君の為の不幸だったと貴方は言う

春目

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初めての感情が湧いた少年の話

Q1. 会いに行く朝

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 何だか眩しくて、そっと目を開けた時、朝日がボクの目の中に飛び込んできた。

「…………っ」

 いつの間にか開かれたカーテン。青い空と青い海、そして、ボクを真っ直ぐ見つめる真っ白な太陽。
 あまりに眩しすぎてボクはすぐに目を閉じて寝返りを打った。
 これでちょうど良くなる。また眠れる。それに……きっとそこに、あの人がいるから。
 薄暗くなったベッドの上でボクの隣にいるだろうあの人の方に身を寄せる。

「…………?」

 あれ? 
 あるはずの温もりが無くて、びっくりして、ボクは手を伸ばす。だけど、どこを触っても冷たいシーツがあるだけだった。

「………………え?」

 ぱちっ、と目が覚めてしまう。
 目を開けると、そこにはまっさらなベッドしかなかった。
 慌てて起き上がる。

「聡真さん……?」

 ついその人の名前を呼ぶ。
 だけど、朝日に照らされてる2つあるベッドはどっちも無人で、部屋には誰の気配も無かった。

「………………」

 何処に行ったんだろう……?
 不安になって、両手を握る。
 その時だった。

「柞木原様、他にご希望はございませんか?」

 扉の向こうから女の人の声……昨日のこんしぇるじゅさんの声がした。そして。

「いや、無い。ありがとう。朝から助かった」
「お役に立てて光栄です。他にも御用がございましたらご連絡ください」
「あぁ」

 少しして扉が閉まる音がする。
 ボクは急いで、ベッドから出て、リビングの方へ行く。
 扉を開けると、そこには探していたその人……聡真さんがキャリーケースを床に広げて、きちんと畳まれたキレイな服を一つずつ中に入れて片付けていた。
 ……もう外出着に着替えていて、髪まで整え終わっている。

「…………ぁ」

 そこでボクは寝坊したことに気づいた。あの人はいつも同じ時間に起きる。お仕事の日でもお休みでも。
 ……だから、ベッドにいなくて当然だ。多分あの感じだと1時間くらいボクは寝坊してる。
 あぁ、やらかしちゃったな……。
 でも、ボクはホッとした。居なくなったわけじゃないってわかったから……。
 その時、片付けを終えてキャリーケースから聡真さんが顔を上げた。
 わっと気づいた時には、聡真の目とばっちりと目が合った。

「……あ」
「稔、目覚めてたのか?」
「うん……寝坊しちゃった……」
「……。もう少し寝てても別に良かったんだがな」

 聡真さんは立ち上がると、ボクの目の前まで来て、微笑んだ。

「おはよう。稔」
「! お、おはよう」
「朝食にしようか」
「……う、うん」

 ボクの手を引いて、聡真さんはダイニングテーブルに連れてってくれる。
 ダイニングテーブルには、もう既に朝食達が並んでいた。

「稔の起床がいつになるか分からなかったが、さっき持ってきてもらったんだ。
 食べ切れるか?」
「……食べ切れる?」

 変な質問だなって思った。食べ切れるって朝食なのに? だけど、テーブルの上を見て、直ぐに質問の意味がわかった。
 そこに並んでいたのは。すごい量の皿だった。
 パンとかオムレツとかよく見るメニューもあるけど……パンは1人6種類あるしジャムもバターも何種類もあって、オムレツはオムライスぐらい大きくてソースが3つくらいかかってた。他にも3種類くらい知らないオカズが置いてあるし、スープとサラダは量も彩りもすごくて、隣にはパンケーキとフレンチトーストが並んでボクを待っていた。
 そんなに小さいテーブルでもないのに、お皿と料理でテーブルがぎゅうぎゅうだ。
 これ、食べ切れる……のかな? 

「昨日もすごかったのに……」
「大丈夫そうか?」
「……が、がんばるよ」

 そう言ってボクは席に着いた。



 朝食はやっぱり大変だった。
 全部美味しいけど、美味しいがいっぱいありすぎると苦しくなるんだ……全部食べたら、お腹がパンパンになっちゃった……。

「う……」
「大丈夫か?」
「大丈夫……」

 目の前に座る聡真さんにちょっと苦しいのを我慢してどうにか笑って大丈夫って伝える。聡真さんはそんなボクを見て笑ってた。

「随分無理をしたな」
「だって……残したら作った人が悲しくなると思って」
「えらいな、その通りだ」

 褒められた。嬉しい……。
 でも、ボクが全部食べた理由、それだけじゃないんだけどね……。
 ちらりとテーブルの上を見る。聡真さんの目の前にある皿、全部空だった。
 聡真さんは好き嫌いしたり残したりしない。ちゃんと全部キレイに食べる。だから、ボクもそうしなくちゃいけない気がして……。聡真さんに合わせると、苦手なものとかも食べないといけないから、ちょっと大変だけど……。

「稔?」
「! な、なに?」
「今日の予定を話そうか」
「うん!」
「ちなみにだが、昨夜のこと、どこまで覚えている?」
「さくや……?」

 昨日の夜ってことだよね。
 夜……夜……。夕飯食べて、お風呂で目が覚めて、それから……あっ。
 ボクはその瞬間、自分の顔が真っ赤になったのがわかった。
 ……聡真さんの裸……見ちゃったから……。

「~~~っ!」
「稔……? 大丈夫か?」
「!! 大丈夫! 大丈夫!ごめんなさい! えっと、えっと……!」

 ぶんぶんと首を横に振って、思い浮かべたそれを振り払う。流石に聡真さんから聞かれてる質問の答えがそれじゃないのはわかる。
 今日の予定……今日の予定……。
 昨日聡真さんの裸にびっくりした辺りから何故か記憶が曖昧だ。全部ぼんやりしてて、とにかくお風呂から出たくなかったのなんでだっけ……? あっ……。
 思い出して思わずボクは恥ずかしさから聡真さんの目から逃げるように身体を縮める。ボク……勃っちゃったんだった。
 それで聡真さんの前で泣いて……それで……そうだった。

「会わせたい子がいるって……」

 それを思い出した瞬間、冷水かけられたみたいに、顔から赤みが引いて恥ずかしさもどこかに行った。
 そうだった……。聡真さんに他の人がいるってすごく不安になったのに何で忘れてたんだろう。
 恐る恐る聡真さんの方を見る。
 聡真さんはボクを見て、何故か微笑んでいた。それも不思議な笑顔。すっごく微笑ましいもの見るみたいな、ちょっと遠くを見ているような、そんなボクにはよく分からない微笑みを……。

「……聡真さん?」
「……いや、なんでもない。
 話を戻そう。
 今日は午前中に会って、午後には家に帰る予定だ。
 稔の準備が出来次第、会いに行こうと思う」
「………………その子ってどこにいるの?」

 ボクがそう聞くと、聡真さんは微笑んだまま、窓の外を見た。
 つられて外を見れば、そこには雲一つない青い空と碧い海がキラキラ輝いていた。

「聡真さん?」
「……行けば分かる」
「行けば?」
「さて……稔は支度してくれ。俺は頼んでいたものを受け取りに行くから」

 聡真さんは口をナフキンで拭くと、椅子から立ち上がって扉に向かって行こうとする。ボクは慌ててその背中を引き止めた。

「受け取りってなに?」 

 そうボクが聞くと、聡真さんはボクに振り返って、なんでもないように答えてくれた。

「花束だ」












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