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第2章 黄金の瞳は語る【case1:精霊猫】
ep.12 濡れるのは嫌いなの
しおりを挟む私は、詳しくは言えないけれどと前置きをしてから、精霊騎士団としてとある調査をしている事を告げた。
そして猫好きのお兄さんから、金の瞳を持つ猫の数や、よく出現する場所を教えてもらったのだった。
「本当に助かりました……ありがとうございます。それから、今聞いた事は決して悪用しないとお約束します」
「大丈夫ですよ。貴方と話していて、猫が好きな事は充分伝わっていますから。きっと僕と同じように、猫の召使いの素質がある人なんですね……」
「え、いや、猫は好きですけど……」
申し訳ないけど、このお兄さんと同類扱いはちょっと嫌だな……?
「でも、そうですね……少しだけ欲を出してもいいのなら……願わくば、この野良猫たちの現状を少しでも偉い方々に知っていただけたらなとは思います」
お嬢さんのような猫好きの人が、騎士団に他にもいたら是非、伝えてくれると嬉しいです、と別れ際に冗談まじりで告げられた。
「ねぇ、ニア。私……動物が好きな人に悪い人はいないって思ってるんだよね」
私はお店へと戻っていくお兄さんの後ろ姿を眺めながら、ボンヤリと呟く。
『そうね。変な人だったけど、猫への愛は十二分に伝わってきたわ』
この一件が解決したら、現状を変える変えないはともかくとして、団長にそれとなく言ってみようかな……なんて思うのだった。
『さてと。この情報が確かならシルヴァに報告して、その猫攫いの対象になりえそうな猫を保護するか、もしくは猫を見張る人員を増やすか……その辺りの指示を仰ぐ事にしましょう』
「分かった。じゃあとりあえず今日は、残り時間で情報の信憑性を確かめる感じだね……って、あれ?」
夕暮れ前には帰らないと、乾燥させている薬草が湿気てしまいそうな空気だな……と思いながら空を見上げた私の鼻に、ポツリと水滴が落ちてきた。
それを皮切りに、ポツポツポツととめどなく雨粒が降り始める。
「うわ、もう降り出してきちゃった……!」
私は小さく畳まれた雨除けのフードを取り出して、慌てて頭に被った。
『いや~! 私、雨は苦手なのっ! 濡れるなんてもってのほかだわ!』
うにゃうにゃと珍しく取り乱した様子のニアがちょっと可愛い。
ニアは濡れてしまったらしい細い足をちょっと上げてピシシと振ると、瞬く間に精霊の姿へと戻った。
『メルはこの辺りで少し雨宿りしてて! 傘を借りてくるわ』
「え!? これくらい大丈夫だよ!?」
私の声を聞いているのかいないのか、ニアはポンッとあっという間に姿を消してしまったのだった。
「ほんとニアって、意外と行動的だよね……」
その場で待機を命じられてしまった私は、とりあえず路地裏の小さな軒下へと移動する。
私も精霊適性があれば、パートナー精霊に雨除けのベールの魔法をかけてもらえるのになぁと思うと、ちょっぴり雨が恨めしくなる。
適性がないで通っている私に、ニアが精霊魔法を使う訳にもいかない。
ニアにこうして傘を取りに行かせてしまうし、色々と厄介だ。
迷惑をかけて申し訳ないな……と、この天気に左右されてか鬱々とした気分になってしまった。
「あぁ? そこにいんの、黒夜の団員じゃね?」
落としていた視線を少しだけ上げると、離れた所から路地裏に入って来ようとする複数の足が見えた。
ワインレッドに金の刺繍が施されたその服装は、もう1つの団である……西の精霊騎士団・焔天。
「こんな所で何してんだよ?」
こちらの姿は薄暗い路地裏と雨も相まって、よく見えていないのだろうか、黒夜の団員だということしか認識していないみたいだった。
でも同じ精霊騎士団なのに、何となく言葉にトゲが感じられるし、嫌な予感がするのは何でだろう。
「何お前、新人? ここはさぁ、焔天が管轄してる西の第2地区。黒夜はお呼びじゃねぇの、分かる?」
機嫌が悪そうに話しながら、ツカツカと歩いてくる間、私は先日食堂でカインが途中まで話していた事を、ようやく思い出していた。
あの時カインが言いかけていたのは……
『あ、でも焔天の第2地区との仲がね……』
仲が……悪いのか……!
『悪いっていうか、最悪かも~?』
呑気にそう返して来そうな脳内カインをぺいっと追い払った。
「おい、聞いてんのかよ」
目の前で仁王立ちした背の高い焔天の団員に、無理やり頭に被っていたフードを外された。
「あ」
「あ?」
フードで隠れていた髪が、濡れた雫とともにはらりとこぼれ落ちた。仕方なく目を向ければ、先程まで辛辣な言葉をズバズバ言っていた団員が驚愕の顔で固まったまま、こちらを見ていた。
「……女の子じゃねぇか!!!」
「ロングスカート履いてるし、明らかに男とは違う華奢さだし、寧ろ何でこんなに近くに来るまで気が付かなかったの?」
これだから脳筋は……と、団員の1人が冷めた目で呟くと、私の方へとスッと視線を向けた。
「頭ごなしに責めるような言い方をしてごめんね? でも焔天の管轄エリアで、尚且つ薄暗い路地裏にその団服でいるとさ、何か探りに来たのかと間違われちゃうよ?」
「す、すみませんでした。迷い猫の飼い主探しをしてまして、気づかずに西のエリアまで来てしまっていたみたいです」
黒夜との仲が悪いのならもっと怒鳴られるかと身構えていたので、これくらいで済んでよかったのかも?
そう思いながら、私は素直に謝ってペコリと頭を下げた。
だけど、どうやらその姿が焔天の団員たちには意外だったらしい。
「……君、ほんとに黒夜の子? 女騎士でこんな子がいたら目立つし、すぐ気がついてるはずなんだけどな……」
こんな子ってどんな子なんだ私は……と、不思議に思いながら小首を傾げた。
「今年入った子なんじゃねぇの?」
「ふーん……ねぇ、こういう脳筋の男だらけの黒夜だと訓練も大変なんじゃない? 今からでも遅くないし、焔天に異動したらどう?」
うるせぇよ! と後ろで怒っている団員を気にする事なく、ニコニコと愛想よく微笑んでくる焔天の団員に、ちょっとたじろぐ。
「いえ、あの、私はそもそも……」
謎のスカウトに驚きつつも、私が慌てて返事をしようとした時、空から2つの影が落ちてきたのだった。
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