占い好きの悪役令嬢って、私の事ですか!?

希結

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第2章

11.悪役令嬢?と本の虫

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 翌日。

 私は昨日からお世話になっているメイド(名前はイヴと言うらしい)を引き連れて、王宮探索の続きをしていた。

 例え王宮内であろうと、どこかに行く時は必ずイヴを連れて行くように、ノエル様から言われているのである。

「ねぇ、イヴ。図書館に行ってみたいんだけど、案内してもらえる?」

「かしこまりました」

 イヴはこちらから声を掛けない限り、滅多に喋らない。私が嫌いというよりは、元々こういう性格の人なのだろう。メイドの仕事は完璧だし、全然問題ないのだけどね。

「こちらになります」

 イヴが視線を送ると、図書館の入り口らしき扉の前に立たれていた騎士様が、キィと扉を開けてくれた。

「うわぁ……」

 流石は王宮図書館、想像以上に広い。

 静かな空間に、本をめくる音や小さな物音が心地いい。本の匂いって、なんでか落ち着くんだよなぁ……

 ちなみにノエル様は、本日は公務でお忙しいらしい。午後の空き時間に、報告を兼ねてお馴染みとなりつつある、あの部屋で合流する予定である。

 ……そもそも、公務をこなしつつ【黒猫の涙】を探すなんて、結構ハードじゃない?

 ノエル様から「王宮内の探索は自由にやって構わないが、何か手掛かりを掴んだ時は自分に報告してから行動するように」と言われた。
 たとえイヴを連れていたとしても、勝手に行かないようにと、念を押されたのである。まぁ第三者の私が1人でいる時に、もしもうっかり【黒猫の涙】を見つけました、なんて事になってもマズイもんね。

「そんなに簡単に見つかる物じゃないだろうけど」

 ま、つまりは午後ノエル様と会うまで、私は自由って訳だ。まずは基礎知識をば。図書館で王家についてや【黒猫の涙】に関する歴史、それに知識をがっつり取り入れようじゃないか。

 そう意気込んで、置かれている本の数に圧倒されながらも、あれこれ本を物色する。
 が、途中からつい夢中になり過ぎていたようだ。背の高い本棚の角を曲がった所で、私は反対側から来た人とぶつかってしまった。

「わ」

 跳ね返って思わず後ろによろけそうになったのだけど、正面にいたその人がサッと私の腰を支えてくれたおかげで、転ばずに済んだ。

「あ、ありがとうございます……」

「ごめんね、大丈夫?」

「大丈夫です。こちらこそ、よそ見をしていてすみません……! えっと……?」

 パチリと目が合ったのは、銀髪に黒い瞳の優しそうな雰囲気をした男性だった。……銀縁眼鏡を掛けたこのインテリ風イケメンの方は、一体どちら様だろうか。

「あぁ、ご存知ないですよね。私はアルシオ・ベネトリアと申します」

「失礼しましたっ……! アルシオ王弟殿下にご挨拶申し上げます……!」


 うわ、昨日の今日でエンカウントするとは……! 

 この方がレアキャラのアルシオ様なのか。
 あんまりマジマジと見つめるのも失礼なので、あくまで控えめに観察させていただく。

「お、お若いのですね……?」

「ふふ。王弟といっても現陛下の兄とは、かなり歳が離れてますからね。よく驚かれるんですよ。とはいえ、もう20代後半ですが。ところで貴方は……?」

「申し遅れました、サシャ・ロワンと申します」

「あぁ、ノエルの婚約内定者がようやく決まったと話がありましたが、貴方が噂のロワン嬢でしたか」

「う、噂ですか……」

 遅かれ早かれ噂にはそりゃなるだろうなとは分かっていたけど、嫌だなぁ。絶対あのキラキラ王子様なノエル様と比べられるだろうし、釣り合わないって陰口叩かれてそう。

「噂が盛り上がっているのも、ロワン家のご令嬢があまり社交界でお見かけしてなかったからですよ。皆さんの想像以上に美しいご令嬢だったので、それも相まって噂が広まっているみたいです」

 王宮内がまた華やかになりましたね、と微笑まれた。お世辞だろうけど、物腰の柔らかい年上男性にそんな事を言われると、何だかちょっと照れる。

「ところでロワン嬢は、図書館には本をお探しに?」

「はい。お恥ずかしながら、王家の歴史についての知識が浅くて。図書館でよい資料があればと思いまして……」

「そうでしたか。でしたらこちらの棚にある本がオススメですよ」

 どうぞ、とサラリと私の読みたかった歴史書が並んだ所までエスコートしてくださった。

「館内にお詳しいんですね」

「ほぼ毎日のように入り浸ってますからね。図書館ってどうしてこう、落ち着くんでしょうねぇ……」

 ぽわぽわしてて、ノエル様やレクド王子とはまた違ったタイプの方だなぁ……

 勿論あの双子の王子様と、血の繋がりがあるだけの事がある整った顔立ちをしていたけど。ただ、王家っぽいかと言われると……そうでもないような? 毒々しくなくて、ほんわかしてるからかな。

 軽く手を振って別れたアルシオ王弟殿下の後ろ姿を見送りながら、そんな事を思ったのだった。



 ────────────────


「さてと……良さそうな本を手当たり次第に読み漁っていこうかな」

「サシャ様」

「っふぁい」

 突然後ろから話しかけられて、声が裏返ってしまった。ギリギリ叫ばなかったのは偉かったぞ、自分。こんな素敵な図書館、滞在2日目で出禁にはなりたくない。

「イヴ……気配を殺した状態で突然話しかけるのは、ほんのちょっとでもいいから控えてもらえると助かる……」

「善処します」

「いや、ほんと頼むよ? で、どうしたの?」

 よく考えたらイヴから話しかけられるのって、珍しい気がする。

「王家の歴史について知りたいのであれば、特にこちらの辺りがよろしいかと」

「……ん? オススメを教えてくれるの?」

 私が戸惑いながらそう尋ねると、コクリと頷く。そしてヒョイヒョイと本を何冊か抜いたかと思うと、それをそのまま個室のテーブルへと運んでくれたのだった。

 初めて会った人の中には、きっとイヴの事を愛想がないとか怖いとか……有る事無い事を言う人もいるんだろうな。
 でもそれって、受け取る側の勝手な考えだ。見方を変えれば、イヴ程完璧なメイドは滅多にいないのだと思う。どういう経緯で私の専属メイドを勤める事になったのかは謎だけど。

 ジッと見つめられて、私はイヴが「何か言いたげですね」と言ってるような気がして、思わずクスッと笑ってしまった。

「優しくて気が利くなぁって思っただけ。本も運んでくれてありがと」

「……サシャ様は感謝のハードルが低いです」

「何言ってるの。親切な事をしてもらったら、お礼を言うのが当たり前でしょ」

「……」

 こちらの完璧メイドさん、今絶対私の事「変わったご令嬢だな」って思っているに違いない。

 ロワン家のメイドと同じ表情を浮かべたイヴを横目に、私は本を手に取ったのだった。

 
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