怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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22話

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一晩中細切れになったハオの前に居るが虚無感しかない。

父上の仇をとったというのに達成感も喜びもなく晴れ晴れとした気持にもならない。その理由は分かっている。

自分の手でハオを倒した訳ではないのも大きいが、それは実力不足であり現実的な目で見れば仕方がない。何せ、偉大な父上でも勝てなかったのだから。

それに元々復讐を頼んだのはメナドールであり自分はタダ乗りしただけだ。そのお情けで最後の一撃を自分も撃たせてもらっただけ。結局のところ自分では何もしていない。

きっと復讐が何も生まないというのは正しい。復讐したところで父上は帰ってこない。それにこんな虚無感に浸り何も考えられなくなるのだから。

「我はこれからどうすればいいのじゃ…」

空に向かってそう独り言を呟く。

ゼギウスはこうなることが分かっていただろうし、この先どうすればいいかも分かっているはずだ。しかし、それでは復讐と同じで何も得られない。

やるべきことはある。この城を、四獣を、父上の遺したものを守ること。それはドラルの娘として一柱として、やるべきことでやりたいことだ。

それでもその先は?今が終わり、1度平和が訪れても次の争いが始まるだけ。守ることに終わりはない。

それも自分だけでは達成できず、結局は無力を実感するだけ…

「はぁ…」

溜息が出る。何故自分はこうも1人では何もできないのだろうか。

こんな負の感情に覆われていては前に進めない。そう、今ある全ての負の感情を乗せて空に向かって《龍王の咆哮》を撃つ。

しばらく空を眺めてから城の中に戻ろうとするとメナドールが出てくるのが見えた。その表情は真剣なもので自分とは違い先を見据えているのが伝わってくる。

「お主はもう先が見えておるのじゃな」

ついさっきまで自分と同じ場所に立っていたはずなのにもう先を行かれている。これは戦闘能力が、魔王が七罪がというのは関係ない。そういったところでも自分は先を行かれた。

それが自分を焦らせる。何かしなければいけない。その思いが足をゼギウスの部屋へ向けていた。

「お主、今後のことについて話したいのだがよいか?」

そう扉を開けながら言うがゼギウスは寝ている。

当然だ。今日まで意識が戻らなかったのだから今日の今日で体が万全になる訳がない。そうじゃなくても普段から食事以外は寝ているゼギウスが起きている訳がない。

それでも今話したい。

ゼギウスの体を揺すり起こそうとする。隣に魔物の少女が寝ているが気にしない。

「んあ?アルか。ナナシが暴れたかと思ったじゃねぇか」

「お主に話があるのじゃ」

真剣さが伝わったのかゼギウスは体を起こしてこちらに顔を向ける。

「場所変えるか?ここだとこのアホが居るぞ」

そうゼギウスは魔物の少女を指さす。

「その者が居っても構わぬ。我の決意表明とお主へのお願いじゃ」

「そうか。じゃあ話してくれ」

「お主には今後も城の防衛を任せるつもりだが、これからは我が前線に立つのじゃ。我の弱さは四獣に頼り切り我自身が前線に立たなかったのが原因だと思っておる」

「そうだな。まぁ、こればっかりは大した戦闘訓練を積んでないのと四獣が手駒にあったのが原因だからドラルのせいだな」

気遣っているのかゼギウスはそう言う。いや、気遣っている訳がない。ゼギウスはこういった時でも事実を事実としてハッキリと言う。だが、これは不愉快だ。

「父上を悪く言うでないわ。確かに父上から戦闘に関して学んだことはないがきっと何か考えがあってのことじゃ」

きっと何か考えがあってのことじゃ。偉大な父上が何も考えていない訳がない。

「んな訳ねぇだろ。それで、アルは今の力で前線に立てると思ってるのか?」

「平時なら問題ないと思うが今は力不足を否めぬ。だが、前線に立たなければ成長できないのじゃ」

今はいつ戦争が始まってもおかしくない。そんな今では実力不足なのは分かっている。それでも前線に立たなくては成長できない。

そんな思いを込めてゼギウスを見る。

「アルの覚悟は分かった。なら四獣との契約を解け」

言っている意味が分からなかった。父上が遺したものを守りたいと言っているのにその四獣を消せと言うのは本末転倒だ。それに四獣を消すのは戦力低下にしか思えない。

「四獣を?どういうことじゃ?」

「四獣っていうのは適当な魔物に自分の魔力を供給し続けて強化する魔物だ。その魔力を供給し続けるのを契約って言うんだが、まぁ、それはいいか。それで、今の契約者はアルだが契約を作ったのはドラルだ。だからドラルの魔力量を基準にアルから魔力を吸収されてる」

何を言っているのかよく分からない。そう思っているとゼギウスが呆れたように話を続ける。

「契約の再構築するんだよ。四獣に魔力を供給するって別に外側から魔力を流してる訳じゃない。内側と内側で転送してるんだよ。まぁ、内々でも距離に限界はあるけどな。だからアルは四獣と一定以上距離を取れないし弱い。ってそんなことも知らなかったのか?」

「お主は相変わらず気が遣えぬのだな!だが父上からそんな話は聞いていないのじゃ」

「ドラルがハオとの戦いに行く前に何かしただろ?例えば体の一部に血で紋章を描いたとか、そんな感じのことでいい」

当時のことを思い出そうと記憶を辿る。あまり思い出したくはないことだが、思い出さなければ前に進めない。

父上がハオと戦いに行く前…珍しく真剣な表情の父上に呼び出されて抱きしめられた。その後、額におまじないと言って何かを描かれ……これの事じゃな。

「確かに父上はおまじないと言って我の額に何か描いていたのじゃ」

「なら間違いないな。その時に四獣の契約がアルに移った。まぁ、概ねアルに戦闘技術がねぇからその代わりで託したんだろうな。四獣の戦闘技術は契約者が代わろうと落ちねぇし」

「…父上は今も我を守ってくれていたのじゃな……」

自分が守らなければいけないと思っていたが、その実、自分は守られていた。そのことが嬉しくもあり、いつまでもこのままではいけないと改めて決意を固くさせる。

「四獣を呼べばよいのじゃな?」

「そうだな。契約の解除と再構築のやり方は俺が教える」

ゼギウスに言われたまま四獣に号令を掛けると疑問が浮かぶ。

「四獣を呼び契約の再構築をしたとして四獣の戦力は落ちるのであろう?その穴はどうやって埋めるのじゃ?」

「アルが戦うに決まってんだろ」

「無理じゃ!」

思わず反射的に大声を上げてしまう。ゼギウスは簡単に言うが不可能だ。四獣には四方の戦線を任せている。その全てを1人で担うなど物理的に不可能だ。

「それくらいできるようになれ。ドラルはできたぞ。まぁ、城まで攻められる分にはここに俺が居るだろ」

ツンデレじゃな。と内心で思い笑みがこぼれた。ゼギウスが城を護ってくれるのなら不可能にも挑戦できる。

そう思っていると城の外に四獣が集結した。

「それでどうすればよいのじゃ?」

「簡単だ。四獣に触れて四獣の体内にある自分の魔力を全て回収しろ。それが契約の解除のやり方だ」

指示されるままに四獣の頭に手を置いて目を瞑り意識を四獣の体内に集中する。魔力の回収などできるのか分からなかったが、自分の魔力だからか思うように流れを変え自分の体の中に回収できた。

凄まじい魔力量だ。体感では魔力量が倍になった気がする。

目を開けるとそこに四獣の1体はおらず、手のひらサイズの小さな魔物が居た。これが四獣の本来の姿なのだろう。小さくて可愛いのじゃ。

「これでよいのか?」

「いいぞ。同じことをあと3回やれ」

1体でこれなのにあと3体も…どれだけ魔力が増えるのだろう…

その期待が気分を昂揚させる。

さっきやったのと同じ手順で残りの3体からも魔力を回収した。

「それでどうすればよいのじゃ?今のは解約の手続きなのであろう?」

「別に今すぐ再契約する必要はないが、したいなら適当に指でも噛んで血で四獣に契約紋を描け。それでどのくらいの魔力を与えるか決めて流し込む。今までは1体につき20%ってところだろうな。だから5%~10%で好きなように配分しろ。そのくらい残せば戦えはするだろ」

「分かったのじゃ」

指を噛み四獣の額に星を描き自分の魔力を5%流す。そうすると四獣はさっきよりも少し大きくなり子供くらいの大きさになった。どうやら四獣の大きさは魔力量で決まるようだ。

残りの3体にも同じように魔力を流し込み契約を終えた。

四獣と再契約を結び計20%の魔力を与えても契約の解除をする前とは比べ物にならないほど魔力がある。だが、それは自分が強くなったかとは別だ。

実戦経験が増えた訳でもなければスキルの威力が上がったかも分からない。

「いまいち実感がないなら試しにスキルを使ってみろ」

「うむ。そうじゃな《龍王の咆哮》」

そう空に向かってスキルを撃つ。それは今までの自分とは比較にならないほどの威力で空に穴を空けたようだった。
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