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46話
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シアン様が町長さんを連れて行き1人になる。
小さい頃の話を聞かれるのが恥ずかしかったのだろう。そういったところに親しみを覚える。
魔導馬車から離れすぎない程度に少し散策しようと近くの露店通りに向かう。公務以外で首都以外の町に来たことはないから新鮮な気持ちだ。
露店を1店1店眺めていると七英雄も元は普通の人なのだと思う。郊外の町で自然に触れながらノビノビと育つ。きっとその過程では将来、七英雄になることなんて微塵も考えていなかったのだろう。この景色を見るとそう思う。
しかし、ご主人様は例外だ。ご主人様はきっとなるべくして七英雄になりあの力を手にした。そんな気がする。
「お姉さん、お姉さん、少し見てってよ」
1本道を歩いていると少年にそう呼び止められた。
自分の店への勧誘だろう。お金は持っていないが無視するのも悪いので少し立ち寄る。
少年に案内された露店にはこの地域で採れる鉱石を加工したネックレスや指輪、ブローチ等、鉱石を主役にした小物が並んでいる。
どれも目を惹く輝きを放っていて思わず声が漏れそうになる。この地域で装飾品に向く鉱石が採れるのもそれを使った装飾品が有名なのも知っていたが、皇室に届く物は言っては悪いが鉱石が大きすぎて少し下品に見える物ばかりだった。
あの人たちは大きさが価値の全てだと思っている。確かに大きな原石は稀でその希少性は価値の1つだが、全てじゃない。
だからこういった主張し過ぎず、かといって誰が見ても主役だと分かる物は余計に目を惹かれる。そこに加え、献上品には大きさが足りなかった物や少し不格好な物をそれに合わせた加工を施しているのが自然で良い。
見ていると欲しくなるがない袖は振れない。この素晴らしい物を作った人にも私をここに導いてくれた少年にも悪いが立ち去ろうとする。
「えっ、お姉さん行っちゃうの?気に入らなかった?」
「すみません。どれも欲しくなるくらい素晴らしい物ですが、持ち合わせがなくて……また来た時に買わせてもらいます」
少年の残念そうな目を見ると少し心苦しいが、仕方ない。今度、ご主人様と来てペアの物でも買ってもらおう。
そう自分を納得させようとしていると少年がズボンのポケットから何かを取り出す。
「じゃあこれ上げる。売り物にはならないやつだけど、これを見たらこの店を思い出して。それでいつか買いに来てよ」
少年が差し出したのは種類の違う鉱石の欠片が埋め込まれたブローチで、欠片が小さく少し不格好だ。きっと少年が練習で作ったのだろう。確かに売り物というには少し厳しい。
しかし、私には商品として並んでいる物に負けないくらい輝いて見えた。
「ありがとうございます。その時はたくさんお客さんを連れてきますね」
ご主人様にルル、アルメシアさんにスーちゃん、あとはメナドールさんにナナシちゃん、他にもその時、城に居た人を連れてこよう。そうすれば今日の分のお礼になるだろう。
そうブローチを受け取って胸元に着ける。
「うん!約束だよ!」
「はい。約束です」
約束の証に指切りげんまんをしてから手を振って魔導馬車に戻る。
魔導馬車に戻るともう話は終わったのかシアン様に町長さんが操縦席に座っていた。
「いいブローチだね」
胸元のブローチに気づいたシアン様に笑顔でそう声を掛けられる。私がこのブローチを気に入っていることを見透かしているようだ。
「はい。露店の子に貰いました」
「儂に言ってくれればララちゃんに買ったものを…今からもう1回行くかい?」
「爺は黙ってな。ララはそのブローチを気に入ったのさ」
やっぱり私が気に入っていることを分かっているようでシアン様は町長さんを少し厳しく睨みつける。
「はい!ところでシアン様の用事は終わったのですか?」
「いや、さっきは現状報告を聞いただけだよ。今から実際にどうなってるか確認に行くんだけどララをおいてくのは悪いと思ってさ」
「そういうことでしたか。お気遣いありがとうございます」
私も魔導馬車に乗り込むと現状の防衛線の引かれている場所の視察に向かう。町中というのと移動距離が短いということもあってかゆっくりと移動している。
本当に長閑でいい場所だ。少し荒っぽいような雰囲気はあるが、それも町の特色で野蛮という印象は受けない。
町の端、入ってきた方向とは逆の端に着くと雰囲気はガラッと変わった。
石壁が視界の限り、端から端まで伸びている。他にも櫓や砲台、冒険者が少なくても対応できそうな設備が整っていた。
そこは戦場になることを想定しているような防衛線で素人目にはこれで十分に見える。しかし、これでは不十分なのだろう。シアン様は難しい顔をしていた。
「高さが足りないね。あと、砲台は壁に埋め込みで角度調整できるくらいの隙間を空けな。この町は冒険者が少ないけど戦える奴は多いから銃火器は多く確保したいね。その辺りはどうなってるのさ」
七英雄は個の力が強すぎるが故に連携や集団戦が苦手だと思っていたが、シアン様の指摘は至極真っ当に聞こえる。
ご主人様は少し過保護過ぎてそういったことは苦手に見えるが、他の七英雄も同じように集団戦の指揮を執れるのだろう。それは1日やそこらで身につくものではない。
皇国と帝国との争いには関与していないはずなのにどこで身に着けたのだろうか。
それも自分とは戦闘能力がかけ離れている人を指揮するのは慣れがないと難しい。チェスでポーンしかいないようなものだ。シアン様はそのポーンを他の駒に化けさせようとしている。
それは同時にシアン様がこの戦線には立てないことを意味していた。
もし、この場所に居られるのなら最低限の防衛設備だけを整えてあとは自分でどうにかするはずだ。それだけの自信と力を七英雄は持っている。
「銃火器となると資金がな…」
「ならアタイの倉庫から使いな」
「いいのか?」
「爺もその返答を期待してたんだろ。どうせ使い道もないしその時にここに居られない詫びと思って使えばいいさ」
その言葉に町長さんは難しい顔をする。この町は見たところ防衛設備が常時整っている訳ではないから事態を深刻に受け止めているのだろう。そんな表情をしていた。
「…やはりシアンは帰っては来れないのか。お前がここに来たということは余程良いか余程悪いかのどちらかだと分かっていたが、今回は悪い方だったか」
「七英雄が2人も削られたのに対してこっちは1体しか削れてない。相手もこの好機を逃さないだろうから逆にアタイたちも仕掛けないといけないのさ」
「まさか死ぬ気じゃないだろうな?」
「まさか。アタイはそこまで善人じゃないよ。タダでここまで進攻させる気もないけど、まぁ上手くやるさ。グラにマルス、メナドールも居るからね。最悪、ゼギウスの場所に誘導すればアイツがどうにかするよ」
それは言葉とは裏腹に覚悟が決まっているように見えた。それを見て町長さんの表情も覚悟の決まったものに変わる。
「なら遠慮なく使わせてもらうぞ。お前が帰って来た時に町がなかったじゃ何て言われるか分からないからな」
「本当だよ!まぁ、アタイたちが人間界に踏み入れる前に全滅させるかもしれないけどね」
そうシアン様は町長さんの背中を強く叩く。気負い過ぎないように叩いたのだろうが力を入れ過ぎだ。
「ゴホッゴホッ、そうなることを期待してるぞ」
それからもシアン様は石壁の端から端まで高さや砲台の設置場所を綿密に指示していた。その詳細さに予算に対する糸目の付けなさはこちら側だけ見れば首都の防衛設備と何ら遜色ない。
シアン様がそれらの指示を全て終えるとご主人様の元へ帰った。
小さい頃の話を聞かれるのが恥ずかしかったのだろう。そういったところに親しみを覚える。
魔導馬車から離れすぎない程度に少し散策しようと近くの露店通りに向かう。公務以外で首都以外の町に来たことはないから新鮮な気持ちだ。
露店を1店1店眺めていると七英雄も元は普通の人なのだと思う。郊外の町で自然に触れながらノビノビと育つ。きっとその過程では将来、七英雄になることなんて微塵も考えていなかったのだろう。この景色を見るとそう思う。
しかし、ご主人様は例外だ。ご主人様はきっとなるべくして七英雄になりあの力を手にした。そんな気がする。
「お姉さん、お姉さん、少し見てってよ」
1本道を歩いていると少年にそう呼び止められた。
自分の店への勧誘だろう。お金は持っていないが無視するのも悪いので少し立ち寄る。
少年に案内された露店にはこの地域で採れる鉱石を加工したネックレスや指輪、ブローチ等、鉱石を主役にした小物が並んでいる。
どれも目を惹く輝きを放っていて思わず声が漏れそうになる。この地域で装飾品に向く鉱石が採れるのもそれを使った装飾品が有名なのも知っていたが、皇室に届く物は言っては悪いが鉱石が大きすぎて少し下品に見える物ばかりだった。
あの人たちは大きさが価値の全てだと思っている。確かに大きな原石は稀でその希少性は価値の1つだが、全てじゃない。
だからこういった主張し過ぎず、かといって誰が見ても主役だと分かる物は余計に目を惹かれる。そこに加え、献上品には大きさが足りなかった物や少し不格好な物をそれに合わせた加工を施しているのが自然で良い。
見ていると欲しくなるがない袖は振れない。この素晴らしい物を作った人にも私をここに導いてくれた少年にも悪いが立ち去ろうとする。
「えっ、お姉さん行っちゃうの?気に入らなかった?」
「すみません。どれも欲しくなるくらい素晴らしい物ですが、持ち合わせがなくて……また来た時に買わせてもらいます」
少年の残念そうな目を見ると少し心苦しいが、仕方ない。今度、ご主人様と来てペアの物でも買ってもらおう。
そう自分を納得させようとしていると少年がズボンのポケットから何かを取り出す。
「じゃあこれ上げる。売り物にはならないやつだけど、これを見たらこの店を思い出して。それでいつか買いに来てよ」
少年が差し出したのは種類の違う鉱石の欠片が埋め込まれたブローチで、欠片が小さく少し不格好だ。きっと少年が練習で作ったのだろう。確かに売り物というには少し厳しい。
しかし、私には商品として並んでいる物に負けないくらい輝いて見えた。
「ありがとうございます。その時はたくさんお客さんを連れてきますね」
ご主人様にルル、アルメシアさんにスーちゃん、あとはメナドールさんにナナシちゃん、他にもその時、城に居た人を連れてこよう。そうすれば今日の分のお礼になるだろう。
そうブローチを受け取って胸元に着ける。
「うん!約束だよ!」
「はい。約束です」
約束の証に指切りげんまんをしてから手を振って魔導馬車に戻る。
魔導馬車に戻るともう話は終わったのかシアン様に町長さんが操縦席に座っていた。
「いいブローチだね」
胸元のブローチに気づいたシアン様に笑顔でそう声を掛けられる。私がこのブローチを気に入っていることを見透かしているようだ。
「はい。露店の子に貰いました」
「儂に言ってくれればララちゃんに買ったものを…今からもう1回行くかい?」
「爺は黙ってな。ララはそのブローチを気に入ったのさ」
やっぱり私が気に入っていることを分かっているようでシアン様は町長さんを少し厳しく睨みつける。
「はい!ところでシアン様の用事は終わったのですか?」
「いや、さっきは現状報告を聞いただけだよ。今から実際にどうなってるか確認に行くんだけどララをおいてくのは悪いと思ってさ」
「そういうことでしたか。お気遣いありがとうございます」
私も魔導馬車に乗り込むと現状の防衛線の引かれている場所の視察に向かう。町中というのと移動距離が短いということもあってかゆっくりと移動している。
本当に長閑でいい場所だ。少し荒っぽいような雰囲気はあるが、それも町の特色で野蛮という印象は受けない。
町の端、入ってきた方向とは逆の端に着くと雰囲気はガラッと変わった。
石壁が視界の限り、端から端まで伸びている。他にも櫓や砲台、冒険者が少なくても対応できそうな設備が整っていた。
そこは戦場になることを想定しているような防衛線で素人目にはこれで十分に見える。しかし、これでは不十分なのだろう。シアン様は難しい顔をしていた。
「高さが足りないね。あと、砲台は壁に埋め込みで角度調整できるくらいの隙間を空けな。この町は冒険者が少ないけど戦える奴は多いから銃火器は多く確保したいね。その辺りはどうなってるのさ」
七英雄は個の力が強すぎるが故に連携や集団戦が苦手だと思っていたが、シアン様の指摘は至極真っ当に聞こえる。
ご主人様は少し過保護過ぎてそういったことは苦手に見えるが、他の七英雄も同じように集団戦の指揮を執れるのだろう。それは1日やそこらで身につくものではない。
皇国と帝国との争いには関与していないはずなのにどこで身に着けたのだろうか。
それも自分とは戦闘能力がかけ離れている人を指揮するのは慣れがないと難しい。チェスでポーンしかいないようなものだ。シアン様はそのポーンを他の駒に化けさせようとしている。
それは同時にシアン様がこの戦線には立てないことを意味していた。
もし、この場所に居られるのなら最低限の防衛設備だけを整えてあとは自分でどうにかするはずだ。それだけの自信と力を七英雄は持っている。
「銃火器となると資金がな…」
「ならアタイの倉庫から使いな」
「いいのか?」
「爺もその返答を期待してたんだろ。どうせ使い道もないしその時にここに居られない詫びと思って使えばいいさ」
その言葉に町長さんは難しい顔をする。この町は見たところ防衛設備が常時整っている訳ではないから事態を深刻に受け止めているのだろう。そんな表情をしていた。
「…やはりシアンは帰っては来れないのか。お前がここに来たということは余程良いか余程悪いかのどちらかだと分かっていたが、今回は悪い方だったか」
「七英雄が2人も削られたのに対してこっちは1体しか削れてない。相手もこの好機を逃さないだろうから逆にアタイたちも仕掛けないといけないのさ」
「まさか死ぬ気じゃないだろうな?」
「まさか。アタイはそこまで善人じゃないよ。タダでここまで進攻させる気もないけど、まぁ上手くやるさ。グラにマルス、メナドールも居るからね。最悪、ゼギウスの場所に誘導すればアイツがどうにかするよ」
それは言葉とは裏腹に覚悟が決まっているように見えた。それを見て町長さんの表情も覚悟の決まったものに変わる。
「なら遠慮なく使わせてもらうぞ。お前が帰って来た時に町がなかったじゃ何て言われるか分からないからな」
「本当だよ!まぁ、アタイたちが人間界に踏み入れる前に全滅させるかもしれないけどね」
そうシアン様は町長さんの背中を強く叩く。気負い過ぎないように叩いたのだろうが力を入れ過ぎだ。
「ゴホッゴホッ、そうなることを期待してるぞ」
それからもシアン様は石壁の端から端まで高さや砲台の設置場所を綿密に指示していた。その詳細さに予算に対する糸目の付けなさはこちら側だけ見れば首都の防衛設備と何ら遜色ない。
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