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第十八章 ふしぎの海のユーリ
23
シグウェルさんに合流すると言うシェラさんは、朝の
私の世話を終えると満足したのか出掛けようとした
ものの、ふと何かを思い出したように私の前に片膝を
ついた。そして
「では行ってまいります、オレに女神のご加護を」
とか何とか言って自分の額に私の口付けを望む。
膝をついて期待に満ちた目で待機されているその姿は
私が口付けるまで多分ずっとそのままだ。
いつまでも待ちますよ、と言外に目で訴えられたので
小さくため息をついてその顔に手を触れる。
「いってらっしゃい、くれぐれも怪我には気を付けて
くださいね。」
魔物の攻撃を弾いてかすり傷の一つも負いません
ように。
そんな思いを込めて前髪をかき上げて額に口付ければ
シェラさんの体がほんのりと淡い金色に光った。
ありがとうございます、と満足げに言ったシェラさん
は大切そうに私の口付けた部分に触れると、前髪で
丁寧にそこを隠して立ち上がる。
「もしユーリ様が魔物狩りを見たいというなら、
必ず側にはエルとユリウス副団長をおいて下さいね。
この屋敷の敷地内であれば結界内で安全ですし、
入り江の方角がよく見える小高い丘もありますから」
そう説明された。私の性格上、黙って屋敷の中に
引きこもっているとは思えなかったんだろう。
それなら安全な場所で護衛に守られて見てもらう方が
いいというわけだ。
「シグウェルさんにも気を付けるように伝えて
くださいね!」
伝言を頼めばにこりと微笑まれる。
「彼ならばむしろ手加減するように頼む方が良いと
思いますが・・・せっかくのユーリ様のお気持ち
ですからね、伝えておきましょう。」
あ、そっちを心配した方が良かった?
そう思いながらシェラさんを見送れば、入れ違いで
ユリウスさんが現れた。
さっき私が目覚めた時のシェラさんは昨日までの
私服と違っていつもの隊服姿だったけどユリウスさん
も見慣れた宮廷魔導士団の制服姿だった。
「もしかしてシグウェルさんも団服ですか?休暇
なのにみんなは制服を持ってきてたんですか?」
私の疑問にユリウスさんが笑って答えてくれる。
「まあ何があるか分からないんで念のために持って
きてたんすよ。俺らの隊服やら団服は防御魔法が
かかってるんで魔物の攻撃から体を守ってくれる
意味もあるし。」
促されてシェラさんの話していた小高い丘の上へと
散策でもするように歩きながらユリウスさんは更に
説明してくれた。
「それにこの格好だと中央の王家直属の部署の人間
だって分かりやすくて身分証明代わりで便利なんで。
今朝も朝イチで町のお偉いさんにこの格好で殿下の
勅書を持ってったら何事かって腰を抜かす勢いで
怯えられたっすよー」
あはは、と笑ってるけど笑いごとだろうか。
「おまけに団長までやって来て、邪魔になるから
あの入り江と港から今すぐ住人全員退避させろ、
ってあの無愛想で傍若無人な態度で言うもんだから
ますます怯えられちゃって。まあそのおかげで、
すでに漁に出ていた船まであっという間に呼び戻して
もらえたんで避難もすんなりいって助かったっす。」
ということは、もし何かあってもリオネルの町の人達
が怪我をするようなことはないということだ。
「こんな一地方に突然宮廷魔導士団長が現れるなんて
滅多にないことだからみんな相当ビビったと思うっす
よー。この後キリウ小隊の隊長まで現れるんすから、
末代までの語り草になるかも知れないっすね。」
とユリウスさんはのん気だけど、被害甚大にして
違う意味での語り草にならないといいな・・・と
私はいまいち不安だ。
「ユリウスさんは行かなくていいんですか?」
「俺っすか?団長が出るんなら俺の出番はないっす。
何かあるとしたら後始末か尻拭い・・・」
あ、悪いことを聞いてしまった。
なんか急にユリウスさんが遠い目をしてその言葉が
尻すぼみになったので、魔物を倒した後のあれこれに
ついて考えてしまったらしい。
「だ、大丈夫ですよ!私は壊れた物は直せませんけど
この騒ぎで魚がとれなくなったとかの生活に支障が
出ないように豊穣の加護は付けられますから!町の
人達の生活保障はまかせて下さい!」
まだ何も始まっていないうちからユリウスさんを
励ましていれば、エル君に声をかけられた。
「ユーリ様、あそこにテントとテーブルが見えます。
シェラザード様が用意しておいたものでは?」
その視線の先を見ると確かに言われた通りのものが
見えた。テーブルにかかっている白いレースの
テーブルクロスがひらひらと風になびいている。
その上には刻んだ果物が数種類入っている紅茶らしい
ピッチャーとグラスも乗っていた。フルーツティー
だろうか。
冷やすためにピッチャーの中にはちゃんと氷も入れて
ある。
近付いてみればアイスティーだけでなくクッキーや
焼き菓子が綺麗に並べてあるお皿まであった。
並々と紅茶が入っているピッチャーの中に浮かんで
いる氷がカランと涼しげな音を立てる。
「相変わらずあの隊長は用意周到って言うか・・・
これでもつまみながら自分達の仕事を見てて下さい
っていう意味っすかね?え?ピクニック?」
呆れたように言ってユリウスさんは焼き菓子を一つ
手に取った。
エル君はさして気にする風でもなくさっさとグラスに
アイスティーを注ぐとクッキー類も別皿に取り分け、
私に座るように促す。そして
「大した仕事ではないのでそんなに心配せず気楽に
見ながら待っていてくださいってことだと思います」
と言った。
「ええ・・・?そうなんですかね?」
そう言った時だった。昨日と同じように足元にまた
かすかな振動を感じた。
と思ったら、入り江と一緒に目の前に広がる視界の
隅に入っていたあの無人島に近いところに水しぶき
・・・というか水柱が立った。
「あ、始まったっすね」
私の横に立ったままユリウスさんが言う。
ドーン、という音も聞こえて、最初の水柱の後を追う
ように二つ、三つと続けて水柱が上がった。
「あれは何です⁉︎」
明らかに何かの魔法だけど。無人島すれすれに
上がった水柱に、いつあの魔法らしきものが無人島
にも当たって崖崩れを起こすかとヒヤヒヤする。
「あの無人島の海底近くまで洞穴が伸びているらしい
んで、まずはそっちに逃げ込めないようにその洞穴を
崩して塞ぐって団長は言ってたっす。あそこをあんな
風にされたら魔物は入り江側の洞穴に引き返すしか
なくなるっす。」
言うなれば魔物の追い込み漁みたいなもんすかね?
とユリウスさんは説明してくれた。
入り江側に魔物を誘導して、できればあの入り江の
洞穴の中で仕留めてしまうのが一番被害は少なく
済むんだろうけど・・・。
見つめているとその入り江が揺れて土煙が上がった。
この丘の上まで小さな縦揺れを感じたのでかなりの
衝撃じゃないだろうか。
「シグウェルさんはあの中ですか?」
「そのはずっす。シェラザード隊長も近くに待機して
いて、様子を見ながら援護する予定で」
ユリウスさんが話している途中だった。入り江が
さっきよりも大きな土煙を上げて、その中から太い
タコの足みたいな物が数本大きく空へと高く伸び
上がった。お世話になっている三階建てのお屋敷の
高さと同じくらいはありそうだ。
「でっか!あれが魔物っすね⁉︎」
思わずユリウスさんが声を上げる。と、空へ向けて
伸び上がったそれは崩れかけた入り江の中のある
一点を目指してその全てが向かって行った。
もしかしてそこにシグウェルさんがいるんだろうかと
ハッとしたら、そのタコの足みたいな物はその一点に
届く前にスパンと切断されたのが分かった。
こちらまで届くような重い地響きと大きな水しぶきを
あげながら、切断された足は地面や海面へ落ちて
いく。あれはシェラさんの鞭で切られたのかな。
落ちてくる足の一部は港やそこに係留してある船
にも当たって船や港を壊している。
もうすでに町に被害が出てしまった。
それに足があれだけ大きいと、本体はどうなってる
んだろう。二人だけで本当に大丈夫かな。
のんびりお茶とお菓子を楽しみながら見物なんて
とんでもない。
距離はあるけど、ハラハラしてその様子を見守った。
私の世話を終えると満足したのか出掛けようとした
ものの、ふと何かを思い出したように私の前に片膝を
ついた。そして
「では行ってまいります、オレに女神のご加護を」
とか何とか言って自分の額に私の口付けを望む。
膝をついて期待に満ちた目で待機されているその姿は
私が口付けるまで多分ずっとそのままだ。
いつまでも待ちますよ、と言外に目で訴えられたので
小さくため息をついてその顔に手を触れる。
「いってらっしゃい、くれぐれも怪我には気を付けて
くださいね。」
魔物の攻撃を弾いてかすり傷の一つも負いません
ように。
そんな思いを込めて前髪をかき上げて額に口付ければ
シェラさんの体がほんのりと淡い金色に光った。
ありがとうございます、と満足げに言ったシェラさん
は大切そうに私の口付けた部分に触れると、前髪で
丁寧にそこを隠して立ち上がる。
「もしユーリ様が魔物狩りを見たいというなら、
必ず側にはエルとユリウス副団長をおいて下さいね。
この屋敷の敷地内であれば結界内で安全ですし、
入り江の方角がよく見える小高い丘もありますから」
そう説明された。私の性格上、黙って屋敷の中に
引きこもっているとは思えなかったんだろう。
それなら安全な場所で護衛に守られて見てもらう方が
いいというわけだ。
「シグウェルさんにも気を付けるように伝えて
くださいね!」
伝言を頼めばにこりと微笑まれる。
「彼ならばむしろ手加減するように頼む方が良いと
思いますが・・・せっかくのユーリ様のお気持ち
ですからね、伝えておきましょう。」
あ、そっちを心配した方が良かった?
そう思いながらシェラさんを見送れば、入れ違いで
ユリウスさんが現れた。
さっき私が目覚めた時のシェラさんは昨日までの
私服と違っていつもの隊服姿だったけどユリウスさん
も見慣れた宮廷魔導士団の制服姿だった。
「もしかしてシグウェルさんも団服ですか?休暇
なのにみんなは制服を持ってきてたんですか?」
私の疑問にユリウスさんが笑って答えてくれる。
「まあ何があるか分からないんで念のために持って
きてたんすよ。俺らの隊服やら団服は防御魔法が
かかってるんで魔物の攻撃から体を守ってくれる
意味もあるし。」
促されてシェラさんの話していた小高い丘の上へと
散策でもするように歩きながらユリウスさんは更に
説明してくれた。
「それにこの格好だと中央の王家直属の部署の人間
だって分かりやすくて身分証明代わりで便利なんで。
今朝も朝イチで町のお偉いさんにこの格好で殿下の
勅書を持ってったら何事かって腰を抜かす勢いで
怯えられたっすよー」
あはは、と笑ってるけど笑いごとだろうか。
「おまけに団長までやって来て、邪魔になるから
あの入り江と港から今すぐ住人全員退避させろ、
ってあの無愛想で傍若無人な態度で言うもんだから
ますます怯えられちゃって。まあそのおかげで、
すでに漁に出ていた船まであっという間に呼び戻して
もらえたんで避難もすんなりいって助かったっす。」
ということは、もし何かあってもリオネルの町の人達
が怪我をするようなことはないということだ。
「こんな一地方に突然宮廷魔導士団長が現れるなんて
滅多にないことだからみんな相当ビビったと思うっす
よー。この後キリウ小隊の隊長まで現れるんすから、
末代までの語り草になるかも知れないっすね。」
とユリウスさんはのん気だけど、被害甚大にして
違う意味での語り草にならないといいな・・・と
私はいまいち不安だ。
「ユリウスさんは行かなくていいんですか?」
「俺っすか?団長が出るんなら俺の出番はないっす。
何かあるとしたら後始末か尻拭い・・・」
あ、悪いことを聞いてしまった。
なんか急にユリウスさんが遠い目をしてその言葉が
尻すぼみになったので、魔物を倒した後のあれこれに
ついて考えてしまったらしい。
「だ、大丈夫ですよ!私は壊れた物は直せませんけど
この騒ぎで魚がとれなくなったとかの生活に支障が
出ないように豊穣の加護は付けられますから!町の
人達の生活保障はまかせて下さい!」
まだ何も始まっていないうちからユリウスさんを
励ましていれば、エル君に声をかけられた。
「ユーリ様、あそこにテントとテーブルが見えます。
シェラザード様が用意しておいたものでは?」
その視線の先を見ると確かに言われた通りのものが
見えた。テーブルにかかっている白いレースの
テーブルクロスがひらひらと風になびいている。
その上には刻んだ果物が数種類入っている紅茶らしい
ピッチャーとグラスも乗っていた。フルーツティー
だろうか。
冷やすためにピッチャーの中にはちゃんと氷も入れて
ある。
近付いてみればアイスティーだけでなくクッキーや
焼き菓子が綺麗に並べてあるお皿まであった。
並々と紅茶が入っているピッチャーの中に浮かんで
いる氷がカランと涼しげな音を立てる。
「相変わらずあの隊長は用意周到って言うか・・・
これでもつまみながら自分達の仕事を見てて下さい
っていう意味っすかね?え?ピクニック?」
呆れたように言ってユリウスさんは焼き菓子を一つ
手に取った。
エル君はさして気にする風でもなくさっさとグラスに
アイスティーを注ぐとクッキー類も別皿に取り分け、
私に座るように促す。そして
「大した仕事ではないのでそんなに心配せず気楽に
見ながら待っていてくださいってことだと思います」
と言った。
「ええ・・・?そうなんですかね?」
そう言った時だった。昨日と同じように足元にまた
かすかな振動を感じた。
と思ったら、入り江と一緒に目の前に広がる視界の
隅に入っていたあの無人島に近いところに水しぶき
・・・というか水柱が立った。
「あ、始まったっすね」
私の横に立ったままユリウスさんが言う。
ドーン、という音も聞こえて、最初の水柱の後を追う
ように二つ、三つと続けて水柱が上がった。
「あれは何です⁉︎」
明らかに何かの魔法だけど。無人島すれすれに
上がった水柱に、いつあの魔法らしきものが無人島
にも当たって崖崩れを起こすかとヒヤヒヤする。
「あの無人島の海底近くまで洞穴が伸びているらしい
んで、まずはそっちに逃げ込めないようにその洞穴を
崩して塞ぐって団長は言ってたっす。あそこをあんな
風にされたら魔物は入り江側の洞穴に引き返すしか
なくなるっす。」
言うなれば魔物の追い込み漁みたいなもんすかね?
とユリウスさんは説明してくれた。
入り江側に魔物を誘導して、できればあの入り江の
洞穴の中で仕留めてしまうのが一番被害は少なく
済むんだろうけど・・・。
見つめているとその入り江が揺れて土煙が上がった。
この丘の上まで小さな縦揺れを感じたのでかなりの
衝撃じゃないだろうか。
「シグウェルさんはあの中ですか?」
「そのはずっす。シェラザード隊長も近くに待機して
いて、様子を見ながら援護する予定で」
ユリウスさんが話している途中だった。入り江が
さっきよりも大きな土煙を上げて、その中から太い
タコの足みたいな物が数本大きく空へと高く伸び
上がった。お世話になっている三階建てのお屋敷の
高さと同じくらいはありそうだ。
「でっか!あれが魔物っすね⁉︎」
思わずユリウスさんが声を上げる。と、空へ向けて
伸び上がったそれは崩れかけた入り江の中のある
一点を目指してその全てが向かって行った。
もしかしてそこにシグウェルさんがいるんだろうかと
ハッとしたら、そのタコの足みたいな物はその一点に
届く前にスパンと切断されたのが分かった。
こちらまで届くような重い地響きと大きな水しぶきを
あげながら、切断された足は地面や海面へ落ちて
いく。あれはシェラさんの鞭で切られたのかな。
落ちてくる足の一部は港やそこに係留してある船
にも当たって船や港を壊している。
もうすでに町に被害が出てしまった。
それに足があれだけ大きいと、本体はどうなってる
んだろう。二人だけで本当に大丈夫かな。
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