占い好きの悪役令嬢って、私の事ですか!?

希結

文字の大きさ
21 / 50
第4章

21.終わらない夢を見て

しおりを挟む
 

 ニュース番組の爽やかなキャスターの声や、電気ポットが沸いた音。少し網戸にしてある窓の外からは、スズメの軽快な鳴き声が聞こえる。

 これは、特段変わった事なんてない、私のありふれた日常だった。

 あぁ……あの時の、夢か。

 すぐに合点がいって、夢の中でも思わずポツリと心の中で言葉が溢れた。

 ……嫌だな、前世の夢。
 最近は滅多に見ないと思っていたのに、このタイミングで見るなんて。

 何の因果関係かは分からないけれど、見たら最後。死ぬ時の最悪な瞬間まで、絶対起きられないと言ういわく付きなのだ。

 神様が本当にいるのなら、是非問いたい。
 私、前世で悪い事したつもりはないんだけど、なんで生まれ変わってからも嫌な思い出を蘇らせてくるんだろうか。

「どれどれ……やった、今日は運気最高」

 夢の中の私は占いの結果を見て、ニコニコとしている。そうだよ、この日はそういう幸せな気持ちで1日が始まったんだよね。

 今日1日の自分の運勢を占う事。

 占いが全てを決める訳じゃないって、勿論分かっていたけど。でも、これまで大きく外れた事なんてなかったし、私の欠かせない朝のルーティーンだった。

 だけど現実はそんなに甘くなかった。

 太陽もだいぶ落ちた頃。そろそろお店を閉めようかな、なんて考えていた時に、テテテンテテテン、とスマートフォンの音が鳴り響いた。

「はい、はい……え、、、? 祖母が……? す、すぐ向かいます……!」

 私は店仕舞いもそこそこに、慌てて病院へと走り出したんだ───


「っ、おばあちゃん……!」

 駆け込んだ病室は、静寂に包まれていた。

 私以外に家族のいない祖母の周りにいたのは、優しかった主治医の先生、いつも身の回りのお世話をしてくれていた看護師さん達。

 ベッドへと歩み寄ると、もう二度と目を開く事のない、深い眠りについた祖母の姿があった。

「容態が急変して……心肺蘇生を行いましたが……」

「そ、う……でしたか……」

 おばあちゃんが死んでしまった事を受け入れたくなくて、心が拒否しているんだろう。
 私は悲しくて仕方ないのに、涙が溢れなかった。


 今日1日の、自分の運勢を占う事。

 今日のラッキーカラーやアイテム。それから、ちょっとしたアドバイス。

 どれも大好きだったのに。

「……嘘つき」

 傘もささずに、雨が滴りながら暗い道を歩く私。
 あぁ、もうすぐ私……信号無視した車に轢かれて死んじゃうな。

「今日の運勢……最悪だったじゃん」

 重たい足を引きずる様に歩く前世の私を、ただ見つめる事しか出来なくて……何も出来なくて、いつも悲しかった。

 可笑しいよね。
 それでも私は今……生まれ変わった未来で、誰かの為に占いをしてる。

 今はまだ、自分を占いたいとは思えないけど、本当はもう、分かり始めているんだ。

 こうして占いから離れられないでいるのは──……


 ────────────────


「…………シャ、サシャ?」

「……ん、ノエル……様? …………えっ!?」

 ガバッと勢いよく上半身を起こした私と目が合ったのは、ちょっとビックリした顔のノエル様だった。

「あれ?」

 ……私、轢かれる前に目が覚めた?

 いつもと違う目の覚め方に驚きつつも、ノエル様が起こしてくれたからかな……と、とりあえず思う事にした。

「疲れて寝ちゃってたみたいだね」

「すみません。考え事をしたまま、ウトウトしてしまったみたいです……」

「いいんだよ、今日はあんな事があったんだから。ベッドで休んでてもよかったのに」

「いえ、そんな」

 私は自分の目を覚まさせようと、そこそこ勢いよくぺちぺちっと自分の頬を叩いた。

「今日の事をきちんとお話ししないとな、と思ってましたから」

 あれこれ色々と考えたけれど、クララ様が怖い思いをした被害者だという事は、紛れもない事実だから。それに、また命を狙われる可能性だってある。
 ならば早いうちに、私の見解と王子様方の意見も照らし合わせておかないと。

 私の顔があまりにも真剣だったのか、ノエル様は困った様に微笑んだ。

「やっぱりサシャって真面目だよね。無理しないでいいのに。レクドは今クララの部屋に行ってるから、当分はこっちに来ないと思うよ」

 だから僕達も休憩しよう。そう言って扉の外で待機していたイヴにお茶の声掛けをすると、私のすぐ隣に腰掛けた。

「あの……私、何か寝言で余計な事を喋ってたりとかしませんでした?」

「いや? 僕の部屋と繋がっている方の扉を軽くノックしたんだけど、返事がなかったからさ。申し訳ないけど勝手に入ってきたところ。そしたらサシャがソファーで寝てて、何だかうなされてたみたいだから思わず起こしちゃった」

 ごめんねと謝られ、私は慌てて気にしないでくださいと返した。
 むしろ起こしてくれてありがとうございます、とお礼を言いたいくらいだ。

 ノエル様に気づかれないように、そっと頬に手を当てる。

 ……よかった、今日は泣いてなくて。


 イヴに淹れてもらった紅茶を飲みながら、軽食もつまむ。まだまだ長引きそうだし、お腹も空いてきてたところだったので有難い。

「夜会はひとまず閉じられましたか?」

「うん、何とかね。一応1人ずつ確認してから退出してもらったから、結構時間がかかったよ。招かれていない客は混ざってなかった。それから不審物も見つかっていない」

「なるほど……」

「まぁどれも、入場前に全て確認済の事なんだけどね」

 でも招待客の中に犯人がいた可能性だってあるし、その判断は間違っていないと思う。思っていたよりも慎重に確認を行ったんだな。

「……あの、私、」

「現場をもう一度だけ確認しておきたい、かな?」

 え、何で分かったの、この王子様。驚く私を横目で見て、クスリとした。

「サシャならそう言うかなと思って。ガラス片も敢えて片付けずに、そのままにしておいたんだ。勿論会場内は誰も入れないように、入り口を騎士に守らせてる。レクドが来たら皆で現場検証といこうか」

 そう言うと、コテン、と私の肩に頭を乗せて寄りかかった。

「レクドが来るまで、ちょっとだけ休憩させて?」

「……ちょっとだけですよ」

 この王子様、本当よく分からないな。私に対する距離感が日に日におかしくなってる気がするんだけど。

 ……でも、夢から覚ましてくれたお礼は、しないとだからね。

 レクド王子が来るまでの少しの時間、私達の間に漂う空気は、温かくて穏やかだった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...