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未知なる地へ
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「大丈夫ですか!?」
下敷きにはならなかったとはいっても、怪我がないとは限らない。慌てて駆け寄ったら、なぜかロハゴスさんに頭を殴られた。
「アホかお前はっ!? それはこっちの台詞だっ! 氷の巨人とタイマンはって無事なのかっ!? っつーか、なんでこんな早くから現れたっ!? 一体何が起こった!?」
「い、いや、タイマンじゃなくて……エイシアもいましたし……」
「訂正するの、そこなわけ? どっからどう見ても、メインはあんただったでしょうが。それより説明しなさいって。原因は息子ですって」
後から来たエイシアが口を挟んできた。いやでも、タイマンって一対一のことだし、明らかに違うんだけど。それに原因もだ。
「息子? って、俺のか?」
「そうよっ!」
「待ってエイシア。違うって」
鼻息の荒いエイシアを止める。確かに、ロハゴスさんの息子からの挑戦を受けて剣を抜いたけど、どっちにしても俺は剣の素振りをするつもりだった。その時に抜いていれば、結果は同じだったはずだ。たいした時間の差はない。
ということを説明する。息子さんの責任はない。けれど、ロハゴスさんは頭を下げた。
「そうか。そいつは悪かった。迷惑かけたな」
「いえ、ですから……」
「氷の巨人と関係なくだ。迷惑をかけたことに変わりはないからな」
そう言われてしまうと、いえいえそんなことは、とは言いにくい。迷惑……というか、面倒だっただけだけど。それが迷惑か。
けれど、ロハゴスさんは妙に嬉しそうだ。
「だが、そうか。そうやってお前さんに嫉妬するってことは、あいつは俺に認めてもらいたがってるのか。いいねぇ、偉大な父親に反発しながらもその背中を追いかけて、認めて欲しくてがんばっている息子。どこかの物語に出てきそうだ」
うんうんとものすごく満足そうだ。エイシアの「誰が偉大な父親なのよ」というツッコミはきっと耳に入っていない。俺は、突っかかってきた息子さんに、何となく同情したのだった。
*****
それから三週間ほど経って、俺たちはこの街を出発することになった。
なぜ三週間も滞在したかというと、国から来る人に事情説明が必要だから残ってくれ、と言われたからだ。
そんなのロハゴスさんがやってくれればいいのに、と思ったら、話はなぜか恩賞の話やら仕官の話やらにまで及び、さっさと出立してしまわなかったことを後悔した。お礼のお金をもらうくらいならともかく、身元を素直に話すわけにはいかないし、仕官などできるはずがない。
できない無理ですで押し通し、もっと世界を見て回りたいからと言って、渋々納得してもらった。定住したくなったらいつでも来てくれ、とは言われたけど。
そんな色んな意味で疲れた三週間を過ごし、俺たちは出発する。ロハゴスさんや宿の女将さんを始め、沢山の人が見送りに来てくれた。
ちなみに、ロハゴスさんの息子さんと会うことはなかった。一体どうしているのかも知らない。
別れの挨拶を交わして、出発しようかというとき、ロハゴスさんが顔を寄せてきた。
「ちょっとこれは興味本位の確認なんだが……、もしかしてお前ら、噂に聞く赤の魔剣士と銀の雪姫か?」
ぶっと吹き出した。でもエイシアは嬉しそうに笑って腰に手をあてて胸を反らす。
「そうよっ! こんな所にまで噂があるのねっ!」
「お願いエイシアやめて……」
「カッコイイのに!」
「だから俺はやなんだって……」
もう二度と聞かないだろうと思った二つ名に、俺はガックリした。俺の力ない制止に、ロハゴスさんは不思議そうにして、エイシアにはため息をつかれた。
どうしたって、格好いいよりも恥ずかしいの方が先に立つ。どこまで広まってるんだろうか。俺とエイシアの組み合わせだと、これからももしかしたらと思われる可能性が高い。
「まったく、しょうがないわねっ! ほら行くわよっ!」
「……うん」
なんか出発前から疲れた。元気に歩くエイシアの後をついていく。街の人たちが大きく手を振ってくれて、やがてその姿が見えなくなった頃、エイシアが俺の顔を見た。
「今度はどこへ行く? ――シリウス」
「いや別に無理にそっちで呼ばなくても」
母が俺につけたかったという名前、シリウス。でも普段はエイシアは元々の俺の名前"セルウス"と呼ぶ。別に構わないから、何も言わなかったんだけど。
シリウスと呼ばれたのは、これで二度目だ。
「私がそう呼びたいと思ったら、呼ぶわ。で、どうする?」
「そうだね」
俺は笑った。どっちも俺の名前だから、それでいい。
「エイシアが氷の魔女だからさ、あまり暖かいところに行くのもなぁって思って、こうして北に来たんだけどさ。これ以上北に行くと、人が住める場所じゃなくなりそうだよね」
「それも面白そうじゃないっ! 誰も言ったことのない未知の土地なんて、憧れるわっ!」
「ええっ、本気?」
それだと、本気で何かがあってもお互いしか頼るものがない。正直な所、そこまで命がけの旅をするつもりもないんだけど、エイシアの目は期待に輝いている。
「……そうだね、じゃあ行けるところまで行ってみようか」
「そうこなくっちゃ」
まあいいか、と思うことにした。エイシアと二人なら、きっとどこに行っても楽しいし、怖くない。
どちらからともなく手を繋いで、俺たちは北へ向かって歩き出したのだった。
ーーーーー
(後書き)
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
話はこれで終了となります。
次ページには、おまけとして、他サイトで書いたこの作品関連の歌詞と、AIで出したイラストを掲載します。
イラストが苦手な方や、自分のイメージが崩されたくない方は、見るのをご遠慮下さい。
改めて、ありがとうございました。
下敷きにはならなかったとはいっても、怪我がないとは限らない。慌てて駆け寄ったら、なぜかロハゴスさんに頭を殴られた。
「アホかお前はっ!? それはこっちの台詞だっ! 氷の巨人とタイマンはって無事なのかっ!? っつーか、なんでこんな早くから現れたっ!? 一体何が起こった!?」
「い、いや、タイマンじゃなくて……エイシアもいましたし……」
「訂正するの、そこなわけ? どっからどう見ても、メインはあんただったでしょうが。それより説明しなさいって。原因は息子ですって」
後から来たエイシアが口を挟んできた。いやでも、タイマンって一対一のことだし、明らかに違うんだけど。それに原因もだ。
「息子? って、俺のか?」
「そうよっ!」
「待ってエイシア。違うって」
鼻息の荒いエイシアを止める。確かに、ロハゴスさんの息子からの挑戦を受けて剣を抜いたけど、どっちにしても俺は剣の素振りをするつもりだった。その時に抜いていれば、結果は同じだったはずだ。たいした時間の差はない。
ということを説明する。息子さんの責任はない。けれど、ロハゴスさんは頭を下げた。
「そうか。そいつは悪かった。迷惑かけたな」
「いえ、ですから……」
「氷の巨人と関係なくだ。迷惑をかけたことに変わりはないからな」
そう言われてしまうと、いえいえそんなことは、とは言いにくい。迷惑……というか、面倒だっただけだけど。それが迷惑か。
けれど、ロハゴスさんは妙に嬉しそうだ。
「だが、そうか。そうやってお前さんに嫉妬するってことは、あいつは俺に認めてもらいたがってるのか。いいねぇ、偉大な父親に反発しながらもその背中を追いかけて、認めて欲しくてがんばっている息子。どこかの物語に出てきそうだ」
うんうんとものすごく満足そうだ。エイシアの「誰が偉大な父親なのよ」というツッコミはきっと耳に入っていない。俺は、突っかかってきた息子さんに、何となく同情したのだった。
*****
それから三週間ほど経って、俺たちはこの街を出発することになった。
なぜ三週間も滞在したかというと、国から来る人に事情説明が必要だから残ってくれ、と言われたからだ。
そんなのロハゴスさんがやってくれればいいのに、と思ったら、話はなぜか恩賞の話やら仕官の話やらにまで及び、さっさと出立してしまわなかったことを後悔した。お礼のお金をもらうくらいならともかく、身元を素直に話すわけにはいかないし、仕官などできるはずがない。
できない無理ですで押し通し、もっと世界を見て回りたいからと言って、渋々納得してもらった。定住したくなったらいつでも来てくれ、とは言われたけど。
そんな色んな意味で疲れた三週間を過ごし、俺たちは出発する。ロハゴスさんや宿の女将さんを始め、沢山の人が見送りに来てくれた。
ちなみに、ロハゴスさんの息子さんと会うことはなかった。一体どうしているのかも知らない。
別れの挨拶を交わして、出発しようかというとき、ロハゴスさんが顔を寄せてきた。
「ちょっとこれは興味本位の確認なんだが……、もしかしてお前ら、噂に聞く赤の魔剣士と銀の雪姫か?」
ぶっと吹き出した。でもエイシアは嬉しそうに笑って腰に手をあてて胸を反らす。
「そうよっ! こんな所にまで噂があるのねっ!」
「お願いエイシアやめて……」
「カッコイイのに!」
「だから俺はやなんだって……」
もう二度と聞かないだろうと思った二つ名に、俺はガックリした。俺の力ない制止に、ロハゴスさんは不思議そうにして、エイシアにはため息をつかれた。
どうしたって、格好いいよりも恥ずかしいの方が先に立つ。どこまで広まってるんだろうか。俺とエイシアの組み合わせだと、これからももしかしたらと思われる可能性が高い。
「まったく、しょうがないわねっ! ほら行くわよっ!」
「……うん」
なんか出発前から疲れた。元気に歩くエイシアの後をついていく。街の人たちが大きく手を振ってくれて、やがてその姿が見えなくなった頃、エイシアが俺の顔を見た。
「今度はどこへ行く? ――シリウス」
「いや別に無理にそっちで呼ばなくても」
母が俺につけたかったという名前、シリウス。でも普段はエイシアは元々の俺の名前"セルウス"と呼ぶ。別に構わないから、何も言わなかったんだけど。
シリウスと呼ばれたのは、これで二度目だ。
「私がそう呼びたいと思ったら、呼ぶわ。で、どうする?」
「そうだね」
俺は笑った。どっちも俺の名前だから、それでいい。
「エイシアが氷の魔女だからさ、あまり暖かいところに行くのもなぁって思って、こうして北に来たんだけどさ。これ以上北に行くと、人が住める場所じゃなくなりそうだよね」
「それも面白そうじゃないっ! 誰も言ったことのない未知の土地なんて、憧れるわっ!」
「ええっ、本気?」
それだと、本気で何かがあってもお互いしか頼るものがない。正直な所、そこまで命がけの旅をするつもりもないんだけど、エイシアの目は期待に輝いている。
「……そうだね、じゃあ行けるところまで行ってみようか」
「そうこなくっちゃ」
まあいいか、と思うことにした。エイシアと二人なら、きっとどこに行っても楽しいし、怖くない。
どちらからともなく手を繋いで、俺たちは北へ向かって歩き出したのだった。
ーーーーー
(後書き)
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
話はこれで終了となります。
次ページには、おまけとして、他サイトで書いたこの作品関連の歌詞と、AIで出したイラストを掲載します。
イラストが苦手な方や、自分のイメージが崩されたくない方は、見るのをご遠慮下さい。
改めて、ありがとうございました。
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