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134話
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やっと隙を見せた。いつまであんな男に魅了されたフリをしないといけないのかと思ったけど、演技をした甲斐があった。メナドールさんが目の前に居るのに誰があんな男に靡くのよ。……最初はちょっと、ほんのちょっとだけ魅了されたけど…
だけど、それも功を奏してかマシンガンのように撃った魔力球は全て直撃した。この至近距離での攻撃だ、致命傷にはならなくても傷は負わせたはず。
そうメナドールさんの場所まで下がって土煙が晴れるのを待つ。
「エスト、備えなさい」
いつもと違って少し低い大人な声でメナドールさんにそう言われる。この戦いが始まってからメナドールさんはこの声で話しているが、今すぐにでもこの声で可愛がってもらいたい。
だけど、まだ戦闘中、敵の命が絶えるまでは気を抜かない。でも、戦いが終わったら今の声で耳元から囁いてもらおう。それを想像すると一段と気合が入る。
メナドールさんが隣で魔力体を生成して《色鮮やかな筆》で装備を描いていくのに合わせて私も《魔球演舞》で魔力球を56個生成する。
だけど、私は同時に28個しか軌道に乗せることはできず、自由に操るのは14個が限界だ。それでもこの短期間でよく倍の数に増やせたと自分でも思う。それもこれもメナドールさんのおかげだ。
だから、それで十分だと思っていた。だけど、メナドールさんと戦った時に言われたゼギウスの言葉が引っ掛かった。
メナドールさんに施されて、その範囲に収まっていていいのか。そんなのでメナドールさんとの差が縮まるのか。そう思って模索した結果、思いついた。
同時に軌道に乗せられるのが28個でも1度軌道に乗せたものは少しくらい放置しても軌道から逸れない。だからその間にもう1セット、28個を違う軌道に乗せられるのではないかと。そうやって軌道に乗せて逸れそうになったら逆側の軌道修正をする。
14個生成しながら7個しか操れなかったのから思いついた、我ながら賢い案だ。ただ、欠点として___
そう思っていると、土煙の中から爆発が起きた。
「図に乗るなよ。《ラスト》」
爆発で更に煙に覆われたかと思えば、煙の中からヤギが出てきた。
当然のように、それはただのヤギではない。関節部から魔力の靄が噴出しているだけでなく、角が高濃度の魔力でできている。それは全身が魔力で作られている体の中でも抜きん出ていた。
そのヤギは煙から出てくるなり一直線に突進してくる。それをメナドールさんは生成した魔力体でぶつけて止めようとするが、何もないかのように減速もせずに角で突破してきた。
こうなると私もメナドールさんも弱い。強烈な個に対する対抗手段を私もメナドールさんも持っていない。
ここは戦力温存のためにも私が___
そう前に出ようとすると先にメナドールさんが先に前へ出た。
「笑わせないでもらえるかしら?《第二形態》」
今回は絡繰り人形に装備を描いていないかと思ったら絡繰り人形が蠍からヤギに変わる。そこへ即座に装備を描き絡繰り人形に纏わせると突進させた。
全身に装備を着たメナドールさんの絡繰り人形はラストの召喚したヤギと正面から何度も衝突する。その度に魔力を散らし絡繰り人形は装備がヤギは角が欠けていった。
互角だ…でも、どうやって?メナドールさんにそんな力なかったはず…
「エスト、今も戦いは続いているのよ。一騎打ちを待つ必要はないわ」
「はい!」
その言葉で軌道に乗せている魔力球を左右から7個ずつ軌道から外す。それらを横に広く展開して煙の中へ放つ。すると驚いたことに、それに合わせて絡繰り人形はヤギを吹っ飛ばして煙の中へと突進して行った。
これならいける!
そう思った直後、私の魔力球もメナドールさんの絡繰り人形も煙から出てきた斬撃で真っ二つになる。それだけでなく手元に置いていた私の魔力球もメナドールさんの魔力体も剣圧で掻き消された。
「お遊びは終わりだ」
剣を振り煙の中から出てきたラストはさっきまでと姿が変わっていた。
肌は菫色になり、体は一回り大きくなっている。それだけでなく、体の節々に角が生えていた。
それは人型ではあるものの、さっきまでの人の姿とは違い魔物にしか見えない。ここからが本当の戦いのようだ。
「あら、その姿の方が魅力的よ、個性が溢れていて」
「お遊びは終わりだと言っただろ。《伏魔殿・奥の間》」
その直後、私たちを囲うように御殿のような屋敷が形成されていく。そこから逃れようと走るが、既に遅く、生成されていく壁に阻まれた。
私たちの閉じ込められた部屋は広く、何本も木の柱があり畳や障子、襖のある和室だ。しかし、そこに光はほとんどなく、部屋の概要を把握するのがやっとなくらい暗い。
「メナドールさん、どうしますか?」
火の魔力球をいくつか生成して部屋の角と手元を照らしながらメナドールさんに聞く。障子や襖の奥からは魔物の気配を感じる。
「そうね、ここを出る方法を探したいところだけれど…まずは邪魔な子を片付けるわよ」
障子や襖の奥から出てくるヤギのような魔物を《彩槍・レイン》を使って突いていく。メナドールさんも《色鮮やかな筆》で描いた剣で斬っていった。
ヤギの魔物は数が多いのも影響しているのか《ラスト》で召喚したヤギのように個が強い訳ではない。だから魔力の消費量を抑えながら戦える。
「消耗戦に持ち込むつもりのようね。あれだけ怒っていた割には冷静に見えるけれど、ただ単に趣味が悪いだけと見るべきかしら?」
「そうみたいですね。でも、この魔物たちは大したことないですよ?これで消耗戦に持ち込むなら数日はかかりますよね?」
「普通の場所なら、ね」
そうメナドールさんは私のフォローに入って魔物を斬ると、私の顎を指先で撫でて私の顔を見る。おそらく私が《魅了》されていないか確認しているのだろう。
その美しさに戦いを忘れてうっとりとしてしまいそうになる。でも、確かにそうだ。ここは敵の造り上げた屋敷の中、何が起こってもおかしくはない。現状は体に何の異変も感じないが、これからどうなるかは分からない。
それからしばらく魔物を斬ったり突いたりしているが、終わりが見えない。それどころか魔物の数は増えているようにすら見える。
閉じ込められる前に生成した魔力球が無駄になった分、魔力の消費を抑えて戦っているせいで肉体的な消耗が激しい。それは普段、魔力で身体強化して槍を振るのを素の肉体の筋肉で振っているのが主な原因だ。
そろそろどうにかしないと魔力主体の戦闘に切り替えなければならない。だけど、下手に動くのはリスクが大きく敵の思惑に嵌まる可能性が高い。
そう思っているとメナドールさんが私の前に出る。
「この屋敷内の見取り図も大体把握できたからそろそろ出ようかしら」
「それなら私に任せてください」
私がただ魔物を一掃している間にメナドールさんはこの屋敷の内部を探っていた。それも私よりも多い数の魔物を屠りながらだ。
そこまでしてもらっておきながら、ただついていくだけでは今までと変わらない。おんぶにだっこのままじゃラストには勝てない。私が少しでも戦力にならないと。
そう槍を構えて奥に…いや、ラストはここを奥の間と言っていたから手前に向かって突進して行く。槍の先端から魔物を串刺しにして行き、一気にこの部屋を出るところまできた。
「エスト!」
あと少しで部屋を出られるというタイミングで、その大声と共にメナドールさんに横から突き飛ばされる。何が起こったのか分からずメナドールさんの方を見ると、ラストの剣がメナドールさんの体を貫いていた。
「外したか」
そうラストが剣を引き抜くとメナドールさんは力なく倒れた。
だけど、それも功を奏してかマシンガンのように撃った魔力球は全て直撃した。この至近距離での攻撃だ、致命傷にはならなくても傷は負わせたはず。
そうメナドールさんの場所まで下がって土煙が晴れるのを待つ。
「エスト、備えなさい」
いつもと違って少し低い大人な声でメナドールさんにそう言われる。この戦いが始まってからメナドールさんはこの声で話しているが、今すぐにでもこの声で可愛がってもらいたい。
だけど、まだ戦闘中、敵の命が絶えるまでは気を抜かない。でも、戦いが終わったら今の声で耳元から囁いてもらおう。それを想像すると一段と気合が入る。
メナドールさんが隣で魔力体を生成して《色鮮やかな筆》で装備を描いていくのに合わせて私も《魔球演舞》で魔力球を56個生成する。
だけど、私は同時に28個しか軌道に乗せることはできず、自由に操るのは14個が限界だ。それでもこの短期間でよく倍の数に増やせたと自分でも思う。それもこれもメナドールさんのおかげだ。
だから、それで十分だと思っていた。だけど、メナドールさんと戦った時に言われたゼギウスの言葉が引っ掛かった。
メナドールさんに施されて、その範囲に収まっていていいのか。そんなのでメナドールさんとの差が縮まるのか。そう思って模索した結果、思いついた。
同時に軌道に乗せられるのが28個でも1度軌道に乗せたものは少しくらい放置しても軌道から逸れない。だからその間にもう1セット、28個を違う軌道に乗せられるのではないかと。そうやって軌道に乗せて逸れそうになったら逆側の軌道修正をする。
14個生成しながら7個しか操れなかったのから思いついた、我ながら賢い案だ。ただ、欠点として___
そう思っていると、土煙の中から爆発が起きた。
「図に乗るなよ。《ラスト》」
爆発で更に煙に覆われたかと思えば、煙の中からヤギが出てきた。
当然のように、それはただのヤギではない。関節部から魔力の靄が噴出しているだけでなく、角が高濃度の魔力でできている。それは全身が魔力で作られている体の中でも抜きん出ていた。
そのヤギは煙から出てくるなり一直線に突進してくる。それをメナドールさんは生成した魔力体でぶつけて止めようとするが、何もないかのように減速もせずに角で突破してきた。
こうなると私もメナドールさんも弱い。強烈な個に対する対抗手段を私もメナドールさんも持っていない。
ここは戦力温存のためにも私が___
そう前に出ようとすると先にメナドールさんが先に前へ出た。
「笑わせないでもらえるかしら?《第二形態》」
今回は絡繰り人形に装備を描いていないかと思ったら絡繰り人形が蠍からヤギに変わる。そこへ即座に装備を描き絡繰り人形に纏わせると突進させた。
全身に装備を着たメナドールさんの絡繰り人形はラストの召喚したヤギと正面から何度も衝突する。その度に魔力を散らし絡繰り人形は装備がヤギは角が欠けていった。
互角だ…でも、どうやって?メナドールさんにそんな力なかったはず…
「エスト、今も戦いは続いているのよ。一騎打ちを待つ必要はないわ」
「はい!」
その言葉で軌道に乗せている魔力球を左右から7個ずつ軌道から外す。それらを横に広く展開して煙の中へ放つ。すると驚いたことに、それに合わせて絡繰り人形はヤギを吹っ飛ばして煙の中へと突進して行った。
これならいける!
そう思った直後、私の魔力球もメナドールさんの絡繰り人形も煙から出てきた斬撃で真っ二つになる。それだけでなく手元に置いていた私の魔力球もメナドールさんの魔力体も剣圧で掻き消された。
「お遊びは終わりだ」
剣を振り煙の中から出てきたラストはさっきまでと姿が変わっていた。
肌は菫色になり、体は一回り大きくなっている。それだけでなく、体の節々に角が生えていた。
それは人型ではあるものの、さっきまでの人の姿とは違い魔物にしか見えない。ここからが本当の戦いのようだ。
「あら、その姿の方が魅力的よ、個性が溢れていて」
「お遊びは終わりだと言っただろ。《伏魔殿・奥の間》」
その直後、私たちを囲うように御殿のような屋敷が形成されていく。そこから逃れようと走るが、既に遅く、生成されていく壁に阻まれた。
私たちの閉じ込められた部屋は広く、何本も木の柱があり畳や障子、襖のある和室だ。しかし、そこに光はほとんどなく、部屋の概要を把握するのがやっとなくらい暗い。
「メナドールさん、どうしますか?」
火の魔力球をいくつか生成して部屋の角と手元を照らしながらメナドールさんに聞く。障子や襖の奥からは魔物の気配を感じる。
「そうね、ここを出る方法を探したいところだけれど…まずは邪魔な子を片付けるわよ」
障子や襖の奥から出てくるヤギのような魔物を《彩槍・レイン》を使って突いていく。メナドールさんも《色鮮やかな筆》で描いた剣で斬っていった。
ヤギの魔物は数が多いのも影響しているのか《ラスト》で召喚したヤギのように個が強い訳ではない。だから魔力の消費量を抑えながら戦える。
「消耗戦に持ち込むつもりのようね。あれだけ怒っていた割には冷静に見えるけれど、ただ単に趣味が悪いだけと見るべきかしら?」
「そうみたいですね。でも、この魔物たちは大したことないですよ?これで消耗戦に持ち込むなら数日はかかりますよね?」
「普通の場所なら、ね」
そうメナドールさんは私のフォローに入って魔物を斬ると、私の顎を指先で撫でて私の顔を見る。おそらく私が《魅了》されていないか確認しているのだろう。
その美しさに戦いを忘れてうっとりとしてしまいそうになる。でも、確かにそうだ。ここは敵の造り上げた屋敷の中、何が起こってもおかしくはない。現状は体に何の異変も感じないが、これからどうなるかは分からない。
それからしばらく魔物を斬ったり突いたりしているが、終わりが見えない。それどころか魔物の数は増えているようにすら見える。
閉じ込められる前に生成した魔力球が無駄になった分、魔力の消費を抑えて戦っているせいで肉体的な消耗が激しい。それは普段、魔力で身体強化して槍を振るのを素の肉体の筋肉で振っているのが主な原因だ。
そろそろどうにかしないと魔力主体の戦闘に切り替えなければならない。だけど、下手に動くのはリスクが大きく敵の思惑に嵌まる可能性が高い。
そう思っているとメナドールさんが私の前に出る。
「この屋敷内の見取り図も大体把握できたからそろそろ出ようかしら」
「それなら私に任せてください」
私がただ魔物を一掃している間にメナドールさんはこの屋敷の内部を探っていた。それも私よりも多い数の魔物を屠りながらだ。
そこまでしてもらっておきながら、ただついていくだけでは今までと変わらない。おんぶにだっこのままじゃラストには勝てない。私が少しでも戦力にならないと。
そう槍を構えて奥に…いや、ラストはここを奥の間と言っていたから手前に向かって突進して行く。槍の先端から魔物を串刺しにして行き、一気にこの部屋を出るところまできた。
「エスト!」
あと少しで部屋を出られるというタイミングで、その大声と共にメナドールさんに横から突き飛ばされる。何が起こったのか分からずメナドールさんの方を見ると、ラストの剣がメナドールさんの体を貫いていた。
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