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第十二章 癒し子来たりて虎を呼ぶ

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美人は三日で慣れると言うけど、恐ろしいことに
寝起きのあの色っぽくてなんだかどきどきする
リオン様にも段々と慣れてきてしまった。

そう。あれから4日ほど毎日リオン様と一緒に
寝ている。しかも毎回目を覚ますとリオン様に
抱き締められていて、陛下のくれた羊さんは私から
遠く離れたところに転がっているのだ。

「毎朝こうしてくっ付いているなら、あの羊を間に
置く意味はないんじゃない?」

昨日の夜はとうとうそんな事をリオン様に言われて
しまった。それはそうかも知れないけど!
何となく私の気持ちの問題なのだ。

しかも今朝はそれに追い討ちをかけるように
朝食の席で、

「それに毎回寒そうにくっ付いてくるけど、そんなに
寒いなら試しにレジナスもユーリを挟んで僕と
反対側の隣に寝かせてみる?多分レジナスの方が
僕より暖かいよ。両側から手を繋いであげるし。」

そんなことまで言ってきた。

・・・三人一緒に?川の字で?

「趣旨が違います‼︎」

私はヨナスの夢を見ないためにリオン様と一緒に
寝ているのであって、寒いからと言ってレジナスさん
まで寝室に引き込むのは違うでしょう⁉︎

「暖まりたいだけならあったかい毛布があれば
充分ですっ‼︎」

思わず大きな声を出してしまい、リオン様の後ろに
レジナスさんが控えていたことを忘れていた。

心なしかその顔がしょんぼりしているようにも見えて
慌ててレジナスさんに声をかける。

「違うんです、レジナスさんがイヤとかじゃなくて!
レジナスさんがあったかいのはよく分かってます、
そっ、そうだ昼寝!この間レジナスさんの膝の上で
昼寝した時はとっても気持ち良かったのでまたお願い
しますね⁉︎」

必死にレジナスさんを励ます。そんな私をリオン様は

「そんなに大きな声が出るくらい元気になって
良かったよ。久しぶりに明るいユーリを見られて
嬉しいな。」

目を細めて笑っている。

「おかげさまで夜はぐっすり眠れてますよ?でも
毎回陛下の羊さんを遠くに放るのだけはかわいそう
じゃないですか⁉︎」

「やだなあユーリ、知らないの?あれは魔法の羊で
深夜になると一人で勝手に遠くに歩いて行くんだよ?
放るだなんて人聞きが悪い。」

どうしてこうも平然と分かりきったウソをつくのか。

まさかだけど、陛下のくれたあの羊さんにすら
焼きもちを焼いているのかな⁉︎ぬいぐるみに罪は
ない、ただかわいいだけなのに。

むうと膨れれば、ユーリはどんな顔をしても
かわいいねと頭を撫でられてしまう。

「そろそろ試しにもう一度一人で寝てみてもいいと
思うんですよね・・・」

これだけリオン様と一緒にいればヨナスの力も少しは
弱まってくれてないかなあ。

希望的観測でそう言えば、とんでもないとリオン様が
首を振る。

「せめて一週間は側にいさせてよ。せっかくユーリの
調子が戻ってきたのに、ここでまた元に戻ったら
大変だからね。」

そう言われて結局その夜もリオン様と一緒の布団だ。

「やっぱり羊は置くんだ。」

ベッドの真ん中に置かれた羊にリオン様が苦笑して
いる。

「たとえ夜中に勝手にどこかに歩いて行くとしても、
今はとりあえず動きませんからね!この子には私が
眠るまでここにいてもらいます!」

横になり、はい、と右手を隣のリオン様に差し出す。

そうしていつものように、おやすみユーリ。と
微笑まれたので挨拶を返して目を閉じる。

・・・その夜、不思議な夢を見た。久しぶりにあの
グノーデルさんに会ったのだ。

しかも仔虎じゃなくて、ヒグマくらい大きくなった
モフモフの大トラだ。夢の中、

「グノーデルさんが大きくなってる‼︎」

驚いて声を上げた私はそのまま駆け寄って抱き着く。

モフッ、とその白くて柔らかい毛皮に顔を埋めれば
ひなたの匂いがした。

「久しぶりだなユーリ!せっかくレンの血を引く者と
一緒に寝ているのに、お前の眠りが深すぎて今まで
会えなかったぞ!」

ペロリと私の顔をグノーデルさんが舐める。

「レン・・・?あ、勇者様か。子孫であるリオン様と
一緒に寝てるからこうして夢の中で会えるんですか?
それにしても初めて会った時よりも大きいですね。」

うむ、とグノーデルさんが頷く。

「これは夢であって夢ではない。お前の意識だけを
俺の世界に呼び込んでいるのだ。」

すとんと座ったグノーデルさんに促されてそのお腹に
寄りかかるように一緒に座れば、モフモフした毛皮の
グノーデルさんに包まれているみたいで安心する。

「お前には礼を言いたかったのだ。ヨナスの力を
削いで世界を安定させる為にレンに加護を与えて
大量の力を使い果たし、小さくなっていた俺を
大きくしてくれたのはお前だからな!」

「私ですか?」

「ダーヴィゼルド領で俺の加護を降ろしただろう?
そのおかげであの地への巡礼や俺への信仰が高まり
それが俺の回復を早めたのだ!その結果、今では
ここまで大きくなれた。あともう少しでもっと大きな
本来の力と姿を取り戻せるし、人型にも戻れるぞ!」

グノーデルさんが蒼い瞳を細めて私を見つめる。

グノーデルさんへの信仰心が高まるとそれに比例して
グノーデルさん自身も力を取り戻すとは。

「そうだったんですね。ダーヴィゼルドでは
グノーデルさんのおかげで助かりました!
ヒルダ様達も大変喜んでいましたよ。」

うむ、と頷いたグノーデルさんは機嫌のいい猫の
ようにその白くて立派な尻尾をパタパタさせた。

「そこでユーリに一つ頼みがある。俺が加護を付けた
レン愛用の小刀をあのダーヴィゼルドの山に届けて、
お前が作ったあの泉の横にでも小さな祠を作って
くれないか?」

「え?」

「今でもあの山には充分俺の加護が付いているが、
俺の力を媒介する物があれば悪竜でも何なく祓える
強力な加護を更に与えられるからな。そのためには
一度でも俺の加護を降ろして相性のいいレン愛用の
小刀がピッタリだ。」

「てっきり今のままでもあの山には竜も寄ってこない
のかと思ってました。」

「普通の竜ならそうだがこの間の騒ぎのように、
もし誰かがヨナスの力を利用して竜を狂わせれば
今あの山についている加護だけでは難しいからな。
念のためだ。それに、勇者の遺物が祀られていれば
あの山への巡礼がもっと増えるだろう?そうすれば
俺が力を取り戻すのも、もっと早まる!」

ふん、と鼻息荒くグノーデルさんはそう言った。

「分かりました!それで、その小刀はどこに置いて
あるんですか?」

「うむ、それは・・・」

その時突然、話を続けているグノーデルさんの声が
急に小さくなってよく聞き取れなくなった。

慌ててグノーデルさんが立ち上がり、寄りかかって
いた私はころんと転がる。

グノーデルさんは口をぱくぱくさせて何か話して
いたけれど、何も聞こえない。

その姿もうっすらと霞んできた。もしかして、
私の目が覚めるからグノーデルさんの世界から
現実に引き戻されるんだろうか。

姿が薄く消えかけてきたグノーデルさんは最後に
その大きな前足を私の首元に伸ばしてきた。

ガリッ、という鈍い音で私は目を覚ます。

・・・夢?パチパチとまばたけば、いつものように
私はリオン様に抱き締められての目覚めだ。

「おはようユーリ。一体どんないい夢を見たの?」

「え?」

もそもそと顔を動かしてリオン様を見上げれば、

「僕に抱きつきながらもふもふ、って寝言を言って
たよ。・・・ああ、動かないで。ユーリの方から
抱き締めてくれるなんてなかなかないからね。
もう少しそのままでいて。」

朝からものすごく嬉しそうな顔でそう言うリオン様に
固まって、自分の姿を見れば自分からもしっかりと
リオン様の背中へ腕を回して抱きついていた。

これはあれだ、夢の中で大きくなったグノーデルさん
のモフモフを堪能しようと抱きついたそのままに
寝ぼけてリオン様に抱きついてしまったんだ。

「こ、これには深い理由があって・・・‼︎」

「理由なんていらないよ。ユーリがそうしたいと
思ったらいつでも抱き締めてくれていいんだから。」

リオン様は私の言葉を聞く耳持たずに、ただひたすら
嬉しそうに私の額に口付けた。

それじゃダメだ、夢の中でグノーデルさんが言ってた
ことをリオン様にも伝えなきゃ。

あれ、でもこの流れだとその話すら寝ぼけて
抱きついた私の言い訳だと思われるのかな?

証拠もなしに夢の中の話を信じてくれるものか、
ちょっとだけ心配になった。
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