七人の魔族と森の小さな家

サイカ

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11 貴族の兄妹

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 -- ルウ --


 魔族として生まれた僕は八年間、両親に育ててもらった。


両親は僕を人間に売って、そこから先は人間との生活が続いた。

魔族にとって人間の使う金にはそれ程価値はない。
魔力があれば大抵のことはできるし手に入る。

魔力の少ない者ならば人間に近い生活をする者もいるかもしれないが、魔力を持つ者が人間の金を手に入れて何をするか……

遊ぶのだ……人間で。

人間は金のためなら何でもするから面白いと、金を見せて遊ぶ悪趣味な魔族がいるらしい……

僕の両親もそうだった。

「八年間育てた恩を忘れるんじゃないよ」

両親は最後にこう言っていた気がするけれど、たぶんもう僕の事を思い出してもいないだろう。

育ててもらったとは言ったけれどもただ一緒にいて食事を与えられていただけと言った方が正しい。

魔族とはそういうものだし、きっと両親もそんな風に育てられたのだろう。

だから僕は何とも思っていない。
何とも思ってはいなかったけれども僕を買った人間が

「可哀想に……可哀想になぁ」

と笑いながらそう言っていたのを見て……初めてこの先の生活に不安がよぎった。


人間は信用できない。


まぁ、魔族同士でも信用なんてものがあるのかは怪しいが。

両親が魔力で僕を眠らせたらしい……
目が覚めると両親はいなくなっていて、僕の片足首にはマカラシャが嵌められていた。

マカラシャは魔力を吸い取る魔道具で数百年前に魔族が作ったものだ。

嵌められたら人間でも魔族でも外せない。
嵌められたものが死ぬまでは外れない……

忌まわしい魔道具だ。

マカラシャは魔族から魔力を吸い取り人間の城にある魔道具に流し溜めていく。

魔族が魔族に不利になるようなものを作ったのはなぜか…………

自分達よりも非力な人間に使われる魔族をみるのが面白いから、とも魔力の少ない魔族が嫉妬から作り出したものともいわれている。

どちらにしろ、これにはさすがに反発する魔族が多かったようでマカラシャ作りに関わった魔族は全員殺された。

だから作り方やあったかもしれない外し方を知る術はもうない。

作られてしまった十四本のマカラシャもその時に全て処分されるはずだったのだが……すでに外へ持ち出されていて回収はできなかったらしい。

その後、人の手に渡ってしまったマカラシャは城に集められた。

そして魔族はマカラシャがそれ以上増えることはないのだから、と時が経つにつれ興味を失くしていった。


人間の王は七人の貴族に、それぞれ魔族の子供を手に入れて育てよ、とマカラシャを一本ずつ預けた。

成長した魔族が人間に従うことはまずない。

子供のうちならばまだ魔力量も少なく安定もしていないから制御しやすい。

魔族の子供が成長とともに魔力が増えてくると城に連れていかれ、もう一本マカラシャを嵌められる。

そこからは一生……いや……魔力を搾り取れる間は城に閉じ込められることになる。

マカラシャは着けているものが死ぬと勝手に外れるから。

だから魔力量が減ってきた者は処分され、マカラシャはまた新しい魔族の子供に使われる。

こうして長い間使われてきたのだ。

城では集められた魔力で魔道具を作り貴族や国民それぞれの生活に必要なものを売り出していく。

人間は魔道具に頼って生きている。
僕はその魔道具の材料だ。

少ない材料費で大きな利益になる大切な財源なのだろう。

そしてもう一つ。
城には結界が張られていて、これにはかなりの魔力が使われている。

大人になり魔力量が増えたといっても結界を維持するために常に魔力を使われている状態が続いている。

魔族が襲って来るとでも思っているのか……

人間は魔族を見下しているのか恐れているのかよくわからない。

僕が一緒に暮らした最初の人間は貴族ではなかった。
僕を買った貴族から数年間一緒に暮らすよう依頼された者だった。

貴族はなるべく魔族と暮らす年数を減らしたかったらしい。

男は一人暮らしで、僕はここで四年間を過ごした。

男と過ごした四年間は両親と過ごした日々とあまり変わりはなかった。

会話は必要最低限でなるべくお互い会わないようにしていたけれど、男は貴族から十分な金をもらっていたから食事はちゃんと出されていた。

時々貴族の使用人か誰かが様子を見に来ていたから食べさせないわけにはいかなかったのだろう。

夜、男が酒を飲んで帰ってきたところにはち合わせた
事があった。

「お前、悲しくはないのか。親に売られてこれから先は……」

話しかけてきたことに驚いて見つめていると男がため息をつく。

「所詮、人間によく似た化け物か。俺は金が貰えればそれでいいからな」

せいぜい役に立って死ぬんだな、と男は言い寝室へ行ってしまった。

なんだったのか……
両親とも男とも離れて二度と会えなくても悲しくはない。

それがなんだというのか……男の言っていることがよくわからなかった。

ただ、人間は本当に金が好きなんだな、と思った。


それから数日後僕は貴族の屋敷へ連れていかれた。

男はたくさん金をもらって帰り、僕は貴族にこれからの話をされた。

「お前はこれからここで暮らすことになるが、私達の言うことに従ってもらう」

と始まり、

ここではこちらから話しかけない限り余計な口はきかないこと、マナーと教養は必要最低限覚えること、部屋からは勝手に出ないこと、家の者には絶対に近付かないこと…………とこの他にも長々と続いた。

「まぁ、魔力を奪われ続けている魔族は人間の子供と変わらないからな」

だが、魔族は魔族だ、と続け使用人の男に

「冷酷で残忍な性格に変わりはないだろう。見た目に騙されず気を付けてくれ」

見た目……魔族は魔力の消耗が激しい状態が続くと身体が小さくなり子供の姿に戻ってしまうのだ。

使用人の男が僕をチラリと見てから承知しました、と主に頭を下げる。

ここから先、貴族の家には五年間住むことになった。

王族の前で失礼がないように、城に行くまでに人間達のマナーや生活を鞭で打たれながら厳しく教え込まれた。

ある日、貴族の子供が僕の部屋にやって来た。

貴族には男の子と女の子、二人の子供がいてなぜか二人だけで僕の部屋に入ってきた。

「おまえ、魔族なんだろう、魔法を見せてみろよ」

男の子がそう言ってきた。
そう言われても魔力は常に不足している状態だ。

「黙ってないでなんとか言えよ、気味の悪い奴だな」

「お兄様……」

男の子の後ろから様子を伺っていた女の子が口を開く。

「なんだよ、おまえが見てみたいといったんだろう」

ほら、早くみせろよ、と…………無理だ……

「何も出来ないくせにうちにいるのか? ただの厄介者じゃないか」

「お兄様……でも、このコとても綺麗な顔をしているわ」

女の子が少し頬を染めてそういうと男の子がハッとして突然大きな声で怒鳴り始めた。

「おまえ……妹に魔力を使ったな!?」

今すぐ解けっ! と……無理だ、何もしていないのだから。

男の子の大きな声に使用人が気付いてしまった。
すぐにこの家の主にも報告をされ、その日も鞭で打たれて初めて食事をさせてもらえなかった。

そこからこの兄妹は新しい遊びを思い付いたらしい。
様々なことを僕の仕業だと言い体罰を受けさせる。

特にたちが悪かったのは妹の方だった。

いつもは自信無さげに兄の後ろにいるのに僕が兄に罵倒されているときや使用人に体罰を与えられているときのあの顔……

不安そうな瞳の奥に見える喜びと隠しきれていない口許の笑み……

五年の間に兄妹も成長する。
精神的にではなく身体的に……
兄妹は僕よりも身長が高くなり兄の方は力も強くなっていた。

僕もこの屋敷へ来てから少しだけ身長は伸びた。
魔力量が増えて安定してきたらしい。

ただ、身体は子供のままだ。僕はここの兄妹よりも年上なのに……


ある日、妹の方が一人で僕の部屋へやって来た。
手には庭で摘んだのか花がたくさん入った籠を持っていた。

「あなた、自分の人生を考えたことはある?」

「…………」

「夢や大切なものはある?」

「…………」

「努力していることは?」

「…………」

どれも考えたことがない。


僕は彼女が一体何が言いたいのかわからなかった……

 
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