赤の魔剣士と銀の雪姫

田尾風香

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VS氷の巨人①

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 氷の巨人が右腕を振り上げて、そのまま拳を真っ直ぐ俺に向かって振り下ろしてきた。

 ――受けるか、避けるか。

 その二択で一瞬悩み、すぐ避ける方を選ぶ。嫌な予感がして、ギリギリではなくかなり余裕を持って避ける。そして、それは正解だった。

 巨人の拳が、凍っている地面にめり込んで、凄まじい衝撃が走った。地面がひび割れ、それにより飛び散った氷が、俺を襲う。距離があったからたいしたことはなかったけれど、至近距離で食らったら、例えギリギリ避けたとしてもダメージを負いそうだ。

「本当にダメージ受けないのか、試してやろうじゃないっ!」

 エイシアが叫んだ。そして放った氷の魔法は、地面にめり込んでいる拳へと向かう。
 やっぱりというか、氷の魔法は効果ないと言われて「そうですか」と引き下がるわけがない。

 俺も剣を構え直しながら、魔法の行方を注視する。これで凍りついてくれれば、巨人はその体勢から動けなくなる。

 ――だが。
 魔法は確かに拳に当たった。しかしそれが何かを成すことなく、何もなかったように巨人は拳を地面から引いた。そして、エイシアに目を向けることなく俺を見て、今度は片足が上がった。俺の頭上から足が落ちてくる。

 けれど、そんなものが落ちてくるまで待つ必要もない。片足が上がっているのは、チャンスだ。地面を蹴り、地に着いている左足に剣を横に振るった。

 十分スピードの乗った剣は、足を切り裂いた。とはいっても、巨人からしたらかすり傷程度か。通じないことはないけれど、これでは……と思った時、俺の切ったところから、炎が噴き出して、氷の体を侵食していく。

「……え?」

 右手に持つ剣が、ほんのり熱くなった。こんな反応は初めてだけど、どこか自慢しているように感じる。

「切ったところから火が出る、か。こんなこともできるんだ」

 覚えておこう、と思ったら、目の端に動くものが映った。

「セルウス!」

 同時にエイシアの緊迫した声がした。そして俺の両脇に氷の壁ができる。その壁にぶつかってきたのは、巨人の手だ。巨人が、両手で俺を叩き潰そうとしてきたのだ。エイシアの作ってくれた氷の壁は一瞬で壊れた。けれど、その一瞬で俺はその場から離れる。

 チラッと見たら、炎はすでに消えて、氷で傷は塞がれていた。

「次は私の番よっ!」

 エイシアが声をあげて、先端が細く尖った氷の矢のようなものを放った。巨人は躱す様子も防御する様子すらなく、その矢は体に突き刺さる。

「……ギ……………」

 その瞬間、声というべきか、音というべきか悩むものが、氷の巨人の口から漏れる。そして煩わしそうに、突き刺さった矢の手でたたき落とす。

 もしかして、多少なりとも効果があるのか。エイシアもそう感じたのか、先ほどと同様の氷の矢を多数出現させた。

「いきなさいっ!」

 叫ぶと同時に巨人に放たれる、かと思った瞬間だった。巨人が両の拳を握った瞬間、とんでもない圧が、俺とエイシアを押しつぶしてきた。

「ぐっ!?」
「きゃあっ!?」

 俺はうめき、エイシアの悲鳴に視線だけ向けて……目を見開いた。この圧は、エイシアが生み出した氷の矢にも掛かっていた。その矢が先端部分を下に向けていて、エイシアに向かって落ちているのだ。

 ――このままじゃ、エイシアが串刺しになる。

 そう思った瞬間、俺の体は動いていた。凍った地面を滑り、そのまま止まることなくエイシアを片手に抱えて、その場から脱出する。

「あ、ありがと……」

 エイシアの、珍しい感謝の言葉に俺は頷く。相変わらず、上からの圧力がすごい。ドラゴンと戦ったとき、風の固まりの様なものに押しつぶされたけれど、これはそれ以上だ。
 きっとこれが空を飛ぶドラゴン対策だ。この圧力でドラゴンを落として、さらに空を飛べないようにするのだ。

 俺は圧力に逆らって、その場に立ち上がる。少しきついけど、動けないことはない。

「エイシア、右手だ」
「分かったわ」

 同時に俺は走る。巨人の握られた右の拳まで一直線に滑る氷の道ができて、俺は走る勢いのままその道に飛び乗った。さらに、後ろから俺を押す風を感じる。エイシアが吹雪で俺の背中を押してくれているのだ。

「剣よっ!」

 俺の声と同時に、剣が赤く光りその長さが二倍に伸びる。氷の巨人はそれをどう思ったのかは、表情がないから分からない。しかし、右腕が動くことはなく、二倍に伸びた剣を横に振ると、右腕は手首から切断され、下に落ちたのだった。

 同時に、上から押さえつけていた圧力がなくなった。やはり、両の拳を握っていたことから、それが発動条件だと思ったのだ。これでもう、動きを妨げられることはないはずだ。

 氷の道を滑ってきた勢いは急には止まらない。そのまま滑って氷の巨人の懐に入り込む。今度は足の切断を狙って、剣を振るった。……が、その前に、巨人の足が動いて、俺の体を捉えていた。

「ぐえっ」

 蹴られた、と思った瞬間、何かがつぶれたような声が出た。このまま足にしがみついてやろうかと思ったけれど、氷の体に手が滑り、それもできないまま飛ばされる。そして、氷の巨人が、俺が切り飛ばした右腕の先を俺に向けた。

 切り飛ばした手首の先から、何かが発射された。凄まじい勢いで俺に向かってくる。

「マズい……っ!」

 俺は蹴り飛ばされた姿勢のまま、空中にいるから、避けようにも避けられない。この状況では回避も防御もできない。

「させないわよっ!」

 でも、俺は一人じゃなかった。エイシアが一緒にいる。
 エイシアが生み出したのは、氷の球だ。それが氷の巨人が発射したものに放たれる。……けれど、エイシアが顔をしかめた。いとも簡単に氷の球が弾かれる。

「ああもう腹立つわねっ!」

 叫んだエイシアが、俺を守るように作り出したものに、俺は「へ?」と声をあげてしまった。そこに現れたのは雪だるまだった。巨大な雪だるま。それに巨人の発射したものが命中する。

 巨大なまん丸の雪の塊だから、それ相応の固さと弾力があるのか、何発か当たっても雪だるまは壊れない。最後の一発まで受け止めきって、その後に雪だるまは崩れた。

 その間に、俺は体勢を立て直して足からの着地に成功している。

「……雪だるま、すごいな」
「ふん、見なさい! この私の実力を!」

 戦いの中に可愛いものを出されると、すごく複雑というか気力がそがれるというか、そんな気持ちになるんだけど、まさかここまで防御力が強かったとは、意外だった。

 エイシアはふんぞり返っている。うん、すっごい負けず嫌いというか何というか。自分の魔法に自信を持っているエイシアらしい反応だ。そういう自信を、俺も持てたらいいなとつくづく思う。

「ギ……ギ……ギギィ……」

 またも氷の巨人が音を出した。表情が何も変わらないというのが、本当にやりにくい。普通の魔物なら、怒ってるとか怯んでるとか、そういうのが何となくでも分かるものだけど、こいつは本当に何も分からない。

 その時、再び右手が動いて、そこから何かが発射された。狙いは俺じゃない……エイシアだ。

「――いい度胸じゃないのっ!」

 エイシアも反応して、氷の壁を作り出した。そこに発射されたものが激突して、氷の壁に罅が入った。

 ――見えた。発射しているものは、小さい氷の粒だ。それが、猛スピードで発射されているのだ。エイシアの氷の壁は、すでにいくつも罅が入っている。壊れるのも時間の問題だ。

 俺は、エイシアを助けるべく、地面を蹴る。狙うは右腕だ。切ってもまた、何か出てくるということにならないことを祈るしかないけど……。

「…………っ……!」

 視界に映ったものに、俺は驚愕してそのまま剣でそれを受け止める。
 それは、氷の巨人の左手……だったもの。一体いつどうなったのか、巨人の拳があったはずの場所には、剣の刀身のようなものに変わっていた。

「ぐぅっ!?」

 巨体でとんでもない力を持つ巨人が、上から勢いをつけて刀身を振り下ろしてきたのだ。正直、受け止めることができただけでも奇跡。受け止め続けるなど、そんな力比べをできるはずがない。

 ――エイシアはどうなって……だめだ、見る余裕がない。

 グッと唇を噛んだ。状況が分からないなら、俺のすることは一つ。さっさとこの状況を何とかして、エイシアを助けに行くことだ。

「剣よっ! 燃え上がれっ!」

 叫んだ瞬間、刀身が赤く染まりそのまま火に包まれる。ほんのわずかに、巨人の刀身が怯んだように力が軽くなった。その瞬間、俺は剣を振り抜き、弾く。

「ギ、ギ」

 巨人が体勢を崩した。ハッとしてみると、エイシアの氷の壁が崩れ去るところだけど、体勢を崩したから、右腕の狙いも逸れている。

「食らいなさいっ!」

 エイシアが叫ぶと、氷のツララが下から巨人の右足を貫く。それで右足を動かせなくなり、さらに巨人は体勢を崩した。人間でいうところの、尻もちをつく形になる。

「剣よっ!」

 俺も叫んで、走る。燃え上がった剣は、そのままその長さを二倍に伸ばす。俺の目の前の高さに来た巨人の胴体を、それで切り裂いた。

「…………っ……!?」

 いや、切り裂けなかった。
 巨人の氷の胴体を守るように薄い膜が出現して、それが俺の剣を防いだのだ。当然、巨人には傷一つついていない。

 慌てて後ろに下がる。
 巨人はゆっくり立ち上がった。右足をグリグリ動かして、エイシアの生み出した氷のツララから足を抜いた。そして何もなかったようにツララを踏んづけたら、あっさり壊れる。

「……なんだあれ」

 あの薄い膜がなければ、倒せたかどうかは分からないけれど、かなりのダメージが与えられたはずだ。簡単に切れそうな薄さにも思えたけれど、剣を完全に受け止めてみせた。あの薄い膜を壊せる自信はなかった。

「あれは、防御膜とか結界とか呼ばれるものね。防御に特化した能力だと思ってもらえればいいと思うわ」

「エイシア」

「特化しているだけに、破ろうと思って破れるものじゃないわ。だけど、同時に攻撃することはできない。それにあの防御膜を発動させた途端、巨人の中のエネルギーがガクッと減ったわ」

 目を見開いた。俺にはさっぱり分からないが、エイシアにはそういうのが分かるのか。だけど、それが本当なら。

「あの防御を使えるのは、限界がある」
「ええ。使い過ぎてしまえば、動けなくなってしまうしね」

 そうであれば、あの防御を使わせるような攻撃を、畳みかけるだけだ。
 剣を構えた。
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