怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

プロローグ1

壇上から少年を見下ろす老人は酷く冷や汗を掻いていた。

老人が処分を言い渡す側で少年はそれを受ける側だというのに広がるその光景はどう見ても異常だが、老人は疑問にも思っていない。それは自分の役割を理解し今から少年に理不尽を言い渡す自覚があったからだ。

「な、な、なな、汝、デュアル・S・ゼギウスは冒険者でありながら碌な仕事もせず、受けた依頼の放棄に未報告と著しく王国ギルドの信頼を損なう行動が目立つ。よって！冒険者の資格を剥奪し追放処分とする！」

始めは上手く言葉が出ず声は震え、上擦りながらも老人は言い切る。後半は吹っ切れたのかヤケクソなのか最早声を荒げていた。

一見、老人の言い渡した処分は妥当にも聞こえるが、それは違う。

冒険者とは自由がモットーだ。依頼者と冒険者、両者の合意がなければ契約は成立しない。だから当人同士の問題であり、依頼を達成していないのに成功報酬を貰うなど契約を違反した際にしかギルドは関与しない。

その点、ゼギウスは依頼を受けたが達成できなかったという扱いになる。未報告に関してもその依頼に対する適正期間をギルドが設定しているため、その期間内に報告がなければ失敗という形で処理される。

報酬を不正に獲得した訳ではなく、依頼未達成という情報は誰でも知ろうと思えば知ることができる。だから依頼者はゼギウスとの契約を結ばなければいいだけなのだ。

それでもゼギウスには立て続けに依頼が舞い込む。

何故ならゼギウスは七英雄の1人に数えられるほどの猛者であり人間界に多大なる功績を残したからだ。

それは依頼者が英雄に依頼したというある種ステータスのようなものを持ちたい訳でもゼギウスの評判を下げたい訳でもない。当時のお礼やこれからも冒険者を続けて欲しいという願いから達成しないと分かっていながらも依頼者は契約を結び契約金を支払っていたのだ。所在の分からないゼギウスに気持ちを伝えるにはそれしか方法はなく皆が喜んでそうしていた。

ある種、投げ銭のようなシステムだ。

そのことを知っていて契約金の一部をギルドは仲介手数料として貰い懐を潤していた。それなのに突然、ゼギウスから冒険者の資格を剥奪すると処分を決定したのだ。

これが理不尽の正体。老人はこの処分に対して怒るゼギウスの刃を受け止め死ぬ。それを分かっているからこその異様な光景だったのだ。

ゼギウスが背中の大剣に手をかけると老人は目を瞑った。

ゼギウスの怒りは尤もだし上の決定とはいえ、誰かがその責任を負わなければならない。七英雄とまで呼ばれた者を利用し捨てる。その傲慢がこの身1つで怒りが治まるなら安いものだ。

老人はそう自分を納得させ恐怖に体を震わせながらもその場に立ち続けていた。

しかし、大剣は中々老人の体には届かず次第に決意は揺らいでいく。

自分がここで斬られたところでゼギウスの怒りは治るのだろうか？本当に自分がその怒りを受け止めなくてはならないのか？上の決定とはいえ、このような理不尽に従って良かったのだろうか？

その疑問は老人の中で大きくなっていき、コツンと何かが落ちた音で耐えきれなくなった。

目を開けるとそこにゼギウスはおらず、ゼギウスの居た場所には冒険者の証のプレートが落ちていた。