懐かれ気質の精霊どうぶつアドバイザー

希結

文字の大きさ
11 / 41
第2章 黄金の瞳は語る【case1:精霊猫】

ep.11 曇り空は不穏の合図

しおりを挟む
  

 本日は2回目の特別任務デーである。

 私と合流する前に、前回行った溜まり場に再確認しに行ったというニアの表情は、あまり冴えなかった。

「やっぱりメルの予想通り、いなくなった猫の特徴の共通点は金の瞳だったわ……」

「てことは、やっぱり城下町中を見て回って、金の瞳の子を片っ端から探すしかないって事……?」

 共通点が見つかっただけでもよかったのかもしれないけれど、この広い城下町の中で私達が出来る打開策は、果たしてそれしかないのだろうか。

「それだと時間がかかり過ぎてしまうわね。こうしている間にも連れ去られている可能性だってあるのに……」

 自然と早足になった私達が向かうのは、前回まわれなかった第2地区の路地裏の溜まり場だ。

 薄暗くて細い通路を抜けて空間に出ると、のほほんとした穏やかな人の声がそこに響いた。

「あれ? その団服……黒夜のお嬢さん、こんな所でどうされました~?」

 やけに間伸びする話し方のお兄さんが、こちらを見上げながらニコリと笑った。

 というのも、その人は汚れるのもお構いなしで、がっつりと地面に座り込んでいて、その足の上には、猫・猫・猫……

 これは、猫攫いというよりもむしろ……

「ね、猫使い……?」

「いやいや、僕は猫使いというよりも猫の召使いですよぉ」

 お待たせしました~、とガサゴソと鞄から取り出してそれをお皿へ移すと、猫たちは待ってましたと言わんばかりにそちらへと一目散に移動する。お兄さんの足元は可哀想なくらい閑散としていた。

「もしかして、貴方がよく野良猫にご飯をあげているっていう人ですか?」

「はい。僕の事はご飯をくれる召使いだと認識していただいているんでしょうね。お恥ずかしながら裕福な暮らしはしていないもので、大した物はご用意出来ていないのですが……」

 そう笑いながら、そっちの道を抜けた先にあるパン屋で3年ほど前から働いているんですと語った。

「ん? 君の隣にいるとっても美人な猫ちゃんは……城下町で見かけた事がないですねぇ」

「あ、この子は知り合いの飼い猫なんです」

 私はニアと事前に決めてあった設定をお兄さんにも説明した。

「そうなんですか……うん。綺麗な毛並みと金の瞳だし、確かに野良猫とはちょっと違いますよね。失礼しました」

 私とニアの纏った空気がピシリと、ほんの少し固まった。何気ない一言にドキドキするのは、私たちが勝手に猫攫いの容疑者の可能性を感じて警戒しているから。

 優しいフリをして猫を寄せてつけて捕まえる事だってあり得るかもしれない。

 ……この人は敵なのか、はたまた味方なのか。

「つかぬ事をお聞きしますが、またたびってご存知ですか?」

 精霊野良猫の話だと、変な物を嗅がされて連れ去られたと話していた。私はそれを聞いた時に「もしかしてまたたび?」と思ったのである。

 前世の記憶を辿れば、確かまたたびは猫が好む香りを持つ草木の事である。

 それを猫が嗅いだり舐めたりすると、一時的に興奮状態になり、ストレスを発散させるのに効果的だという豆知識を、昔ネットで拾った記憶があった。

 そしてまたたびは、猫を酩酊させるとも聞いた事があったのだ。アルコールとはまた違うが、摂取量を間違えると呼吸困難だったり神経麻痺を起こす事もあるのだと。

「うん? 勿論知ってますよ。でも……猫にまたたびは、量を間違えば毒にもなりますからね。きちんと扱える飼い主さんならいいですが、個人的にはあまりオススメはしないかなと」

「お兄さんはまたたびを推奨していない感じなんですね」

「そうですねぇ。僕自身もきちんとした適正量が分からないので、自分がよかれと思ってした事が間違っていて、猫にとって悪い影響だったということは避けたいんです。獣医に診てもらうのはお金もかかりますし」

「確かに……でも野良猫たちも、本当ならお医者さんに一度診てもらいたいですよね……」

「はい。でもお金のない僕に出来る事は、少しのご飯の提供と、猫と触れ合っていつもと違う所がないかの確認。正直なところ、これくらいしかないんです」

 この人……仕事とかじゃなくて、ただ猫に対する純粋な好意だけで、城下町の猫たちを見守ってくれているんだな。

 うぅ、少しウルッときたかも。

 人知れず感動していた私の前に、フサフサした猫の尻尾のようなアレが突然現れた。

「えーーーーっと……ねこじゃらし……?」

「そうです! 僕はっ、またたびよりもっ、同じ草なら断然ねこじゃらしの方が好きなんですよ! この自然が生み出したモフモフ、疑似的な猫のふさふさしっぽ感、堪りませんよね~!」

『……薄々気付いていたけど、この人、だいぶ変な人だわ』

 横で呆れたように小さく呟いたニアに、私も同意の意を込めて頷いておいた。

 でも、猫を攫うような悪人には今のところ思えない。

 わざわざ自分の時間を割いてまで、何年もご飯をあげ続けるような人だ。決まった猫を家に連れて帰りたいのなら、それこそ食べ物を餌にしてもっと早い段階でやっている筈だろう。

 それに変人=悪人という訳ではないしね。

「そういえば……金の瞳の子だけ、最近めっきり数が減って見かけなくなったんですよね。そういう見た目の子を好きな方が、家に迎えてくださったんでしょうか」

「えっ……?」

 私、まだこの人に事件の内容は何も話してないよね? 

「なんで、そんな事が分かるんですか……?」

 私は内心ドキドキしながらも、さり気なく続きを催促するかのように問いかけていた。

「僕、城下町にいる猫の特徴や生息地を、ほぼ全部把握してるので!」

 ちょっとドヤ顔のお兄さんに、だいぶ引いた様子のニア。

 かくいう私は、この人の力を借りれば、また起きるかもしれない猫攫い事件を未然に防ぐ事が出来るのでは……と、期待を抱き始めていたのだった。

 そんな気持ちとは裏腹に、空は本格的に雨曇がかかりはじめる。

 これから雨が酷く降りそうな予感がした。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...