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第三章 マイ・フェア・レディ

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「ユーリ、今頃見学を楽しんでるかな?」

政務の合間、ふと思い出した僕は
騎士団の方を見やった。

レジナスの双剣姿を見てカッコいい、と
はしゃぐ姿はとても微笑ましかった。

女の子なのに剣を怖がることもなく、騎士団を
見学出来ると知ったらとても喜んでいた。

ちょうど警備の都合上そろそろ騎士団の面々にも
癒し子のことは紹介したいと思っていた。

彼らは召喚の儀式に立ち会ってはいたが
ユーリの顔は知らない。

これから彼女が王宮以外の場所でその力を
発揮する時には彼らの協力が不可欠だ。

顔を知ってもらい、言葉を交わして
その人となりを理解してもらえれば
騎士達もこれから先
ユーリの護衛につく時の真剣味が違ってくる。

何より、あのレジナスの表情を変えられる位の
人物だと知ればいくら子どもだろうと
ないがしろにはしないだろう。

幼な子だが、ぞんざいな扱いはさせない。
その牽制のためにもユーリとレジナスが
一緒に騎士団に顔を出せることになったのは
ちょうど良かった。一息入れるか、と
お茶を淹れるために立ち上がる。

仕事に集中したいので、政務官達には書類を
置いていってもらい人払いをしているので
好きなお茶も自由に楽しんでいる。

紅茶を一口飲んでほっと息をついた。

「そういえばレジナス、ちゃんとユーリに
いいところは見せられたかなあ」

今朝声を掛けた時は、まるで意味が分からない。
という顔をしていたけど、何だかなあ。

僕の目が見えない時は、ユーリに対する
レジナスの態度がなんだか過保護だな、とか
妹が出来たみたいで嬉しいのかな?と
思っていたけど
目が治り、いざ2人の様子を目の当たりに
してみたら一目瞭然だ。

・・・なんだいレジナス、ユーリの事が
好きなんじゃないか。
だからあんなに構って
あれこれ世話を焼いてたのか。

でもこれは昔からレジナスと一緒だった
僕だから
気付いたのかも知れない。
パッと見は普段とそこまで
表情は変わらないし、レジナス自身も
感情を抑えているようだった。

奥の院に、ユーリが引っ越すよう勧めた時も
レジナスは一緒に移ってきていいか、なんて
突然言い出したけどあの時も自分自身の
ユーリに対する気持ちを自覚してなくて、
自分の中の感情に戸惑っているみたいだった。

それはユーリのことが好きだからだよ、
と教えてあげたいけど・・・どうしようかなあ。

僕はユーリの事が好きだ。
話していて楽しいし、ユーリが喜んでいると
僕までたまらなく嬉しくなる。
ふとした仕草も可愛くて目が離せないし、
何かしているとつい目で追ってしまう。

あのきらきらした、
夜空に星が輝いているような瞳を
飽きることなくずっと見ていたい。

そして、僕がそう思っているように
ユーリも僕に対してそう思ってくれたら
どんなに幸せだろう。

僕を治したユーリが、治すだけでなく
様々な魔法効果を僕に付与してしまい
責任を取ると言い出した時に
じゃあずっと一緒に居て、と言ったけど
冗談だと思われてしまったから
僕がユーリを想うほど、
まだユーリは僕のことを
想ってくれていないのは確実だ。

今は一緒の宮で顔を合わせる事も多いから
早く僕のことを意識してくれるようになると
いいなと思っている。それとも、もう少し
積極的に動くべきだろうか?

そう。僕は僕の気持ちをきちんと分かっている。
ユーリが好きで、手に入れたい。
ずっと僕を見ていて、と言いたくなる。

でもそう思うと同時に、ユーリを見つめる
レジナスの優しい目を思い出す。

彼があんなに愛しそうに誰かを
見つめているのは初めてだ。
あまりの感情表現の不器用さに嫁が来るのか、
好きな人なんて出来るのかと一時期は
兄上やカティヤと心配したこともあった。

そのレジナスに好いた相手が出来た。
普通なら喜ぶべきことだ。

想像してみる。
僕の隣にはユーリ。
幸せそうにあの美しい瞳を煌めかせて、
僕と見つめ合い微笑んでいる。

と、突然ぱっと反対側を向いて
そちらに話しかけると、
鈴を転がしたような笑い声を上げる。
相手はレジナスだ。
2人はお互いを見つめ合い、
レジナスの目にも幸せそうな色が浮かんでいる。

何度も想像して見たけれど、
驚くことにその時の僕はレジナスに対して
あまり嫉妬をしていないのだ。

こっちを見て、とは思う。
でも僕だけを見て、とは思わない。
3人一緒にいる風景があまりにも
自然に想像出来てしまうのだ。

だからだろうか。
レジナスにも早くユーリに対する
気持ちを自覚して欲しいと思うのは。

自覚して、彼女に振り向いて欲しいと思って、
どうすれば手に入るか悩んで、
僕と同じところまで堕ちてきて欲しいと
さえ思ってしまう。

本棚から一冊の本を引き抜く。
僕がユーリへの気持ちを自覚してから
何度も読み返した本だ。

王室典範と国内の法令特殊事例が載っている。

婚姻に関する特殊事例。

基本、ルーシャ国は一夫一妻制。

ただし貴族平民に関わらず
特別な能力を持つ者はその定めにあらず。

その特別な才能と血を後世に引き継ぎ
人々を守るため、魔物と天災にさらされ
過酷な世界を生き抜くために
遥か昔に定められた法だ。

だから僕達王族や神官、優れた魔導士は
その特別な能力や血脈を
なるべくたくさん残すため、
ある程度までの一夫多妻が認められている。

兄上はヴィルマ義姉上一筋だから例外だけど、
父上は僕達の亡くなった母親・・・正妃のほかに
4人の側妃を持ち今も皆仲睦まじく暮らしている。

ユーリは王族はおろか、
この世界の人間ですらない。
だけど特別な能力を持つ者だ。

本の中のとあるページを開く。
この本は王室典範の中でもかなり
特殊な事例が載っているけど僕が
この本の中で何度も読み返して
いたのはここだ。

『救国の勇者にして偉大なる指導者
レン・カンバラは人々から求められるままに
25を娶り、
なお一層ルーシャ国の繁栄に貢献した。
この事例は異世界からの召喚者による
特殊事例である。
それ以外の王族を含む
ルーシャ国人民については
5人以上の配偶者を娶るには
貴族議会・人民立法院・大神官法廷の
3議会の全会一致での承認以外は
認めずー・・・』

まさかユーリに7人も夫をとれとは
言わないが、
この前例があるなら将来的に
僕とレジナスの2人が
同時にユーリの配偶者に
並び立つことも出来る。

でもそのためにもまずはレジナスが
ユーリに対する自分の気持ちを自覚しないと。

それから、ユーリ。彼女にも僕とレジナスの
2人を意識してもらわなければならない。

話はそれからだ。

「だからいい機会だと思って、今朝は声を
掛けたんだけどなぁ・・・」

レジナスの奴、全然分かってなかったな。
それどころか、ユーリに接する僕を見てたまに
こいつ正気か?みたいな心配そうな
視線を感じるのは何故だろう。
僕がユーリを好きなことは
分かっているはずなのに。

レジナスがユーリへの気持ちを自覚したら、
2人でユーリのかわいいところについて
語り合うことも出来るだろうか?

ああ、それともレジナスと結託して、
2人一緒にユーリを真ん中にして彼女が
音を上げるまでどろどろに甘やかして
あげるのもいいかも知れない。

そんな日が来るのが待ち遠しい。

それまではまだとりあえず、僕だけが彼女を
うんと可愛がってあげよう。
優しい笑みを投げかけ、
美しい宝石とドレスで着飾らせ、
美食であの愛らしい笑顔を引き出そう。

小さくてもいつだって彼女は僕の美しい人マイ・フェア・レディだ。

でもいつか、・・・そう。
近い将来、僕とレジナス2人にとっての
大切な人になるといいなと思う。

そんな事を願いながら、
僕は本を静かに閉じて
今騎士団にいるはずのユーリと
レジナスの2人に思いを馳せた。









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