神と鬼の物語

鶴野オト

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二の国(前編)

下着姿の探偵

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この世界に生きる『人間』は少ない。
しかし、エルフによる迫害等は生じていない。
女神様が人間に優しいからである。
俺の姉のような美徳という能力は人間にしか発現しない。
女神様の護衛としても機能する七美徳人は絶やすことなく続けていかなければならない。
そもそも、美徳という能力は不思議なものだ。
『謙譲』『慈悲』『忍耐』『勤勉』『救恤』『節制』『純潔』の七つが存在し、その思い、及び行動を伴ったものに発現し、発現したものは様々な能力に目覚める。
しかし、この世界には一つの能力を二人以上持つことがない。
つまり、七美徳人が揃っている今現在はどのような思想・行動をしても力が芽生えることはない。
しかし、七美徳人が欠けた時に力を発現させる確率を少しでも高くするためにエルフとは違い、人間には人間専用の道徳教育プログラムが義務付けられている。
そんな中育った俺は、いわゆる不健全なものからは離されて生きてきた。

…だから、目の前にいる異性の前ででも普通に下着姿を見せる女エルフに困惑とも怒りともし難い感情が湧いた。
この人が探している探偵ではありませんように。

「えっと、私はこの国に住むある探偵を探していまして
あなたは雉神(キジガミ)というモノから依頼を受けませんでしたか?」

探偵はぼんやりした目で俺を眺めてから答えた。

「受けてないよ」

挨拶をするかのような気軽さだった。
なんだ、じゃあこの変な人からは離れられる、良かった良かっ…

「まあ、雉神関連の依頼は受けたけど」

は?

「それはどういう…?」

「なんか変なやつが来たんだよ
頭をすっぽり笠で覆って、真っ黒な服着てるやつが
んで、そいつに探偵をやって雉神に情報を伝えてくれって頼まれたってわけ」

虚無僧の話と違う。
あいつの言っていた話では、雉神が探偵を使って姉の情報を集めて拐ったのことだった。
どちらかが嘘をついている?
目の前で堂々と立っている下着姿の女からは嘘をついている気配は無かった。
もし、もし虚無僧が姉の消失に絡んでいるのであれば、その弟である俺に接触してきたのも、やつの計画の一部なんじゃあないか?

「おーい、なんか考え込んでるみたいだけどどうした?
依頼じゃないならさっさと帰りなよ」

探偵の声で現実に引き戻される。
もし虚無僧が全ての発起人なら、この探偵の力を借りれるのではないか?

「あの、雉神に伝えた情報とか、虚無僧に関する話を聞かせてくれませんか?」

「虚無僧?ああ、あの笠野郎の話ね
金くれるなら良いよ」

そこまで言って探偵は俺を舐め回すように見て続けた。

「つってもあんた大した金持ってないだろうしなあ
そうだ、今夜の仕事の手伝いしてくれたら話聞かせてやんよ」

正直なところ、金はかなりあった。
姉の捜索のために所持金を全て持ち歩いていたからだ。
しかし、こんな怪しいやつ、いくら取られてもおかしくない。

「分かりました、手伝います
で、何をやるんです?」

「ん?子どもエルフの誘拐」

「は?」

「気は進まんがこれも依頼なのよ」

訳がわからない。
そんなこと、加担できる訳がない。

「そういう事なら、手伝いは辞めさせてもらいます」

出来るだけキッパリと聞こえるように言ったつもりだが、探偵も引かなかった。

「は?やる事聞いておいて辞めるとか無理でしょ
やれよ」

「でも、私はそんな悪い事…」

「んー、じゃあ、やってくれたら情報提供だけじゃなくって良いことしてあげようか」

「え?」

「さっきからあたしの身体ジロジロ見てんじゃん、ヤらせてあげるよ」

訳がわからない。
俺がどう答えていいか考えている間にも探偵は俺の腕を引っ張ってベッドに押し付けた。
鉄でできたその腕の力はとてもじゃないが抵抗できるモノではなかった。
いや、抵抗できたとしてもしなかったかもしれない。
健全に健全に生きてきた俺にとって露出度の多い下着姿の大人の女性に誘われたというだけでもう高揚してしまっていたのだから。
誘拐の協力をしなければならない事などどうでも良くなっていた。
この女エルフに身を任せてしまいたい。

そう思ってしまった。
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