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番外編
かわいい子には旅をさせよう 17
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真っ白い霧が漂う場所を確かめた後に案内されたのは、私と同じ召喚者である勇者様がこの土地を訪れた記念に建てられた小さな神殿だった。
元々はこじんまりとした祠だったらしいけど、それが雨風で傷まないようにと本来の祠を覆う形で神殿が建っている。
神殿の中にもう一つ小さな祠・・・神殿が収まっているのはなんだかマトリョーシカみたいで面白いな、とつい落ち着きなくあちこち見渡してしまった。
と、そんな私に前日町中の神殿でも出迎えてくれた神官さんの一人が声をかけてきた。
「ようこそユーリ様。まさかこの地でお二人も召喚者様をお迎えできることになるとは、思いもしない僥倖でございます。」
丁寧に頭を下げられたので、さすがにシェラさんの腕の中から降りるとこちらも頭を下げて挨拶をした。
そんな私にシェラさんは
「ユーリ様が頭を下げる必要などありませんのに」
なんて失礼なことを言うものだから、慌ててそれを取り繕う・・・って言うか誤魔化すために話を振る。
「こっ、ここは勇者様が町の人たちを災害から守るための目印代わりに建てさせた祠なんですよね?だからなのかこの辺りは今回の土砂崩れや水害の被害にも遭っていなくて良かったですね・・・!」
この祠から先にはきちんとした魔導士の同行なしには山に登るなと、その昔ここを訪れた勇者様が言い伝えたと聞いている。
日本でも昔から河川の近くにある神社やお寺の場所より低い所に家を建てるのはあまり良くないって聞いたことがある。
そういう昔からある神社なんかは、洪水などで被害に遭わない場所に建てられていることが多いから、そこより下方は逆にそんな被害に遭いやすいからとかなんとか。
もっとも、人口が増えて家を建てる場所が必要な現代ではそんなことも言ってられないんだけどね。
ただ、『この祠から上には行くな』って言う勇者様の口伝はそれに近い気がした。
事実、この神殿のある場所は土砂崩れの流れからは綺麗に逸れている。
この町も、勇者様の祠からかなり下の方にあるので水害の規模の割には町民自体の被害はなかったみたいだし。
すると神官さんは穏やかな笑顔で頷きながら、
「ええ、本当に。我々が貧しいながらも魔物の被害に遭うこともなく、水害の被害で町の者達の命を失うこともなく暮らせているのは勇者様のおかげです。」
ありがたいことです、と手を組みながら話してくれた。だけどその直後
「ただ、」
と僅かに顔を曇らせた。
「どうかしましたか?」
「勇者様の時代からの言い伝えはもう一つ残っておりまして・・・。こんな状態の物をユーリ様や王宮の魔導士様にお見せするのはお恥ずかしい限りですし、申し訳ないのですが・・・」
そう言って合図をすると、別の神官さんがその手にうやうやしく布の上に乗せた一通の封筒を差し出して来た。
私やシェラさんの間から顔を覗かせてそれを確かめたユリウスさんが
「うわ、随分とボロボロ・・・古そうな手紙っすね!」
と無遠慮にも言い放った。
「ちょっとユリウスさん!」
なんて失礼な、と注意すれば神官さんも申し訳なさそうに眉を下げる。
「いやはや、本当に申し訳ない。こちらも勇者様の時代より残されている物でして。もしこの祠より上に行こうとする魔導士がいたら、その時はこれを必ず読ませるようにと伝わっているのです。これを読めない者はここより上に登ることは出来ないとか資格がないと言う話でして・・・」
その言葉にシェラさんは面白そうに目を細めた。
「いわゆる魔力判定を兼ねた手紙でしょうか?これには何らかの魔法がかかっていて、ある程度の魔力の持ち主でなければ開封出来ないというわけですね。」
そんなシェラさんの考察にユリウスさんも身を乗り出す。
「へぇー、そりゃあ面白いっすね!この手紙を開封出来るような魔力持ちでなければこの先の山に登っても、そこにある『何か』に対応出来ないってことっすか。それなら勇者様から伝えられている、ある程度の魔力持ちの地属性か水属性魔導士が必要って話も分かる気がするっすねぇ!」
「そういうことでしょうね。さっき確かめて来たあの白い霧らしい物を晴らしてその中のモノに対処するためには少なくともこの手紙を開封出来る程度の魔力がいるということです。それこそユリウス副団長、貴方の出番では?」
身を乗り出したユリウスさんに場所を譲りながらシェラさんはそんな事を言う。
そういうことなら私が開封してもいいんじゃないのかな?
何しろ私と同じ召喚者である勇者様が残したものらしいし、私なら確実に開けれると思うけど。
そうシェラさんに言ったけど、
「あのように汚れた封筒でユーリ様の白く美しい御手を汚すわけにはいきませんし、どんな魔法があれにかけてあるのかも分かりません。その貴重な魔力を無駄に消費するのも避けたいですし。ですからまずは文字通りの汚れ仕事や安全確認はユリウス副団長に任せましょう。」
と首を振られた。いや、それっていわゆる咬ませ犬的な・・・?
勇者様の残した物とはいえ何があるか分からないからまずはユリウスさんで試そうって暗に言ってるよね?
幸いにもさっそく封筒を手に取って確かめているユリウスさんにはシェラさんのこの酷い言い草は聞こえてないみたいだけど。
「なんかあちこち焼け焦げたみたいな跡や水濡れで乾いた跡があるのは何でっすかね?頑張って破こうとしたみたいな形跡もあるし、もしかして魔法で開封どころか、結構強引に力づくでこれを開封しようとした奴もいたんすかねぇ。」
封筒をひっくり返したりしてあちこち確かめているユリウスさんがふーん、と呆れたように話している。
その言葉に神官さんはまた申し訳なさそうに縮こまって説明した。
「お、仰る通りです。勇者様の残した物なら相当価値のあるものだろう、もしかして宝物の在処でも書かれているのでは、と魔力のない荒くれ者が強引に開封しようとしたこともあれば、勇者様の遺物ということで転売目的での盗難に遭ったことも何度か・・・」
「盗難ですか⁉︎」
酷いことをする人もいると驚いた。
「でもここにあるってことは無事取り返せたんですよね?それだけは良かったかも。」
町の人達が祠と一緒に大事にしていた勇者様の手紙だ。頑張って取り返したんだろうなあと思って言ったら
「いえ、それが不思議なことにこの手紙は盗まれてもいつの間にかこの神殿の祭壇へ戻って来るのです。」
とこれまた予想外のことを言われて目を丸くする。え、そんなホラーマンガみたいな?
「あー・・・。自動転移魔法っすね。魔法をかけた物が特定の場所から離れたら、自動的にその場所に戻るようにするやつっす。物と場所を結びつける魔法陣の設定とか術式が結構めんどくさいからあんまり使う人はいないんすけどねぇ。あと距離の設定も、魔法をかける本人の魔力次第で遠近が決まるし」
「じゃあ魔力がたくさんある人ならこれが盗まれて遠くにあっても、またここに戻るように設定できるんですか?」
この世界にはまだまだ私の知らない色んな魔法があるんだなあ。と感心していれば、町の神官さんもユリウスさんの話を興味深そうに聞いている。
めんどくさいから使う人は少ないらしいし、どうやらこういう地方の神官さんにもあまり知られていない魔法みたいだ。
私が興味を持ったからか、ユリウスさんは封筒を手にもっと詳しく教えてくれる。
「そうっす。例えばウチの団長くらい膨大な魔力を持ってる人なら、それこそこれがルーシャ国の端っこまで盗まれて行ってもここに戻るように出来ると思うっすよ。ただ、そこまでして手間をかけて保管しておくようなモノって王宮ならまだしも、地方にはあんまりないじゃないっすか。だからこの魔法って使う人も知ってる人も割と限られているんすよねぇ。」
ええー、じゃあそれってますます貴重なモノっぽくない?だから何度も盗まれたり無理やり開封されそうになったんだろうなあ。何だか歴史上の貴重な物の開封に立ち会ってるみたいでワクワクしてきた。
「ユリウスさん、早く開けましょう!勇者様が何を書き残したのか気になります!」
けしかけた私に
「はいはい、ちょっと待つっすよ。この封蝋に魔力を流し込めば、一定以上の魔力持ちなら開封出来るはずっすから」
くるりと封筒を裏返した面を見せてくれながらユリウスさんはそう説明してくれた。
封筒の裏側には赤い蝋燭でグノーデルさんらしき虎の横顔が刻まれたもので封緘してある。
そこにユリウスさんが自分の親指をぐっと押し当てて魔力を流し込む。
すると僅かに青く輝いたので押し当てていた指を離したユリウスさんはそれを確かめてあれっ、と意外なものを見たかのように驚いた顔をした。
「どうかしましたか?」
「いや、この封蝋・・・。俺の魔力を流したら形が変わったっす。虎の横顔からどっかの家の家紋みたいな・・・いや、見覚えあるなこれ⁉︎」
まじまじとそれを見つめていたユリウスさんがあっと声を上げた。
「これ、団長んちの家紋っす!ユールヴァルト家のやつ‼︎」
「え?」
勇者様の残した手紙なのに?
ぽかんとした私をよそにユリウスさんは
「いや。いやいや何で?ユールヴァルト家の誰かがここに来て置いてったとか?ていうか、それならこれに自動転移魔法がかかってるのも納得っていうか・・・。そりゃ並の魔導士じゃ開封出来ないはずっすよ!うわ、めんどくせぇ‼︎封緘魔法の二重掛けじゃん。もっと魔力を入れないと開かないなこれ⁉︎」
封筒にまた魔力を流し込みながらなんだかブツブツ言っている。
どうやら開いたと思った封筒はもっと魔力を注ぎ込まなければいけないらしく、しかも勇者様の残した物だと思ったらなぜかシグウェルさんの家の家紋が浮かび上がって来たらしい。
「まさかシグウェルさんのいたずらとかですかね・・・?」
それにしたってこんな地方まで来てわざわざ勇者様の手紙を偽装する意味が分からないけど。
だけどそんな私の疑問はあっさりと解消された。シェラさんが
「ユーリ様、オレの所属する部隊名が何に由来するかお忘れですか?」
と言ってきたからだ。えーと?
何だっけ、と一瞬間が空いたら私の代わりにユリウスさんがまた大きな声を上げた。
「ああー!分かったっす!これ、キリウ・ユールヴァルトが残した魔法の手紙ってことっすね⁉︎だからユールヴァルト家の家紋が浮き出て来たのかぁ!」
「あ、なるほど・・・」
キリウ・ユールヴァルトは勇者様の相棒で親友だったという。
勇者様の魔物討伐には必ず同行していたらしいし、もしかするとここにも一緒に来ていたのかも。
「じゃあこれって、手紙は勇者様が書いてそれを守るためにキリウ・ユールヴァルトが封筒に魔法をかけたってことですか?」
それは頑丈なはずだ。勇者様と一緒に魔物退治をしたりシェラさんのいるキリウ小隊の名前の元になるくらい凄い人が魔法をかけた封筒なんだもの、普通の魔導士では開封するのは難しいだろう。
ユリウスさんのする事を見守っていた神官さん達も、
「勇者様の残した手紙というだけでなくあの大魔導士、キリウ・ユールヴァルト卿が魔法を掛けた封筒だったのですか⁉︎」
と色めき立った。ちなみに好奇心いっぱいの周囲をよそにユリウスさんは
「どんだけ魔力のある魔導士を必要としてたんすか、この封筒を残した二人は!それとも、団長のご先祖さんも団長に負けず劣らず嫌がらせの類いが好きな人なんすかね⁉︎」
文句を言いながらも頑張ってそれを開封しようとしてくれていた。
封蝋にユールヴァルト家の家紋が現れてからは流し込む魔力がもっと必要になったらしく、その額にはじわりと汗が滲んでいる。
「やはり今回はユリウス副団長に同行してもらって正解でしたね」
なんてシェラさんはのんびりとその様子を眺めては
「ユーリ様、お暇なようでしたら持参した軽食でも食べますか?お茶をお淹れしますよ。」
なんて私に向き直ってにっこり微笑んだものだからユリウスさんには
「理不尽!俺だけ労働の比重がおかしいっす!」
と叫ばれていた。
元々はこじんまりとした祠だったらしいけど、それが雨風で傷まないようにと本来の祠を覆う形で神殿が建っている。
神殿の中にもう一つ小さな祠・・・神殿が収まっているのはなんだかマトリョーシカみたいで面白いな、とつい落ち着きなくあちこち見渡してしまった。
と、そんな私に前日町中の神殿でも出迎えてくれた神官さんの一人が声をかけてきた。
「ようこそユーリ様。まさかこの地でお二人も召喚者様をお迎えできることになるとは、思いもしない僥倖でございます。」
丁寧に頭を下げられたので、さすがにシェラさんの腕の中から降りるとこちらも頭を下げて挨拶をした。
そんな私にシェラさんは
「ユーリ様が頭を下げる必要などありませんのに」
なんて失礼なことを言うものだから、慌ててそれを取り繕う・・・って言うか誤魔化すために話を振る。
「こっ、ここは勇者様が町の人たちを災害から守るための目印代わりに建てさせた祠なんですよね?だからなのかこの辺りは今回の土砂崩れや水害の被害にも遭っていなくて良かったですね・・・!」
この祠から先にはきちんとした魔導士の同行なしには山に登るなと、その昔ここを訪れた勇者様が言い伝えたと聞いている。
日本でも昔から河川の近くにある神社やお寺の場所より低い所に家を建てるのはあまり良くないって聞いたことがある。
そういう昔からある神社なんかは、洪水などで被害に遭わない場所に建てられていることが多いから、そこより下方は逆にそんな被害に遭いやすいからとかなんとか。
もっとも、人口が増えて家を建てる場所が必要な現代ではそんなことも言ってられないんだけどね。
ただ、『この祠から上には行くな』って言う勇者様の口伝はそれに近い気がした。
事実、この神殿のある場所は土砂崩れの流れからは綺麗に逸れている。
この町も、勇者様の祠からかなり下の方にあるので水害の規模の割には町民自体の被害はなかったみたいだし。
すると神官さんは穏やかな笑顔で頷きながら、
「ええ、本当に。我々が貧しいながらも魔物の被害に遭うこともなく、水害の被害で町の者達の命を失うこともなく暮らせているのは勇者様のおかげです。」
ありがたいことです、と手を組みながら話してくれた。だけどその直後
「ただ、」
と僅かに顔を曇らせた。
「どうかしましたか?」
「勇者様の時代からの言い伝えはもう一つ残っておりまして・・・。こんな状態の物をユーリ様や王宮の魔導士様にお見せするのはお恥ずかしい限りですし、申し訳ないのですが・・・」
そう言って合図をすると、別の神官さんがその手にうやうやしく布の上に乗せた一通の封筒を差し出して来た。
私やシェラさんの間から顔を覗かせてそれを確かめたユリウスさんが
「うわ、随分とボロボロ・・・古そうな手紙っすね!」
と無遠慮にも言い放った。
「ちょっとユリウスさん!」
なんて失礼な、と注意すれば神官さんも申し訳なさそうに眉を下げる。
「いやはや、本当に申し訳ない。こちらも勇者様の時代より残されている物でして。もしこの祠より上に行こうとする魔導士がいたら、その時はこれを必ず読ませるようにと伝わっているのです。これを読めない者はここより上に登ることは出来ないとか資格がないと言う話でして・・・」
その言葉にシェラさんは面白そうに目を細めた。
「いわゆる魔力判定を兼ねた手紙でしょうか?これには何らかの魔法がかかっていて、ある程度の魔力の持ち主でなければ開封出来ないというわけですね。」
そんなシェラさんの考察にユリウスさんも身を乗り出す。
「へぇー、そりゃあ面白いっすね!この手紙を開封出来るような魔力持ちでなければこの先の山に登っても、そこにある『何か』に対応出来ないってことっすか。それなら勇者様から伝えられている、ある程度の魔力持ちの地属性か水属性魔導士が必要って話も分かる気がするっすねぇ!」
「そういうことでしょうね。さっき確かめて来たあの白い霧らしい物を晴らしてその中のモノに対処するためには少なくともこの手紙を開封出来る程度の魔力がいるということです。それこそユリウス副団長、貴方の出番では?」
身を乗り出したユリウスさんに場所を譲りながらシェラさんはそんな事を言う。
そういうことなら私が開封してもいいんじゃないのかな?
何しろ私と同じ召喚者である勇者様が残したものらしいし、私なら確実に開けれると思うけど。
そうシェラさんに言ったけど、
「あのように汚れた封筒でユーリ様の白く美しい御手を汚すわけにはいきませんし、どんな魔法があれにかけてあるのかも分かりません。その貴重な魔力を無駄に消費するのも避けたいですし。ですからまずは文字通りの汚れ仕事や安全確認はユリウス副団長に任せましょう。」
と首を振られた。いや、それっていわゆる咬ませ犬的な・・・?
勇者様の残した物とはいえ何があるか分からないからまずはユリウスさんで試そうって暗に言ってるよね?
幸いにもさっそく封筒を手に取って確かめているユリウスさんにはシェラさんのこの酷い言い草は聞こえてないみたいだけど。
「なんかあちこち焼け焦げたみたいな跡や水濡れで乾いた跡があるのは何でっすかね?頑張って破こうとしたみたいな形跡もあるし、もしかして魔法で開封どころか、結構強引に力づくでこれを開封しようとした奴もいたんすかねぇ。」
封筒をひっくり返したりしてあちこち確かめているユリウスさんがふーん、と呆れたように話している。
その言葉に神官さんはまた申し訳なさそうに縮こまって説明した。
「お、仰る通りです。勇者様の残した物なら相当価値のあるものだろう、もしかして宝物の在処でも書かれているのでは、と魔力のない荒くれ者が強引に開封しようとしたこともあれば、勇者様の遺物ということで転売目的での盗難に遭ったことも何度か・・・」
「盗難ですか⁉︎」
酷いことをする人もいると驚いた。
「でもここにあるってことは無事取り返せたんですよね?それだけは良かったかも。」
町の人達が祠と一緒に大事にしていた勇者様の手紙だ。頑張って取り返したんだろうなあと思って言ったら
「いえ、それが不思議なことにこの手紙は盗まれてもいつの間にかこの神殿の祭壇へ戻って来るのです。」
とこれまた予想外のことを言われて目を丸くする。え、そんなホラーマンガみたいな?
「あー・・・。自動転移魔法っすね。魔法をかけた物が特定の場所から離れたら、自動的にその場所に戻るようにするやつっす。物と場所を結びつける魔法陣の設定とか術式が結構めんどくさいからあんまり使う人はいないんすけどねぇ。あと距離の設定も、魔法をかける本人の魔力次第で遠近が決まるし」
「じゃあ魔力がたくさんある人ならこれが盗まれて遠くにあっても、またここに戻るように設定できるんですか?」
この世界にはまだまだ私の知らない色んな魔法があるんだなあ。と感心していれば、町の神官さんもユリウスさんの話を興味深そうに聞いている。
めんどくさいから使う人は少ないらしいし、どうやらこういう地方の神官さんにもあまり知られていない魔法みたいだ。
私が興味を持ったからか、ユリウスさんは封筒を手にもっと詳しく教えてくれる。
「そうっす。例えばウチの団長くらい膨大な魔力を持ってる人なら、それこそこれがルーシャ国の端っこまで盗まれて行ってもここに戻るように出来ると思うっすよ。ただ、そこまでして手間をかけて保管しておくようなモノって王宮ならまだしも、地方にはあんまりないじゃないっすか。だからこの魔法って使う人も知ってる人も割と限られているんすよねぇ。」
ええー、じゃあそれってますます貴重なモノっぽくない?だから何度も盗まれたり無理やり開封されそうになったんだろうなあ。何だか歴史上の貴重な物の開封に立ち会ってるみたいでワクワクしてきた。
「ユリウスさん、早く開けましょう!勇者様が何を書き残したのか気になります!」
けしかけた私に
「はいはい、ちょっと待つっすよ。この封蝋に魔力を流し込めば、一定以上の魔力持ちなら開封出来るはずっすから」
くるりと封筒を裏返した面を見せてくれながらユリウスさんはそう説明してくれた。
封筒の裏側には赤い蝋燭でグノーデルさんらしき虎の横顔が刻まれたもので封緘してある。
そこにユリウスさんが自分の親指をぐっと押し当てて魔力を流し込む。
すると僅かに青く輝いたので押し当てていた指を離したユリウスさんはそれを確かめてあれっ、と意外なものを見たかのように驚いた顔をした。
「どうかしましたか?」
「いや、この封蝋・・・。俺の魔力を流したら形が変わったっす。虎の横顔からどっかの家の家紋みたいな・・・いや、見覚えあるなこれ⁉︎」
まじまじとそれを見つめていたユリウスさんがあっと声を上げた。
「これ、団長んちの家紋っす!ユールヴァルト家のやつ‼︎」
「え?」
勇者様の残した手紙なのに?
ぽかんとした私をよそにユリウスさんは
「いや。いやいや何で?ユールヴァルト家の誰かがここに来て置いてったとか?ていうか、それならこれに自動転移魔法がかかってるのも納得っていうか・・・。そりゃ並の魔導士じゃ開封出来ないはずっすよ!うわ、めんどくせぇ‼︎封緘魔法の二重掛けじゃん。もっと魔力を入れないと開かないなこれ⁉︎」
封筒にまた魔力を流し込みながらなんだかブツブツ言っている。
どうやら開いたと思った封筒はもっと魔力を注ぎ込まなければいけないらしく、しかも勇者様の残した物だと思ったらなぜかシグウェルさんの家の家紋が浮かび上がって来たらしい。
「まさかシグウェルさんのいたずらとかですかね・・・?」
それにしたってこんな地方まで来てわざわざ勇者様の手紙を偽装する意味が分からないけど。
だけどそんな私の疑問はあっさりと解消された。シェラさんが
「ユーリ様、オレの所属する部隊名が何に由来するかお忘れですか?」
と言ってきたからだ。えーと?
何だっけ、と一瞬間が空いたら私の代わりにユリウスさんがまた大きな声を上げた。
「ああー!分かったっす!これ、キリウ・ユールヴァルトが残した魔法の手紙ってことっすね⁉︎だからユールヴァルト家の家紋が浮き出て来たのかぁ!」
「あ、なるほど・・・」
キリウ・ユールヴァルトは勇者様の相棒で親友だったという。
勇者様の魔物討伐には必ず同行していたらしいし、もしかするとここにも一緒に来ていたのかも。
「じゃあこれって、手紙は勇者様が書いてそれを守るためにキリウ・ユールヴァルトが封筒に魔法をかけたってことですか?」
それは頑丈なはずだ。勇者様と一緒に魔物退治をしたりシェラさんのいるキリウ小隊の名前の元になるくらい凄い人が魔法をかけた封筒なんだもの、普通の魔導士では開封するのは難しいだろう。
ユリウスさんのする事を見守っていた神官さん達も、
「勇者様の残した手紙というだけでなくあの大魔導士、キリウ・ユールヴァルト卿が魔法を掛けた封筒だったのですか⁉︎」
と色めき立った。ちなみに好奇心いっぱいの周囲をよそにユリウスさんは
「どんだけ魔力のある魔導士を必要としてたんすか、この封筒を残した二人は!それとも、団長のご先祖さんも団長に負けず劣らず嫌がらせの類いが好きな人なんすかね⁉︎」
文句を言いながらも頑張ってそれを開封しようとしてくれていた。
封蝋にユールヴァルト家の家紋が現れてからは流し込む魔力がもっと必要になったらしく、その額にはじわりと汗が滲んでいる。
「やはり今回はユリウス副団長に同行してもらって正解でしたね」
なんてシェラさんはのんびりとその様子を眺めては
「ユーリ様、お暇なようでしたら持参した軽食でも食べますか?お茶をお淹れしますよ。」
なんて私に向き直ってにっこり微笑んだものだからユリウスさんには
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本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
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