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第十九章 婚約者として過ごす日々
隷属の首輪の歴史
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「で、どうなんだ?」
「そうですねぇ」
隷属の首輪の魔力を探り始めてしばし、アレクの質問に、ユーリは困ったように言って、リィカは首を傾げる。
この部屋にいるのは、リィカたち四人だけだ。ものがものだけに、できる限り関わる人数は少ない方がいいからだ。とはいっても、作業しているのはリィカとユーリの二人で、アレクもバルも眺めるだけしかできないのだが。
「とりあえず、すごいよね」
「……一言で言ってしまえば、そうですね」
妙に感心した様子のリィカに対し、ユーリは疲れた様子だ。その反応の差に、アレクもバルも不思議に思う。
「どこがすごいんだ?」
「ゴチャゴチャなところ」
「……は?」
リィカの返答の意味が分からず、アレクは聞き返す。ユーリがため息をついた。
「色々な魔力が複雑に絡まって、奇跡的にこの形が出来上がった、というところでしょうかね。おそらくこの首輪が出来上がるまで、多数の人間の手を渡っていますよ。多数の人間の思いとか願いのようなものが、最終的に隷属の首輪を作り出したんです」
アレクもバルも顔をしかめた。それはつまり、大勢の人間が、同じ人間を隷属化させることを望んだということか。あまり気持ちのいい話ではない。二人の表情からそれを見て取ったか、ユーリが苦笑した。
「まあ、具体的に読み取れるわけではありませんが、相手を従わせるためではなく、犯罪を犯しても捕らえておけない人を捕らえるためという意味では、絶対に悪いものではありませんよ。最終的にこういう形になった、というだけです」
ユーリは何かを思い出すかのように、遠い目をした。
「魔王の城で見ましたよね。四千年前に、魔族は人との戦いに敗れて北の島に追いやられたと」
「あ、ああ……」
アレクも思い出しつつ頷く。魔王と戦う直前に見た映像だ。
「つまり、それ以前の人間と魔族は、領地を巡って争っていたのだろうと推測できます。ですが、そんな歴史を僕たちは知りません。僕たちが知っているのは、魔族たちは北にいて二百年に一度、魔王が誕生して南下して攻めてくる、ということだけ」
何を言いたいのか分からず、アレクもバルも胡乱げな顔だ。ユーリと一緒に隷属の首輪を調べていたリィカも、ユーリが何を言いたいのかが分からない。
ユーリはそんな三人の様子に苦笑した。
「まあ、そんな難しい話じゃありません。僕たちが知らないずっと以前から、戦いの歴史が続いていた。そんな中でこういった首輪が出来上がったとしてもおかしくない。ただそう思っただけです」
「そ、そうか」
アレクはホッと息を吐いた。あまり難しい話になったら理解できなくなると思ったが、それなら分かる。
「だが、隷属の首輪はたくさんあるじゃねぇか。最初の一個はともかくとして、他も全部そんな奇跡的に出来上がるもんなのか?」
バルの質問に、今度はリィカが首を横に振って口を開いた。
「ううん。これも推測だけど、お母さんみたいなコピーできる魔法を使える人がいたか、香澄さんみたいな魔方陣を使える人がいて、それでコピーしたか。そんな感じだと思う」
「なるほどな」
バルは頷いた。それこそ長い歴史の中で、そういう人物がいたとしてもおかしくない。
そこまで納得した上で、問題は最初に戻る。
「んで、その隷属する機能を無くして、魔封じだけ残すことはできんのか?」
「ムリ」
「無理ですね」
「やっぱそうか」
「そうだよな」
リィカとユーリの即答に、バルもアレクも頷くしかない。
最初にリィカの言った「ゴチャゴチャしてる」も、何となく意味が分かった。ゴチャゴチャして複雑に絡み合ったものが、奇跡的に今の形を作り出した。そんなものを弄ろうとしたところで、弄れるものじゃない。少しでも弄れば、全く違う形になるだけだ。
「だがじゃあどうするんだ?」
結局そうなると、無詠唱を使える人間をむやみやたらと増やすのは危険だ。教えるのが不可能になる。だが、その理由まで話すことができないから、結局その被害をリィカが被ることになってしまう。
それを心配するアレクに、リィカはユーリと顔を見合わせた。
「作ってみるしかないかな、と思うんだけど」
「できるかできないかは、何とも言えませんけどね。今度は陛下から魔封じの枷を借りてみようと思います」
「……作る?」
そんなことができるのか。疑問を隠さないアレクとバルに、ユーリは肩をすくめて、リィカは首を傾げた。
「だから、やってみないと分かりませんって」
「ある意味魔道具みたいなものだから、もしかしたら作れるかもしれないって思ったの」
「……そうなのか」
アレクはそれだけ言って、バルとこっそり視線を交わした。そこに、自分と同じことを思っているのが分かって、少し安心する。
作ってみるなんて、そんな発想をする事自体が、非常識だと。
「そうですねぇ」
隷属の首輪の魔力を探り始めてしばし、アレクの質問に、ユーリは困ったように言って、リィカは首を傾げる。
この部屋にいるのは、リィカたち四人だけだ。ものがものだけに、できる限り関わる人数は少ない方がいいからだ。とはいっても、作業しているのはリィカとユーリの二人で、アレクもバルも眺めるだけしかできないのだが。
「とりあえず、すごいよね」
「……一言で言ってしまえば、そうですね」
妙に感心した様子のリィカに対し、ユーリは疲れた様子だ。その反応の差に、アレクもバルも不思議に思う。
「どこがすごいんだ?」
「ゴチャゴチャなところ」
「……は?」
リィカの返答の意味が分からず、アレクは聞き返す。ユーリがため息をついた。
「色々な魔力が複雑に絡まって、奇跡的にこの形が出来上がった、というところでしょうかね。おそらくこの首輪が出来上がるまで、多数の人間の手を渡っていますよ。多数の人間の思いとか願いのようなものが、最終的に隷属の首輪を作り出したんです」
アレクもバルも顔をしかめた。それはつまり、大勢の人間が、同じ人間を隷属化させることを望んだということか。あまり気持ちのいい話ではない。二人の表情からそれを見て取ったか、ユーリが苦笑した。
「まあ、具体的に読み取れるわけではありませんが、相手を従わせるためではなく、犯罪を犯しても捕らえておけない人を捕らえるためという意味では、絶対に悪いものではありませんよ。最終的にこういう形になった、というだけです」
ユーリは何かを思い出すかのように、遠い目をした。
「魔王の城で見ましたよね。四千年前に、魔族は人との戦いに敗れて北の島に追いやられたと」
「あ、ああ……」
アレクも思い出しつつ頷く。魔王と戦う直前に見た映像だ。
「つまり、それ以前の人間と魔族は、領地を巡って争っていたのだろうと推測できます。ですが、そんな歴史を僕たちは知りません。僕たちが知っているのは、魔族たちは北にいて二百年に一度、魔王が誕生して南下して攻めてくる、ということだけ」
何を言いたいのか分からず、アレクもバルも胡乱げな顔だ。ユーリと一緒に隷属の首輪を調べていたリィカも、ユーリが何を言いたいのかが分からない。
ユーリはそんな三人の様子に苦笑した。
「まあ、そんな難しい話じゃありません。僕たちが知らないずっと以前から、戦いの歴史が続いていた。そんな中でこういった首輪が出来上がったとしてもおかしくない。ただそう思っただけです」
「そ、そうか」
アレクはホッと息を吐いた。あまり難しい話になったら理解できなくなると思ったが、それなら分かる。
「だが、隷属の首輪はたくさんあるじゃねぇか。最初の一個はともかくとして、他も全部そんな奇跡的に出来上がるもんなのか?」
バルの質問に、今度はリィカが首を横に振って口を開いた。
「ううん。これも推測だけど、お母さんみたいなコピーできる魔法を使える人がいたか、香澄さんみたいな魔方陣を使える人がいて、それでコピーしたか。そんな感じだと思う」
「なるほどな」
バルは頷いた。それこそ長い歴史の中で、そういう人物がいたとしてもおかしくない。
そこまで納得した上で、問題は最初に戻る。
「んで、その隷属する機能を無くして、魔封じだけ残すことはできんのか?」
「ムリ」
「無理ですね」
「やっぱそうか」
「そうだよな」
リィカとユーリの即答に、バルもアレクも頷くしかない。
最初にリィカの言った「ゴチャゴチャしてる」も、何となく意味が分かった。ゴチャゴチャして複雑に絡み合ったものが、奇跡的に今の形を作り出した。そんなものを弄ろうとしたところで、弄れるものじゃない。少しでも弄れば、全く違う形になるだけだ。
「だがじゃあどうするんだ?」
結局そうなると、無詠唱を使える人間をむやみやたらと増やすのは危険だ。教えるのが不可能になる。だが、その理由まで話すことができないから、結局その被害をリィカが被ることになってしまう。
それを心配するアレクに、リィカはユーリと顔を見合わせた。
「作ってみるしかないかな、と思うんだけど」
「できるかできないかは、何とも言えませんけどね。今度は陛下から魔封じの枷を借りてみようと思います」
「……作る?」
そんなことができるのか。疑問を隠さないアレクとバルに、ユーリは肩をすくめて、リィカは首を傾げた。
「だから、やってみないと分かりませんって」
「ある意味魔道具みたいなものだから、もしかしたら作れるかもしれないって思ったの」
「……そうなのか」
アレクはそれだけ言って、バルとこっそり視線を交わした。そこに、自分と同じことを思っているのが分かって、少し安心する。
作ってみるなんて、そんな発想をする事自体が、非常識だと。
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