普通のテントを使っていたからだ。
そこまで終えて、まだ他のチームが料理後の後片付けに手間取っているのを眺めているときに、リィカとユーリがつぶやいたのだ。そしてやはりほぼ同時に、森の方に視線を向ける。
「どうかしたか?」
アレクの疑問にリィカは首を傾げて、ユーリは眉にしわを寄せる。
「今、なんか、魔力が……」
「ええ、感じましたよね、確かに。ずっと先ですけど」
膨れ上がった魔力を確かに感じた。だが、それも一瞬で消えてしまったので、詳しい事は分からない。
そんな二人の様子に、アレクとバルが顔を見合わせる。そして森の、そのさらに先に意識を向ける。
「特にこれと言って……待てっ!!」
「なんだこれ! マズいぞっ!?」
急に緊迫した声を出す二人に、リィカとユーリも改めて魔力を探る。そして、つい先ほどまで感じなかった多数の魔力を感じた。すべて魔物の魔力だ。
「……Cランク? でも、何で急に……」
「リィカ、今はそれを探るのは後だ。ヒューズと先生方に知らせるぞ!」
「あ、う、うん」
「アレク、どうした」
頷くリィカの声と被るように、アレクに聞いてきたのはアークバルトだった。その雰囲気から何かを悟ったのだろう。表情が険しい。
アレクは一瞬悩んだが、隠せることでもないし、隠していいこともない。自分たちが感じたそれを、素直に伝える。
「森の向こう側から、大量の魔物がこちらに向かっています! おそらくは、Cランクの魔物がほとんどかと! 急いで迎撃と守備の体制を整えなければ、足の早い奴はそろそろ姿を見せます!」
「――分かった」
アークバルトが驚愕の表情を見せたのは一瞬だった。「本当か」とも「どうして分かるんだ」とも聞くことなく頷き、さらに言った。
「アレクたちは迎撃に回ってくれ。私から知らせる」
「はいっ! お願いします!」
それだけ叫び、走り出す。その後をリィカたちが追った。もうすぐそこまで来ている。
※ ※ ※
最初に気付いたのは、森に一番近いチームだった。
魔物を狩りに行くのに近くていい、とは思われず、森に近いから危険度も一番高いと、生徒たちに嫌われる場所だ。
実際には兵士たちが監視しているし、森に近くても安全ではあるのだが、それでもやはり心理的な抵抗というのが働く。よって、その貧乏くじを引かされるのは、残念なことにCクラスの生徒、その中でも下位にある生徒たちだ。
そして、そのチームの中にはミラベルもいた。
「何かしら……?」
ガサガサという音に、ミラベルは顔を森の方に向ける。その顔に危機感はない。
魔物の数が多くて対処しきれない事態になっていたのは、二日目のみ。それ以降は何ともなかったのだ。「何もなくて良かった」と思って、すでに安心している。
森に近いからと言って、何も問題ないことも承知している。だから、森から姿を現したそれを見ても、一瞬何なのか分からなかった。
「……え?」
呆然とつぶやいて、そのつぶやきを拾って同じチームの人もそれを見るが、やはり反応は似たり寄ったり。ただ眺めるだけしかできないミラベルの耳に、この四日目は聞くことはないだろうと思っていた声が、響いた。
「ベル様!」
その声とともに小さい何かが飛んでいって、姿を現したそれに命中する。それがドォンと横倒しになっても、ミラベルは事態を把握できなかった。
が、その一瞬の後、森から姿を現した複数のそれに、頭が理解するより早く息を呑み、同時に血の気が引くのを感じた。
明らかに魔物だ。しかも、大きい。少なくとも、森にいるEランクの魔物ではあり得ない。
「《風の千本矢》! ベル様、逃げてっ!」
魔法を放ちつつ、ミラベルの前に飛び出たのは、声の主、リィカだった。
風の矢が現れ、魔物を貫く。中級魔法だが広範囲に効果のある魔法だ。その場の大半の魔物が倒れた。
「今、兄上が先生方に事情を話している。そこまで早く下がってくれ。悪いが、ここにいられると邪魔だ」
そう言ってきたのはアレクだ。そして、バルとユーリもいる。ミラベルは青ざめた顔ながら、緊急事態が起こったことを察した。そして、頷く。
「分かりました」
周囲に声を掛けつつ、ミラベルは教師たちのいる場所へ走り出した。他の生徒たちも悲鳴こそ上げていないが、顔色はミラベルと似たり寄ったりだ。大混乱に陥っていないだけマシだと思う。
後ろはふり返らない。自分たちにできることは、何もない。
※ ※ ※
「Cランクの魔物? それは本当か?」
「本当です。アレクたちがそれを察知したんですから。急ぎ、生徒たちを集めて安全の確保をして下さい」
「いやだが……」
ミラベルがその場に着いたとき、アークバルトと総責任者であるゼブの会話が聞こえた。アークバルトの切羽詰まった表情とは裏腹に、ゼブの表情は懐疑的というか、本気にしていない様子が伺える。
その様子を見て、アークバルトが顔をしかめた。
「分かりました。先生に報告したことが間違っていた。ヒューズに直接話を通します」
苛立っているのか、吐き捨てる言い方だ。気持ちは分かると思いつつ、ミラベルはアークバルトに声をかけた。
「早くしたほうがいいです。すでに魔物が現れています。アレクシス殿下たちが来てくれたので、私たちも無事にここまでこれましたが、四人だけでは……」
「ミラベル嬢か。そうか、急がなければ……」
「兵士から報告を受けました。すでに大多数の兵士を向かわせています」
アークバルトの言葉の途中で、ヒューズが姿を現した。話は聞こえていたのか、アークバルトにそれだけ伝えると、ゼブに視線を向けた。
「多数のCランクの魔物が、森から姿を現しました。原因は不明です。正直申しまして、兵士たちだけでは対応は不可能でしょう。アレクシス殿下方の力を借りて、何とかなるかどうか」
「は……」
言われたゼブは、息を吐き出すように"音"を出しただけだ。まだ事態がつかめていないのか、どこかボンヤリした顔をしている。
「荷はすべて放棄し、ここにある馬車や馬に生徒を乗せて急ぎ避難させて下さい。これ以上のキャンプは無理です」
「だ、だが……」
「だが、ではありません。これから夜になってしまえば、ますます避難が難しくなります。今、この場で、判断して下さい」
「い、いや……」
強い口調にも未だにモゴモゴしているゼブを見て、ヒューズが舌打ちする。さらに言い募ろうとしたのを止めたのは、アークバルトだった。
「いいよ、ヒューズ。時間がもったいない。――ゼブ、キャンプは中止だ。今から生徒と教師は避難だ。いいな?」
"先生"の敬称をつけずに言ったその口調は、最後こそ疑問形になってはいたものの、誰が聞いても命令だった。ゼブもそれを察したのだろう、顔が青白くなった。
「……は、はい」
項垂れて、小さく返事をするゼブをアークバルトは見る事なく、ヒューズをふり返った。
「ヒューズ、今から君に全責任を預ける。指示を」
「かしこまりまし……」
最後の言葉は言えなかった。代わりに、一方向を見て大きく目を見開く。訝しげにその方向をアークバルトも見て……似たような反応を示す。
「ヒィッ!?」
「い、いや……」
周囲の生徒たちも、気付く。そして、その口から小さく悲鳴が上がる。……そこにいたのは、多数のCランクの魔物だった。
「副団長! 魔物の群れに周囲を囲まれています!」
「な……」
兵士の悲鳴が混じった報告に、ヒューズも言葉が出ない。何かしなければという思考はあるが、どうするべきか、それが浮かばない。
複数の兵士で当たれば、Cランクの魔物は倒せる。数に頼らなければ倒せないのに、魔物の数の方が多い。
ヒューズの思考がまとまらず、魔物に囲まれているという状況に、生徒たちが限界を超えて、悲鳴を上げようとした、瞬間だった。
「《流星群》!」
響いた少女の声とともに、空から降ってきた岩の塊が魔物達を押しつぶしていく。土の上級魔法だ。目の前でそれを見たアークバルトは、ハッとして声のした方を見ると、そこにいたのはアレクに抱えられたリィカだった。
さらに、目の前だけではなく、四方にその岩が降り注ぎ、魔物たちに命中しているのが見えた。それでようやくアークバルトは察する。先ほどの魔法は、リィカが使った魔法なのだと。
「リィカはここを頼むな。俺は向こうに行く」
「うん」
アレクがリィカに声をかけていて、リィカがそれに頷く。そしてアレクはヒューズに視線を向けた。
「ヒューズ、気付いただろうが、四方を魔物に囲まれた。俺たちも四人、それぞれ四方に散るから、兵士たちも分けてくれ。それと先生と生徒は中央に。脱出の準備が整い次第、教えてくれ。道を作る」
それだけ言うと、アレクは凄まじい速さでその場を走って去っていった。声もかけられず、アークバルトはその場に立ちすくむ。代わりに聞こえたのは、リィカの声だった。
「皆さんはもっと下がって下さい。危ないです」
その視線はアークバルトたちの方を向いていなかった。《流星群》で積まれた岩の向こう側、そこにまたさらに多数の魔物が見えて、アークバルトは息を呑んだ。
「…………っ……」
出かけた悲鳴は、何とか飲み込んだ。リィカが冷静な様子であったことが、アークバルトを落ち着かせた。言われたとおりに、周囲を促しつつその場を離れたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します
枯井戸
ファンタジー
──大勇者時代。
誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。
そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。
名はユウト。
人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。
そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。
「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」
そう言った男の名は〝ユウキ〟
この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。
「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。
しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。
「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」
ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。
ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。
──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。
この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。
【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ
一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。
百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。
平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。
そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。
『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
生贄公爵と蛇の王
荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。
「お願いします、私と結婚してください!」
「はあ?」
幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。
そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。
しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる