七人の魔族と森の小さな家

サイカ

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12 できるだけ遠くへ

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-- ルウ --



 私の夢はね、お姫様になることなの。


返事をしない僕に構わず話続ける貴族の娘。

「王子様と結婚してね」

そう言ってうっとりと微笑む。

「そのために努力だってしているの。マナーも完璧で教養も身に付けた、身体だって磨いてきたわ」

でもね、

「同じように努力をしている令嬢はたくさんいるわ」

だから、

「キャーーッ!!」

突然叫び声をあげ倒れこみ……床には花が散らばる。
使用人がすぐに駆けつけ娘に駆け寄る。

「お嬢様!! どうされたのですか!?」

娘は涙を拭い怯えた表情で

「お花を……彼はずっとお部屋にいるから……綺麗なお花を飾ってあげようと思ったの……」

震える声でそういうと使用人がこちらを睨む。
別の使用人が屋敷の主を連れてきた。

「あ……お父様……うっ……」

娘が泣きながら顔を歪める。

「どうした!? 怪我をしたのか!?」

娘は足を押さえている。

「足首を捻ってしまったみたいです……」

お父様……と泣き出す娘を抱き締めてなだめている父親の姿を、僕は冷めた目でみていた。

「お前は娘の優しい気持ちを踏みにじったのだな」

父親が僕を睨む。そんなことをされても僕は何とも思わなかった。

どうでもいい。

勝手に纏わりついてきて何をするのかと思えばくだらない。

娘は言っていた。

「お父様は必ず王様に報告するわ。長年協力しているこの家を無下には出来ないはずだから、きっと王子様がお見舞いに来てくれるはずよ」

なるほど、よく考えている……と少しだけ感心してしまった。

身体に痕が残るような怪我や手篭めにされたような疑いを持たれるのは不味いから足首を捻ったことにして、優しさを踏みにじられ深く傷ついていると言えばきっと慰めるために王子様がお見舞いに来るわ、と。


娘の思惑通り、城から王子が見舞いにきた。

父親はその場で、もう片足のマカラシャでは魔力を抑えられないのではないか、これ以上危険な魔族の面倒はみられない、と訴えた。

王子は父上に伝えておくと言い、その数日後、僕は城へ連れていかれることになった。

「お城で会いましょう。王子様と結婚したらまた遊んであげる」

そう言ってあの何とも言えない顔で笑っていた。


そうして今度は城での生活が始まった。

城に着くとすぐにもう片方の足首にマカラシャを嵌められ更に魔力を吸われて、しばらくするとせっかく伸びた身長はまた縮んでいた。

城にはすでに三人、魔族の子供……いや、たぶん僕と同じくらいの年の魔族が集められていた。

みんな僕よりも明るい金色の目をしていて両足にはマカラシャが嵌められていた。

僕で四人目……ということはあと三人……

「君達の部屋はここだよ」

使用人の男が僕らを連れて談話室のような広い部屋へ案内して説明を始める。

「この部屋を囲むように七つの扉があるだろう。それぞれ好きな部屋を使って欲しい」

ここは談話室だから好きに使うといい、と。

この部屋には、暖炉にソファーにテーブル、たくさんの本にボードゲームのような遊び道具までいろいろなものが置いてあった。

これまでに何人もの魔族が過ごしてきたのだろう。

「それから、この部屋からは出ないように。外から鍵も掛けるし、ここは高いから窓からも外には出られないからね」

食事は私達がここに運ぶから、と言って出ていった。

「あ……あの、僕……うぅ……」

さっきから泣いている気の弱そうな男の子……いや……男か……が口を開く。

「僕は……レトといいます……うぅっ」

自己紹介か泣くかどちらかにして欲しい。

「俺はライオス」

レトの隣の男も名乗る。

「私はアレスです」

ライオスの隣の男も名乗る。僕の番か

「僕はルシエルだ」


それから数日後、更に三人の魔族が連れてこられて部屋は全て埋まった。

後から来た三人のうち一人はグレンという男の魔族であとの二人はロゼッタとミアという女の魔族だった。


この日から八年間……僕達はここで一緒に過ごした。

魔力を搾取され続け、子供の姿で弱っている僕達に使用人達は憂さ晴らしに暴力を振るった。

人間の身体と違うところはあるのかと、服を脱がせたり、食事をわざと不味いものにして量を減らしたりと、これまでで一番豪華な部屋で一番酷い生活を送っていた。

「お前らの代わりはすぐ見つかるんだからな、せいぜい俺達に気に入られるように振る舞うんだな」

外では上品に振る舞っている使用人もこの部屋では本性が出るらしい。

最初の数年間は何人かの諦めの悪い奴らが、どうにか逃げ出そうと画策していた。

逃げたところでマカラシャは外せないし、行くところもないのに。

僕はそれよりも空腹を和らげるために少しでも多く魔力を体内に残してはおけないかと考えていた。

体内を巡る魔力はマカラシャが吸いとってしまう……
お腹の中に膜を張った球体をイメージしてその中に魔力を溜めておく感じ……

毎日毎日繰り返しイメージをしているとお腹の辺りにほんの少しずつ魔力が溜まっているような気がした。

みんなにもこの事を教えて試すよう言ってみた。

僕はだいぶ魔力を溜められるようになっていた。
ただ、魔力を使おうとするとどうしても身体を巡ってしまいマカラシャに吸いとられてしまう。

膜から出せない魔力は空腹を満たしてはくれなかった。


そんなある日、僕は片方のマカラシャに違和感を覚えた。

ひびが入っていたのだ……

百年以上も使われているからか……みんなのマカラシャも確認したけれどひびが入っているのは僕のものだけだった。

そのひびを見ていると突然、フツフツと怒りがこみ上げてきた。

これまではどうでもよかったことが、どうでもよくなくなりこの理不尽な状況に腹が立った。

親に売られてから十七年……十七年だぞ。
もう十分だろう。

そこからは空腹を満たすためではなくこのマカラシャを壊すことを考えて魔力を溜めるようになった。

「ルシエル、きみ、魔力量が多いね」

アレスが僕を見つめて突然そう言った。

「身体も私達よりも少し大きいようだし……」

そう呟くと

「みんな、これから言うことを試してみて欲しい」

と話し始めた。

「搾り取られる魔力とは別に溜めていた魔力をそのまま指先に移動させてルシエルのマカラシャの壊れかけているところに一気に流し込むんだ」

おそらく、ルシエルのマカラシャに指先が触れていればそちらに魔力を吸われると思う、と。

「ルシエルの魔力と私達の魔力、内側と外側から魔力を同時に注げばひびの入っているところから割れるかもしれない」

そう言ってこちらを見て

「ルシエル、城から出る気はある?」

アレスがそう聞いてきた。

「あぁ」

もちろんだと頷く。
それなら…………


数日後、僕達はそれを実行した。

アレスが言っていた通り、マカラシャはひびの入っていたところから割れて僕の足首から外れた。

片方のマカラシャが外れただけで身体への負担が減るのを感じた。

これなら少しは魔力を使える。

アレスにこれを実行する時は、城から出るときと結界から出るための魔力は残しておくよう言われていた。

魔力を使えることを確認して僕はすぐに窓へ向かって歩きだした。

窓を開けるとアレスが僕の手を取り壊れて外れたマカラシャを握らせる。

「気を付けて、魔族は馴れ合いはするものじゃないからね。好きに生きるといい」

僕は頷き振り返ってみんなの顔をもう一度見て、窓から飛び降りた。

浮遊魔法を使い結界まで行き、残りの魔力で穴を開けて結界からも抜け出す。

思っていた通り……脆い結界だった。
集めた魔力を全て結界に使っていたのなら出られなかったかもしれない。

残りの魔力でどうにか街を抜けて森の中までたどり着いた。

今のうちに……僕がいなくなったことに気付かれる前にできるだけ森の奥へ歩き続ける。

しばらくは結界の中を探すだろうが、とにかくできるだけ遠くへ行きたかった。

歩きながら魔力が少しでも回復したら飛んでを繰り返し、だいぶ森の奥へ進んだころ突然限界が来た。

ようやくあの忌々しい城から抜け出せたのに……

マカラシャ……僕だけでは無理だったけれど……片方はどうにか外せた……

でも……魔力の回復が遅い……いや……できていないのか……これ以上はもう……立ってもいられない……

疲れた……寒い……


意識が遠のくのを感じながら僕は身体を丸めて目を閉じた……

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