占い好きの悪役令嬢って、私の事ですか!?

希結

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第5章

31.彼は星の導きを乞う

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 ヒロイン(仮)ナタリーの観察日記という名の、休日尾行を終えた私は、部屋に戻ってからいそいそと寝室へと足を運んだ。勿論イヴも後ろからついて来ている。

「これは……」

「……乾燥させたドクダミの葉?」

 わざとらしく小首を傾げて笑ってみたけれど、イヴの無表情の顔の中に「うわ……」という感想を述べているのが、ありありと見てとれた。

「サシャ様がドクダミの葉をコソコソと並べて乾燥させていらっしゃったのは存じて上げております。これをどうされるおつもりなのでしょうか」

「いや、そんな大した理由はないよ? 諸事情で自分で摘んだものだし、折角だから乾燥させてみようかなーなんてふと思って。……やっぱり香り、きつかった?」

 あわよくば煎じて飲んでみようかなと思っている事は、ドン引きしているイヴにはちょっと言う勇気がなかったので、黙っておいた。

 数日前から、寝室にある窓際に置かれたサイドテーブルの上に布を敷いて、そこにドクダミの葉を数枚並べていた私。

 夜中に窓から月が見えるその位置は、ドクダミの葉に月明かりがよく当たっていた。
 黒猫のロジャに出会った時の事を思い出させてくれるから、何となく丁度いい置き場なんじゃないかなと、自分なりに感じたのである。

 その件について、イヴから何もお咎めがないから不思議に思っていたのだけど、あれか。また変な事やってるなと思われて達観視されていただけか。

 ひょい、と葉を摘んでみると、だいぶ葉から水分が抜けていた。もう完成でいいかもしれない。

「まぁ、多少は……というよりも、これを寝室に置く方はそうそうおられないかと。そもそも珍しい植物で独特な香りもしますので、進んで触れる者はまずおりません」

「え、珍しいの? 庭園の一画に植わってたのにな……毒性なんてないんだから別にそんな敬遠しなくてもいいのに。あ、でも手には香りがちょっとつくか……」

「そうですね。中々香りが落ちないので、触れると猛毒、なんて親が子どもに言って聞かせる地域もあるかと」

「ふぅん……」

 あれ、前世じゃドクダミって結構優秀な野草だったよね?
 傷薬にもなるし、煎じて飲めば解毒剤とか何とか、そんな話をおばあちゃんから聞いた事があるんだけど……

 もしかして、この世界じゃ効能とか何もないのかな。だとしたら私、無駄な事してるのでは?

 だからイヴがちょっと……いや、かなり呆れた様子だったのに合点がいったのだった。

「……? 庭園にドクダミが植っている箇所なんてありましたかね……」

 イヴの呟きを何となく隣で聞きながら、私は乾燥した葉を、作っておいた小さな布巾着にせっせと詰めたのだった。
 今度1人でドクダミチャレンジしてみよっと。


 ────────────────


 それから数日もしない内に、私はノエル様の私室にお邪魔していた。

 部屋にはノエル様とレクド王子、そして私の3人だけ。護衛騎士であるフェルナン卿やライ、イヴを部屋に入れないのには何か訳があるのかと不思議に思っていると、レクド王子が話をしてくれた。

「先日の満月の夜に起こった事、ノエルから聞かせてもらった。その件は、母の記憶についても諸々をひっくるめて、当面私達3人だけの話にしておきたいんだ」

「私達だけ、ですか」

「あぁ。勿論、フェルナン達を信じていない訳じゃないよ。だが、意図せず何処かから外部に洩れる可能性はやはり捨てきれない。それに……秘密を共有する事でこれ以上身近な人間が狙われるのを避けたい、というのが本音かな」

 そう言って、悲しげな微笑みを浮かべたレクド王子。クララ様が狙われた事で、思う事も色々とあったのだろう。その心境を思うと、私も胸がツキンとした。

「それで言うと本当はサシャも知らない方がよかったんだけど、僕がうっかりその場で話してしまったから……ごめんね」

 ノエル様まで、珍しくシュンとした様子である。

「わ、私は大丈夫ですよ。契約している身ですから、秘宝に関する点はきちんと共有できた方が嬉しいです」

 そう返事をすると、今度はちょっと不機嫌な顔をしている。何て言ったら正解なんだ。

 私とノエル様の会話を眺めていたレクド様が再び口を開く。

「それから……貴重な万能薬を快く譲ってくれると……本当にロワン嬢には頭が上がらない。この件が片付いたら、また改めて正式にお礼をさせてほしい」

「勿体ないお言葉です。夢みたいなお話なので、お2人が信じてくださって……正直未だに驚いております……」

 非現実的な物事を1から信じるのって、普通なら受け入れ難いと思う。
 私はこの世界が乙女ゲームと同じならと仮定しているから、身に起こるファンタジーな現象も受け入れられているだけだし。

「ノエルが思い出してくれたお伽話と、それを知る筈のないロワン嬢が体験した内容がほぼ同じだった。それに、信用している君達の言葉だから、私は信じていられるのさ」


 ある程度話が終わってから、ノエル様は護衛の2人とイヴを部屋に招き入れた。

「……ん?」

「どうしたのサシャ」

「あ、いえ……」

 どことなくフェルナン卿の表情が暗いような、元気がないような。

 よくよく考えたら、自分の主が命の危機に陥ったり、その主の婚約者が夜会で殺害されそうになったり、流石に疲れも出てくるだろう。

 私と同じように感じたのだろうか、レクド王子から突然、フェルナンの占いをしてみてはくれないかと提案を受けた。

 その突然の依頼に驚いたのは、私だけではなかった。

「そんな貴重な体験、わ、私ではなくレクド様に是非……!」

「いやいや。私がフェルナンを占ってみてもらいたいんだよ」

 どうだろうか、と微笑まれたら私も断る理由はないので、久しぶりに占いをする事になったのだった。

「ではフェルナン卿、お誕生日はいつでしょうか?」

「は……誕生日ですか? 自分は12月15日ですが……」

 私の唐突な質問にキョトンとするフェルナン卿である。

山羊座カプリコーン……」

「もしかして星座占い?」

 隣に座っていたノエル様の問い掛けに、私はコクリと頷いた。

「星座ごとの基本的な性格や、内面の思考傾向を知識として持っているだけなので……例によって簡易的なものにはなるのですが。山羊座の方はとても真面目で、与えられた任務を最後までやり遂げようとする努力と、その才能を併せ持っています」

 おぉ、凄いフェルナンっぽいと、ライがやや興奮しながら相槌を打つ。

「ただ、それ故に自分を厳しく律してしまう時もあるのではないでしょうか」

 言うべきか悩みつつもそう伝えると、レクド王子をはじめ、フェルナン卿本人にも思う所があるようで、苦笑していた。

「なので是非、ご自分を労る事を忘れずに。自分でも気づかない内に疲れは溜まっていくものです。無理をして身体を壊さないようにしてくださいね」

 フェルナン卿は最後まで、とても真剣な様子で私の占いに耳を傾けてくれていた。

「ロワン嬢のお言葉は優しさがあり、胸にスッと入ってきますね。占っていただき、とても光栄です。ありがとうございます」

 拙い占いだけど、それでも心が少し軽くなって負担が減っていたらいいのだけど。

 私は元気になりますようにと想いを込めて、ニコッと笑って頷いたのだった。

 
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